ウチのマオウがすみません!   作:亀さん

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マオウに連れられて

 

私は残った分をすべて食べきると、私よりも先に3倍以上の肉の塊を食べ終わっていた少年に連れられ鍛冶職人たちの工房が連ねる通りへとやって来ていた。

流石この地域で一番大きな街のことはあり王都と比べると道幅は狭い物の、賑わいは遜色無いほど人でごった返していた。

人口がこの街の数倍はいる王都に住んでいたとは言え、あまり人混みに行くことがあまりなかった私は押し寄せる人波を掻き分けて少年の後を必死に追う。

しかし反対に、少年は鼻歌交じりにスルスルと人の間をすり抜けていくため、彼の背の低さも相まって見失いかけてしまう。

 

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ。こんなに人が多くちゃそんなに早く歩かれたらはぐれるでしょ?

「今日は少ない方だぞ?最近この周辺地域を往来する商人の数が減っているみたいだからのう」

「これで少ないの?」

「仕方ない。ほれ」

「?えっ!?」

 

突然少年は私の手を掴むと、そのまま私を引っ張るように歩き始めてしまった。

私が普段歩く速度よりも早いスピードで引っ張られる為に少し戸惑ったものの、先ほどとは違い、私は人混みの中をぶつかることも、立ち止まることもせずに歩き続けられた。

 

「こっちじゃ」

 

あれからしばらく通りを歩いていた少年は突如として薄暗い裏路地へと入っていくと、すこし行った先にある寂れた工房の前で足を止めた。

 

「え、ここ?」

「親方、居るか?」

 

私の困惑の声に応えることなく、少年はやっているのかやっていないのかわからないほど暗い店内に声を掛ける。

 

「ん?あぁ旦那か。頼まれていた『魔剣』の整備は終わってる。そこに立てかけてあるから持って行ってくれ」

 

偏屈そうな低い声に招かれた少年が遠慮なく工房に入っていくので、私もその背中に付いて行く。

光源は燃え盛っている炉くらいで薄暗く商売っ気が全くない店内だが、よく見渡してみると綺麗に研ぎあげられたナイフをはじめ様々な道具があふれており、それだけでも職人の腕は並みではないことが分かる。

上質な道具の数々に唖然とする私は、店の奥の炉の目の前に丸椅子に腰かけたかなり小柄なシルエットにふと気が付いた。

そのシルエットは少年からお金が入った革袋を受け取るとそれを懐にしまいつつ少年といくつか言葉を交わすと、その力強い視線が私を射抜く。

 

「で、その後ろの嬢ちゃんは一体なんでここにいんだ?」

「おう、この子の剣も見てやってくれぬか。親方なら整備できるじゃろう?」

「ふん。人族なら人族の職人に頼めばいいじゃねぇか」

 

迫害を受けたことがあるからか、人族にあまり良い印象を持っていないようだった。

だからこそ、表通りから少し離れた、目立たない場所で店を構えているのかもしれない。

親方と少年が呼ぶ土人族の老人は私を見上げながら露骨に渋い顔をしていた。

 

「そこを頼む。余の配下なのだ」

「誰が配下になったっていうのよ」

「はぁ。とりあえずそこに置いてくれ」

 

親方は少年の様子に諦めたのかため息をつくと鍛冶台を指さす。

私は少しその様子に不安になりながらも、その男性が言うように、私は拳大の真紅の魔石が柄にはめ込まれた『魔剣』を革鞘から引き抜くと、使い込まれて赤茶けている台の上へとゆっくりと置いた。

 

「なるほど。こんなクラスの『魔剣』はそこらの人族の職人じゃあ手に負えねぇわな」

 

台の上に置かれた『魔剣』を観察しながら親方はそうつぶやいた。

 

「親方はこの街どころか大陸でも有数の腕なのだぞ」

「褒められてもなんも出さんぞ。さて…」

 

親方は睨みつけるように私と目を合わせると、そこにあった木製の簡易な椅子にゆっくりと腰を下ろす。

 

「金貨10枚だ。それが払えんなら出て行ってくれ」

「え…?」

 

私は親方の提示した価格に耳を疑った。

金貨10枚はそれなりに大金であり、並みの市民の家族が一カ月生活するには十分な金額だった。

しかし、『魔剣』の整備であればその危険度と難易度から、その数倍、強欲な職人ならば10倍以上の価格を提示されてもおかしくはない。

 

