「あまねく奇跡の始発点」及び「アビドス3章」後の話になりますので先にそちらをご視聴ください。
pixivとのマルチ投稿です。
番外編まで繋がるかわからないけどミカに角が生えるくらいまでは書きたいな。
先生「声をかけてくる?それだけかい?」
ナギサ「ええ、先生。トリニティ内やD.U地区でショッピングなどしていると全く面識のないゲヘナ生徒から『今、何してるの?』『一緒に遊ばない?』などと声をかけられるらしいです」
本題と銘打っておきながら一見大したことのないような議題に先生は小首を傾げる。
桐藤ナギサは紅茶を一口飲み喉を潤してまた話し始める。
ナギサ「トリニティ自治区民とゲヘナ自治区民の人以外にはピンと来ない感覚かも知れませんが、双方はお互い相手に対して嫌悪感を抱き蔑み排除しようと思ってしまうものなんです。トリニティとゲヘナの確執の歴史が遺伝子レベルで刻まれているのか、育った環境の大人達の雰囲気を感じてそう刷り込まれてるのかはわかりませんが。そんな関係の相手が急に声をかけて絡んでくる。大抵のトリニティ自治区民は恐怖を覚え何かされるかもと警戒し逃げたくなることでしょう」
トリニティとゲヘナの不仲は先生も知っている。
ナギサの言う通りトリニティでもゲヘナでもない先生には理解しがたい事だった。
理解するために一応想像してみる事にした。
先生自身が敵と認識し今現在警戒している相手………ゲマトリアが頭に浮かんだ。
そして仮にここは「黒服」が声をかけてくる相手としよう。
脳内で自分が街で買い物をしている時に突然、後ろから声がかかったシチュエーションを思い浮かべた。
『クックックッ…奇遇ですね先生。一緒に海にでも遊びに行きませんか?』
寒気がした。
全身鳥肌が立ち冷や汗が滲み黒服が実際にいるわけがないのに心臓が警告音を鳴らしてくる。
これは確かに逃げ出したくなる。
ナギサ「あの、先生……?」
青冷めた顔になった先生を心配してナギサが声をかけてきた。
先生「いや、すまない…声をかけられた生徒の気持ちを自分に置き換えてイメージしてみたら想像以上に精神にダメージがあってね。気にしないでくれ。ところでナギサとセイアはゲヘナに対してそういった感情とかないのかい?」
セイア「幼少期にそういった事を思っていた記憶はあるが今は特段相容れないとは思っていない。個人的に何か嫌がらせを受けたり危害を加えられた事はないのに、自分はなぜ避けようとしているのかと考えている内に完全にとはいかないまでもいつの間にか消えていたよ」
ナギサ「私もセイアさんと同じですね。また嫌悪感を抱く度合いは人それぞれ個人差がありますし私達は生まれつき軽かったのかもしれません。逆にミカさんのようにゲヘナはキヴォトスから消し去りたいとまで思う方もいます。そういう人は中々ゲヘナへの感情を消せずにいるのでしょう。ですがゲヘナの中にも好意を感じる人がいらっしゃいます」
ナギサとセイアの言葉を聞くに自身の意識の持ちようで変わるものらしい。
ミカのゲヘナ嫌いもいつか解消してあげたいと思う。
先生「その好意的に見てる人ってのは?」
常日頃から生徒同士幅広く友好関係を築いて欲しいなと思っている先生は参考のために聞いてみた。
ナギサ「ゲヘナ風紀委員長の空崎ヒナさんです」
あー、と納得しかなかった。
空崎ヒナという人物を一度知ってもらえれば誰だってそう思うだろう。
関わった事のない人からは怖い恐ろしいなどと思われているらしいが。
ナギサ「空崎ヒナさんとはエデン条約の折りに何度も通話での会談をさせて頂きました。ゲヘナの方とは思えないほどこちらに敬意を示し対等にお話して下さっているのが感じられてとても驚きました。情報の共有・問題点の抽出と対策・万魔殿への牽制の提案など有意義で建設的な協議がスムーズに行えました。あの方がゲヘナのトップでしたらあっという間に友好関係を築けそうな気がしますのに。まぁゲヘナの治安を安定させるにはあの方程の力がいるということでしょう。いつか実際にお会いしてお茶を御一緒したいと願っています」
セイア「ナギサが他人をそこまで…ましてやゲヘナの生徒を評するとは珍しい。私はエデン条約交渉の時はずっとベッドの上で第二回エデン条約調印式の時も会えずじまいだったからね。是非私も一度会話をしてみたいと思うよ」
ヒナの話をしているナギサはとてもよく笑っていた。
セイアもその様子を見て興味を惹かれているようだった。
トリニティとゲヘナの生徒が仲良くなってくれるのは先生としてとても喜ばしく絶対に実現させてあげたいなと思った。
