冒険者、転スラの地へ   作:全智一皆

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第四話 いざ国へ

 

■  ■

 牙狼族を見事撃退し、さらには『名付け』を終えたリムルは案の定ぶっ倒れ、3日という間眠る事となっていたらしい。

 あなたはそんな事も知らずにぶっ倒れたリムルに遠慮なくカプセルを投げたのだが、結果から言えばリムルをペットにする事は出来なかった。

 捕獲は、モンスターは弱らせれば必ずゲットする事が出来るという訳ではなく、一応レアモンスターやボスは捕獲する事が出来ないという制約があるのだ。

 この場合、リムルはレアモンスターな為、捕獲する事が出来なかったという訳である。

 あなたは絶望した。固定アーティファクトを失くしてしまった時ぐらいに絶望した。リムルを捕獲出来ないなんて世界はどうなっているのだろうか。

 

『マジで何考えてんのオマエ!? 人が眠ってる時に捕まえようとするやつがあるかっ!』

 

 リムルは憤慨していた。そりゃそうだ、味方から捕獲されようとしていたのだから。実に残当であるが、しかしあなたは知らん顔だ。

 何も悪くない。悪くないったら悪くない。強いて言うならば、極めて優秀なリムルが悪い。

 

『言うにかいてそれか!? 眠ってはいたけどしっかり意識あったんだぞ俺!』

 

 威嚇する猫の様に、背中をそそり立たせて吠えるリムル。スライムなので体は丸いし、どちらかと言えば背中というより頭がそそり立つ様子ではあるが。何とも面白い絵面である。

 しかし、睡眠を取っているというにも関わらず、意識をしっかりと保つ事が出来るものなのかと、あなたは怒られている事など気にも留めず驚くばかりだ。

 ノースティリスの人間には、『怒る』などあまりにも無意味な行為である。

 あの世界の人間―――冒険者は、どれだけ叱られようが、どう殺されようが、次の日にはケロッとして平然と繰り返す。固有アーティファクトを持っている住民が街に居れば、アーティファクトが落ちるまで数十回は殺人をこなす。

 あなたがそうだ。ポート・カプールの料理人、紅の英雄ロイター、混沌を這いずる者、収容所のガード等々……あなたが殺してきた人間の数は、決して両手では収まらない。

 しかし復活させれば次の日には何事もなかった様に過ごす。それがノースティリスである。

 

「我が主、どうかお気を確かに!」

「リムル様、主にどうこう言っても効き目は薄いかと」

 

 二つの鋭い角が生えた巨体の狼が一匹、姿が変わっていないというのに明らかに雰囲気が変貌している狼が一匹。計二匹がリムルを窘めていた。

 巨体の狼は、牙狼族のボスの隣に立っていた狼だ。リムルから『嵐牙』という名前を与えられ、牙狼族という種族から『嵐牙族(テンペストウルフ)』へと進化を遂げたらしい。

 姿は一切変わっていないものの、雰囲気が明らかに他の狼達とは全く異なる狼はシリウス。あなたが自ら名前を付けた、この世界における初めての仲間(ペット)である。

 種族として嵐牙族に進化した影響で能力値も上昇し、基礎を鍛えながら終末狩りに勤しんでいる。早々にあなたの在り方に慣れつつある優秀なペットだ。

 

『お前は…』

「はっ、主よりシリウス(犬の星)の名を頂きました。主のペットとして恥ぬ様、日々を《終末》に費やし努力しております」

『待て今すっごい単語が飛び出してきたぞ。《終末》って何!? お前自分のペットに何させてんの!?』

 

 無論、終末狩りだとあなたは堂々と答える。

 《終末》―――と呼ばれる現象がノースティリスには存在する。

 武器に付与されたエンチャントの内、『終末が訪れる』という内容のエンチャントが刻まれている武器を振るう事で稀に発生する現象だ。

 人々に害をもたらすエーテルの風が吹き荒れ、その周囲には超強力なドラゴン達が出現する。文字通りの《終末》が其処には訪れるのだ。

 終末狩りとは、その終末によって出現したモンスターをペットに倒させる育成方法である。

 終末によって現れるドラゴン達は強力な個体ばかりだ。廃人であるあなたにしてみれば戦い慣れた相手だが、この世界においてドラゴンは珍しい存在との事だ。

 予測が当たっているならば、おそらくこの世界の住民では到底太刀打ち出来ない存在となるのは間違いない。

 

 しかし、だからと言ってペットの育成に使わないという手はない。そもそもペットになったのならば幾ら死んでも復活出来るのだから、一度や二度死んだくらいで気にするものでもない。

