呪術廻戦RTA〜原作クラッシュの旅〜   作:発狂する雑草

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本日は小噺です。
作者が楽しいだけの話なので、箸休め感覚でどうぞ!


小噺

ぽかぽか抱き枕

 

 

その日、五条は夜遅くに高専へ帰ってきた。

夏油が離反し、後輩2人がいなくなった今、呪術高専にやってくる依頼でそれらを捌けるのは五条一人だけであった。

本日も五条は無傷。ほぼ休みなく働き、夜遅くに帰って来るのがもはや日々のルーティンとなりつつあった。

だが五条には反転術式があるため、疲労はない。

 

「……はぁ」

 

静かな廊下を五条は歩く。

家入とは、ここ最近全然顔を合せなかった。五条が怪我をしなくなった辺りから、五条が家入の元を訪ねることはなくなり

夏油がいなくなってからは教室で話すことも減り、五条が忙しくなってからは、そもそもの生活リズムがあわなくなった。

よく回る頭で、考える。最後にまともに人と関わったのはいつだっただろうかと。

 

「悟くん。遅かったですね」

 

考えて、答えを見つけそうになったところで、声をかけられる。

みれば、廊下の奥。五条の自室の前に一人、少女がぽつりと立っていた。

もうすぐ9歳になる少女。禪院美琴だ。

 

一年立っても未だにぷにぷにとしてそうな白くてまろい肌に、大きな瞳でじっと五条を見つめる。

端正な顔もあって、小さな子供が好きな着せ替え人形のようだった。

 

「あー、美琴。来てたのかよ」

「悟くんに会いたくて」

「へぇ。そりゃ嬉しいじゃん」

 

後輩たちも、同期もいなくなって、一人になった五条の元に残ったのは、美琴だけだった。

高専の学生ではないため会えるのは不定期だが、大体三日か五日に一度くらいの頻度で、美琴はふらりと高専を訪れると、こうやって五条に会いに来るのだ。

 

「毎度夜に来るけど。なに?夜這い?」

「よばい……?」

 

きょとりとした顔で首を傾げる美琴。妙に大人びており、難しい言葉を喋る美琴だが、流石に今の言葉の意味はわからないらしい。その姿に「まだまだ餓鬼だな」と五条は鼻を鳴らす。

 

「折角だし、ゲームでもするか」

 

部屋の扉を開けてやれば律儀に「おじゃまします」と言って部屋に入る美琴

そうしてベットを背に、ちまりと床に膝を抱えて座る。ただでさえチビなのにそうやっていると更に小さく見える。

 

「これやる」

「?」

 

そんな美琴を前に、そういえばと五条はポケットを漁れば、チョコレートが出てくる。

 

「ありがとうございます」

 

渡されたチョコを美琴はコロコロと小さな両手で転がすと、まるで宝石でも持つように、慎重な手つきで、包装を取ると、ぱくりと口に入れる。

 

「うまい?」

 

こくこくと頷く美琴

普段無表情だがこういうところは可愛げがある。

というか……。

 

「お前みてると、なんか苺のキャンディー食べたくなるな」

「?」

「つか、お前口小さすぎるだろ。二本…いや親指だけでいっぱいになりそうだな」

「ゆび…?」

 

なんで指?と首を傾げる美琴をしり目に、五条はよいせと立ち上がり、がさごそとゲーム機を探す。

長らくやっていなかったから、どこにしまい込んだかな、と頭を掻く。

 

と、そこで軽く腕の裾をくいっと引っ張られる。

みれば美琴が控えめに五条の袖口を引いていた。

 

「どうしたよ」

 

軽くしゃがみこんで聞けば、美琴はじっと五条の頬に両手を添えるとそっと顔を覗きこむ。

自分とは真逆の黒と赤のコントラストが映る。

 

「お疲れ気味ですね」

 

まじまじと顔を見つめ、美琴はそういう。

 

「疲れてねぇよ。反転術式で常にすっきりしてるし」

「体は平気でも、心が疲れてますよ」

 