ナギサ「ええ♪セイアさんも是非♪
と、いけませんね話が大きくズレてしまいました。話を最初に戻しましょう。それで声かけ事案ですがエデン条約締結前までは一件も報告されていません。それが締結後からほどなくして大量に発生しています。ここ3週間だけでも496件の報告が上がっています。声をかけてきた生徒の特徴も多岐に渡り複数人の………それもかなりの人数の方が同じやり方で事に及んでいるものだと思われます。これは明らかに組織的な策略で裏から誰かが指示しているものだと思われます。そして相手は危害を加えておらず声をかけただけなので現場を押さえたとしても罪には問えず、無理に拘束やゲヘナへの強制送還を行えば不当な扱いを受けたと言われ外交問題にされる可能性があります」
流石に多すぎるというのは同意する。
自治区間の渡航は指名手配でもされてない限り基本的に自由だし他自治区で飲食をしようが買い物をしようが遊戯施設で遊ぼうが手は出せない。
しかし問題ない行動だったとしてもこれだけ多くされてしまえば…
セイア「先生のお察しの通り、声をかけられたトリニティ自治区民は再びゲヘナ生徒に絡まれるかもという不安や恐怖から自由に外出できなくなる。直接声をかけられていない人間も噂を聞いて同様に外出しずらくなる。当然不満やストレスを感じゲヘナ生徒をトリニティ自治区に入れるなとか、エデン条約なんて結ぶからこうなるんだという声が日に日に広がっている。エデン条約を破棄しゲヘナとの国交断絶を訴えるものが現れるのも時間の問題だろう」
はっとした表情を浮かべた先生にセイアが補足を入れつつ答え合わせをしてきた。
ナギサの言う通りこれはエデン条約存続に影響を及ぼすものだ。
ナギサ「そしてこの様な流れを作りトリニティからゲヘナへの悪感情を増大させトリニティ側からエデン条約破棄をするように裏から画策する人物は今の所一人しか心当たりがありません。万魔殿の生徒会長、羽沼マコト議長です」
話の途中からなんとなく予想していた人物がそのままでてきて少々残念に思う。
マコトがトリニティを嫌っているのは知っていたし嫌いあっている生徒同士、仲良くするのを無理強いするのも良くない事だ。
だがエデン条約締結を期にお互いを少しずつ知っていく機会を増やせば改善していけるんじゃないかと期待していたが、どうやら事はそう簡単にはいかないらしい。
ナギサ「マコト議長には調印式襲撃事件でアリウスと内通し式典参加者並びに周辺市街区への被害を出した責任を追求することで渋々ですが何とか調印させることができました。しかしトリニティとの友好条約を結ばされたマコト議長の支持率は下落の一途を辿っています。更にゲヘナでの選挙投票率は5%ですが政治に興味がなく投票もしていない残り95%の有権者の中からも『トリニティなんかに良いようにされている』と批判の声が上がっていると聞きます。ゲヘナ自治区内でのマコト議長の立場は危うくなっています。そんな状況を打開しようと仕掛けてきたのが今回の事案になります」
先生「マコトとは………もうとっくに話してるか………」
先生は次の質問を聞きかけたがここまで調査と推測が進んでいてナギサがやっていない分けないかと言葉を飲み込んで止めた。
ナギサ「はい、先生。この事案が増加傾向にありおかしいと判断した時点でマコト議長には私からゲヘナ側での事実確認と注意喚起と対処の願いを打診しました。回答は『我々は何も関与していない』『遊びに誘う事に何か問題はあるのか』『エデン条約が結ばれた事によりゲヘナの意識は変わりトリニティと仲良くして行かなければと考えている生徒が増えているんだろう』『トリニティが過剰な不安を覚えるのは現ティーパーティーに人々に理解を得られる手腕がないからではないのか、そちらの落ち度ではないのか』とのことです。一切非を認めず話に取り合ってもらえませんでした。この事から確証とはいかなくともほぼマコト議長で間違いないかと思います」
会談内容を話していたナギサは途中からワナワナと怒りに震えていた。
協力要請をヒラリヒラリとかわすマコトにさぞかし苛立っていたのであろう。
話の最後の方は怒気が混ざりいつもより一段低い声になっていた。
先生「問題でないならETOは適用されない………か」
ナギサ「そういうことになりますね………それとこの会談でマコト議長から少し怪しげな提案をされております。両校の代表生徒による武力交流戦をして敗者は勝者に了承する範囲で何でも言うことを一つ聞くという催しを開催してはどうだろうかと」
先生「武力?スポーツじゃダメなのかい?」
