仕事を辞めて自暴自棄になっているタクトのもとへ、ある夜「メリーさん」を名乗るノリの軽い女性から電話がかかってくるのであった。

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【登場人物】

タクト:仕事を辞めた男。若い

メリー:メリーさん。賑やか


私メリーさん、アンタどこ住み?

タクト:もしもし。なに。…別に、まぁ普通だよ普通。…だーから…ぁぁもう、母さん関係ないだろ?俺のことは俺がやるから。マジでいいってそう言う心配。はいはいはいはい分かった分かった!もー切るよ!じゃあね!

 

(電話を切る)

 

タクト:…ったく…んだよ。仕事辞めたくらいでギャーギャー騒ぎやがって…。今は大転職時代なんだよ。俺に会わなきゃさっさと辞めんのが正解なんだっつーの

 

(電話がなる)

 

タクト:はぁ?なんだよまたかけて来やがったな

 

(電話に出る)

 

タクト:はいもしもし?今度は何…

 

メリー:私メリーさん。今東京駅にいるの

 

タクト:………は…?

 

メリー:どこ

 

タクト:え…?

 

メリー:アンタどこ住みよ

 

タクト:え、いや…な、なんすか急に、ってか誰すか

 

メリー:誰って、私メリーさんって言った今。聞いてなかった?

 

タクト:いやそうじゃなくて…あ、なに、イタズラ?

 

メリー:はぁ?違うし。マジメにメリーさんやってんの、イタズラ何ズラしてる暇なんてないわ。で今東京駅だから。アンタどこ住みよ。教えて、行くから

 

タクト:いや普通に来ないでください。じゃ切りますんで

 

メリー:え、ちょちょちょ───

 

(電話が切れる)

 

タクト:ふぅ〜…なんだよマジで…いやでもちょっと面白かったな。Twitterで呟こ

 

(電話がなる)

 

タクト:は?また!?…流石にもう1回はめんどくさいなぁ…ほっとくか

 

メリー:私メリーさん。今東京駅───

 

タクト:うゎああああああ?!な、なんで?!出てないのに!!!

 

メリー:メリーパワーだよ。これしき余裕だ舐めんな。あともうTwitterじゃなくてXだから

 

タクト:え、怖っ!!なに?!盗聴?!

 

メリー:だからメリーパワーだっつーの。ど?これでイタズラなんかじゃないって分かったっしょ?

 

タクト:いや普通にやばいでしょ。警察呼びますけど

 

メリー:なんて?「メリーさんが来ますぅ〜!怖い〜!」ってか?

 

タクト:住所聞いてくる不審なイタズラ電話でストーカーとかだろ

 

メリー:あー…まぁでも、うん。待ちなよ

 

タクト:なんすか

 

メリー:考えてみ?あんた彼女いんの?

 

タクト:いますけど

 

メリー:嘘乙

 

タクト:ぶっ飛ばすぞ

 

メリー:実際嘘でしょ?

 

タクト:じゃあもうそういう事でいいや。はいはい嘘です

 

メリー:じゃあさ、アンタ彼女いない歴=年齢じゃん?

 

タクト:ウザ

 

メリー:そんなアンタの家に今から女の子が来ますよと。…ね?

 

タクト:なにが「ね?」なん?

 

メリー:いや嬉しかろうよ喜べ。嬉々として住所教えろ

 

タクト:嫌だが

 

メリー:彼女いないのに?!意味わからん…

 

タクト:じゃあなに、「俺…」えー…なんか無いか。俺…まぁいいや。「俺神様。住所教えろ」とか言われて教えんのかお前は

 

メリー:いや無理でしょ普通に

 

タクト:だろ?いくらお前に彼氏いなくてもそれは無いだろ

 

メリー:はいライン超えましたこいつ殺しマース

 

タクト:メリーさんの目的って元々そうなんじゃないのか

 

メリー:まーでも?それは私の場合だから。アンタはホイホイ住所教えるはずでしょ

 

タクト:お前俺のことなんだと思ってんの?

 

メリー:はいィ〜!!!

 

タクト:うわビックリした!…なに急に

 

メリー:どこ住みかわかっちゃったァ〜

 

タクト:うわまたメリーパワーかよ

 

メリー:いや逆探知

 

タクト:警察かお前は

 

メリー:逮捕しちゃうぞ

 

タクト:俺なんもしてねぇよ。てか逮捕してどうすんの

 

メリー:普通にまずボコるよね

 

タクト:そんな怒るか今ので

 

メリー:えーっとぉ〜?…山梨かぁ。まぁ都内じゃないけど近いね

 

タクト:なんだこいつ…しかもマジでバレてるし

 

メリー:んーでも正確な場所まではわからんのよねー。教えて??