「疲労困憊です。ばたんきゅーです」というとぐいぐいと五条の手を両手で引っ張る。

あまりにも弱弱しい力に、下手に振り払えば吹っ飛んでいきそうだなと思った五条は渋々引っ張られてやる。

そのままベッドの方まで連れていかれた。寝ろと言わんばかりにぽふぽふと両手でベットを叩く美琴に、仕方ないなと五条はベットにごろりと横になれば、ぱたぱたと小さな脚をせわしなく動かし、掛け布団を取って来る。

 

「ゲームしなくていいわけ?」

「悟くんが元気になったらやりたいです」

「俺元気なんだけど」

「元気じゃないです。眉毛がへにょんってなってます」

「……それお前じゃない?」

 

僅かに垂れた眉を人差し指で押してやれば、むむッとした顔をされる。

無表情も多いが、こういうところは餓鬼っぽい。

 

「なら勝負しましょう」

「勝負?」

「先に寝た方が勝ちです」

 

やっぱガキだな…。

 

どこかドヤッとした顔で言ってくる美琴に呆れていればぽふりと頭に柔らかい手が乗る。

 

「…くすぐったいんだけど」

「悟くんは頭撫でられるの好きみたいなので、撫でたら寝るかなと」

 

そういってゆったりと往復する手

だが

 

「…」

「お前のが先に寝てんじゃん」

 

数分もすれば美琴のほうが先に眠くなってしまったらしい。

往復してきた手はとまり、ベッド傍でころりと眠りについていた。大人びていてもやはり子供だ。

時間もかなり遅いし体の限界が来たのだろう。

五条はその寝顔を見つめ、つんつんと柔らかいほおをつつく。マシュマロみたいだった。

仕方ないな。と小さな体を抱きかかえベットのなかに入れてやる。

 

「あったか…」

 

抱きかかえた美琴は湯たんぽ並みにあったかかった。子ども体温だ。

僅かにお日様のような匂いもする。

そうしていたからだろうか。徐々に瞼が重くなっていき……ころりと五条もまた、眠りにつくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

伏黒兄弟+αの日常

 

 

 

「津美紀……」

「ああ、おはよう。恵。朝ごはんできてるよ」

「ん」

 

朝起きて、津美紀がまずやることは朝食づくりだ。

この家には自分と、血のつながらない弟だけ。大人はいない。

津美紀の母親は、恵の父と結婚し、蒸発した。

義父の方は、時々、ふらりとやってきて、おかしやらレトルトやらを気まぐれにおいてからいなくなってしまう。

恵はそんな父を「クズ」といい、来るたびに軽蔑の眼差しを向けるが、それでも津美紀は義父がどうしてこの家に来るのか疑問だった。

 

もしかして、なにか言いたいことがあるのではないか。

家族みたいに過ごしたいけどいなくなった手前、いいだしにくいのでは……もしそうなら家族三人で暮らせる日も来るのかな………と思っているが、その真意は謎だ。

 

恵と津美紀。二人向かい合って食事をとっていれば、がらりと奥の部屋の扉が開く。

 

「あ、美琴さん!おはよう!」

「おはようございます。津美紀さん」

 

そう。この家には恵と津美紀の二人だけ、と言ったが、違う。

実はもう一人、人がいた。部屋の扉が開き、この家の”本来”の家主である美琴が顔を出す。

彼女は2年前、義父と共に恵と津美紀の元へやってきた。年齢は津美紀の一つ年上の10歳で、恵の親戚らしい。

 

二年前。よくわからないが、このままあの家にいると、恵が誘拐されるかもしれない、と言われ、義父も一緒だったことも会って、津美紀は恵と共にこの家にくることにしたのだ。

 

「朝ごはん作ったから、よければ食べて!」

「いつもありがとうございます。夕飯は何がいいですか?」

「恵、なにがいい?」

「……なんでもいい。津美紀がいえよ」

「えーっと、じゃぁ、鍋とか!」

「わかりました。鍋ですね」

 

美琴は少しだけ跳ねた後ろ髪を手で軽く梳かしながら頷く。

 

二年前まで、津美紀が家事全般を担い、恵が手伝う。ということになっていたが

この家に来てからは、朝に強い津美紀が朝ご飯をつくり、晩御飯は美琴が作り

洗濯は津美紀と美琴の交代制。恵は掃除や食器の洗い物。という家事分担になっていた。

おかげでかなり楽になった。

 