聞くからに怪しすぎる。
本当にマコトは何がしたいんだとわからなくなる。
ナギサ「スポーツで勝敗を決めるというのは私も提案させて頂きましたがダメだそうです。理由は戦争で決着をつけず憎しみが残ったままエデン条約が結ばれてしまったがゆえに、無理に仲良くしようとしても何かしらの不満が貯まっていく。それを解消できるのは武力と武力のぶつかり合いでしかなし得ないと言っていました。それに今の現状でスポーツ大会を行ったとしても反則プレーの押収になり生徒同士の仲が悪化するのではとも」
マコトの理論も無理矢理だが一理はある。
わざとラブプレーするのはもちろん、ちょっと体がぶつかっただけでわざとだと勘違いして喧嘩になるかもしれない。
最悪の場合マコトが全てのゲヘナ生にラフプレーを指示してくる可能性もある。
ナギサ「私達が勝てば声かけ事案を問題として認めてもらうという要求を断らずに飲むそうです。またそうなった場合はETOとして万魔殿から声かけ禁止の周知と違反者の処罰を執り行うと確約頂きました。白々しいにも程がありますが事案が解決するならまぁそれでいいでしょう。あとはマコト議長側が勝った場合、何を要求してくるかですがこちらが絶対に呑めない要求をしてこないか予め確認してあります。『エデン条約の破棄』『ティーパーティーの解散』『法改正』『トリニティ自治区の土地の無償割譲』『万魔殿と関係のある企業のトリニティ進出』など提示しましたがそれ程のものは要求しないと一蹴されてしまいました。私達が問題ないと思う程度の些細な要求をしてマコト議長に何の得があるのかわかりません。表面上は問題なく見える要求を通し後から利用するというのが一番考えられますが…。先生がマコト議長の立場なら何を要求しますか?」
ナギサに聞かれ先生は顎に手をやり考え始める。
正直、政治は全くわからない。
表面上隠蔽されていたとしてもこの二人なら看破して絶対に断れるだろうし二人にわからないことを自分が正解を導けるとも思えない。
うーんと悩む先生の脳裏にふと一人の女子生徒が浮かんできた。
トリニティでもトップの頭脳を持ち調印式襲撃の混乱時には、シスターフッドを中心にバラバラの各派閥の指揮を取りまとめあげていた彼女なら自分には出せない答えを出せるんじゃないかと。
彼女ならどう考えるかを推測し、そして結論に至る。
先生「トリニティ生徒全員制服を廃止し常に水着着用で授業を受ける事を義務付ける………かな」
ナギサ「は?///////////」
セイア「!?!?!?!?!?//////////」
素人考えながら導き出した答えに2人は顔を真っ赤にして動揺し始めた。
ナギサ「せ、先生!!いったい何を言い出すんですか!!生徒たちの模範となるべき教育者が、こんな、い、いかがわしい要求をするだなんて…!!信じられません!!最低です!!」
ユウカにも同じこと言われたなぁと既視感を覚える。
ナギサはガミガミと激怒してるしセイアは目線を合わせてくれなくなってガタガタと小刻みに震えている。
政治とはなんと難しいものなんだろう。
たった一手でトリニティの品格を汚しティーパーティーの権威を失墜させ変態学園と成り果てたトリニティに入学希望者はいなくなり廃校とさせてしまった。
先生「さっきのより程度の低い要求を例にあげただけで………」
ナギサ「そんな要求呑めるわけないじゃないですか!!」
弁解は火に油だった。
ますますナギサはヒートアップしている。
意見を聞かれたから捻り出しただけのつもりだったが信頼や信用がどん底まで落ちそうなのでここは大人として当然の行動を取らなければと思い至る。
先生「すいませんでした」
先生の謝罪にようやくナギサの怒りの咆哮が止まる。
ナギサ「いいい、今のは聞かなかった事にします!!………はぁ………急にミカさんの事を先生にお任せしていいのか不安になってきました………」
ナギサが落ち着いたのを確認して先生は安堵する。
政治に疎いものがハナコの様な頭脳を持っても上手く生かせずギロチン処刑台送りになるだけという教訓を得た。
今後一生、政治には関わるべきではないなと先生は思う。
ナギサ「とりあえず………何を要求してくるか不明ですが断る権利があるので相手の要求を聞いてからでも対処できるでしょう」
先生「ゲヘナの要求を全て断り続ける事もできるの?」
