「すごい、今までと全然違う!」
翌日、親方の店で『魔剣』と皮鎧を受け取った私は、装備した途端にその違いを実感する。
『魔剣』は私が旅に出る前以上にピカピカに磨き上げられており、私の魔力を流し込む際には少しの無駄もなく、ほぼすべての魔力が魔石に溜まっていく。
だが、何より驚いたのは皮鎧だ。
私の身体に吸い付くように仕立て直された皮鎧は多少動いてもずれることなく、私の腕や足、首の動きを邪魔しない。
重さもまるで半分の重量になったのかと思うほどで、思わずその場で飛び跳ねてしまう。
「ありがとう、親方さん」
「礼はいい。仕事だからな」
親方は鼻を鳴らしてぶっきらぼうにそう言ったが、少し照れているようだった。
「お、準備できたか?」
「ええ」
『魔剣』を腰の皮鞘へ納めた私は店の中に入ってきた少年に返事を返す。
振り返った先にいた少年は私の装備を確認すると一度頷き親方の手にいくらかの銀貨を握らせると店に並んでいた革製の籠手と短剣を私に差し出してくる。
「これも装備しておけ。おそらく必要になるからのう」
そう言い切るのは見た目は私よりも年下の少年だが、その首には赤銅級の冒険者の証が下がっている。
冒険者の階級は全部で10階級に分けられているものの、上から順に、歴史上でも数人のオリハルコン級、大陸中を探しても十人程度の黄金級。
冒険者たちのなかで実質的なトップ層は白銀級と、目の前の少年と同じ赤銅級なのだ。
私は『魔剣』の力を考慮して最初から鉛級、青銅級を飛び越えて鉄級からスタートとなったが、目の前の少年は一番下の鉛級から赤銅級まで成りあがる実績を積み上げたベテランである。
しかも、新人の依頼への同行をギルドから直接依頼されるほど、その人格も信用されているらしいのだ。
彼が必要になると言ったのだから素直に私はその助言に従うことにして、少年に革籠手と短剣の料金を払おうとするが、少年は私の手を押しとどめる。
「配下へ下賜するのは魔王である余なら当然であろう」
「勝手に配下にしないで。ま、これはありがたくいただくわね」
今まで剣を振う際に邪魔になると思い籠手を着けていなかったのだが、その皮籠手を装着しベルトを締めてみると思ったよりも体へ馴染む。
短剣も腰に取り付け、初の依頼に向けて私は準備が整った。
少年も昨日の麻服とは違いチェーンメイルで身を包んでおり、昨日親方から受け取っていた彼の身長ほどもある大剣を背中に背負っている。
「さぁ、いくかのう」
「ええ」
「おい。旦那が一緒なら問題ないと思うが、気をつけてな」
「ええ。いってきます」
少年の後ろに続いて外に出ようとした時、すこしだけ優しい声音で声を掛けてくれた親方に私は笑って応え、その場を後にした。
親方の店を出てしばらく歩くと、ぐるりと城壁で囲まれた街の出入り口の付近に馬車が何台も集まっている場所がある。
そこで客を待っていた御者の一人に私が手に持つ依頼書の写しを見せると、御者は少し嫌そうな顔をしながらも手の平を私に向けてくる。
「馬車を使うときは先払いだ。彼らも魔物に襲われるかもしれない場所に行かなければならないリスクがあるからな」
少年は御者の意図が分かっていたようでその手に硬貨を握らせると馬車の荷台に乗り込んだ。
私も少年に続いて乗り込むと、御者が馬の手綱を操って馬車を走らせ始めた。
「おい、ちょっと良いか?」
「なに?」
「今回の目的地には夕暮れ前に着きそうだからのう。牧場主に挨拶をしたら日が落ちる前に牧場の周りを見て回ろうと思う」
牧場までの道中で、荷台に腰かけつつ周囲を見渡していた私に、少年がそのように提案をしてきた。
「魔狼たちがいつ来るか分からないし、牧場で待機していた方が良いんじゃないの?」
「魔狼たちは暗闇でも見通すことが出来る上に知能も高い。人間が動きにくい夜に襲撃することが多いのだ。それまでに奴らの群れの規模やこれまでの襲撃の傾向を調べておきたい」
「確かにその方が良いかもしれないわね」
見た目とは違い、ベテラン冒険者の少年の考えに私は賛同の意を示す。
ひとまずの行動が決まった後、道中の時間を魔狼の対処の確認に充てていくことにした。
馬車はその間も進み続け、私たちが話をしているうちに、牧場まで続く道はそれなりに大きい森の中へと入っていった。