冒険者、転スラの地へ   作:全智一皆

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第六話 ドワルゴンは最高だぜ

 

■  ■

 あなたがゴブリン達の集落を立ち、武装国家ドワルゴンに到着してから二日が経過したという頃。あなたは武装国家ドワルゴンという大国に、拍手喝采を送りたい気分で一杯になっていた。

 素晴らしい! ドワルゴンは本当に素晴らしい! こんなにまで素晴らしい国が今まで有っただろうか! あなたは心の底から、ドワルゴンという国を賞賛していた。

 揃う武具の完成度の高さは勿論、何より家具がしっかりしている。ノースティリスの国で、こうもしっかりとした武器と家具を手に入れる事は決して容易ではないだろう。

 流石に《固定アーティファクト》が売られていた訳ではないものの、ノースティリスにこの国が有ったならば駆け出し時代がどれだけ楽になった事だろうか。

 《鑑定》してみたら、どれもノースティリスにあれば序盤では沢山お世話になれる性能の武器ばかり。《固定アーティファクト》が無いのは本当に残念だが、これはこれで素晴らしい代物だ。

 買うお金がないのは残念だが、しかし見ていて心は晴れるというもの。国でこれなら、ダンジョンやモンスターからドロップするアイテムはさぞかし良いものだろうと、あなたは別の期待に胸を膨らませていた。

 

「お、来たかい旦那!」

 

 今日も今日とてドワルゴンの街を歩いていれば、一人のドワーフが声を掛けてきた。

 あなたはドワルゴンに来てからまだ二日しか経っていないが、しかし《鑑定》による品定めと愛刀の存在によって多くのドワーフ達から既に認知されているのだ。

 ドワーフの名はカイジン。二日という短い時間の内に見たドワーフ達の中でも、あなたが特に良い職人だと思ったドワーフである。

 彼が打つ武具は良いものばかりだ。ミラルとガロク以外に大した腕を持った職人を知らないあなたからすれば、カイジンはとても良い鍛冶師だ。

 そんなカイジンに、あなたはどうか武器を打ってほしいと頼み込んだばかりである。つい昨日の事でたる。

 あなたがその話をすると、カイジンはそれなんだが……と申し訳なさそうな表情を浮かべた。

 

「貰った素材でどうにか打てないか考えたんだがなぁ……片方の素材、竜鱗ってのが強過ぎて話にならん」

 

 なんという事だ。あなたは残念そうに肩を下げた。

 あなたはカイジンに『竜鱗』と『アダマンタイト』という二つの素材を渡し、これで武器を打ってくれと頼んだのだが、どうやらドワルゴンの技術ではこれらを素材として武器を造る事は難しいらしい。

 ノースティリスで殺したドラゴンの数などもはや憶えてはいないが、その所為で竜鱗は溜まる一方なので消費したかったのだが、どうやらそう都合良くはいかないらしい。

 ダイヤやエメラルドの方がよく出るし生産性にも優れているという理由から、基本的に売却ばかりだった竜鱗をようやっと活かせると思ったのに……落ち込んだあなたを慰める様に、愛刀がカチカチと鍔を鳴らした。

 

「いやぁ、本当に申し訳ねぇ。一応もう一つの方は作れたんだがな」

 

 カイジンがそれを言った瞬間、あなたは落ち込み具合を吹き飛ばしてバッと顔を上げた。それを最初に言ってほしかった! と。

 アダマンタイトはノースティリスにおいても、かなり貴重な素材の一つだ。巻物を何枚も使った周回でようやく手に入れた憶えがあるくらいには出ない、貴重品である。

 重量級素材の代表格、防具として造り上げたならば全素材中最高の数値を叩き出す代物。武器として使っても、エーテルに次ぐ攻撃力を叩き出す優れものだ。エーテルの様な使用する事でリスクを伴うものと比べると、ノーリスクで良いダメージを叩き出す武器としては最高峰の代物である。

 あなたは最初から愛刀を持っていた為、そう多くお世話になった訳ではないけれど、あなたは友人から何度もそう聞かされた。

 あなたは是非とも見せて欲しいとカイジンにお願いした。

 

「元から見せるつもりだったさ。俺もあんな最高の代物で打てるとは思わんかったからな。そら旦那、とくとご覧あれ!」

 

 そうしてカイジンが取り出したのは、美しく輝く刃を持った白金色の刀だった。

 《☆アダマンタイトの大太刀》。

 刃長にして約86cm。武器種で言えば大太刀、或いは野太刀に分類されるものだろうか? 《固定アーティファクト》である《斬鉄剣》と見紛う程の完成度に、あなたはとても、いやかなり興奮した。

 

「お前さんの《愛刀》程じゃねぇが、良い出来だと思うぜ。旦那が丁度よく良い魔鉱石を持ってたお陰でエンチャントも出来たしな! これならそこらの魔獣だって目じゃねぇ!」

 

