10をゆうに超える群れで少年を取り囲み、圧倒的に優勢だったはずの魔狼たち。
しかし、少年の手によってその数を元々の半分以下に減らされてしまっている。
その結果すでに魔狼たちと少年の間での格付けは定まっており、魔狼たちにはこれ以上の継戦の意思はすでに無い。
しかし、私と少年の目的が魔狼の駆除である以上この戦いに講和などは存在しない。
炎の壁に退路を阻まれた哀れな魔狼たちは遅かれ早かれ少年の手に握られた大剣の餌食になる運命であった。
そんな時、顔に爪痕がある隻眼の魔狼が一度高らかに吠えると、何を思ったか、単独で正面から少年へと突貫していく。
魔狼は口を大きく開け、質が悪い鉄製の鎧なら簡単に切り裂く牙が周囲を囲む炎に照らされ鈍く輝く。
しかし、少年はそれに合わせるように大剣を振るい、その牙ごと魔狼を打ち砕かんとする。
速度の乗ったその鉄の塊は容易くそれを実行できる破壊力があり、正面から衝突すれば、その結果は明らかであった。
「ぬおっ!?」
少年の大剣と魔狼の牙が交差する瞬間、飛び出たのは血飛沫などでなく、私の予想を反して、少年の当惑の声だった。
その魔狼はまさに大剣に頭蓋を粉砕される直前に顎を閉じて迫り来る大剣を潜るように交わすと、その巨躯をもって少年へ体当たりを敢行したのだった。
少年はなんとか身体を強化して体勢を崩されながらも魔狼を跳ね飛ばしたが、その魔狼は跳ね返った勢いを生かしたまま直線上の炎の壁へ突撃していく。
「うそっ!?」
魔狼のその無謀な行動に私は目を見開いて驚嘆の声を上げる。
確かに魔狼の毛皮は防具として非常に優秀で、纏えば山火事の中だろうと平気で走り回ることができる。
しかし、竜の息吹にもならぶとされるこの魔剣の炎に全身を包まれればその毛皮があろうとただではすまない。
感覚が鋭い魔狼であれば、炎に込められた魔力から並の炎ではないことを感じ取っているだろう。
しかし、驚愕する私の目の前で、その魔狼は速度を緩めることなく炎の壁に突っ込んだ。
案の定、炎に頼りの毛皮ごと全身を焼き焦がされており、炎の壁を突破しながらも、息も絶え絶えで苦悶の表情を浮かべている。
だが、その魔狼が突撃した部分に少しばかりの隙間が生まれており、そこを間髪入れずに何頭もの魔狼たちが次々と通り抜けていく。
「しまった!」
私が慌てて炎を操って穴を塞ぎ、少年とともに逃げ損なった魔狼を全て片付け、『炎幕』を解除して辺りを見回す。
しかし、あの隻眼の魔狼の行動に即座に追従して炎の壁をすり抜けた魔狼たちは、隻眼の魔狼とともにすでに森の中へと姿を消していたのだった。