 

タクト:………今から車で移動するから家来てもいねぇよ

 

メリー:え、マジ?…なんで?

 

タクト:なんでって、出かけるからに決まってんじゃん

 

メリー:こんな時間に?

 

タクト:夜中に出かけたくなることない?

 

メリー:あー…あるねぇ

 

タクト:でしょ?

 

メリー:その日だったかぁ。うわマジかぁ…じゃあいいや、どこ行くの

 

タクト:…来んの?

 

メリー:行くよ。それが仕事だもん

 

タクト:あっそ。URL送るから勝手に来れば

 

メリー:いいの?!ぃよっしゃラッキ〜!…え

 

タクト:なに

 

メリー:あ、いや、アンタここ…

 

タクト:やっぱやめとく?

 

メリー:…行くけども

 

タクト:まぁ別に俺はどっちでもいいけどさ

 

メリー:着くまでどんくらい?

 

タクト:んー、2時間…くらいか

 

メリー:そ。じゃあ私が着くまで駅で待っててよ

 

タクト:なんでだよ

 

メリー:いいじゃん!先入られると見つかんないって

 

タクト:こいつホントにメリーさんかよ…わかった。最寄り駅ね。そっからは俺の車乗って

 

メリー:はいケダモノ。すぐそうやって車に入れようとする

 

タクト:置いてくぞ

 

メリー:うそうそうそうそ!!!!じゃ電車乗るから一旦切るね!またかけるわー!

 

タクト:…マジで何なんこいつ。…さっさと出かけよ

 

(車に乗り込んで発車)

 

タクト:………わかんねー。このラジオ番組の良さがわからん俺には

 

メリー:(好きな着信音を歌う)

 

タクト:セルフ着信音やめろ。勝手に繋がるんならもう普通に喋れ最初から

 

メリー:私メリーさん、今〜…今っていうかもうそろ三鷹駅に着くの

 

タクト:おー。え、だから何

 

メリー:中間報告。アンタが寂しくないように

 

タクト:いらね〜

 

メリー:何言ってんの大事だぞメリーさんの中間報告は

 

タクト:ていうかマジで来てんだ

 

メリー:そりゃそーよ。丁度いいもん

 

タクト:え?

 

メリー:え?

 

タクト:丁度いいってなにが

 

メリー:いや別に。いいじゃんそこは

 

タクト:…。まぁ、そっか。確かに

 

メリー:だしょ。あ、ねねね

 

タクト:なに

 

メリー:三鷹着いた瞬間ダッシュでジュース買い行ったらもっかい乗れるかな

 

タクト:いや知らんが…

 

メリー:やるわ私。任せて

 

タクト:あいガンバ。ん?ていうか電車乗る時は電話切るんじゃなかったの

 

メリー:あっそーじゃん!ヤバ完全にやらかした切る

 

タクト:…切れたし。…まー興味無いラジオ番組よりは面白かったか

 

(少し間。車運転してる)

 

タクト:なかなか星が綺麗な夜だこと。…アイツもう三鷹ついたかな。ジュース買えたんだろうか。かかって来てないってことは電車内だろうし無事か

 

メリー:ジュース買ったジュース買ったジュース買った!!あ私メリーさん電車戻るから切る!

 

タクト:ぷっ…っははは!!!噂をすればだなぁおい。てか慌てすぎだろ怖いわ

 

(少し笑う)

 

タクト:はぁ〜、最初絶対ヤバいやつだと思ったけどまぁ面白いタイプのヤバいやつだったわぁ〜。…つかもう着信音すら鳴らさなくなったなこいつ。ここまできたら多分本物なんだろうけど、な〜んかメリーさん感薄いよなぁ〜

 

(少し間)

 

タクト:んー、そろそろ高尾駅かな。乗り換えするならかけてきそうだけど、どうだ…?

 

メリー:(好きな着信音を歌う)

 

タクト:マジでかけてきたし(笑う)

 

メリー:あいワタメリ〜

 

タクト:今回はちゃんと着信音やんのね

 

メリー:さっきはマジでダッシュだったの。つーか聞こえてんぞ独り言〜。誰がヤバいやつじゃい

 

タクト:お前だよ。あと聞こえてるんだろうなと思って声に出してるんだよ

 

メリー:私が寂しくないように??