「二人とも、そろそろ学校に行きましょうか」

「あ、はい!ほら、恵!早く」

「……俺一人でいく」

「ダメですよ。恵くん。ほらいきましょう」

「……」

 

恵は姉である津美紀と、美琴と一緒に登校することに恥ずかしさを感じているらしい。

むすっとした顔をするが、最後はため息を吐いて、一緒に登校してくれる。

つんつんしているけど、とっても優しい子だから。

 

「本格的に冷え込んできましたね」

「確かに。そろそろ分厚い布団ださないと」

「家帰ったら、出しとく」

 

三人横並びになりながら、そんな会話をする。

あの家にいた時は、あんまりお金の余裕がなくて、冬も夏も薄い布団で寝ていて、防寒着なんて持ってなかったけど、美琴さんの家に来てから、冬はあったかいし、夏は涼しい。快適な暮らしができるのって、すごく幸せだなって痛感した。

 

「それでは、また学校が終わったらきますね」

「はーい、いってきまーす!」

「……いってきます」

「はい。いってらっしゃいです」

 

見送ってくれる彼女に手を振り、津美紀と恵は2人で校舎へ向かって歩き出す。

 

「……あいつ」

「ん?」

「なんで小学校いかないんだよ」

「よくわからないけど、美琴さん、忙しいみたいだし」

「……でもおかしいだろ。学校いかねぇの」

 

ぼそりと恵が呟く。

 

美琴さんは、10才だけど、小学校にはいかないらしい。

他にもやることがあるから、行く余裕がないし、勉強もある程度できるからいいんだって。

でもそれっていいことなのかなって。小学校にいくのは義務教育で必要なことなはずだって

何度も思ったけど、自分が口を出すことではないのかもしれないと津美紀はそのことについて聞いたことはない。

 

ただ

 

「その分、私達が一杯思い出作って毎日教えてあげればいいじゃない」

「話って。なに」

「んー、今日友達とどんな話したかとか、なにして遊んだかとか」

「……俺、トモダチとかいねぇし」

「作ろうよ!!恵ならすぐトモダチできるでしょ!」

「…」

 

ふいっと恵は目を逸らす。

津美紀は苦笑いして、前を向く。

 

学校に行かないのは、普通じゃないけど、お世話になってる手前、事情があるのにそれを追求してしつこくいう気はなかった。でもその分、すごく忙しそうだから、私たちのくだらない平和な日常の話を聞いて、少しでも肩の力を抜いてくれればいいなと、思うのだ。

 

 

 

 

 

「…美琴…さん…?」

「すみません。遅くなりました」

 

学校帰り。いつもはすぐ来てくれるのに珍しく迎えに来てくれないから恵と二人、待っていた。

津美紀は「なにかあったのかな…?」と心配気に眉を下げ、恵は「買い物とかに手間取ってんじゃねぇの」とつっけんどんにいうが、その声は少し上ずってて、心配してるのがわかった。

そうして数分。ふらりと人影が出てくる。

 

美琴さんだ。

 

ぱっと津美紀は顔を明るくさせる…だがそれも束の間。その顔はみるみるうちに引きつっていった。

 

美琴の手からポタポタと血がたれている。

黒い冬用のコートを着ていることと、辺りが薄暗くなってきていることからよく見えないが肩や脇腹が湿っているように見える。つんと、冷たい冬の匂いに混じって鉄の匂いがする。

 

「た、大変…!手当てしないとっ!」

「大丈夫ですよ。よくあることですし。それより帰りま」

「よくあることで済ませちゃだめだよ!!!何かあったら…どうするの?!」

「……手当てするにもここじゃだめじゃねぇの」

「た、たしかに……み、美琴さん!私の背中のって!家まで背負うから!」

「え、いや…」

「津美紀は言い出したら引かない。寒いしはやく乗れ」

 

津美紀と美琴の荷物を受け取りながら恵がいえば、美琴は「えぇ…」と珍しく困惑した声を上げたあと「重かったら下ろしてくださって構いませんから」と念を押したあといそいそと津美紀の背に乗った。

 

