気弱:気が弱いこと。また、そうした性質。
僕はこれなんだろう。小さな頃から気が弱く他者に対して何かを意見する事が出来ず、これってこうだよね?やこれやってくれるよね?と言われれば違うや無理と言えない性格だ。
だから………
「白夜くぅん!腹減ったからなんか買ってきてよぉ!勿論白夜くぅんの金でな!なぁ!みんなも白夜に頼もうぜ」
「じゃあ俺も頼むわ」「私の分もお願い」
「む……うん。わかった」
こういう奴らに目をつけられるのは当然の結果だったのかも知れない。たった一言無理と言えば済むかもしれないのにその一言が言えない。いつも次は無理って、やだって言おうと思っても奴らを目の前にしたら拒否が出来ない。
そんな僕の唯一の心の安らぎは星を見ること。
きっかけはよく覚えていないけど小さい頃にクリスマスプレゼントとして貰った天体望遠鏡で星を見てからその魅力に取り憑かれ、5年以上経った今でもよく星を眺めている。
ここ最近は天気が悪くあまり見れてはいないが……
「はぁ……明日だ。明日の卒業式で変わるんだ。明日の職業適性検査で……」
僕はそう呟きながらコンビニでお菓子を買い学校へ戻る。教室内では先程と同じようにあいつらがクラスの中心となってガヤガヤと騒いでいる。吃らずに言うために少し教室の外で言葉の準備をしてから扉を開けあいつらの元へ向かう。
「買ってきたよ。じゃあまた」
「ふん」
リーダーの男である斎藤は僕の手にあるお菓子の入った袋を無理矢理奪い取ったのを見て僕は自分の席へと戻る。
明日だ。明日までの辛抱だ。1年我慢したんだ。後1日だけ我慢すればこいつらとおさらば出来る。
今日の全ての授業が終わったのと同時にあいつらに捕まらない様直ぐに教室を出て小走りで廊下を駆け抜け靴を履き替え自転車に乗り家へと帰宅する。
「ただいま」
「おかえりなさい。手洗ってねインフルエンザ流行ってるんだから」
「うん。わかってる」
冷たい水道水に手を痛めつつ置いてあるタオルで手を拭き自分の部屋へ荷物を持って直行する。
「はぁ……本当自分の性格が嫌になる」
ベッドにバフっと制服姿のまま倒れ込み脱力する。
明日の職業適性検査ダンジョンじゃなきゃいいなぁ……あいつらダンジョン行かないかなぁ。
ダンジョン。それは日本、いや世界各地に点々と存在する謎の穴。今から5年に突如として発生した。
唯一僕らがわかっている事はダンジョンの中には人知を超えた生命体が蠢いていると言うことくらいだ。
そして現在その日本が管理しているダンジョンに行くのは職業適性検査で無能と出た者だけだ。
スマホでトゥイッターを見るとやはり明日の職業適性検査の事が多く呟かれている様だ。
「白夜起きてる?もう7時よ?」
「ごめん母さんトゥイッター見てた。今行くよ」
「職業適性検査の事?」
「うん」
「気にする事無いわ。世の中には沢山仕事があるんだもの。何の適性も無いなんて事はまず無いわよ」
「そうだよね」
スマホをベッドに放り投げて1階へと降りリビングへ向かうと既に父さんが帰ってきていた。いつもなら22時10時くらいまで帰ってこないのに。
「父さんおかえり。今日は早いんだね」
「職業適性検査のお陰だな。多分だが15歳の子供を持ってる親は全員早く帰ってきてるんじゃ無いか?明日も休みだし」
「そっか」
ありがてぇ。有給なしで給料が貰える休み。ありがてぇ。と言う父さんはめっちゃ嬉しそうな顔をして踊っている。あれはこの前テレビでやってた蝶の舞……?
ちなみに仕事自体は適性検査のお陰もあってか得意らしい。
「して、明日の職業適性検査の意気込みはどう?」
「やっぱりちょっと怖いね。何があるか分かんないし」
「父さんもな〜。あの時は怖かった。あぁそりゃ怖かった。母さんと離れたくねぇなぁって」
確か父さんと母さんは幼馴染だったんだっけ?