「え、本当に金貨10枚?」

「それ以上は値下げをしろと言われたってできん。儂にも生活がかかっとるからな」

「いやいやいや。安すぎでしょ。王都の職人なら20枚とか、なんなら大金貨1枚とか請求してくるけど?」

 

なんなら私が当初に想定していた整備費との差額を、今まで買うのを悩んでいた強力なポーションへの費用にだって回せてしまう。

そんな破格中の破格の価格でやってくれるというのだから、私からすればありがたいことこの上ない。

しかし、今台の上に置かれている『魔剣』には厄介な点がまだあるのだ。

 

「まぁ、それくらいが本来の相場だろうな。特にその『魔剣』は主人に忠実だが気分屋だ。主人の命令がなきゃ、下手な職人が触ろうものなら腕の一本や二本は燃えカスにするだろうしな」

 

そう、私の持つ『魔剣』は非常に気難しく、主人の命令によって予め定められた人以外が触る際には細心の注意が必要となる。

機嫌が悪ければ下手するとその魔石に込められた膨大な魔力を炎に変え、その無礼者へ襲い掛かる。

だからこそ、この『魔剣』の整備は特に腕の立つ職人でなければ依頼することすら難しい。

 

「明日の昼まで待ってくれ。刃こぼれの研ぎ直しと魔石の磨き、刻印の簡単な修復までやっておきたい」

 

そんな『魔剣』の気性を一目で見抜いた親方はやはり優れた職人であるようで、なんの気負いもなしに親方が『魔剣』を手で台の上から持ち上げるも『魔剣』は何の反応も示さなかった。

自信をもってそう言い切った親方を私は信頼することにして、その手に金貨10枚を丁寧に乗せる。

親方はその金貨を数えることなく自分のポケットに押し込むと、私の皮鎧を私よりも2回りほど太い指で指し示す。

 

「その皮鎧も貰い物か?少し体に合っていないんだろう?『魔剣』と一緒に渡せるようにやっておく。何か要望はあるか?」

「いいんですか?『魔剣』の整備も格安なのに」

「人族は嫌いだが、あんたは旦那が連れてきた客だ。なら特別だ」

 

深いしわが寄った厳つい顔の親方が店内で見事に研磨されたナイフを手の中で遊んでいる少年へと目を向けるとほんの少しだけ表情が和らいだように見えた。

 

「お、話は終わったかの?」

「ああ。後はこっちでやっておく。それと、旦那。そいつの研ぎ直しは大変なんだ。できるだけ特急作業はやめてくれよ」

 

親方は少年が背負っている、布でグルグル巻きに梱包されている『それ』へため息をつきながら目線を送っている。

 

「すまんのう親方。姉さんから近日中に依頼を受けられるよう準備するように言われておってな」

 

どうやら私の登録受付を行ってくれた女性から指名で少年に依頼が入るようだ。

それはギルドからある程度の信頼を得ている証明であり、少年の冒険者としての実力の裏付けでもあった。

出会ったばかりで失礼だと思うが見た目では凄腕にとても見えない少年は、何かを思い出したようで軽く頭を抱えていた。

 

「あ、今日その件で昼過ぎに呼ばれておったのう。今更じゃが、遅いと怒られんと良いのだが」

「じゃあ私も一緒に謝るわ。私がお願いしたんだし」

 

自分のお願いに付き合ってくれた少年が怒られるのはすこし気が引ける為、鍛冶屋を後にした私は少年と共に再度酒場へと急いで戻ることとなった。

 

しかし、少年の顔色は酒場が近づくにつれてどんどん青ざめ、震えが大きくなっていくし、私も覚えのない記憶が顔を出し始め、全身を鳥肌が覆い始める。

体調もどこか悪くなってきたように感じるので、私は急遽宿へ戻る為に一人針路を代えようとするが、少年に力強く手を掴まれてしまい失敗に終わる。

 

「どこに行こうとするのだ?」

「ねぇ、やっぱりさっきの言葉取り消しても良いかしら?」

「男に二言は無いぞ!」

「私は男じゃないんだけど」

「自らの要望に応えた余を見捨て、それでもお主の誇りは傷つかんというのか!」

「く、痛いところを・・・・。わかったわよ、一緒に行く、一緒に行くから!」

 

少年と、ついでに私は見えてきた酒場への道を少し目に涙を溜めながら、可能な限り急いで向かったのでした。

 

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