「重くないですか?」

「大丈夫!」

「…意外と力持ちなんですね」

 

美琴は十歳の少女ではあるが、呪術師として動いているだけあってほかの子よりは筋肉がある。

小柄ではあるがそれでもそこそこ重いはずなのだ。

はずなのだが…津美紀は平然と担いでみせた。

 

そりゃそうだ。なんせ彼女は幼少期から買い出しのために年々増加傾向にあるというクソ重ランドセルを背負い片手に米袋、片手に大根をはじめとした野菜と肉の詰まった袋を持って往復してた人間だ。

そこらのひ弱娘と一緒にしてはいけない。

 

そのまま、音を挙げることもなく家に到着

すぐにケガの処置に入った。

手当てをされている間、美琴はぽかんとした顔のままおとなしく処置されていく己の体をみていた。

 

「背中にも…傷…」

「昔のものです。痛くないので気にしないでください」

「今は痛くなくても…昔は痛かったんでしょ…?……だいじな人が傷つくのは……いつだって辛いよ」

「だいじなひと…」

 

聞き馴染みのない言葉だった。

幼少期から家のために尽くせと言われ、躾という名の虐待を受けて育った。

背中に傷があるのは折檻のあと。腹に傷がないのは母胎となり家のために尽くせというメッセージ

過去の痛みも恐怖も全て風化してしまい、当時の自分はこの傷をつけられる際何を思っていたのか思い出せない。

それに、仮にひどい苦痛を感じていてもそれらはすべて神様に会うための試練だったのだと思えば途端にすべて素晴らしいものに感じられる。

津美紀の言葉は勝手な妄想で、的外れもいいところだった。

 

ただ、不思議と不快でもない。

 

「今日は私がご飯作るから!美琴さんは絶対安静!」

「…わかりました」

 

手当てを終えてキッチンへ向かう津美紀

それと入れ違うように恵がやってくる。

 

「恵さん」

「…なに」

「津美紀さんは、とても優しい方ですね」

「優しいんじゃなくてバカなだけ」

 

ツンケンしながら恵はとすんと床に座る。

なんでも美琴が無理しないように見張れと命じられたらしい。

 

「恵さんも、優しい方ですね」

「…津美紀に言われて仕方なく」

「そうですか」

 

会話はすぐに途切れる。

恵と美琴はお互い口数の多い方ではないのだ。

無言の時間がこのまま続くだろうとおもったが、意外なことに恵は会話を続ける気だったらしい。「なぁ」と呼びかける。

 

「そのケガ、呪霊倒しておったんだろ」

「…ええ、まぁ」

「なんで?」

「?」

「なんでそんな、必死なんだよ」

 

恵は不満そうに美琴に巻かれた包帯を睨む。

 

初めて会ったときから変な雰囲気の女だと思っていた。空気みたいに希薄で地面に立っているのにどこかふわふわと浮いた人間味の薄い女。

そのくせ、妙に世話を焼いてくるから一から百まで理解できない女。

 

でも恵は知っている。美琴が毎日呪霊狩りに出かけて夜遅くに帰ってきて、日中もいろんなところを回って呪霊狩りにいっていることを。

そしてその姿はまるで何かに駆り立てられるように…生き急いているように見える。

 

何も理解できない。だから気になって聞いてみた。

 

「それが私に課せられた天命だからですよ」

「天命?」

「ええ。早く強くなり誰よりも早く強い呪霊を倒し、呪術界をひっくり返す。

それが私に与えられた使命です

私にとってこの使命は何よりも大事なものなんです」

 

そういって美琴は無表情からは考えられないほどに綺麗に笑った。

作り物めいた笑みではなく、心の底からの笑み

綺麗なのに、何処かぞわりとして、恵は目を逸らす。

 

「意味わかんねぇ」

「恵さんも。大事な物ができた時に理解できると思いますよ」

 

大事なもの………。

 

「なんでもいいけど…津美紀はただの一般人だから。

あんまり心配させんな」

 

「恵〜!ご飯できたから食器出すの手伝って〜!」

 

「……動くなよ」

「ええ」

 

