さて我らが主人公シュヴァルグランが、引っ込み思案でつい自身のなさが表れてしまう子なのは既に知られている通りだが、しかし同時に誰よりも気が利く面を持っていることもまた周知の事項だ。
そんなシュヴァルが妹にキスで励まされたとあれば、その時を振り返ってこうも考えるのではないだろうか。
「ああ、またヴィブロスに励まされてしまった。今度はキスまでされて」
「まったく僕はこんな風に周りに励まされづくめで、ってまた気を落とすのは良くないな。励まされた意味が無い。大事なのは恩返しの気持ちを僕を励まし続けてくれる人たちに与えることで、周囲に報いることだ」
「つまり妹に励まされた僕が今度は誰かを励ますことが大事……となると相手は姉さん?」
「果たして自分はヴィブロスほど姉に献身できているだろうか。日頃から口で感謝を伝えるのも大事だが、同時に態度で表すことも大事なんじゃないだろうか」
とまぁ日付は翌日になって、ランチタイムの食堂である。
シュヴァルグランの姉、社交的な性格のヴィルシーナが級友たちとテーブルを囲んでいると、そこに現れたのがシュヴァルグランだ。
姉が自分に気がつくと、ぎょっと物怖じしたように立ち止まってしまうシュヴァルグランである。
しかしそこから決心したように一歩踏み出すと、姉のヴィルシーナに語りかけた。
「……姉さん」
「あらシュヴァル、どうしたのかしら」
いつもの優しい調子で尋ねる。級友たちと話が弾んでいたのにも関わらず、身体ごと妹の方を向く。
(どうしたのかしらシュヴァル。思い詰めた顔をして)
その笑みの中にも洞察は欠かさない。
「あのね、ヴィルシーナ姉さん。どうしても伝えたいことが――」
「何かしら。何でも言ってごらんなさい
姉に促されたシュヴァルは、彼女の両肩を力強く掴むと、とうとう勢いつけて彼女に体を重ねる。
「姉さん。これを」
身を預けるように背中に手を回すと、首を曲げ頬にキス。
乱暴にならないよう優しく口づけるつもりだったのだけども、存外勢いがついてしまう。
シュヴァルの唇に押し付けられた姉の頬がたわむ。
過度の緊張で唇はカサカサに乾いていたけれども、唇の向こうシュヴァルの心の熱さを反映したような血液の暖かみが伝わって、じんわりさせられるキスだ。
などと言ったことを把握する間もなく、
「…………!!」
ヴィルシーナは昇天した。
「保健委員を呼んで~~。保健室~~。保健室に連れて行ってあげて~~~」
慌てふためく級友たちの悲鳴が食堂に響いた。