森から牧場主の家に帰ってすぐ少年は牧場主や使用人たちにいくつかの質問をすると、少しも休むことなく牧場の周りを確認し始めた。
「おそらく、今日明日にでも次の襲撃がある」
「なぜ?ここは牧場主さんたちが狼用の罠とかを仕掛けているはずじゃないの?」
「今日見た様に、魔狼は普通の狼とは全く体格も力も違うのだ。こんな程度では鬱陶しくは感じても、脅威にはならんよ」
私の指摘を少年は足元の狼用の罠を見ながらそうバッサリと切って捨てる。
「そもそも、なんで今日か明日なの?」
「森にいるはずの動物たちが全く姿が見えんかった。一番新しい死骸も数日は経っておった。」
「食い尽くされたか、森から離れたか。...どちらにせよ魔狼たちの食べ物が森にはもう無いってことね?」
「その通りだ」
魔狼は魔力で変貌したとはいえ狼は狼。
いつまでも飲まず食わずでは生きていけない。
「今日ここまでの道中で3頭間引いたが、おそらく群れには大したダメージは出ておらん。それどころか多少警戒して次の襲撃は群れのほぼ全力で来るだろうな」
「こっちはたった2人で十何頭の魔狼を相手に、人にも家畜にも被害を出さない様にか。しかも、下手に撃退して、森に潜まれても厄介よね。」
こちらの強さを思い知ればしばらくは森から出てこなくなるかもしれないし、他所へ移るかもしれない。
ただそれは一時的な対応に過ぎず、また同じ様なことがここか、別のところで起きるだろう。
「できれば一回の戦闘で群れが弱体化するほどの多くの魔狼を討伐したいが、それは無理だからのう」
少年の言いたいことは分かる。
ただそれには、魔狼たちが逃げられない様にする包囲戦か、逃げ出した無防備な背中に一方的に攻撃する追撃戦のどちらかにならなければ起こり得ない。
しかし、普通に考えればそんなことは今の私たちにできるはずがない。
そもそも包囲するには相手を上回る人員か都合の良い地形が必要とされる。
だか、この場所は真っ平の牧草地のうえこっちは2人だけ。
追撃しようにも、基本魔狼の方が人間よりも俊敏で、何よりこれから日が落ちて真っ暗になる。
そんな中追撃しようものなら、当然不意を突かれて2人仲良く魔狼の餌だ。
それは、普通ならできるはずがない魔法の様なこと。
ただ、魔法があればできるのだ。
「ねえ、こんなのはどうかしら?」
「お主、そんなこともできるのか?」
私が地面に書いた作戦は少年の目を大きく見開かせることになった。
その目には、尊敬と驚愕の感情が入り混じっており、ほぼずっと冒険者として先輩の少年に引っ張られていてすこし不甲斐ない気分だった私の気持ちを晴らすことができた。
あの男に内緒で、この魔剣の使い方を教えてくれたお祖父様に教えて貰っていたことに内心感謝する。
「うむ。これなら上手くいくぞ。あとはこうして...。おい、見ておるのか?」
「あっ、ごめんなさい」
少年に注意され、少し浮かれていたとすぐ反省した私は少年が地面に書いたその作戦を頭に入れていくのだった。