津美紀に呼ばれ恵は去っていく。

彼は本当に姉が好きなんだなと美琴は少し目を細める。

兄妹……おかしなものだ。自分と血のつながった兄は一緒に食事をしたことはないし、お家のこと以外で話をしたこともない。他人より他人らしく育った。

しかしあの2人は他人なのに姉弟より姉弟にみえる。

 

「おい…何しに来たんだよ」

「あ?普通に帰ってきただけだろうが」

 

玄関の方から声がする伏黒甚爾も帰ってきたらしい。

そうして気づけば4人机に座り鍋を食べる。

 

「おいしい?美琴さん」

 

家で、リビングで、4人そろって食卓を囲む光景。

冷めきった親子と仲のいい他人と部外者の少女

 

「ええ。とても」

 

他の人は一体この4人を見て、どんな関係を想像するんだろうか

 

 

 

 

 

 

 

内緒ごはん

 

 

 

高専の夜は、とても静かである。

皆寝静まっていて、時々任務が長引いて帰ってくるのが遅いものが寮へ向かうさいに足音を響かせる程度

そのくらいの音しかない。

 

だが、その日は少しだけ違った。

 

ふいにパチパチとした軽い音と、いい匂いが鼻を挿す。

気になって発生源へ向かえばそこは小さなキッチンスペースだった。

よくお腹をすかした人間がカップ麺を作るために利用したり、コンビニで買ってきたものを温めたりするときに使うことが多い。

一応コンロもシンクもあるので料理はできるが、彼らは任務も座学も学ぶ多忙な学生だ。

料理なんて殆どしない。そもそも、今在籍している生徒は名家出身だったり、そもそも食べることを必要としなかったたり、料理に触れてこなかったタイプばかりなのでキッチンとは名ばかりのスペースになっていた。

 

だが、そんなスペースに小柄な背中が見える。

と、そこでこちらを振り返った。

 

「あれ?狗巻さんと、パンダさん。こんな時間まで任務ですか?」

「しゃけ」

「ちょっと手こずってな〜

先輩は料理か?」

「ええ。少し小腹がすいてしまいまして」

 

本日、狗巻とパンダは二人で共同任務に出ていた。

狗巻は呪言を用いた遠距離中距離型。パンダは近距離型と二人は相性が良く、同性(?)ということもあって、わりと組まされることが多かった。

 

その話を聞いた美琴は「なるほど」と頷くと小さな鍋にお玉を入れる。

 

「もしお腹が空いていれば、食べていきますか?」

「おっ、何作ってんだ?」

「焼きおにぎりスープですね」

 

鍋には金色のスープが入っていて、そのそばにはこんがりと焼かれたおにぎりがいくつか置いてあった。

 

「んじゃ、もらっちまおうかな〜」

「狗巻さんもよければどうぞ」

「しゃけ」

 

やはりそこは男子高校生

育ち盛り(?)な彼らにとって夜の食事ほど魅力的に移るものはない。

欲望のままに部屋に入り、机で待っていればすぐに美琴が御椀を持ってきた。

金色のスープにカリカリの焼きおにぎり。そしてそのうえに乗せられたふっくらと焼かれた鮭のほぐし身

ほわほわと白い湯気が昇っていて美味しそうである。

 

「うまっ!」

 

一口食べてパンダが声を上げる。狗巻は無言だがもぐもぐとうまそうにほおばっている。

そんななか、美琴はじっとパンダを見ていた。

 

「ん?どした?」

「いえ、パンダさんも食事をとれるんだなと…」

「パンダ差別反対!俺だってご飯は食べれるぞ!」

「…すみません。少し驚いてしまいまして」

 

少し困ったように眉を垂らす美琴

その視線が、もくもくとご飯を食べる狗巻に向く。

 

「狗巻さん。スープの量とか、それで大丈夫ですか?」

「しゃけ」

「しゃけ……?えと、足して欲しいということでしょうか」

「あー、ちがうちがう。丁度いいよって棘は言ってるんだよ」

「そうなんですか?」

 

そう聞けば、狗巻はこくりと頷く。

ぱちぱちと美琴は目を瞬かせる。

 

