ジョジョ世界に転生してヒャッハーと思ってたら怪異ポジションだった   作:b畜農家

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あやかし狐かく語りき

 

「なぁ承太郎、しぐるるやしぐるる山へ歩み入るって言葉を知ってるか?」

「あん?」

 

 掃除用具を傍らに縁側で休憩していたオレは、リビングでテレビを眺める承太郎に向かってそう問うた。テレビで相撲を観戦していた承太郎は、物憂げな視線を虚空にやっていたが、しばしの後、

 

「“時雨(しぐれ)の降る山へ入っていこう。たとえ雨のようによくないことが待ち構えていたとしても私は歩むことを止めはしない”とかいう内容だった気がするが、詳しくは知らねーな」

「大当たりじゃん。急な天才ムーブどうした?」

「ムーブ?・・・・・・ケッ、おべっかを言っても駄賃はやらねーぞ」

「んなもんわかってるよ、何年の付き合いだと思ってんだ」

「まだ3ヶ月の付き合いだ馬鹿野郎」

 

 そうだった。

 オレが承太郎の家に住み着くようになってからまだそれだけしか経ってない。季節は夏だ。コンクリートの大地はもわりと蒸れて生命を許さず、どこかの草原で金色の花が青空に頭を伸ばす時期である。

 

 オレは空条家にすっかりなじんだ。ここで働いてわかったことだが、ホリィさんはこの家の家事をひとりで回してきたようだ。なので新たに男手が来てくれたことを心から喜んでくれていた。オレの存在が向こうにとって有益になるのならこんなにうれしいことはない。

 

 朝6時まえに起きて、洗濯ものを回す。その物音で起きてきたホリィさんとひとつふたつ世間話をしながら物干しを済ませ、雇用条件(庭の手入れ)を済ませる。夏場なので当然雑草の伸びは早いが、工夫して根っこから草を抜いているのでホリィさんは大助かりだそうだ。

 

 承太郎が(結構な頻度で早引けするが)学校に通ってる間は、彼女と一緒にこまごまとした家事をやって、それからは1日で一番楽しみな時間が待っている。オレは涼しい部屋で『Dr.スランプ』とか『北斗の拳』を読んだりして、ホリィさんはテレビを見るか買い物に行くか、友達とお茶会だ。

 今日はホリィさんはPTA総会に呼ばれたので不在だ。オレは案の定早引けしてきた承太郎のお守ってわけ。 

 

「しかし、白洲の掃除までしてくれるとはな。テメーをちょいとばかし軽く見ていたぜ」

「おいおい、どういうこったい」

「言ったことしかやらねー()()()()()の奴かと思ってたってこった」

「失敬だなー、お前」

「初対面で色仕掛けをカマしてきた奴はどこのどいつだ。信用できると思うか、そんなヤツを」

「やむにやまれぬ事情ってやつだよジョジョ~。オレがいくら高身長美男子だからってそんなヒガむな」

「ほざけ、デクノボウが。おめーの身長なんざすぐ越えてやるぜ」

 

 オレは冷たいフローリングをぺたぺたっと渡って冷蔵庫を開けると、冷えた麦茶をコップに注いで一気飲みした。ついでにアイスをもらおうとして「やめろ、おい」とふくらはぎを蹴られる。

 

「フリですよフリぃ~、へへへ」

「言い方がいちいちホコリくせえんだよ・・・それで、さっきの話はどういうわけだ」

「さっきって?」

「そのナリでボケてんのか。種田山頭火の俳句のことに決まってんだろ」

「知ってんじゃん」

「なんで唐突にあんな話をしてきやがったんだ?俺は子どものころ『刑事コロンボ』をよく観ていたもんでな、一度気になったら夜も眠れねぇ」

「けっこう難儀なタチしてんのなー、オメー」

「うるせえキツネ野郎。さっさと答えな」

 

 ホリィさんもいないし、今がこれからのことを話し合う機会なのかもしれないな。そう考えたオレは、椅子に座ると2杯目の麦茶をちびちび飲みながら、

 

「いやなに、お前の将来にはとんでもない未来が待ち構えているんだけども、あの俳句を知っているのならきっと安心だなって思ったのさ」

「・・・・・・・・・・・・───どういうことだ」

 

 承太郎の瞳が、にわかに剣呑な光を灯した。

 

「それはあのアマにも関係しているのか?」

 

 オレは黙り、それからミステリアスな表情を作って返した。

 

「ああ。関係している」

「説明しろ」

 

 ずお、と、まるで承太郎を中心にブラックホールが形成されているような超重力を感じる。

 オレは乾ききった口を茶で潤し、言われた通り説明を始めた。

 

「お前はこれから、巨大で壮大な運命に巻き込まれていくことになる。それは強く、渦潮のように抗い難い力の『流れ』だ。それにお前の身内や仲間も、否応なく飲み込まれていくことになる。お前、今いくつだ?15か?16か?ああーっと・・・」

