いよいよここに至って趨勢は定まった。
品行方正なシュヴァルグランに続き、あの孤高の強者ドゥラメンテまでかような振る舞いに及ぶとなると、他のウマ娘も背中を押される形で次々と追随しだした。
「あの、先輩。ずっと前からあなたを尊敬してました」
「こんな私じゃ、駄目ですか……」
「一生お慕いします」
先輩にキスをさせて欲しいとせがむ若いウマ娘たち。それに応える年長ウマ娘。
ペアができ次第、その場であるいは物陰に隠れて……
学園のあちこちでスールの関係が生まれ始めた。
「ふん、ふふん、ふーん」
イチャイチャし始めた集団の合間を縫うように、鼻歌を歌いながら軽快なステップを踏むウマ娘。トウカイテイオーだ。
学園内でも一際大きな扉の前に立つ。
「カイチョーーぅ!」
相変わらずノックもせずに部屋に飛び込むのだった。
場面は変わる。ここにも学園内の情景を眩しそうに見るウマ娘が1人。
「ああ、いいなぁ……。ロブロイさんに読ませてもらった御本に出てきた世界みたい」
彼女こそライスシャワー――夢見る乙女である。
己の世界に入りかけていた彼女がふと我に返り、軽く身をよじらせる。
そしてベンチで隣に腰掛ける、自らの親友に語りかけた。
「あのね、ブルボンさん。私もあんな風にキス、してみて良いかな」
ライスの親友、今はジャージ姿のミホノブルボンがはっと驚いた顔をする。
次いで優しい笑みを見せると、
「ライスさん」
ブルボンはしかし残念そうに首を振る。
「私たちはクラシック戦線を共に戦った同輩。目上と目下の関係には当たりません。ですので信頼を確かめるためとは言え、長幼の序に基づいた行為は不要と存じます」
「そっかー。仕方ないね」
そう言うとライスは前を向いて脚をぶらぶらさせる。
「…………」
それを見ていたブルボンは何を思ったのか、ライスに優しく口付けた。
「え、ブルボンさん」
直前の否定からの突然のブルボンの行為に、ライスは目を人参の載ったお皿のように丸くした。
ブルボンの薄桃の唇が離される。
固まったままのライスに対してブルボンは
「ライスさんは怪我をした私に、いち早く立ち上がる勇気を示してくれた『先輩』でした。それならば、キスをしたって構いませんよね」
優しく告げるのだ。
そして自らの頬にあてたライスの手に自らの掌を重ね、彼女の桜の花びらのような小さな爪を優しく撫でて見せた。
「えへへ。ありがとう」
ブルボンの優しさにライスは一際眩しい笑顔になった。
共に嬉しさと照れくささが同居した笑顔で見つめ合う。
今度はライスの方から語りかける。
「えっとね。ブルボンさんは私より早くキスをした『先輩』です。なので私はブルボンさんを見習ってここにキス、しても良いですか?」
「ええ」
今度はブルボンも否定しなかった。
「じゃあ、いきます。……えっとこういうの初めてなんだけど、失敗したらごめんなさい」
「誰もが最初は初めてなのですから、まずは自分の思うままにやってみると良いのですよ」
「こう、かな」
ベンチから伸びる2つの影が再び重なった。