お着替えチートで楽しい人生を   作:河藻 乃月(かわも のづき)

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Skin.7 お尋ね者狩り ~影法師~

 

 色々あって家政婦を雇うお金を出すだけの貯蓄がそもそもないことに気付いた俺は、王都セントナルマに足を運んでいた。

 理由としては金稼ぎだが……。

 

「あんたB級か。ほんならこれぐらいのやつが狙い目だと思うぜ」

 

 そう言って『お尋ね者』の手配書を数枚出してくるのは、世の賞金稼ぎ(バウンティハンター)がお世話になる手配書の管理者ヨゼンさん。

 金が大量に必要で荒稼ぎしたい者に適切なターゲットを見繕ってやると共に、賞金の受領にあたって必要な手続きの諸々をサポートしてくれる便利な人だ。

 

「どれどれ……」

 

 そんなヨゼンさんから受け取った数枚の手配書をじっくり眺める。

 B級はウトマールではかなり希少だが、王都ともなればそこまで希少ではなく、だいたい王都全体で20近く存在するそれぞれの地区に5、6人ずつ配備できる程度にはいる。

 それでも優秀な冒険者には変わりないため、一般的に出回らないような手配書も受け取れる。

 

 王国には憲兵もいるが、そっちはそっちで凶悪な魔物への対処に追われており、あまり犯人確保には至っていない事件も多い。

 そういう意味で今最もホットな稼ぎ場所なのだ。

 

「『影法師』『屍体使い(ネクロマンサー)』『疾風の盗賊』……どいつも厄介そうだな」

 

 現在判明している能力の概要なども載っており、見る限りでは捕まえやすそうな輩に見える。

 しかし手練れというのはこういう一見致命的に見える情報も嘘だったりバレてもいい手の内に過ぎなかったりする。

 そこを念頭に置いて、慎重に狩る必要がある。

 

 

 

「……で、さっきから私をチラチラ見てるそこの貴方は一体どのようなお方なのでしょうか」

 

 

 

 虚空へ問いかけると同時。

 ビュッ!! と鋭く空間を裂いて魔道具の類のナイフが数本、俺の喉元へ襲い来る。

 俺の皮膚(はだ)へ肉薄する凶刃。それはまさに神速と呼ぶべき速さを誇った。

 しかし俺が今着ている皮が幸い肉体戦闘に秀でたものだったため、そのような不意の投擲であってもしっかり反応し、身を翻して避けることができた。

 

 

 

 ────ナイフの投擲から回避までの一部始終は、現実時間では数瞬のことだった。

 しかしその数瞬に収まらない『止まった世界(・・・・・・)』が、回避までの直前に展開されていた。

 

 

 

 何度も言うが、俺が「お着替え」することで時間が止まるのは、あくまで「俺の視点からは世界の時間が経過しないに等しいくらい」俺が速くなるように、スピードにバフがかかるのが原理だ。

 ヒーローの変身シーンを悪役が邪魔できない理由、システムの恩恵、現象としてのご都合主義。

 それが『早着替え』という形で発現したのがこれだ。

 つまり単純にそのスピードに迫る程速い攻撃などが来るならば、お着替えしてるからといって呑気に攻撃が止まってくれるわけではない。

 

 今のナイフはまさにそれだった。「お着替え」の判定はわりと緩く、全身脱がずとも皮に手をかけて脱ぐ意思を持てばそれだけで世界は一時停止(ポーズ)する。

 しかしあのナイフは、顔の皮を引っ張って脱ごうとしても変わらぬ速度で俺に迫った。

 初めてのことに少し慌てつつ、俺は顔の皮から手を放して全力で回避行動に移った。

 それが、通常の時間の流れには記録されない『止まった世界』の一部始終だった。

 

「ほう、まさか私の投げナイフをいとも簡単に避けるとは。これはいささか厄介な賞金稼ぎ(バウンティハンター)に狙われましたかねえ」

 

 そう言って気味の悪いニヤついた顔を向けてくる、ぼんやりとしていて輪郭のはっきりしない男。

 こいつこそが、例の────

 

「────『影法師』エムルス・グリネル!」

 

「いかにも」

 

 影に潜み、影を操り、人の命に影を落とす。

 邪悪の権化の一人が、そこに佇んでいた。

 





 次回、死闘。
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