 

タクト:アホか

 

メリー:うるせ。あそう、正解だよそういえば。いま高尾着いて乗り換え

 

タクト:お、順調じゃん。大月行き乗れよ

 

メリー:分かってる分かってる任せなさいよ

 

タクト:乗り遅れますよーに

 

メリー:あそういうこと言う?いいの?私が乗遅れたらその分待つ羽目になるよ?

 

タクト:なんで俺が大人しく待つこと前提なんだよ

 

メリー:待ってくれるっしょ?…え、待ってくんないの?

 

タクト:待つけどここまで来たら

 

メリー:なに〜?そんな会いたい〜?

 

タクト:うん

 

メリー:え、マジで?いや、え〜照れるわぁ〜オモロ〜

 

タクト:だってメリーさんに会えるとか超貴重じゃんか。人生終わる前に体験しときたくない?

 

メリー:あ、そういうね?んー、でもそうなの?私メリーさんだから分からん

 

タクト:そうじゃないかなぁ。今結構、てかすげぇ貴重な体験してるよ俺。メリーさんと雑談通話

 

メリー:確かに。ウチそういうの厳しいから何気に初めてだわ私も。ターゲットと雑談

 

タクト:ターゲットて…つか何、ウチってのは?メリー株式会社てきな?

 

メリー:おっと気になってるとこ悪いけど続きはまた次の電話で〜。んじゃね!またかける!

 

タクト:はいよまた後で。…うわ地味に気になる〜メリーさん業事情…

 

(間)

 

タクト:あ、この曲知ってる。なんだっけな…えーっと…うーわモヤモヤする…なんだったか…これメリーさん聞こえてるかな。ねえ今ラジオで流れてるの何の曲かわかる?

 

メリー:ちょい待ちもうすぐ大月(小声)

 

タクト:おお、おっけ了解

 

(間)

 

メリー:もしもしワタメリ…

 

タクト:あ、着いた?大月

 

メリー:ん…

 

タクト:え…なに、どうした?疲れた?

 

メリー:いや、違くてさ…今何時よ…

 

タクト:23時半

 

メリー:こっからの乗り換え…終電終わったってさ…

 

タクト:あっ

 

メリー:最悪…マジでやらかしたぁ…

 

タクト:あーそれは…あ〜…やっちゃったなぁ…

 

メリー:どーしよ…いやどうするもこうするもって感じだけど…ねぇ、明日まで待ってくれたりしない…?

 

タクト:明日…明日かぁ…流石に無理かな

 

メリー:だよね〜…

 

タクト:うん。大月でしょ?迎え行くよ

 

メリー:…え?

 

タクト:迎え行くって。そこいて

 

メリー:え、ホントに言ってんの?来てくれんの?

 

タクト:おー、全然行く。もう明日以降の予定なんかないし

 

メリー:そっか、そっかぁ〜…アンタ良い奴だね〜!見直した!

 

タクト:気づくの遅ぇよ

 

メリー:うわムカつく〜

 

タクト:(笑う)じゃちょい待ってろ。いやもう繋いだままでいっか

 

メリー:いいよいいよ、駄弁ろーぜ〜

 

タクト:おう。ん、じゃあ教えてよメリーさん業界の話

 

メリー:あーそれは車乗ってからにしよう

 

タクト:えー引っ張るなぁ。焦らしといてしょーもなかったらキツいぞ?

 

メリー:プレッシャーやめて?

 

タクト:うそうそ冗談。…あ、てかさぁ聞いてくれよ。この前───…

 

(間)

 

タクト:着いた。どこら辺?

 

メリー:あ、じゃあ改札出る

 

タクト:はいよー

 

メリー:ん。…何色の車乗ってんの

 

タクト:黒

 

メリー:地味〜

 

タクト:馬鹿言え大人は黒が似合うんだよ

 

メリー:カッコつけてんじゃんウケる

 

タクト:うるせ。お、あれかな。あれかなってか、そもそも俺らしかいないか

 

メリー:そーね

 

タクト:…

 

メリー:…

 

タクト:いや来いよ。なんでずっと電話越しだよ

 

メリー:待て待てそう急くな。いま心の準備中だから

 

タクト:要らんだろそんなもん。…て思ったけどそうか、メリーさんだもんな。そう考えると俺も緊張してきたかも

 

メリー:ね。こんな感じで堂々会いに行くの初めてだから違和感やばい

 

タクト:まぁまぁ、ビビっててもね、仕方ないんで。はよ来い

 