「すごいですね。パンダさん。狗巻さんのことがわかるんですね」

「ま、ダチだしな!!!それに、棘のおにぎり語は会話の流れでなんとなく察しがつくもんだし」

「なるほど…もっとお話すれば、私も理解できるようになるのでしょうか」

「……先輩は棘と仲良くなりたいのか?」

「ええ。もちろん」

 

素直にこくりと頷く美琴

それにパンダは少し驚いたような顔をする。

呪術界にいる呪術師は結構ひねくれた人間が多い。

いや、それを除いたとしても、人間というのはなかなか自分の気持ちを直球に伝えることを恥ずかしい、と思って屈折したものいいをするものだが

美琴はド直球にそれを肯定した。それが物珍しく感じる。

 

そして直球に「仲良くなりたい」と言われた狗巻はというと、顔をお椀の中に沈めてた。多分照れてる。

 

ほぉぉぉん?とパンダは狗巻と美琴をみる。

 

最近教室では、真希と乙骨が、なにやらいい雰囲気だ。

前まで真衣と真希で二人一緒に行動し、男が付け入るスキは皆無だったのだが

この間の夏油襲来の一件以降。二人がよく話しているのを見かける。

多分吊り橋効果だ。

とはいえ、かなりいい傾向と言える。

双子故にお互い依存している節があったあの二人だが、彼女たちの関係値は前線に立つものと、援護するものだ。

同じ戦場に立つことはできない。

真衣はまだ他の補助監督仲間がいることと、最近入ってきたミミナナとも、時々話している様子から、いいとしても

前線にでる真希は一人ぼっちになりかねない。

 

特殊な体質に、特殊な生い立ち故に、人を簡単に信頼しない、踏み込ませない、共闘がしづらい真希が少し心配だったのだが、乙骨のお陰でそれも少し解消されつつあるのは喜ばしいことだった。

 

同時に、パンダはもう一人の同期である狗巻のことも心配ではあった。

いいやつではあるが、術式のせいで人とまともにコミュニケーションをとることができず、また過去に人を意図せず呪った経験があるのか、少しだけ線を引いている感じがする。すべて狗巻自身の優しさからきているのだが、そんなもの、他のにはわからない。

どうしたって、狗巻は人と仲良くなるのに時間がいるし、その時間を相手が裂いてくれないとどうにもならない。

 

そんな狗巻と、積極的に仲良くなりたいという美人な年上の女の子……。

時々、2人で花壇に水やりをしたり、少し話したりしているのは見かけたし、狗巻も嫌っていない……これは、同期の幸せのために、俺が動くしかねぇか……。

 

というのは全て建前で、単に知り合いの恋愛模様をつまみに、茶々を入れたいだけだったりする。

パンダは下世話なパンダであった。

 

「まぁ、基本棘の言葉はその時の会話の流れでって感じだけど、二つだけ確定してる語彙があって。

しゃけが、肯定で、おかかが否定だな」

「……ああ、だからさっき。それにしても、すごいですね。狗巻くんは」

「?」

 

狗巻が顔を上げる。

湯気の向こうで、きょとんとした目がこちらを向いた。

 

「語彙が少ないのに、ちゃんと気持ちが伝わるところがです」

 

美琴はそう言って、少しだけ微笑んだ。

 

「言葉が少ない分、ちゃんと考えてから出してる気がして……すごく、優しい方なんだなと」

「……」

 

狗巻は、またゆっくりとお椀を傾ける。顔が隠れる。

パンダは「照れてるな」と言えば「おかか!」ときつめの抗議が返ってきた。

そんな狗巻をしり目に、にかっとパンダは笑い、美琴をみる。

 

「因みにずっと思ってたんだが、美琴先輩のその敬語は元々のもの?」

「ええ。はい。幼少期からずっとこの口調ですが…」

「ほーん。なんか尻の辺りがむずむずするんだよなぁ」

 

そうパンダはいうが、別にパンダはそうは思っていない。

なんせパンダなので。人間のことよくわからないので。

ただ周りに基本敬語で喋る美琴が、敬語で喋らない相手ができるとしたら……それはもう特別では??と考え、パンダ肌脱いでやろうという訳だ。

 

「…むずむず…不快ということですか?」

「不快とまではいかねぇけど。距離は感じるよな。なっ、棘!」

「!?、しゃ、しゃけ……?」

「ほら、棘もこういってるし!呼び方ももうちょい砕ける方でさ!」

「……たかな」

 