「16だ」

「そうか。そんなら1年くらいした後に、お前はその運命へ立ちむかわにゃならん」

「おい、おふくろは大丈夫なのか」

「ホリィさんが心配かね?」

「当たり前だろうが」

 

 承太郎の目は冷静そのものだったが、よーく見ると瞳が小刻みに震えていた。

 当たり前だ。自分の身内が不幸に巻き込まれるかもしれないって聞いて、冷静でいられるわけないよ。きっと「なんでもっと早く言ってくれない」とか「そんなこと知ってていままでノンキに暮らして来たのか」とか、胸倉掴んで怒鳴りつけたい気持ちでいっぱいなんだろうな。そういう想像をしても何とも思わない辺り、自分が人間じゃないことを実感する。

 そんなことを思いながら、オレは答えた。

 

「ああ。ホリィさんもその『流れ』に巻き込まれて、死にかける」

「・・・・ッ」

 

 ああ、そうだよな。言いたいこと、痛いくらいわかるぜ。

 でもオレからのアドバイス、真面目に聞いてくれよな。

 

「だがいいか承太郎。どうあがいても運命は唐突に、お前にとっちゃかーなーり理不尽な形で降りかかることだろう。今からどうにかしようとしても、どうにもならねぇ。恐れるな、乗り越えろなんて軽率なことは言わねえ。ただ自分にできる最善を尽くすんだ。いいか?“障害(しれん)”は乗り越えるもんじゃあねえ。努力して力をつけて、そのクソみてえな運命から大切な誰かを守り切ることに価値が宿るのだぜ。どんなクソみてえな状況でもな、努力をして力を合わせれば必ず活路が開かれるものなのだぜ」

「俺にできる最善を・・・」

 

 承太郎は目を伏せ、言葉を反芻しているようだった。

 

「もちろん、オレも力を尽くすぞ。たった3ヶ月かもしれねえが、オレだってホリィさんやお前の人柄がどんなものなのかはよーく知ってる。そんなお前らをブタ箱以下の人生にブチこんでたまるか。そんな、神様がチンポいじる片手間で放り込んできたみたいな、雨に濡れる方がマシな不運(あくい)を見過ごしておけるかってんだ。理不尽な悪意に見舞われることがあるのなら、理不尽な善意に見舞われたっていいはずだろ?」

 

 ま、オレの気持ちは8割以上エゴだがな、と軽く笑うオレに対して、承太郎は(相変わらず)ゴルゴみたいな顔で考え込んでいたが、ふいに言った。

 

「違うな。『運命』というのは切り拓くモンだ。飼い犬みてえに舌をハアハア突き出して媚びるもんじゃあねえ」

「・・・そういう解釈もあらぁな」

 

 淡く緑のかった瞳には、力強い意志がこめられていて。

 やっぱり承太郎は、このころからすでに『ジョジョ』だったんだなと強く実感させてくれた。

 それきり、承太郎は盛り上がって来た相撲中継に意識を戻した。

 コイツはもともと口数が多い方じゃあない。多分このころから「言わなくても伝わる」と思っているのだろうし、周囲もそれでいいと考えていた。だが、そういう性格が原因で承太郎は後々悲しい人生を送ることになってしまったのだ。これも、少しずつ矯正していかなきゃいけねえよなぁ。

 

 

 その時与次郎の、頭頂から伸びる耳がぴくぴくっと動いた。

 リラックスしていた尻尾がアンテナめいて立ち上がる。

 

「誰か来たっぽい」

「おう、俺が行くぜ」

「や、オレが行くよ。そんなツラしてたら相手が怖がっちまうぜ」

「おめーみたいなデカブツに出てこられてもビビるだろうがな」

 

 与次郎は耳と尻尾だけ引っ込めて、玄関へ向かった。

 承太郎はシンクから水を汲んで飲むことにした。

 蛇口に指が触れた瞬間、あちらの方からひゃああと、先細りした悲鳴のような音が聞こえて、すぐ止んだ。

 思わずそちらに走り、玄関口で承太郎は珍しく困惑した。

 白目をむいて気絶している中年の男を、与次郎が抱き支えている。

 ツンと鼻を刺すアンモニアの臭いに思わず眉をひそめる。

 

「何があった」

「いやあ、包丁向けられて金よこせって言われたからよォ、ちょっぴりおどかしただけだぜ」

「『ちょっぴり』の割には、ソイツは小便を漏らしたよーだがな」

「本気で脅かしたらそれどころじゃあないぜ」

「まあ、化け狐がマジになったら間違いないだろうな」

 

 強盗を縛り上げてリビングに転がした二人は、警察が来るまでの間再びのんびりとテレビを観始めた。

 

 

スタンドの呼び方

  • 漢字のほうがかっこいいぜ
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