ウチのマオウがすみません!   作:亀さん

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魔狼の襲撃①

 

 

 

森に入ってからは私も少年も一段階警戒を引き上げるが、まだ陽が上っている時間にも関わらずかなり暗く、また生い茂る背の高い草や木々の枝のせいで視界は非常に悪い。

そんな状況下で私たちが警戒を続けるもしばらく馬車が森の中を進み続けるが何も異変が起こらない。

それこそ私たちが目を凝らしても小動物の姿すら見当たらない。

 

「こりゃ不味いかもしれんのう」

「っ!来たっ!!」

 

少年がそう呟いた瞬間、まっすぐ前を見て森の中を進んでいた馬がふと耳を揺らし、ある方向へと目をやったのだ。

その様子に私は急いで荷台から飛び降りると、腰の『魔剣』を抜き放つ。

私の様子に少年も悟った様に荷台から降りると、御者に荷台へと隠れるように伝えている。

 

「よく気がついた」

「馬のおかげよ」

 

私と少年が馬の視線の方向から馬車を守る様に立ち塞がると、木々の間から不自然なほど大きな狼が数頭飛び出てきた。

 

「依頼の魔狼じゃな。いけるか?」

「ええ。任せて」

 

木々が生い茂り枝葉が太陽光を遮る為、非常に光量に乏しい森の中だが、実際のところ私にはあまり関係ない。

私は手の『魔剣』へと魔力を込めると、『魔剣』はたちまち刀身を燃え上がらせ周りを明るく照らし魔狼たちの姿を浮かび上がらせる。

 

「まぁ、この程度じゃ帰ってくれないよね」

 

ほぼすべての動物は火を怖がる。

怖がって逃げ出してくれることを少しだけでも期待した私の甘い考えを裏切って、突然発生した炎に魔狼たちは本能的に身構えることはあっても、私たちにその鋭い牙を剥き続けていた。

私は小さくため息をつくと視線と共に『魔剣』の剣先を魔狼たちに向けると、手に持った『魔剣』へと魔力を注ぎ、剣が纏う炎を一回り大きくする。

 

「火の精霊よ、その身を矢として、私の敵を穿ちなさい。『火矢(ファイヤーアロウ)』!」

 

私の詠唱に合わせて剣の炎がいくつか分離するとそれぞれが物質的な形を持った火矢に変わり、私の背後に漂いながらその標準を魔狼に合わせる。

一方の魔狼たちは最初警戒していたものの、私が唱えた魔法が『火矢』だと分かった瞬間、我先にと私にむかって直進してきた。

 

「来るぞ!」

「舐めるんじゃないわよ!」

 

魔狼の考えたことは手に取るようにわかる。

野生動物や魔物に対抗するために冒険者が魔法を習得している場合も多い。

私が唱えた『火矢』は言うなれば初級の魔法であり、魔狼たちにも見覚えがあったらしい。

今まで何度も冒険者と戦ってきた魔狼は『火矢』の魔法はその毛皮の前には有効打にならないと判断したのだろう。

先ほど少年と話した中に、初見の冒険者が今までの野生動物と同じように簡単な魔法で攻撃を仕掛け、魔法を突っ切ってきた魔狼に手痛い反撃を喰らった実例もあった。

 

人間に匹敵する体格を持ち、その力やスピードは多少鍛えた程度の人族では到底かなわない。

そのうえ、なりたての冒険者が必殺技のように使う簡単な魔法程度ならその毛皮の前に意味を成さない。

 

まさに、初心者殺しの魔物と言えるだろう。

しかし、私の『魔剣』のこともまた魔狼たちにとっては未知の存在だったようだ。

 

私の『火矢』は火の属性を得意とする紅い魔石を用いた『魔剣』により大幅に強化されており、油断して突っ込んできた魔狼たちに深々と突き刺さる。

突撃してきた4頭は予想外の威力に足が緩み、そのうちの1頭は火だるまになってその場に崩れ落ちた。

 

「よしっ!」

「やるのう」

 

足並みが崩れた魔狼に少年はあの大剣を叩きつけ少年とさほど変わらない体格の魔狼を弾き飛ばした。

ダメージを負った魔狼たちは私たちから一斉に距離を取るが、そのまま逃げることなく一定の距離でこちらを睨みつけている。

 

「まだ引かんのう」

「これじゃあ魔法も当たらないわね」

 