メリー:お、おー。行くぜ〜

 

タクト:はいよ。電話もう切るぞ

 

メリー:うい。……。

 

(タクトの所まで歩いてくる)

 

メリー:よっ…。

 

タクト:…おう

 

メリー:……うぇ〜ぃ

 

タクト:なんのノリだよそれ

 

メリー:いや別に、なんか、ソワソワのうぇ〜ぃ

 

タクト:ふっ…面白。よっしゃ行くぞ、乗れ乗れ

 

メリー:お〜

 

タクト:え、何その大荷物。カバンデカすぎでしょ

 

メリー:いーでしょ別に。メリーには色々あんのよ

 

タクト:そーですかい。あ、お腹空いてる?コンビニとか寄ろうか

 

メリー:…うん。寄る

 

タクト:あ、シートベルト…いやまぁいっか

 

メリー:ん。コンビニはセブンがいいなぁ

 

タクト:セブンね。ちなみになんで?

 

メリー:揚げ鶏が好き

 

タクト:あーね。ファミチキじゃだめなの

 

メリー:なんか最近ファミチキより揚げ鶏のがいいなって。どっちも美味しいけどね

 

タクト:へー。何が違うのか分からん

 

メリー:食べればマジですぐわかる。私的には揚げ鶏のが美味しい。ね、ちょっとどっちも寄って食べ比べしよ

 

タクト:そんなにか。いいよ

 

メリー:やった〜

 

タクト:ホットスナックなぁ〜。なんかさぁ、唐揚げ棒ってあるじゃん?

 

メリー:セブンの?

 

タクト:そうそうそう。あれさぁ、めっちゃ小さくなったくね?

 

メリー:なったなった。一時期販売停止とかなって

 

タクト:な。帰ってきたら衣ばっかで肉全然入ってないの

 

メリー:あーあれって店舗の差じゃなかったんだ

 

タクト:いやその可能性も無くはないけどな

 

メリー:どーかねぇ〜

 

タクト:…ふ…なんで俺らセブンに悪態ついてんだ

 

メリー:悪態じゃない、感想ね。唐揚げ棒の。セブンはいい店よ?便利だし揚げ鶏めちゃ美味しいし

 

タクト:そうなー。お、じゃあちょっと買ってこい揚げ鶏。待ってっから

 

メリー:うーわ雑用をこのメリー様にやらせようってのかこの男。はぁ〜いい度胸してるわねぇ

 

タクト:お願いしますね

 

メリー:はぁーい

 

(少し間)

 

タクト:おかえり

 

メリー:はいただいまー。1個しか無かった。あ、これジュースね

 

タクト:おサンキュー。1個しか無かったのか

 

メリー:人気なんじゃないですかねぇ

 

タクト:かもな。てかさ

 

メリー:ん?

 

タクト:今更だけど、マジでメリーさん感ゼロだよね

 

メリー:はぁ??

 

タクト:いや服も滅茶苦茶私服だし。聞いた事ねぇよパーカー着てコンビニで揚げ鶏買うメリーさんとか

 

メリー:やかましわ!

 

タクト:レジ袋お付けしますか〜

 

メリー:ぁ、っす、ぉねがいしまぁす…

 

タクト:(笑う)

 

メリー:(笑う)

 

タクト:よしじゃあ次はファミチキだファミチキ

 

メリー:おー!

 

(少し間)

 

メリー:ファミチキなかったぁ…

 

タクト:え、マジか

 

メリー:マジ…ついてないわぁ〜…

 

タクト:そういうこともある。までも揚げ鶏はあったし良しとしようぜ

 

メリー:確かに?いただきマース

 

タクト:車出すぞ。ジュース、キャップ閉めたか

 

メリー:ん。平気

 

タクト:あいよー

 

メリー:…ねぇ

 

タクト:んー?

 

メリー:いまどんな気分?

 

タクト:どういう質問??

 

メリー:いや、助手席にメリーさん乗せてんのどんな気分なんかなーって

 

タクト:あー、いや、なんか電話かかってこなくなったから完全にメリー味がゼロ

 

メリー:あーそれはたしかに。アイデンティティだもんね

 

タクト:そーよ

 

メリー:私はねー

 

タクト:うん

 

メリー:なんていうか、変な感じ。今まではさ、こう…私メリーさんですーっつって、まぁなんか、最初はイタズラかーみたいな感じになるのよ

 

タクト:でしょうよ

 

メリー:で、まぁ何回か電話かけてると段々怖がってって、最終的に後ろに立って、バーンって感じで

 

タクト:えバーンってなに?銃?