 やっぱりドワルゴンは最高だぜ。あなたはそれを再認識して、名残り惜しそうに野太刀を見詰める。

 あなたはこの世界のお金を持っていないのだ。目の前に折角こんなに素晴らしい武器があるというのに、それを手にする事が出来ないというのはかなり心が苦しかった。

 ノースティリスの冒険者らしく、カイジンを今すぐ斬り殺してしまえば奪うのは容易くはあるのだが、あなたはノースティリスでも数少ない名工であるカイジンを殺す気にはなれなかった。

 そんなあなたを見て、カイジンは不思議そうに首を傾げた。

 

「何言ってんだ? こりゃ旦那のモンだぞ」

 

 マジか。あなたはまたもや驚いた。

 

「そりゃあ、あんな良い素材くれりゃあな。それに《愛刀》ちゃんなんて別嬪さん見せられちゃあ、良い武器を振るいたくなるってもんだ。まぁ、まだまだ愛刀ちゃんを越えるのは無理そうだがな!」

 

 カタカタと、愛刀が鞘の中で動いた。照れているらしい。本当に愛いやつ愛いやつ。

 あなたとしても、愛刀が褒められる事に悪い気はしない。寧ろ嬉しい限りである。ノースティリスでは愛刀を見る度にやべぇ奴を見る様な視線を向けるカスばかりだったので、とても新鮮なのだ。

 

「そういや旦那。今日はアンタの知り合いが来るんだろ? 迎えに行ってやらなくて良いのか?」

 

 あぁ、そういえばそうだった。

 あなたはカイジンに言われて、ようやく思い出した。あまりにもドワルゴンが楽し過ぎて完全に忘れていたが、そろそろリムルが到着する頃である。

 リムルが出発するよりも早く出た為、あなたは先にドワルゴンに辿り着いた訳である。当初は先遣隊として色々と報告を持って帰るつもりだったのだが、完全に楽しんでしまった。

 まぁ、過ぎた事は仕方ない。反省しよう。活かすかは分からないが。取り敢えず、今はリムル(ペット候補)を迎えに行かなければ。

 

「今なんか知り合いに使っちゃいけねぇ言葉が聞こえた気が……」

 

 気のせいである。気のせいったら気のせいである。あなたはそう力説し、野太刀を《カバン》の中へと収納してカイジンの店を出た。

 次は知り合いも連れてくる。彼も良い素材を持っているから、また頼む。と言うと、カイジンは勿論! と笑顔で手を振ってくれた。

 

 さて。カイジンの店を出たあなたは、さっそく門の方へと向かおうとするのだが、

 

『主』

 

 と、この世界におけるあなたの初ペットであるシリウスが声を掛けてきた。

 どうかしたか? と尋ねると、シリウスは言い辛そうにしながら答えた。

 

『先程、リムル様が門まで到着なさったのですが……どうやら破落戸(ならずもの)に関わってしまった様で。長の姿を真似て追い払ったのですが、その所為で捕まってしまったらしく……』

 

 えぇ……と、あなたは呆れてしまった。勿論それは嵐牙の姿を真似た事もあるのだが、破落戸を追い払うという甘さが大半だった。

 もしあなたが破落戸に絡まれたならば、言い訳を述べる暇も与えずに斬り殺している所である。相変わらずのリムルの甘さには、ついつい呆れてしまうばかりだ。

 まぁ、それはそれとして。迎えに行くべき友達(ペット)が捕まってしまったなら、どうしたものだろうか。

 あなたは暫く考えた末……

 

 よし。置いて帰ろう。

 

 そう結論を出した。

 

『お、置いて帰るのですか?』

 

 そういう事になる。と、あなたの言葉をオウム返ししたシリウスに頷く。

 あなたとしてはドワルゴンは十分に満喫出来たし、ぶっちゃけ後はリムルが一人―――スライムなので一体だろうか―――居ればどうとでもなる事だ。

 正直な話、あなたは交渉やら何やらは得意ではないし、どちらかと言えば苦手な部類である。飲んでくれるなら良し。飲まないなら仕方ない。文句垂れるならぶち殺す。それがあなたである。

 ノースティリスの冒険者、その《廃人》達の中でも比較的良識のあるあなただが、しかし良識があったとしても結局のところノースティリスの冒険者である事にも《廃人》である事にも、何ら変わりはない。

 あなたはあなたの価値観で動く。リムル(ペット)の為にも、今は彼を育ててやらなくては。

 さようならリムル。君の事は忘れない。

 

『ちょ、マジで帰んの!? おいウソだろ!? オレを一人にしないでー!』

 

 なんか牢に捕らえられたスライムから電波を受診した気がするが、きっと気のせいだろう。あなたは門を出てシリウスに乗り、堂々とリムルを置いて村へと帰って行くのだった。

 

 勿論、帰ってきたリムルから怒られた。ついでにカイジンからも叱られた。解せぬ。




《☆カイジンの大太刀》
ドワルゴンに住むドワーフ、カイジンが打った大太刀。アダマンタイトを使っているだけあり、その強度と重量、攻撃力は馬鹿には出来ない。しっかり強化したらドラゴンにも通用するかも。
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