異能バトル、ホロライブ学園 作:能力考えるのは楽しい
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『東門、到着確認しました』
『西門、到着合図確認』
『南門、待機済みです』
『北門、到着確認OKです』
『地下通路、暇との連絡が入っています』
Aちゃんの脳内に現場を確認しているスタッフからの音声が届く。
地下通路に対して、『大人しく待ってろ、って返しといて』と返答をしつつ、深呼吸を行う。
「さあ、皆様お待たせいたしましたー! テロリスト集団、ネイチャーに対抗するべく我が学園が誇る生徒たちが、各襲撃ポイントに到着、警備員と入れ替わります!」
一体何が起こったのか。端的に言えば襲撃である。
遡ることおよそ十分前。
エキシビションマッチ開催からすぐ、それは起こった。
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開始の宣言のあと、真っ先に開戦の火蓋を切ったのは、ときのそらだった。
Aちゃんの開戦の宣言とともに、能力を使い、フブミオ両名の直ぐ目の前に出現。そのまま、未だ刀を抜いていなかったフブキに対して、通常では考えられないような重さのストレートパンチを繰り出した。
ときのそら、能力名「空照らす今」
いくつかの能力を内包した複合型能力。
大まかに過去、未来、現在の3つに分かれる。その全てが現実改変型能力である。
一つ目は、過去に該当する能力「リグレット・レコード」。
対象の過去の痛みを付与する能力。
本人曰く、生物非生物問わず対象が経験している痛そうと思った現象を再現することができるらしい。現象、つまり痛みだけではなく、実際に傷を作り出したりもできる。なお、能力が勝手に痛そうかそうじゃないかを判断しているらしく、記憶が読めたりするわけではない。
内容だけ聞けば恐ろしい能力だが、彼女はこの能力を大会中ほぼ使用していないようだ。
二つ目は、未来に該当する「太陽
対象に可能性を付与する能力。
可能性とは、要は出来る、と信じたことを可能にする不思議パワーを付与する能力てある。……解析系の能力者にも詳細はわからなかった。
ただ、一つだけ判明しているのは、謎パワーが付与された対象も、出来ると信じていなくてはいけないということである。
あくまでも、力を授ける、だけなのだ。
そして、この能力はその内容ゆえに多発はできない。集中力が必要とされる場面でも、使用は困難を極める。信じ切るとは、決して簡単な
三つ目、現在に該当する能力「ゼロの重み」。
現象、概念に、0を付与する、という能力。
簡単に言えば、自身の移動速度に0を付与する、のようなことができる能力。
これだけで、時速10キロは時速100キロに変わる。しかもこの能力は、対象にできる数に制限がない。自身の脚力、耐久力に0を付与するといった、数字で表しきれないことにも付与もできる。
この三つめが大会中にもっとも使われた能力だ。
先ほど繰り出された異様な重さのパンチもこの能力の影響下にあった。速度、威力、硬さにバフ。
その結果が、獣人種ですら吹き飛ぶ一撃だった。
「フブキ!?」
フブミオは油断したわけではない。ただ想定よりも速かった。
幸いお互いの距離が近かったこともあり、吹き飛びかけたフブキをミオが咄嗟に掴み支え、分断は防ぐことに成功する。
「さっすが、フブちゃんにミオちゃん!」
「お褒めいただき光栄でごさいまぁぁぁす!」
そんな称賛の声に、軽い調子で返事を返しつつ、抜き放った刀を牽制がてらに一振りし、僅かに距離を離す。
内心では聞いている余裕などない。
本来ならば獣人有利なこの距離は、すでに死地なのだ。
故に空いたこの僅かな距離が、貴重な時間。
阿吽の呼吸で、お互いに
フブキが刀を持っていない手で、人差し指と小指を立てて狐の顔を作る。
「
ミオが、両手の指先を合わせゆるい合掌のような形を作る。
そして小声でフブキに言った。
「フブキ! 22で止める、それまでお願い!」
「任された!」
「”我寿ぐは、深奥まみえる人の業”」
ミオの詠唱が開始される。
異能力には、基本的にデフォルトで多かれ少なかれ身体能力を強化する機能が備わっている。
そして、獣人種は総じて、能力が身体能力の補助であることが多い。
おかゆ、ころねはそういった身体能力を強化する能力に見えないがその実、転移後、最後にものをいうのは自身の身体能力であり、移動能力の補助といえなくもない。
