ほぼ後書き部分がやりたかっただけ。
『とりあえず生!』
大学生三人組が居酒屋の暖簾を潜るなり口を揃えて生ビールを注文した。
この呪文を唱えれば、肩の力を抜いて腹を割って話すことが出来る。
「今期もお疲れー! 今日は連休明けのプロデュースに向けて飲み食いしようぜ! ってことで乾杯!」
『かんぱーい!』
幹事を請け負った一人が生ビールが入ったジョッキを掲げてそれに合わせて二人もジョッキをぶつけてカキンと気持ちの良い音を出す。
「皆は今期どうよ?」
「妹からお姉ちゃんになってもらった」
「罵ったら喜ばれた」
「なんて?」
同期が全員狂ったプロデュースをしているらしいことだけはわかった。
小学生くらいからの腐れ縁があり、何となく好きな色が赤、青、黄だったから三馬鹿信号機と呼ばれていたことはあれど、知られざる性癖開示が行われたようで、地元の河川敷で捨てられたエロ本を読み漁った仲としてはほんのりショックだった。
「そういうお前は主席入学の子だっけ? 花海咲季だっけ。よく声掛けたよなぁ」
「まぁ、才能があるならそれを腐らせる理由もないし……」
幹事、もとい咲季担当Pはお通しの枝豆をハーモニカみたいに口に添えて豆が一つしか入っていない房を取ってしまい物足りなさを感じながらジョッキをぐいっと煽る。
「才能があっても、最初だけで一年くらいで霞むアイドルなんてごちゃまんといる。だから、その輝きを一生残るように磨きたいと思っただけで……」
「酔ってる?」
「酔ってるな……自分に」
「じゃかましいやい!」
素直に思ったことを口にしたら、散々な言われように酒が進む。
別にそれが嫌ということもなく、それぞれの担当に付きっきりで信号機が揃うことも減ったが、いつものノリが変わらない心地良さが、寧ろ好きだった。
「いや、まぁ、真っ当にプロデュース出来るのは羨ましい。うちの篠澤はうっかり暴言出ちゃって謝罪しようとしたら喜ばれたからな。普通に褒めるより罵った方がレッスン効率良くなるってなんだよ……ぷはぁ!」
一番酒が飲める広担当Pが豪快にジョッキを空にする。
生ジョッキは儀式として頼むが、酒はちゃんぽんしてなんぼとかいう酒覚えたての大学生特有の舐めた飲酒観が飲むスピードを加速させる。
「でも、普段M寄りじゃん。自分が欲しい言葉をぶつけてあげれば良いんじゃ……?」
「ぶつけられたいのであってぶつけたいんじゃないの! 俺は! ぶつけられたいの!」
「ほら……本人の資質と希望はまた別だから。おっ、来た」
酒があまり強くない姫崎莉波担当Pは生ジョッキが来たときに明太出汁卵焼きを頼んでいて、届いたそれを人数分の小皿に分ける。
なんだかんだで酒が得意ではないが、口にするものにはこだわる性分で、サイレントで注文していることも多い。
それが大体不味いこともなく、他の二人も食べたそうにするため、結局シェアすることになる。
「……どうした。二人でこっちを見て」
「いや、順番的に、ね?」
「そう、順番的に、なぁ」
飲みであっても食事には変わりない。食事という行為に邪魔されたくない莉波Pが黙々と明太出汁卵焼きを味わい。その余韻を生ビールの喉ごしで流し込むと幸せそうな表情になり、他の二人が話を振りずらそうにしていた。
「あー、なるほど……うーん。たまにビジネス姉ではなくて、本当の姉だったかもしれない錯覚に陥る辺りホンモノだと思うな」
『怖い怖い怖い』
察した莉波Pが担当についての所感を語ると予想外のホラー展開に、聞いていた二人が恐怖に陥り、話を強制終了させられた。
「全員ジョッキ空いたな? 次いくべ。俺ミルクリキュール、あと冷やしトマト」
「梅酒ロックと焼き鳥のタレ」
「ポテトフライと麦茶。どうせ皆一回は休憩で飲むしピッチャーで良いだろ」
「ほいよ」