 リムルもどうだ、強くなれるぞ? とあなたが良い笑顔で誘うと「やるかバカ!」と拒絶されてしまった。強くなれるのに…勿体ないと、あなたは肩を竦めた。

 まぁ、それはそれとして。

 ゴブリン達が仲間となって数日と経った訳なのだが、あなたには二つの懸念があった。

 一つは家だ。この村の家は、もはや家と呼べるようなものではない。屋根は干草で覆われているだけだし、芯となる柱の組み立ても酷く雑でしっかりとしていない。

 これでは嵐が来た際に呆気なく吹き飛ばされてしまうだろう、そう確信するのは容易だった。それ程までに信頼がない建物なのだ。

 二つは衣服だ。あなたの衣服は決して劣化する事はなく、纏う鎧もまた劣化も老化もしない。そういうものだからだ。

 だが、この世界の住民であるゴブリン達はその限りではない。そもそも彼らは、我々が知る様な衣服を身に纏っていない。雄も雌も等しくだ。

 雄ゴブリンは下半身を隠す様な布切れを纏うだけ、雌ゴブリンは上半身の胸辺りと下半身を隠す布切れを纏うだけだ。雄は兎も角、雌ゴブリンの格好は色々と危うい。ノースティリスでもあそこまで危うい格好の人間はそう居ない。

 あなたはさして気にする事はないのだが、雰囲気的にもまともな衣服を手にする事は重要な筈だ。

 

 要するに、衣食住の内の衣と住がこの村には揃っていないのだ。ついでに言えば、武器も潤沢しているとは言えない。自衛の手段が少ないという問題点も抱えている訳だ。

 あなたは冒険者だ、常にこの村に留まる訳ではい。だが、この世界ではこの村があなたにとっての自宅になる場所だ。自宅となる場所が常にみすぼらしいというのは、あなたとしても思う所がある。

 それを解決する為に必要となるのは―――

 

「ドワーフですね、主」

 

 あなたの考えを読んだ様に、シリウスが答えた。

 その通りだと、あなたは頷くとそれに連なって村長であるリグルドとリムルも確かに…と考え込んだ。

 ドワーフ。鍛冶師の代名詞とも言える種族である。

 ドワーフと言ったら鍛冶師、鍛冶師と言ったらドワーフ。そう言葉に誰もが頷くと言っても過言ではない程に、鍛冶に精通した存在だ。

 ドワーフという訳ではないが、ドワーフに近い種族である《丘の民》の中で、ノースティリスの著名的な鍛冶師で言えば、やはり『ミラル』と『ガロク』だろう。

 

 ノースティリスの雪原地帯に建てられた工房―――《ミラル・ガロクの工房》に居る二人の伝説の職人、ミラルとガロク。

 ミラルは小さなメダルという素材を消費する事で、固定アーティファクトやポーション、家具などを売ってくれる。また、あなたの荷車を改造してくれる。

 ガロクは装備と装備を融合する事で追加でエンチャントを付与してくれる『装備融合』、『装備融合』で追加されたエンチャントを再抽選する『再融合』、固定アーティファクトにエンチャントの容量を追加する『装備昇華』を行ってくれる。

 あなたもこの二人には大変お世話になった。固定アーティファクトである《賢者の兜》と《ディアボロス》には駆け出しの頃に何度も助けられた思い出がある。

 この世界の鍛冶師が、アーティファクトの改造を出来るか否かの問題もあなたには重要だ。

 鍛冶師に頼まずとも、《装備強化の巻物》という巻物を使えば武器の強化は可能なのだが、生憎とあなたは普通の巻物も祝福された巻物もそこまで持っていない。

 

 まぁ、出来なくとも帰った時に強化すれば良いだけの話なのだが。

 

『ドワーフかぁ…リグルド、なんか知ってたりしない?』

「ドワーフとなれば、やはり武装国家ドワルゴンでしょう。あそこはドワーフの王国であり、我々も世話になっておりました」

『ドワーフ! やっぱり居るのかドワーフ!』

 

 どうやらリムルはドワーフに興味があるらしい。かくいう貴方も、この世界のドワーフには興味がある。

 武装国家ドワルゴン。ノースティリスにもパルミアという国があったが、あれとはまた違うのだろう。

 それらも含めて、大変興味深い。是非とも行くとしよう、早急に。

 

『いや早くない? まだ準備も何も伝えてないんだけど』

 

 それは承知の上だ。何故なら、あなたは最初からシリウスと共にぶっちぎって行くつもりなのだから。

 

『はぁ!?』

 

 あなたは冒険者だ。本音を言うならば今直ぐ旅がしたい。

 未知がどこかにあるならば、それを見つけたい。冒険者であればそれくらいの欲はあって当然である。然るべきだ。

 別に逃げ出したい訳ではないのだ、ただ旅がしたいだけ。

 要するに、一足先に出て色々見ておきたいという訳だ。現地集合には何ら変わりない。

 

『偵察の意味もあるって事か…』

 

 そういう意味も含めている、とあなたは頷く。

 しかし、リムルは依然として難しい顔をしたままだ。スライムだが顔を顰めた様な表情が写っている。

 何も難しく考える必要はない。ただ、副リーダーが直々に偵察に行こうというだけの話だ。

 

『いや、お前何仕出かすか分からないし…』

 

 失礼な物言いである。あなたは心外だと肩を竦めた。

 シリウスに声を掛け、あなたはその上に騎乗する。良い乗り心地だ、妹猫よりも大変心地がいい。友人のエヘカトルの猫と戯れた事はあるが、やはりあなたは犬派の様だ。

 さぁ、行こうシリウス。冒険の始まりだ!

 

「ハッ!」

『っておい!? まだ許可してないって早いなおい!?』

 

 あなたは風よりも疾く駆け抜けた。

 かなり清々しい。これは楽しい旅になりそうだと、心が躍った。

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