獣人種は不思議とその手の、『自分の身体能力ありき』の能力に目覚める者が多いのだ。
これらデフォルトの身体強化と固有の能力による強化は重複し、かつ獣人はそのデフォルトの強化値がほか種族よりも高い傾向にある。故に獣人種は近接戦闘や徒手空拳が強いというのが常識となっている。
しかし、白上フブキは違った。
もちろん、近接が苦手ということではない。
白上フブキ、能力名「
獣人種にしては珍しい、搦め手の能力。
その能力は多岐にわたる。しかし、複合型ではない。一体どういうことか。
それは、この能力が音に合わせた意味によって効果を変えられる能力だからだ。
コンコンという響き通りの言葉であれば、その言葉に合わせた能力一つを発揮することができる、言ってみれば、創造型能力。
ただし、それを扱うには事前に、能力を作成、登録しておかなくてはならない。
そして一度に登録しておけるのは3種のみかつ同時使用不可。決して使いやすい能力ではない。
しかし、彼女は、それでも強かった。
なお、厳密にいえば、五種の能力を彼女は扱うことができる。この能力に目覚めたとき、デフォルトで、しかも変更不能の能力が二種存在したのだ。しかし、その二種は今となっては奥の手となっており、簡単に目にすることはできない。
そして、大神ミオもまた珍しい能力を持つ。
大神ミオ、能力名「祝詞《鳴音、天神、再演》」
保有者の少ない詠唱系能力。詠唱を必要とするタイプは、いくつか種類があり、段階を踏んで強くなるもの、単純に複数詠唱が存在し、それぞれに能力があるもの、一つで完結するものなど種類がある。
そして、そのすべてが準備時間、詠唱の種類の少なさに比例した強さの能力を持つ。
大神ミオの能力は二段階に分かれる。二段階、つまり、詠唱系能力の中では、一つ一つがかなり強い能力を持つ。
一段階目、「鳴音、
二段階目、「鳴音、
一段階、二段階で別の効果、ということはない。
純粋に出力が上がり、影響範囲が自身から周囲を巻き込むものへと変わり、
そう、効果は同じもの。しかし、内容はバリエーション豊かなのだ。
その効果は、対象者を何らかの形で強化する能力、ただそれだけである。
しかし、一段階はおよそ22種のバフ効果が、二段階目で56種のバフ効果が選択できるのだ。
例として挙げるならば、一段階目で存在するバフ、『
そんな、ある種発動されればどうしようもないほどの強力な能力の詠唱が行われる傍ら、フブキはミオに任された時間稼ぎを敢行していた。
「使ってきたね。今回のフブちゃんのそれはどんな能力?」
もともと、この二人は同じチームで大会に出場していた。ゆえにフブキが抑え、ミオが唱えきるという流れは有名なのだ。
「もちろん秘密です!」
しかし、実はこの時、そらは二つ勘違いをしていた。
この戦術、ゲーマーズと呼ばれ大会に出場していたころからのフブミオの鉄板戦術なのだが、その時と違うことが二つある。
そもそも、ゲーマーズが、先のおかころを加えた四人組のチームであることは当然そらは把握しているが、その時から二組に分かれての行動が多かった。
ゆえにその頃はフブキが、守りよりの能力で手持ちを組んできていたのだ。
これが一つ目の勘違いである。今回、フブキは手札をすべて攻撃的な能力で固めてきていた。
圧倒的格上には、防御札にほぼ意味がないことを経験から学んでいるのだ。
そして二つ目の勘違い。それはミオが小声で伝えたこと。
基本的にどの大会どの場面でも完全詠唱で、56節を使用していたところを22節で止めること、である。
当然、戦線に加わる速さが変わる。完全に油断したところを攻撃できるのだ。
それらにそらは、気が付いていない。
大神ミオの詠唱が会場にのみ拡声され響く。
「空回る愚者、杜撰な魔術師、盲目の女教皇、満たされぬ女帝。強い意志を持ってこれらを従える皇帝に嘆願す! 」
ミオの周りに、淡く輝く光の粒が舞い始める。
「無慈悲な法王、悲恋の恋人たち、崩れる落ちる戦車―――」
基本的に詠唱と言っても長いものは珍しい。大抵が、一文から二文程度で完成する。厳密に言えば、長いものは、絶大な効果を及ぼすものの、補助系統の能力であることがほとんどなのだ。いざ戦闘を行う、となったときに長すぎる詠唱はとてもではないか、唱えきれない。
そんな世論を変えたのがこの二人だった。
優秀な前衛が入ればいくらでも後衛で詠唱が出来る。
白上フブキは、優秀な前衛足り得たのだ。
確かに詠唱を進めるミオを認識しつつも、ときのそらは慌てたり焦ってはいなかつた。
「えい、おりゃ、えいっ!」