 

メリー:あ違う違う違う、こう、バーンって、どうだ〜って感じで

 

タクト:ああ、その「バーン」ね

 

メリー:そそ。で、まぁあれよあれよと標的を仕留めるわけですね

 

タクト:そこが気になるんだよなぁ〜。どうやって殺してるわけ?

 

メリー:殺っ…なんかヤダなド直球で。まぁそうね、どうやって仕留めるかって言うと、単純に顔を見たら呪いでスっと

 

タクト:ほぇ〜。え、じゃあなんで俺は死んでないの

 

メリー:…なんでだろうね

 

タクト:うわ隠すなよ気になるわ

 

メリー:んや、別に隠してる訳じゃないけど、そのー、なんて言うのかな

 

タクト:うん?

 

メリー:私、メリーさんじゃないんだよね

 

タクト:…え?どゆこと?

 

メリー:そのまんま。私は今メリーさんじゃないの

 

タクト:今…っていうと、非番ってこと?

 

メリー:ううん、クビんなっちった

 

タクト:…マジか

 

メリー:ウケるでしょ

 

タクト:いやクビとかそういうシステムがあることに驚いてる。じゃあなに、今お前はただの人間ってこと?

 

メリー:そゆこと。厳密に言えば普通の人間とは若干違うけど。メリーパワーとか逆探知は、これで

 

タクト:なにそれは。ぶっ壊れたガラケーにしか見えん

 

メリー:実際ぶっ壊れたガラケーだからね。これは、会社から支給されるメリーさんの業務用携帯なの。コレを使って電話をかけて、電話に出た相手にだけメリーパワーとか色々使えるの

 

タクト:ほーん。あれ?でももうクビなんだよな

 

メリー:うん。勝手に持ってきちゃった

 

タクト:…それ大丈夫なのか…?

 

メリー:全然だいじょばない。超やばいね

 

タクト:えぇ…どうすんだよ

 

メリー:別に、どーもしないよ。どうせこの後全部…

 

タクト:………まぁいいや。じゃあとりあえずお前の顔どんだけ見ても死なないって事でいいんだな

 

メリー:うん。上の指示があったやつしか殺せないからね

 

タクト:そっか。安心したわ

 

メリー:安心?…変なの

 

タクト:…たしかに。それもそうか。なんで安心してんだろうな

 

メリー:ほんと。…あれ、なんの話ししてたっけ

 

タクト:今どんな気分だって話

 

メリー:あー、そうそう。まぁそんな感じだったからさ?今までは。こうやってメリーさんって名乗って、メリーさんって呼ばれて、でも面と向かって下らない話して…そういうのが凄く、変な感じ

 

タクト:ほーん

 

メリー:まー、その、なに。あれよ

 

タクト:どれよ

 

メリー:悪くは無いね

 

タクト:っはは。そっか

 

メリー:アンタは?退屈?

 

タクト:なわけ。めちゃめちゃ楽しんでるよ、なんなら

 

メリー:そか。ふふ。まぁ当然よね〜

 

タクト:そっすね〜

 

メリー:…あのさ、さっきの話、もう少し聞いてくんない?

 

タクト:さっきの?…ああ、うん。もちろん

 

メリー:さんきゅ。んとね、まずなんで首になったかって話なんだけど。私、すごい仲良い同期がいてさ

 

タクト:おお

 

メリー:ソイツのこと私、滅茶苦茶好きで。あ、ライクね。でー、プライベートとかでも色々ご飯とか遊びに行ったりとかしてたの

 

タクト:いいじゃん

 

メリー:うん。…なんだけど、ある日ソイツが急に会社からいなくなって

 

タクト:いなくなった?

 

メリー:うん。会社どころか寮からも、荷物とか小物とか、とにかくアイツとアイツの持ち物全部、ある朝きれいさっぱり消えちゃったの。…会社のお金と一緒にね

 

タクト:…そうきたか

 

メリー:で、当然会社は大騒ぎよ。ただまぁ、こんな仕事だからさ。警察に連絡〜とかできないじゃん

 

タクト:やっぱそれは無理なんだな

 

メリー:うん。だから上は、アイツに…その…

 

タクト:なるほど。メリーさんパワーで始末することにしたんだな

 

メリー:そゆこと…でもそう簡単に電話に出てくれるとは思えないじゃん。アイツだって当然メリーさん警戒するだろうし

 

