ヴィブロスがシュヴァルにキスをしたら学園が崩壊しかけた件 ~ヴィブロスシュヴァルにキスをする
トレセン学園の広場を、マリンキャップの少女が難しい顔をして歩く。
(うーん、また模擬レースの最後の直線で頭が上がってしまった。入れ込むあまり力んでスパートが……)
いつもの様に内省とそれを端緒とする自虐に走りかねんとする少女であるが、そんな彼女の元に忍び寄る一つの影。
「シューヴァー……Chu!」
不意打ち。
「な、何をするんだよ。ヴィブロス」
柔らかな唇の襲撃を受けた頬に手を当て、シュヴァルグランは影――妹のヴィブロスに抗議の声をあげた。
小さな身体に綺羅びやかさを纏った少女が、あざとさを湛えた上目遣いでシュヴァルを見上げる。
そんなヴィブロスは顔を上げ屈託ない笑顔で、頬を赤く染めるシュヴァルにあっけらかんと告げる。
「いやぁ。シュヴァちが深刻そうな顔をして歩いていたからさ。元気づけてあげようと思って」
「よ、余計なお世話だよ。そんなことされなくったって僕は……」
「そうは言ったってまたウジウジしちゃうでしょ。放っておけないよ~」
「それとこれとは別問題だろ。ったく何でキスなんか……」
「えー、そんなこと言って顔赤いし。あー、もしかしてシュヴァち、ほっぺにチューすら特別な行為って思ってたり? うわ~。我が姉ながら本当可愛い~」
「ぐ……」
自覚はなくとも妹とサシで話す時は姉としての威厳を示そうとするシュヴァルである。 しかしそこをヴィブロスにあげつらわれ、言葉に詰まってしまう。
「べ、別にそんなこと思ってるわけ無いだろう。急にやられて驚いただけだよ。そういうのはもっと仲の良い人と……」
シュヴァルの苦し紛れの物言いに、ヴィブロスは唇を可愛く閉じ口元に手を当てて囃し立てる。
「あはは。女の子同士ならノーカンなんだよ。まぁでもシュヴァちは特別だし~! ひょっとしたら本気だったりするかもよ?」
「ヴィブロス!」
「わー、シュヴァちが怒った。逃げろ~」
そう言って朗らかな顔をしてスタコラと逃げ去っていくのだった。
「おい、ヴィブロス。まったく何を考えて……」
と妹の後ろ姿に憤慨をぶつけるシュヴァルグランであるが、言われてみると妹の言う通り、さっきまでの沈鬱な気持ちはどこかに消え去り、心の中のもやもやが晴れている事に気がついたのだった。
突然の不意打ちに驚いたこととか、その後の妹との言い争いで気が紛れていたことも確かにあるだろう。
しかしそれとは別に、キスを通じてヴィブロスの底抜けない優しさが、シュヴァルの心に確かに染み入ったのだった。