気の抜ける掛け声とは裏腹に、白上フブキをガードの上から繰り返し殴打する、型などほぼない、乱暴な拳。
しかし、一撃一撃は下手な獣人種よりも重く、ドゴンドゴンと言う、鈍い音が響く。
「ぐぬ……ッ!」
ときのそらが行っているのは、言ってみれば対策。嵐のような猛攻は、それだけで、相手に能力を使わせない、と言う対策になりうるのだ。
しかし、いつまでもやられっぱなしのフブキでもない。
「ぐぬぬぅ……も、もう無理! 開放!」
「きゃっ! な、なに!?」
フブキがそう宣言した途端、圧縮された空気が一気に解放されたかのような、強烈な衝撃に弾き飛ばされた。
フブキから、少し離れたところに着地したそらは、視線を原因であろうフブキに向ける。
「あちゃー。なるほどね。攻めすぎは失敗だったかー」
纏う空気の変わったフブキを見て、そらはすぐに状況を察した。
「ふっふっふっ! どうやら、何故か理解されている気がしないでもないですが、説明しましょう!」
「うん! 聞かせて?」
戦闘中では? と思うかもしれないか、もはや、様式美である。
厳密にいえば、そらもフブキもここが、本気で競い合う場所であると同時に、観客に
「今回のコンコンは、ズバリ恨み! 受けた攻撃を溜め込んで、任意のタイミングで解き放つことがてきる能力です。若干の耐久力バフもありますから、対格上用にデザインした能力ですね。解放後の状態は、二種類から選択式です。一つが放出、シンプルにぶっ放します。そして、もう一つが今の私の状態、身に纏い、結構強いバフにする能力です! 当然、刀も強化対象!」
「おおーかっこいい!」
「ですよね! デザインはこだわったんですよぉ」
「でも、かっこよさだけじゃ私には勝てないよ?」
そらが不敵に笑った。
「そらぁ、もちのろんですとも。強さだってばっちりです! 何せこのバフ、コンコン発動中にはカウントされない! よって、こういうこともできます!」
フブキがオーラに包まれながらも、手を狐の形にして高らかに宣言した。
「
瞬間、まばゆい光がフブキの狐の手から弾け会場を包み込む。
「わっ」
反射的に顔を隠したそら。光はすぐに収まったが、当然、すでに目の前にフブキはいない。
ほぼほぼ勘だけで、その場にしゃがむそらのすぐ真上を風切り音が通過した。
「おっとぉ!? これをよけますか!」
「えへへ、ただの勘!」
しゃがんだ勢いそのままに、片足を軸に後ろを振り返り、こぶしを構える。
「そして~……、次は、私の、番!」
わずかなためとともにアッパーのように振りぬかれたこぶしは、当たるどころかかすりすらもせず、しかし、ただの風圧でフブキを吹っ飛ばした。
「どぅわぁああああ!?」
このフィールドには疑似的に壁が用意されている。
通常時はフィールドがより複雑なものとなるため、わざわざ外周部に壁などの境界を設けたりはしないが、こと今回に限って言えば、選手が飛び出していかないように、あるいは外壁による高機動戦を行えるように、かなりしっかりとした壁が、バーチャル上で再現されていた。
フブキは風圧で吹き飛ばされながらも空中で体勢を立て直し壁に対して足から着地。そのまま、跳ね返るかのように壁を蹴り返して猛スピードでそらへ迫る。
再度2人が激突する、まさにその瞬間だった。
地面を大きく揺らす衝撃、爆発音、
学園内にけたたましく響き渡るサイレンの音。
「おおう、なんぞ!?」
フブキは即座に攻撃をやめ着地する体勢を整える。
「よっ……と、大丈夫? すごい音だね……」
「ありがとうございます! いったい何が……」
そらは飛んできたフブキを巧みに支え、着地の手を貸した。
「な、何事!?」
「ミオ!?」
フブキがミオの声に反応して視線をやると、ミオは驚いた様子であたりをきょろきょろしていた。どうやら無事なようだ。
また、詠唱も丁度終わったところだったのか、周囲に浮いていた光の粒がミオに吸収されているところだった。
「ミオも大丈夫そうか」
あまりに咄嗟の出来事ゆえに、フブキもそらも、ミオも会場すらもいまいち状況が理解できない中、観客がパニックに陥るよりも早く、Aちゃんのアナウンスが響く。
「皆様、落ち着いて、席につき、お待ち下さい! ただいま状況を確認中でございます。また、この会場はもともと危険防止のため、様々な対策が行われており、かつ優秀なスタッフも多数控えております。ご安心してお待ちください!」
事実、試合が行われていた影響で、強力な防壁や優秀なスタッフが揃っているここは世界的に見てもかなり安全な場所となっている。観客たちも言われてその可能性に至ったのか、かなり落ち着きを取り戻していた。