ナギサ「いいえ、交流戦はクロノス報道部の全国放送がされますので本当に些細な要求だった場合『トリニティは負けたのに勝った報償を踏み倒す気だ』と言いふらす気なのでしょう。他校からのトリニティに対する印象が悪くなるのである程度は呑まざるおえないかと。逆にあちらが無理難題ばかり要求してくるなら断りやすいということでもあります。他校の目が酷い要求になることはありえず、何かしらの要求は呑まないといけないという保証になっています」
聞けば聞くほどわからない。
ナギサの言う通りマコトに何の得があるというのだろうか。
セイア「一応、この交流戦で仮にゲヘナが勝った場合マコト議長の得は考えられる。交流戦とは言いつつもこれは実質的にトリニティとゲヘナの『全面戦争』だからね。そしてこの戦争に勝利したマコト議長は『トリニティを実際の戦争で叩き潰せる実力を持ったリーダー』という肩書きを得て支持率を大幅に回復させることができるだろう。むしろこっちが本当の狙いで声かけ事案によるエデン条約破棄達成は副次的な策略なのかもしれない」
ナギサ「ええ、その可能性もあります。ただそれが狙いの場合マコト議長は、この交流戦に必ず勝つ算段があるということです。生徒の数でも兵器の数でもゲヘナの方が圧倒的に多いのですがこちらにはミカさんやツルギ委員長、ハスミ副委員長を始めとした正義実現委員会のメンバーなどがいます。あちらが有利にしても勝敗を決定付ける程の戦力差はないと思っているのですが。懸念があるとすればゲヘナにはどのグループにも所属せず、あのサンクトゥムタワー崩壊事件にも興味を示さない自由気ままな生活をしている空崎ヒナさんに近しい戦闘力を持った生徒が何人かいるということでしょうか」
先生「ヒナレベルの生徒!?」
生徒に優劣をつけるのは良くないし生徒それぞれに得意なことがある。
そんな先生をもってして今まで見てきた中で一番強い生徒は誰かと聞かれたら『空崎ヒナ』と答えてしまう程の実力である。
そのヒナに戦闘力で肉薄するとなると…
ナギサ「空崎ヒナさんはその内の一人と一対一で戦ったことがあるそうですが攻撃だけの猪武者の素人なのでほぼノーダメージで完封したそうです。ですがそんな生徒がマコト議長側に一人…あるいは複数人ついたとなると私達にとってはかなり厄介です。もしそうであればマコト議長の自信にも納得がいきます」
先生「その生徒が本当にマコトについた可能性は?」
ナギサ「今の所、ほぼゼロですね。空崎ヒナさんの話では彼女らはゲヘナ情報部の要警戒リストに入っていて行動に注意しているがマコト議長と接触した形跡はないとのことです。交流戦参加者リストが出るまでは留意するくらいで気にしなくていいとも言っていました」
ヒナがそう言うならまず間違いないだろうが一応覚えておこうと先生は思った。
将来出会うことになる生徒かもしれないしね。
ナギサ「さて、一通りご相談したいことは説明し終わりましたが何か気になる点やご質問はありますか先生?」
先生「交流戦のルールはどうなってるの?」
ナギサ「交流戦はゲヘナのヒノム火山近くのアビス地区にフィールドを作りそこで行いたいそうです。もちろん前もってフィールドに何か細工はないか調査できます。各々の学校は参加希望者を募り期日までに交流戦参加者リストを予め提出します。参加人数の制限はありません。飛行機やヘリなどの一部航空戦力と地雷と毒ガス兵器などは使用禁止ですが、その他は種類・量ともに自由です。戦闘でダウンしたものに対して発泡や暴行を加えること及び拉致は禁止。衛生兵などの救護班は一般兵と同じ扱いとして攻撃する事が可能。フィールド外に出たものは失格。勝敗は相手の全滅か指令本部陣営の敗北宣言により決着。決着後に相手陣営に危害を加えることは禁止。他にも細かいルールはありますが大体こんな感じでしょうか」
一見何の変哲もないルールだった。
フィールドに細工しないのであればやはり武力で勝ちたいのか。
セイア「先生はこの提案、受けるべきだと思うかね?」
先生「うーん、正直怪しさしか感じないがとりあえずマコトに会って直接聞いてみないことには判断できない。ついでにヒナにも何か気づくことはないか聞いてくるよ」
ナギサ「そうですか、それは助かります。私達では喋ってくれないことも先生になら口を滑らすかもしれませんしね」
先生「とりあえず明日はミカに会いにもう一度来るよ。ゲヘナとの事も心配だがあの子の事は、もっと心配だからね」
ナギサ「ええ、お願いします」
セイア「夜遅くまですまなかったね。どうか全てが解決できることを願うよ」
その後別れの言葉をかわし先生は一旦D.U地区の自宅への帰路についた。
そして今日相談されたことを眠りにつくまで延々考え続けたのであった。
━━━to be Continued━━━