ウチのマオウがすみません!   作:亀さん

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お手柔らかによろしくお願いいたします。


ご飯を分けてくれる人はいい人らしい

 

あの思い出したくない事件から数日、今後冒険者としてやっていくにあたって直面せざるを得ない装備に関する問題を解決するため、あの少年に声を掛けていた。

少年は直視するのも難しいくらいの惨状となっていたはずなのだがすでに完治しており、その動きにどこか変なところは見られない。

 

「どうした?」

「あなたの知り合いでこの辺りで装備の手入れをしてくれる鍛冶屋を知らないかしら?『魔剣』の整備を依頼したいのだけど」

 

この世界には魔力を籠めることで様々な力を発現する不思議な鉱石が存在し、その鉱石を様々な形に加工して道具として使えるようにしたものを総称して『魔剣』と私たち人間は呼んでいる。

『魔剣』にはその名の通りの剣状のものにとどまらず、様々な武具、乗り物、果ては城なども存在しており、人間はこの『魔剣』の力を用いて、はるかに強靭な肉体と強大な魔力を持つ魔物に対抗してきた。

 

この街についてから数日、私もできる限り手入れをしてきたつもりではある。

しかし冒険者となった今、より危険な依頼をこなしていく中での不備を防ぐため、できればしっかりと技術を持った職人に整備をしてもらう環境を整えたかった。

そのため、『魔剣』を扱う者も多い冒険者(ドウギョウシャ)ならもしかしたら知っているかもと思い、顔が広いらしい少年に尋ねたのだった。

私の腰ベルトに取り付けた皮鞘に納められた『魔剣』に一瞬目を向けた少年は腕を組み、少しの間目を瞑った。

 

「…そのクラスの魔石だとこの街の人族の鍛冶屋では手に余るのう」

「そう…。時間を取らせてしまってごめんなさい」

 

期待していた返答ではなかったが、地方の都市に来ると決めた時に覚悟していたことだった。

しかし、そうなると相棒とも呼ぶべき『魔剣』の整備のために何度も王都などへ往復するとなると旅費、宿泊代がかかる上、その間は依頼をこなして報酬金を受け取ることが出来ない。

出来る限り今後の支出を抑える為に頭を悩ませていると、少年が私の目を見つめていることに気が付いた。

 

「どうかした?」

「・・・見たところお主裕福な出身のようだし、人族至上主義だったりせんか?今まで亜人種を奴隷として扱ったことは?」

「は?」

 

私は少年の突然の質問に目を見開く。

 

人族至上主義とは、人族こそが最も優れた種族であり、他種族を支配すべきと考える思想やその思想を共有している過激的な集団のことだ。

最近では獣人族の小さな村を襲い、奴隷として売り捌くなどもしているらしい。

 

私は人族だが、そんな考えも行動もしたことが無いし、何よりあんな自分本位な強盗集団など私の誇りが許さない。

 

「あんな奴らと一緒だと思うわけ?過去の英雄たちを愚弄する、愚かで、無知なバカたちと」

 

数百年前までは魔物の支配下にあったと言われる大陸も、魔物の被害を訴えた依頼がギルドに毎日のように舞い込むものの、今では街の城壁外であったとしても人間たちが日々の暮らしを続けることが出来るようになっている。

しかし、それは人族と、獣人族、小人族、長耳族などの人族とはすこし違う特徴を持つ人間たちが持ち得るすべての力で結託し、魔物と、それらを統べる7人の魔王たちを打ち破ったからだ。

 

「ふざけるんじゃないわよ!」

「分かったから落ち着け。お主がそこまで本気で怒るなら信じられる。一人余の知り合いを紹介してやろう」

 

私は思わず作った握りこぶしをその顔の中心に叩き込む前に、少年がそう言って人差し指を立てて私を制止した。

 

「そやつは土人(ドワーフ)族でな。過去に迫害されたことがあったから、紹介する前に確認しておきたかったのだ」

「そう・・・・。声を荒げてしまって悪かったわ」

「よい。こちらこそお主が誇りを大切にしとるのに気が付かず、不躾な質問をしてすまなんだ」

 