各々の注文を聞いた広Pが注文用のタブレット端末を操作して、注文を終える。
広Pが基本的に注文をして、咲季Pが空になった皿を片付けて、莉波Pは好き勝手頼んだモノを呑気に食べている。
「全員初星のプロデューサー科選ぶとは思わなかった。いい加減見納めかなって思ったんだけど」
「……卒業してから暇だからって言って荷造り中に遊びに来たやつの言うことじゃないだろ」
「あったなぁ。結局グループチャットで俺に声掛かったやつ。誘ってから行けよ、行ってから誘うんじゃなくてさ」
追加注文が届いてまた三人の口が回り始める。
ノリで桃園の誓いをやったことがある仲とはいえ、ここまで一緒じゃなくて良いのに。とも思わなくはない。
全員の引っ越し先住所が妙に近く、荷造り中に見掛けたパンフレットを見て初めて全員の進学先が発覚したというド低能エピソードがある。
「社会に出てもこうなのかなぁ……」
「俺ら、このまま行ったら初星のプロダクション就職だもんな。全然あり得る」
このまま三十路になっても同じことをやってそうな未来が見えた気がして、染々としている咲季Pと広Pをよそに、莉波Pがポテトフライにケチャップをディップしている。
「なんかそれで不都合あるのか?」
「え、急にキュンキュンしてきちゃうじゃんやめてよ」
興味なさげだった莉波Pがさらっとそういうことを言ってのけるので、普段ならきっしょと弾くところだが、酒が進んできた広Pが悪乗りで咲季Pの心臓に手を当てる。
「人の心臓キュンキュンさすなって。うっ、心不全……」
「……死んじゃった」
「南無南無……」
悪乗りに乗っかった咲季Pがテーブルに突っ伏して死んだ振りをし、それに合わせて二人が手を合わせる。
「というかさ。そろそろ夏じゃん。毎年恒例の夏BBQも日取り決まったけどさぁ……」
「あー、今年は沖縄でやろうって話してたな……」
「なぁ、俺ら大学生になったんだよな……」
好き勝手駄弁り、飲み、食い。時間が進んでいく。
近所の弁当屋のクオリティだとか。自炊するより惣菜の方が安いだとか、くだらない話の中で突然火種が投下された。
『どうして彼女じゃなくて、野郎達と沖縄BBQなんだろうな』
ほぼ同時に言ってはいけない言葉を三人揃って言ってしまった。
『お前お前お前お前お前らぁっ!』
そして、またしてもほぼ同時に三人とも酒が回ったこともあり、語彙力のないキレ芸で戦争が始まる。
「大体大学生三人揃っててなんで誰も彼女居ねぇんだよ! 誰か一人くらい付き合い悪くなれよ!」
「プロデュースしながら他の女のこと考えるの無理だろ! アイドルに手出せねぇよ! 相手は高校生だぞ!」
「アイドルのプロデュースやってるやつが女子に興味ない訳ないだろ!」
どんちゃん騒ぎしても問題ない防音設備がしっかりしている居酒屋を選んでなければ、今頃店員に摘み出されていたであろう三馬鹿の醜い争いは加熱し続けていく。
「でも、俺中学の卒業式で後輩に第二ボタン上げたし! お前らとは違うんだよなぁ!?」
「その後、付き合ってねぇなら意味ねぇだろうが! こっちはバレンタインのお返しの準備で一日潰したことだってあるんだぞ!」
「妹に彼氏居るから遺伝子的にどう考えても俺の一人勝ちだろ!」
「遺伝子残してから言ってくれよ」
何も意味のないマウント合戦を続けること十分。
全員で肩で息をしながら、冷静になった広Pが停戦協定を申し出た。
「〆のラーメン行かね?」
『あり』
最後にはきっちり割り勘で支払いを済ませた後に、〆のラーメンまで行って、その日はお開きになった。
「お、おげえええ」
その日、咲季Pが帰り道で耐えられなくなって、一人で電柱の横で吐き出していた。
「ぷ、プロデューサー?」
「咲季さん……?」
その日からしばらく、咲季はPから五歩ほど引いた距離を維持した。