魔狼たちはこちらへの警戒心を高めた様で、馬車の周りを周回し私と少年の隙を窺っている。

先ほどまでの様に考えなしに真っ直ぐ近づいてくるならまだしも、距離を取って警戒している魔狼相手に今の私では魔法を当てることは困難だろう。

 

「直接斬りにいってここを離れると、そのうちに他の魔狼が馬車を襲うだろうしのう」

「せめて纏まって動いてくれれば」

「なるほど・・・・。それなら余に任せろ」

 

少年はそういうと、馬車を使って大きく跳躍して魔狼たちに向けてナイフを投擲する。

しかし、そのナイフは簡単な魔法すら弾く魔狼の毛皮には歯が立たず、ただ鉄の塊をぶつけられて腹立たしそうに魔狼たちは少年を見上げた。

 

「こっちを見るなよ?」

「え?」

 

突然私に向かって発せられた言葉に驚いて少年を見てしまいそうになるのを必死に堪えると、私の頭上で怪しい赤い光が放たれる。

 

「!?これって・・・・」

「こっちに来い、魔狼ども!」

 

先ほどまで馬車の周りを取り囲んでいた魔狼たちは少年に向かって集まっていく。

少年の手には破られた羊皮紙が握られており、先ほどの光と魔狼たちの様子から私の頭の中で少年の先ほどの行動が結びついていく。

 

「もしかして、『誘引(アトラクション)のスクロール?」

 

少年は、魔法が使えない者でも一度だけ魔法を使うことが出来る魔道具の一種、スクロールに込められた『誘引』の魔法を使い魔狼を引き付けたのだ。

 

「今じゃ!」

「っ!わかったわ!」

 

少年は集まってくる魔狼たちからうまく逃げまわり、魔狼の群れはいつのまにか塊となって少年を追いかけている。

少年の声に私は体を流れる生命力を一気に燃やして魔力を生成、先ほどの『火矢』よりも多い魔力を魔剣へと注ぎ込む。

 

「火の精霊よ。私の願いに応え、集まり纏まれ」

 

私の魔力を『魔剣』が纏う炎が一気に大きくなり、徐々に球体へと形を変えていく。

 

 

「その身を大いなる炎と変え私の敵を焼き尽くせ!『火球(ファイヤーボール)

 

 

巨大な火の玉が勢いよく射出され、少年を無我夢中に追いかける魔狼たちへ飛んでいく。

『誘引』の効果は人間相手には多少無意識の内に視線が誘導される程度だが、魔狼のように本能の働きが強い、魔獣に分類される魔物には効果が非常に大きい。

先ほどの光を見てしまった魔狼たちは少年を追うことしかもう頭に残っておらず、私が『火球』の直撃を確信する。

 

「っ!?」

 

しかし突然狼の遠吠えが響き渡ったかと思うと、少年を追いかけていた魔狼たちが急に回避行動へ移ったのだ。

 

もちろん放たれた『火球』は魔狼の身体能力をもってしても回避が非常に難しい距離まで迫っており、その大きな炎の塊が先頭の2頭を飲み込むとその強靭な毛皮ですら簡単に焼き焦がしていく。

火に包まれた2匹が断末魔を上げている中、生き残った魔狼は私を一瞥するとその身を翻して木々の中へと消えていった。

 

「仲間がこちらを見ていたのかしら。取り逃しちゃったわね」

「・・・・そうじゃのう」

「追うべきかしら?」

「いや、暗い森の中での追撃はこちらにリスクが大きい。それに奴はおそらく群れの斥候だろう」

「じゃあ、あいつを討伐しても依頼の完了にはならないわね」

「本番は牧場についてからだのう」

 

私は魔狼を3頭討伐した結果に浮かれていたのだが少年の推測に少々肩を落とす。

そんな私の様子を見て少年は少し微笑むと、私の肩に手を置いて優しく声を掛けてくる。

 

「まぁ初めてにしてはよくやった、褒めて遣わす」

「なんでそんなに偉そうなのよ。って、あなたの方が私より上の階級だったわね」

「?余が魔王で、お主は余の配下だからだが?」

「だから、いつの間に私があなたの配下になったのよ」

 

私と少年はそんな掛け合いをしながら馬車に乗り込むと、ゆっくりと馬車が進み始める。

先ほど逃がした魔狼の視線を感じながらも馬車は道を進み、森を抜け牧場へと更に進む。

 

 

 

その道中ずっと少年が何か引っかかっているような顔をしていたのだが、この時の私には少年が抱える違和感の正体を知る由もなかった。

 

 

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