それから、大して時間が経たないうちに、今度は緊急放送が響き渡る。
「学園内の皆様にお知らせです。現在、我が学園はテロリスト集団に寄る襲撃を受けました。襲撃地点に来客の方々がいない事は確認済みですのでご安心下さい。つきましては、お近くのスタッフの指示に従い、安全な場所まで、避難を開始して下さい。繰り返します。学園内の――」
先のAちゃんのアナウンスのおかげか、会場内はその緊急放送を聞いても比較的落ち着いていた。
緊急放送の繰り返しが終わって直ぐ、再度、Aちゃんのアナウンスが響く。
「会場内の皆様、先程のアナウンスですが、この会場内は安全な避難先の一つになりますので、そのままでお待ち下さい。会場外にお知り合いの方が出てしまっできる方は、お近くのスタッフにお声がけ下さい。探査系の能力により、現状の確認、場合によっては他能力による避難誘導を行います。くれぐれも慌てず、お近くのスタッフにお声がけ下さい」
「襲撃……。けが人がいなさそうなのは良かった……」
そらが安堵の声を漏らす。
「この学園含め能力バトルやってるところは安全面や、不測の事態にはかなりしっかり気を使ってるとは言え、限界がありますからね。本当に巻き込まれた人がいなくてよかったですね」
「巻き込まれちゃう人は出るときは出るからね。そらちゃんの言う通りけがした人がいなさそうでよかったよ」
観客の様子を伺いながら、ステージの中央で待機していた三人だが、突然今までのアナウンスとは少し違った音質の声が入ってくる。
『御三方、突然すいません。緊急連絡です』
声の主は、アナウンスと変わらずAちゃんであった。
そう。この音質は、Aちゃんの能力――ではない。先の緊急アナウンスの時の声の主。学園内でも、Aちゃんの次に有名であろうスタッフ、春先のどかによるものだった。
能力名「」
簡単に言えば、対象を指定し相互での会話を距離など関係なく成立させる能力である。また、会話は実際に口に出す必要はなく、脳内で会話しようとした言葉だけが相手に声として届く。
対象の上限人数は、本人からの申告では、およそ20名前後が限界だとのことだが、スタッフの一人が過去に50名近くの人数でやりとりを行なっていたと証言しているため、真偽は不明である。
『どうしましたか?』
なんとなくでフブキが代表して返答をする。
『まず、落ち着いて聞いていただければと思います。――スタッフが数名、襲撃に巻き込まれて重傷を負いました』
三人の反応は、顕著だった。
息を呑む。
ステージから音が消えたような衝撃だ。
薄情と言うなかれ、ライバー仲間じゃなかっただけ、三人の衝撃は軽い方だろう。しかし、この場の三人は、学園ができて比較的早い段階で世話になり始めた面々だ。
当然、スタッフも多くが顔見知りで、何より――仲間だった。
『状況を
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本来であれば、学生が対応することなどない案件だ。しかし、襲撃直後、学生たっての希望により警備員と入れ替わる形で対処が許可された。
もともと、法律では、有事の際の能力行使は制限がない。
厳密に言えば、命の危機でない限り、現場責任者の判断に委ねられる。
今回のケースで言えば、現場責任者はヤゴー。
生徒たちの嘆願を一身に受けつつも、初めはしぶっていた。生徒を危険にさらすわけには行かない、と。
本来は本職に任せるべき事案。確かに、学園生徒と言えど年齢制限などはないため、生徒の中には大人もいるし長命な種族だっている。しかし、それでも彼にとっては守るべき生徒である。
そんな考えを動かしたのは、2つの要因だった。
1つ目は、身の安全の確保。
状況が状況であるため、怪我はしない、などとぬるいことは言えないだろうしそもそそも言わせない。しかし、怪我を減らす仕組みと、負った怪我を確実に治せる環境を作った、と言われ、実際に説明されては、安全を理由には断り難くなる。なにせ、彼女たちはただでさえ戦い慣れているのだ。しかもあのドーム内での戦いは死なない保証はあるが、どうじにいつだって痛みはあったのだ。
この環境に限りなく近くなったと言われれば、何も言えなくなる。
そして、2つ目。感情の面で言えば、こちらの方が許可に至った比重は大きいだろう。
それは、至極単純な理由。彼女たちは、めっちゃ
そもそも1つ目の状況を作ったのも彼女らの賜物だった。
切れた彼女らの行動力は凄まじかったのだ。