タクト:そうだな

 

メリー:だから私にね、その仕事が課されたの。プライベートでも連絡取り合ってるくらいだし、私からの着信なら可能性はあるって

 

タクト:…そうか…

 

メリー:それで、結局…かけちゃったんだ。断ったり逃げたりしたら、逃走幇助(とうそうほうじょ)とかで次は私の番だって思って…

 

タクト:そうなるだろうよ。仕方ねぇって

 

メリー:共犯だと思われてスマホとか没収されちゃうから、仕事用の電話でしかかけられなくなるってLINEして…アイツは多分、信じてくれたんだよね

 

タクト:出ちまったんだな、ソイツ

 

メリー:うん…そこからはもう、あっという間だった。アイツはあっさり見つかったよ。山奥の大きな木の下で、以前アイツが仕留めたはずの女の人と一緒に…もう、2人とも死んでたけどね

 

タクト:…駆け落ち的なやつか…

 

メリー:だと思う…絶対ご法度だし、そもそも会社のお金を持ち逃げしてるし、この業界に首突っ込んだ以上は仕方ないんだろうけどさ…でもアイツ…最期に私に…裏切られたんだなって…

 

タクト:お前は自分を守っただけだろ。お前の命と他の命を勝手に天秤に乗せて、選択を迫れる様なお偉いやつなんかいねぇよ。だから非難される筋合いも無いだろ

 

メリー:…あんがと。そうかもねぇ…そう思えたらいいんだけどさ、私が引っかかっちゃって…私が殺したようなもんだし…

 

タクト:まぁ…そう思うのも無理ないよな

 

メリー:…とまぁ、そんな感じでさ。人生の…ぁいや、メリー生の最期にこんな話を聞いてくれるやつを探してたってわけ。そしたらアンタが電話に出てくれた

 

タクト:そっか。そういうことだったのか

 

メリー:そーゆーこと。…で、アンタは?

 

タクト:なにが

 

メリー:アンタの方はなんでなの。こんな時間に樹海なんか行っちゃってさ

 

タクト:………。別に

 

メリー:なにそれ。せっかく私が思い切って話したのに〜

 

タクト:最初から聞いてもらう気でいたんだろ

 

メリー:そーね。ま、無理にとは言わないけどさ。吐き出したくなったら話聞くぞ??

 

タクト:言いたくないっていうか、言ったら「誰かのせい」みたいになっちまうから

 

メリー:ほぅ

 

タクト:……いいか、お前だし

 

メリー:すご。この数時間で滅茶苦茶信頼されてるやん

 

タクト:出会いが特殊だとなぁ

 

メリー:アハハ確かに

 

タクト:…俺はさ、だいぶ前だけど会社をやめたんだ

 

メリー:やめたの

 

タクト:うん。理由としては…まぁ、鬱病ってやつ

 

メリー:世に聞く奴ね

 

タクト:そ。マジで原因もわかんねーし、直前までは普通に元気だったんだよ。でもなんか…ある日今まで出来てたことが出来なくなってさ

 

メリー:そんな感じなんだ

 

タクト:そ。俺は割と気合と根性で物事解決するタイプだったから、そんな自分にびっくりしたんだけど…それ以上に失望しちゃってさ

 

メリー:あー…

 

タクト:こんな事もできないのか、この程度の事からも逃げるのか、って。病気を言い訳にして、逃げ回ってるだけだ俺は。ってね

 

メリー:…それは違うんでしょ

 

タクト:違う…らしい。医者が言うには。でもさ、まぁ元の考え方があんなだっただけに、自分の事なのにどうしても理解できなくてさ。動けない、仕事できない、不安だ、怖い、って…なんか、病気っていうか、こう…

 

メリー:気持ちの問題って感じがしちゃう?

 

タクト:うん。まぁ脳に異常が生じてるらしいんだけど、詳しいこともハッキリ分かってない病気って言われたら、いよいよさ

 

メリー:んー、まぁ…そうなっちゃうのも当然かもね

 

タクト:そ。しかも今まで散々「鬱は甘え」とか「病気に逃げてる」とかほざいてたからさ、俺は。今更誰かに相談なんかできないし。医者行って薬もらっても全然治らないし

 

メリー:そっか…

 

タクト:なんか…自分には想像できないもんって、どうしても受け入れ難いんだよな

 

メリー:と言うと?

 

タクト:腕が途中からスパッと無くなった感覚って想像出来るか?足でもいいけど

 

メリー:…んー……難しいかも…?

