お着替えチートで楽しい人生を   作:河藻 乃月(かわも のづき)

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Skin.8 お尋ね者狩り その② ~空を切る光~

 

 『お尋ね者』。

 ナルマ王国、マルバ王国、ザーリクス共和国、ウルナ連邦を擁するこの大陸、ブランイージェ大陸に古来より跋扈する賊であり、闇より人を襲い、殺し、金品全てを剥ぎ取っていくその様はまさしく人の形をした災厄などと恐れられた。

 

 そんな『お尋ね者』の中でも特に凶悪な存在────『影法師』エムルス・グリネルは、影に潜み、人を殺すまさしく典型的な賊であった。

 一見すると紳士的な言動も、あくまで己を狙う賞金稼ぎ(バウンティハンター)を油断させるための演技に過ぎず、その本性は凶悪そのものだった。

 

 そして今日も何人か哀れな被害者の屍体を解体してはその内臓などを闇の買い取り屋に売り捌き、残った骨肉は適当に処分した。

 一仕事終えた気分で悠々と隠れ家に帰ろうとした時、『お尋ね者』の手配書が貼られた掲示板を見つけ、何とはなしにそれを眺めた。

 そこに己の手配書が載っているのを確認し、ニヤニヤと気色悪い笑みを浮かべつつ振り返る。

 そして、そこにかの魔法騎士エータは居た。

 

 エータは『お尋ね者』の間では有名な冒険者である。積極的に『お尋ね者』を狩ったことは数える程度しかないが、その圧倒的な実力から『お尋ね者』間でやり取りされる“優秀な冒険者”の情報にエータのそれも入っていた。

 

 そしてそのエータがまさしく自分自身(エムルス・グリネル)の手配書を持って、何やら思案していたのを彼は見た。

 ────またバカな英雄気取りか。そう思った彼は、先手必勝とばかりにエータを殺害せんとその凶刃を喉元へと放った。

 

 しかし、エータはその凶刃を避けた。

 

(何故?)

 

 自慢だが、グリネルはこれまで多くの馬鹿な賞金稼ぎ(バウンティハンター)を葬ってきた自信がある。

 そんな彼からすれば、エータもそいつらと同じ存在に過ぎなかった。

 だが、確実に殺せると踏んで放った投げナイフが見事に回避されたことに、一瞬思考が停止する。

 巨竜すら仕留めうる影から来たる不意の一撃。自慢のそれが、目の前の少女(ガキ)にはたやすく避けられたのである。

 

 しかしそこは一級のお尋ね者『影法師』のグリネル。すぐさま復帰し、もはや闇討ちなど意味のないこの魔法騎士との戦闘を始めたのであった。

 

 

 

 エータはグリネルとの戦闘で周りを巻き込まないよう結界を張った。自分とグリネルの居る空間を切り取り、そこだけ別の空間に塗り替える。

 並行宇宙(パラレルワールド)。詠唱も儀式もなしに「一つの世界」そのものを作り出す魔法を使えたワケは、まさにエータの規格外の魔力が成せた業だった。

 

 グリネルは初の宇宙空間に衝撃を覚えると共に、慣れない環境に戸惑ってもいた。

 無酸素、無重力。複製された世界(パラレルワールド)は基となる世界と何ら変わりないが、唯一人間だけが存在しない。

 すなわち無人のだだっ広い宇宙空間と星があるだけのこの世界では、エータとグリネルだけが人間だった。

 

 光速で迫るエータの剣戟。その一撃は無数に分裂し、振り下ろされる剣の総数は、無限の一言で表現できた。

 回避不能。空間を埋め尽くす嵐のごとき斬撃。

 しかし────

 

「っ……やっぱり、どんな『影』にも潜めるのか」

 

 ────あらゆるものには影がある。光が物に当たればその物は照らされる。しかし、その物の裏には影が生まれる。

 空間も同様、その裏側には影とも呼ぶべき場所……通称「亜空間」があり、グリネルはそこに隠れ潜むこともできた。

 

 如何に空間を埋め尽くす攻撃を出せど、空間そのものを破壊するような一撃を放てど、空間の裏側、亜空間へ退避されれば、それは空間に属さないのと同じことであるため、そういった攻撃は通用しない。

 ゆえにグリネルを倒すのは簡単ではなかった。

 

「ふふ、さあどうします?」

 

 キキンッと投げナイフを弾く。

 手の甲に痛みが走る。

 いかにナイフごときで死ぬような身体ではないとはいえ、それでも僅かにはダメージになる。グリネルが一生影に潜み、一方的にエータを攻撃するのであれば、もうエータにグリネルを倒す術はないに等しい────そう思っていた。

 グリネルは。

 

「だったら────」

 

 ────爆発。

 衝撃と熱。しかしそれは物理的なものではなかった。

 霊体や空間といった非物質的な領分を攻撃する霊的な爆発。

 それは星の寿命にも等しい威力を誇り、隠れ潜む亜空間を諸共、グリネルを霊的に傷付ける。

 

 非実体破壊魔法「空を切る閃光(ライトニングバスター)」。

 エータの数ある隠し玉の、その一つが今切られた。

 そして程なくしてよろめくグリネルが影より現れる。

 

「ぐっ……まさか、こんなものを隠していたとは……意外、でしたね、っ!?」

 

 間髪入れずエータはグリネルに接近し、頭を掴む。

 空間の壁に顔をぶつけ、全力でひた走る。

 アスファルトで削るかのごとく空間に押し付けた顔は見るも無惨に傷が付き、血まみれのそれはゴブリンより醜く成り果てる。

 

 そして、投げる。

 まるで自分を、影法師を、一級のお尋ね者を、さも物であるかのように扱うエータに、とうとうグリネルは激怒する。

 人の命を奪っていた自分のことは棚に上げて。

 

「てめえ……よくも、俺に……ごぼ、ご、ごんなごどをっぶお、ちぎしょおおおっ!」

 

 襲い来るグリネルはもはや仮初めの紳士的態度すら崩して、まさしく三下同様の悪人面を晒しながらエータの首を刈らんと走る。

 しかし冷静さを欠き三下に堕ちたグリネルに戦闘者としての脅威はないに等しかった。

 

「お尋ね者エムルス・グリネル────確保」

 

「あ゛あ゛っ!?」

 

 後ろを取ったエータはグリネルを捕縛する。

 

 それからは早かった。

 ボロボロで身動きを取る気力すら削がれたグリネルは勘弁したかのように項垂れ、ただエータに連れられるまま王国の牢獄にぶちこまれた。

 

 お尋ね者エムルス・グリネル。『影法師』の名で知られた恐るべき男の末路は、まさしく牢獄の染みとなり、影の中で萎んでいくのみであった。

 





 お尋ね者狩りグリネル編はとりあえずこれで一区切りです。今後もこういうしょうもないバトル描写が挟まるかもしれません。
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