どうやってか、ホログラムドームの効果を弱め、対象を絞ることで、学園の敷地全体を対象としてドームを展開させた。対象を絞ることに関しては最早デメリットではなく、弱くなったドームの効果も、怪我の完治ができない程度となれば、優秀な治療系能力者を数人配置すればそれだけでカバーしきれるのだ。また、脱落した対象者は強制的に治療系能力者の集まる部屋へ転送される仕様に変更されている。
技術詳細が公開されていないはずのドームをここまでいじれる、その理由は一応秘密となっている。
余談だが、このホログラムドームは、技術系能力者集団により、趣味が高じて作り出されたものだという噂が黎明期より流れている。
今ではその集団の名前も所属メンバーも知られてはいないが、各地、各集団に1人は繋がりある者が混じっているという都市伝説も存在しているのだ。
そもそも、付き合いが多少短かろうが、仲間は仲間だ。
咥えてその負傷理由が、ライバー仲間をかばったからとなればそれはもう、逆鱗に触れたといって差し支えないだろう。
仲間を傷つけられた彼女たちは、もう、止まらない。
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そして、話は冒頭に戻る。
学園側はつまり、いっそ戦闘の内容を観客にも見せてしまおうと考えた。
これは、当然の話ではあるが、観客も強い弱いはあれど基本、能力者である。
さらに、此度の学園の催しは、観客側としてもストレス発散の側面がないわけではない。今回の襲撃は怪我人が表向き出ていないこともあり、観客が冷静になるのが早かった。そして冷静になった観客はある考えに至る。
『アイツラ、マジ害悪』と。
何が言いたいのかと言えばつまり。楽しみにしていた催しに水を差されて、少なくない観客が切れていた。
そのガス抜きのためにも、折角条件がほぼドームでの戦いと変わらないものになったのだから、それを利用することにしたのだ。
もちろん参加ライバー全員の了承は得ている。
会場に急増されたモニターは5枚。学園の襲撃を受けた個所から進んだ部分、東西南北の入り口や大通りおよび、東西の地下道出口付近を映し出していた。
すでにモニターには警備員はいない。いるのは学園が誇るライバーのコンビあるいはグループだった。
これはヤゴーの念のための策である。今回の出撃に関してたった一つだけ条件を出していたのだ。
それがチーム行動。2人以上のコンビ、あるいはグループでのみ出撃を許可したのだ。
モニター1。東側に存在する正門、映すはあまりにも堂々と大通りのど真ん中に立つ、2人組の影。
モニター2。西側に存在する裏門、あるものは柱に寄りかかり、あるものは日傘と椅子を持参し座ったりと、自由に待つ4人の影
モニター3。南関係者用通用門、会場的には見知った顔の並ぶ4人の影。
モニター4。北門荷物搬入口、自然体で待つ、纏う空気が異色の5人組の影。
モニター5。地下通路出口、爆破の衝撃により崩れた瓦礫の上に、各々佇む5人組の影。
この映像を映すためのカメラなどは存在しない。
これはドーム内の映像をモニターに出力する基本機能だ。戦闘の邪魔にならず、必ず状況を映し続ける。
そして、大会と違い今回の戦闘に制限などない。
彼女たちが全力で戦える環境が整っていた。
「すでに監視をしているスタッフから、各通路を進行しているテロリストを確認しております。予想時刻は各通路バラバラですが、果たして初めに犠牲になるテロリストはどこの通路なのか――そう時間はかかりませんので、観客の皆様は予想でもしながらごゆるりとお待ちください」
Aちゃんのアナウンスは間違いなく会場の空気を弛緩させることに成功していた。
「ああ、そうでした。観客の皆様、今回のドームの設定で敵が死にかねない威力の攻撃をライバーに皆様が放った場合、死ぬ一歩手前程度まで出力を落とすように設定されております。また、仮にシステムの不具合などが万が一にでも発生しても、技術スタッフ、医療スタッフともに万全の体制となっておりますので、あまりに過激な映像にはなりません。安心して戦闘をご覧ください」
Aちゃんがそんなアナウンスをしたとき、一つのモニターに変化があった。
「おおっと、どうやらテロリストが到着したようです。ええと、このモニターは――モニター2です!」
Aちゃんもそれ以外のスタッフも観客も、全員がモニター2、裏門を移す映像へと目を移した。
そこにはちょうど、侵略者に気が付いたお姫様のような装いの少女が、日傘を持ったまま椅子から立ち上がったところだった。