 

タクト:だろ。それと同じでさ、鬱ってマジでなった事ないと理解のしようがないんだろうなと思う。俺の主観というか感想だけどな

 

メリー:たしかに。そうなのかもしれんね

 

タクト:でもさぁ、俺は「鬱は逃げてる」論を唱えてた側だからさ。そういう人らの考えとか、鬱に向ける視線とかも分かるのよ。だからふとした瞬間に「あー、これは逃げてるんだなぁ」とか「甘ったれてるだけのクズなんだな俺は」って思っちゃったりね。もう自分に攻撃されまくってヤバい感じ(笑う)

 

メリー:思ったよりヘビーな話だったわ

 

タクト:だろ?まぁだから、そういう…なんつーの。理解されない苦しさから〜とか?「甘え」だなんだって言ってる周りの奴らのせいみたいに言うのは嫌でさ。俺一人の問題だから、これは

 

メリー:そっか。…ああ、着いたね

 

タクト:おう。っしゃ、行きますか!

 

メリー:夜のハイキング〜

 

タクト:ここから入れる。こっそりな

 

メリー:やば、なんかワクワクする

 

タクト:(笑う)

 

(少し間)

 

メリー:…結構歩いたくない?

 

タクト:だな。もうどっちがどっちか分からん

 

メリー:ねー。てか暗すぎて割と最初からどっちがどっちかって感じだったよね

 

タクト:それはそう

 

メリー:あぁ〜疲れた…一旦休憩しよ〜

 

タクト:あいよ。あれ?そういや揚げ鶏は?

 

メリー:食べきった

 

タクト:お前まじかよ。俺の分は

 

メリー:完全にやらかしたね

 

タクト:やらかしたね。じゃないわ

 

メリー:ねぇ

 

タクト:ん?

 

メリー:私はさ、今日めっちゃ楽しかった。今日ってか今夜?

 

タクト:そっか。よかったよ。俺も楽しめた

 

メリー:溜まってたもの吐き出せたし、久しぶりにバカ話したりドライブしたり。ファミチキは食べれなかったけど

 

タクト:そうな。俺も人と話すこと自体久しぶりで…あーいや、まぁ母親から電話来たりとかはしたけど。だから楽しかったわ。…ありがとうな

 

メリー:ん。いいってことよ

 

タクト:…

 

メリー:…

 

タクト:…。

 

メリー:あー…なんか…ちょっと分かったかも

 

タクト:え?

 

メリー:あいつの気持ち、ちょっとわかったかもしんない

 

タクト:アイツって…駆け落ちした?

 

メリー:そ。ウチの仕事はまぁ、大勢の死に様を見ることになるからさ、結構精神に来るのよ

 

タクト:そりゃそうか

 

メリー:特別な家系の人間しか就職できないんだけどね。逆に言えばその家系に産まれたら、問答無用でメリーさんって感じ。きっとアイツは疲れちゃったんだろなぁ

 

タクト:お前も疲れちゃったか

 

メリー:んー、まぁそれもそうだね。命の終わりを見るのが辛いって、アイツが死んだ時久しぶりに思ったし。でもそれよりさ

 

タクト:?

 

メリー:そんな中でも、この人といると楽しいな〜って。嫌なこと忘れていられるなって、そういう人がいてさ?…だから全部投げ出して、アンタといるのも悪くないのかもなって

 

タクト:…これから命も投げ出す訳だけどな

 

メリー:ねえ。それなんだけどさ?ちょっと取引せん?

 

タクト:取引き?…なんだよ

 

メリー:私はさ、こう、なんて言うんかね。…アンタと一緒にいればもうちょい生きててもいいかなーって感じするんだよね

 

タクト:たった数時間で信頼すごいな

 

メリー:出会いが特殊すぎたからねぇ

 

タクト:(笑う)

 

メリー:で、アンタは生きるの辛い〜って感じじゃん。不安だったり怖かったり、その上自分に失望して、ってさ

 

タクト:だな

 

メリー:…だからさ、もし良かったらなんだけど。アンタの人生、買わせてくんない?

 

タクト:…え、なに?どゆこと?