私はつい頭に血が上って少年にきつい言葉をぶつけてしまったことを謝ると、少年も私の心中を察してくれたのか心良く謝罪を受け入れてくれたため、先ほどまでの空気はすぐに霧散する。

 

しかしその結果、話題も無くなり私たちの間に無言の空気が流れてしまったため、先ほど場を乱して少々気まずい私はテーブルに置いてあるメニューを少年に差し出す。

 

「その鍛冶屋のところには、私がさっき注文した料理を食べてから向かいたいんだけど、私だけでもなんだし貴方も何か頼む?」

「ふむ、まだ腹が減っておるし飯を食べるとするか。お主は何を頼んだのだ?」

 

少年は私の気まずさを知ってか知らずか、メニューの料理名を真剣に目で追いながら私に問いかけてくる。

 

「えっと…。これだったかしら?給仕の人にオススメって言われたからそれにしたわ」

 

私がメニュー表で一番大きく記載されている料理名を指さすと、少年は顎が外れるかと思うくらい口を大きく上げて驚いた。

 

「鬼角牛の厚切りステーキセットじゃと!?余でもたまのお祝いに、厚切りではなく普通の方しか頼めないというのに…」

「私がここの払いは持つし、あなたもこれでいい?ってあなたさっきいっぱい食べていたわよね?」

 

そこまで言って、先ほど他の冒険者のテーブルに混ざり暴食をしていたのを見ていた私は少年の胃を少し心配するが、少年は口から涎を滝のように流してメニューを覗き込んでいるのを見て給仕に少年の分も追加で注文をした。

 

「本当に良いのか!?」

「いいわよ。鍛冶屋を紹介してくれるお礼よ」

 

給仕が私の伝票に少年の分もペンで書き込むのを食い入るように見ていた少年は給仕が去った後、私の目をこれ以上なく凝視する。

 

「男に二言は無いな?ここでやっぱりおごりは無しとは絶対に無しじゃぞ!?余の口はもうステーキになってしもうたからな!!」

「私、男じゃないんだけど・・・・」

 

苦笑する私に確認を取るとすぐさま手にステーキ用のナイフとフォークを装備し今か今かと待っていた少年は、ほどなくしてやって来た湯気と焼ける脂の匂いを大量に振りまく巨大な肉塊に目をこれ以上ないほど輝かせる。

 

「うわ、思ったよりもすごく大きい」

「こ、これが毎日のように夢に見た鬼角牛の厚切りステーキ!!いざ尋常に勝負!!」

 

私が想像していたよりも一回り大きなステーキへ少年は大きめのナイフとフォークを自由自在に操りながら肉の山を切り崩していく。

 

「う、美味いのう!少し野性味のある風味と歯ごたえ。それをくどくなく上品な脂が包み込み、相乗効果で何倍もうま味を高めあう!しかもこの焼き加減!肉にしっかりと熱を入れながらも柔らかさを保つギリギリを攻めつつ表面をカリッと仕上げておる!これは厚切りならではの職人技じゃ!!」

「ほんと、美味しいわねこれ。でも、ちょっと私には多すぎたかも・・・・。食べられるならだれか半分食べて欲しいわ」

 

私はさすがに一人で食べられそうになかったため助けを求めようと少年の方を見ると、手と口をすさまじい速度で動かし続けすでに半分程度になった肉を食べ進めつつ、その目は私の肉を凝視していた。

私は無言で肉を半分以上切り分けると、大きい方を少年の鉄板のほうに動かした。

 

「お主ほんとにいい人じゃな!!」

「ご飯分けたくらいで拝まないでよ…」

「仏様、姉さん様、レナ様、ありがたやぁ」

「ほんとに辞めてよ」

 

それから私がいくら言っても、少年は拝むのを辞めなかった。

器用に片方の手でナイフとフォークを操って肉を口に運び続けながらだったけど。

 

 

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