パンダの言葉に驚きながらも狗巻は頷けば美琴はきょとりとした顔をして、なるほどと少し考えこむ。

そんな彼女にさらにパンダが言えば、狗巻はじとりとした目でパンダをみる。

なんとなくパンダが何を考えているのか察したのだろう。下世話パンダ……と副音声が聞こえた気がするが、パンダは無視した。

だってここで「おかか」って否定しないあたり、こいつも満更ではないのだろうし。

 

「えと……では、パンダくんと棘くん、と呼ばせてもらいます。

敬語を外すのはまだ慣れないので、あれですけど、えと……が、頑張る…ね…?」

 

両手の指を絡めて、口元に当てながら、少し困ったように眉を垂らし伏目がちに首を傾げる姿は、とんでもなくかわいい。

パンダはパンダなのでノーダメだが、健全な男子高校生である狗巻には若干のダメージであった…が、お得意のポーカーフェイスで耐えた。つよい。

 

「あ、そうだ!美琴先輩。もし悟にも同じ要求されたらそれは断った方がいいぜ」

「悟くんに?どうして……」

「これ以上美琴先輩にべたべたしてたら悟、教師解雇されかねないぞ」

「えっ」

「生徒にべたべたする教師の図は周りにとっても悪影響だし、普通に駄目だろ」

「しゃけ」

 

パンダと狗巻の言葉に美琴は「た、確かに……」と呟く。

 

「わかりました。悟君に言われても、そこは断わっておきます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはようござ……おはよう。棘くん」

「しゃけ」

 

 

数日後。一年の教室に来た美琴と狗巻の会話

いつも通りに思えるが、その口調に教室にいた全員がハッとした顔で二人を見た。

いつの間に名前呼びに?というか敬語どうした。とか色々聞きたかったが、邪魔するのは悪いかと気を利かせた……ただ一人を除いて。

 

「え、美琴!?な、なんで敬語はずして……!ちょっと!僕には未だにがっちがちの敬語なのに!というかいつの間に名前呼びになってるの!?僕にもため口でしゃべってよ!!!」

「ダメです。悟君は先生なので。公私混同はよくないですよ」

「えぇっ!?」

 

五条悟は美琴に詰め寄るが、美琴はきっぱりとした顔で言い張る。

 

「おーい。ここじゃなんだし、2人で外でも散歩しながら喋ってこいよー。今日いい天気だしさ」

「だめだめだめだめ!!!!!!!!」

 

そう五条は声を上げる、が

 

「ごじょせん、ちょっとアタシらに付き合ってよ」

「五条先生…聞きたいことがあるの。お勉強」

 

即座に動いたのはミミナナコンビ

そして

 

「そうだぜ。悟。アタシら今から菓子パやんだよ。特別に混ぜてやるよ」

「ほら、仕方ないからマシュマロをあげるわ」

「え、えーっと…五条先生、一緒に食べます……?」

 

「はい。棘と先輩はいったいった」

 

他の二年の援護射撃。

五条を捕まえている間に、パンダはさっさと美琴と狗巻を教室から放り出す。

 

駄々をこねる五条と、同期の恋路に興味津々な一年生。

そして、皆変なこと考えてるな……とジト目をしつつ、ちゃっかり美琴と散歩にいく狗巻と、五条が解雇されたら、神様が困っちゃうと、内心慌てつつ狗巻の好感度は稼いでおかないと、と考える美琴

 

 

 

とても騒がしい朝であった。




作者が楽しいだけの3本立て

ごめん、みんな恋愛者とか見たかったよな………でも作者はこういうほんわかした話が好きなんや。

キャラのラインナップをこの三人にした理由???
ごじょさんは前から言われてたから
伏黒家は普通にみんな気になってるかなって
狗巻くんは作者が!!!!好きだからです!!!!!

ごじょさんの夢小説も伏黒さんの夢小説も多いのに!!!!なんで!!!!狗巻くんの夢小説は少なめなんだ?!?!
もっっっと!!増えてくれ!!!!供給をオイラにください!まじで!!!!!
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