 

メリー:ここに…あぁここにっていうか、アンタの車に私のカバンがございます

 

タクト:おう。そういや置いてきたんだ

 

メリー:重いからね。あそこにめっちゃ大量にお金が入ってんの

 

タクト:は?…え、お金…なんで?まさかお前…

 

メリー:そ。会社のお金

 

タクト:マジか…

 

メリー:あれから仕事拒否しまくってとうとうクビになってさぁ。そんで思いついたんだよね。もういっそ同じ事してやる〜!って

 

タクト:とんだ爆弾抱えてたなその会社は

 

メリー:ねー。まぁだからさ、私にも追っ手が来ると思うの

 

タクト:だろうよ

 

メリー:この場で死ななくても、いつかはポックリ逝けますよ。しかも私と一緒に

 

タクト:そーいう感じね

 

メリー:そーいう感じ。それまでさ、私がそばに居るから。アンタの苦しさも辛さも、怖さも、それから…死にたさも。全部一緒に背負えるデッカイ背中が着いてるぞ

 

タクト:デッカイ背中って(笑う)

 

メリー:お金は私がどうとでもできる。決め手はアンタの意思。私と一緒に居てくれるか、やっぱここで死にたいか。そんだけ

 

タクト:…。

 

メリー:アンタが背負いきれないものは全部私が背負ったげる。いや私にも限界はあるけど。でもさ、重たいもん投げ捨てて、それで何かが壊れちゃっても…私が絶対に埋め合わせてあげる

 

タクト:投げ捨てても…

 

メリー:うん。捨てたい、背負いたい、一旦置いておきたい、立ち止まりたい、走りたい。アンタが今まで独りじゃできなかったこと、私と一緒にやろ?2人で運良く死ねるまでさ、その人生、私にも背負わせてよ

 

タクト:…マジで、この短い時間でどんだけだよ

 

メリー:安心して、軽い気持ちじゃないから。もう裏切ったりしない

 

タクト:…別にお前は駆け落ちくんのこと裏切ったわけじゃないだろ

 

メリー:…ん、ん〜…まぁいいの!とにかく本気だから!どう?たまには深く考えずにさ、まあいっか〜くらいな気持ちで!ね!

 

タクト:…無理だろ

 

メリー:…。やっぱり?

 

タクト:仮に俺が頷いたって、帰り道わかんないしな

 

メリー:それは心配無用。言ったでしょ、私は特別な家系の産まれだって。このくらいで迷ったりしない

 

タクト:まじかよ

 

メリー:大マジ

 

タクト:…そっか………

 

メリー:…。

 

(タクト、立ち上がる)

 

メリー:え、なに。どしたの

 

タクト:…車どっち

 

メリー:ぇ…え、それって

 

タクト:いいから案内しろって。ほら行くぞ

 

メリー:っ…よっしゃ任せろっ!

 

タクト:頼むぞー

 

メリー:へへ…こっちこっち

 

(少し間)

 

メリー:はい、ご到着〜

 

タクト:あいよ、どうも。…なあ、カバンの中見せてよ

 

メリー:あ、見たい?ビビるぞ〜

 

タクト:…うわマジだ…犯罪臭がすごいわ

 

メリー:だしょ〜?

 

タクト:落ち着かね〜

 

メリー:そーねぇ。いやぁでも良かった

 

タクト:なにが

 

メリー:私の渾身のラブコールがアンタに響いてよかったって

 

タクト:鳥かよ

 

メリー:求愛ダンスじゃないんだわ

 

タクト:(笑う)

 

メリー:ん、でもホントよかった。ありがとうね。私に賭けてくれて

 

タクト:ん

 

メリー:ふふ、あーあ。そんなに私といたかったかぁ〜

 

タクト:いや普通に揚げ鶏食いたくなったからだけどね

 

メリー:はぁ〜??なにそれ私ダイナリ揚げ鶏かよぉ。あれ?ダイナリってどっちだっけ。この場合ショウナリ?

 

タクト:ほら車出すぞ。シートベルトしろ

 

メリー:ん…はいよ。発車オーライ!

 

タクト:目指すはセブンイレブン〜

 

メリー:私にも買って

 

タクト:お前食いすぎ

 

メリー:(笑う)

 

(少し間)

 

メリー:はぁ〜、懐かしいなぁ…初めて2人で撮った写真がセブンの前で揚げ鶏て。全然雰囲気ないんですけどー。おいコラ。聞いてんのか〜。

 

タクト:…

 

メリー:…ふふ。よく寝てらっしゃるわ。…ねぇ、私メリーさん。これからも、あなたの隣にいるよ

 

タクト:なにそれダッサ

 

メリー:ぉわあああ起きてたんなら言ってよアホ!!早く着替えて飯食って仕事行け!!!

 

タクト:朝からうるさ。…おはよ

 

メリー:ん!おはよ!


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