「だからこう思ったんだ。『スリザ○ンは嫌だスリ○リンは嫌だ』ってな」
「まだ先週のハリ○タに頭が侵食されてるの?頭叩いたら治るかしら」
「ヒッ辞めてください………と、とにかくもう検査は明日なんだし祈る事。それが父さんからのアドバイスだな!」
うん。普通の事だ。
父さんも言ったみたいに検査は明日だし今から出来ることなんて祈る事くらいだもんなぁ。
「白夜は運動神経も悪く無いんだし大丈夫よ。さぁご飯食べましょ。紗夜さやももうすぐ帰って来るだろうから」
「部活も忙しいんだったか?1年、もうすぐ2年生か。2年生でレギュラーだしな」
紗夜とは2歳下の妹で僕とは違い常にテストは上位5位以内を死守し部活では3年を抑えてのレギュラーを取っている文武両道で尚且つ美少女だ。そう美少女なのだ!!
最近はあまり仲良く出来ていないが昔は良く僕の後ろをテクテクと追いかけ「おにぃ」と呼んでくれていたが今は兄離れをしたのか僕の事を無視する様になったし「おにぃ」とも呼んでくれなくなってしまった………orz
「ただいま」
「おかえり。もうみんなご飯食べてるわよ。手洗ってから早くご飯食べなさい」
「わかったよママ」
そんな声が玄関から聞こえすぐに母さんが戻ってきて、少ししてから紗夜がリビングに入ってきた。ちょっと疲れ気味の紗夜も可愛い。
「紗夜おかえり」
「パパ?ただいま。今日早いね」
「明日白夜の検査があるからね」
「成る程」
そう言って紗夜は隣の席に座り黙々とご飯を食べすすめていくのを横目に見ながら自分の食器を流しへ持っていき風呂へ行く。
「風呂入ってくるね」
「えぇ」
服を脱ぎ身体を一通り洗って湯船に浸かる。あぁ〜と声を出しながら少し熱めのお湯に全身を沈め今日の疲れや嫌な事を全て落としていく。
「今日は星見れるかなー」
風呂場の小窓から見える夜空を眺めながら僕はそう呟いた。
次の日の朝。僕は余裕を持って学校へ到着する。いつもならパシられないよう始業時間ギリギリに登校していたが、今日は母さんに早く起こされたのもあって早く家を出てしまった。
教室に入り斎藤の席を見るがまだ来ておらず平和に何事もなく自分の席に座り始業時間が始まるまで顔を伏せて寝たふりをする。
後ろに座っていた女子生徒が白夜のその滑らかな動きに顔を引き攣らせているが白夜は気づかなかった。だって顔伏せてるんだもん。
しばらくボーっとしながら伏せていると担任の先生の「おはよう」と言う声が聞こえ顔を上げると既に先生が教壇の上に立っており、ちらりと斎藤の方を見るとまだ来ていなかった。
「今日は卒業式と職業適性検査です。ですが斎藤君が諸事情により欠席という事になってしまいました」
クラスの至る所からマジかー。斎藤のやつどうしたんだ?や斎藤君大丈夫かなぁ?と言った声が上がるが白夜はヨッシャァ!!と歓喜の叫びを心の中で上げていた。
決して声に出して言わないから心の中くらいは言わせてほしい。
グッバイ斎藤!!お前と2度と会いたく無いね!ばーか!
ふぅ。すっとしたぜぇ
溜まりに溜まった鬱憤を心の中で吐き出しつつ先生の方を見ると既に話が終わっていた。
卒業式なっがい………校長の話30分とか…要らないよそんなに。卒業証書の「はい!」と言う声と起立着席してそれとおっさんの話を聞くだけの時間が終わり、漸く職業適性検査が始まる。
「では卒業生の皆さん。只今より職業適性検査を開始します。名前が呼ばれたら壇上に上がってください」
1組から順番に呼ばれていく。僕は4組だからまだまだ先だろう。今のところダンジョン行きは誰もいない。2組が終わり……3組が終わり4組の検査が始まる。
僕の名前が呼ばれるのは6番目。
ドキドキする。心臓が破裂しそうなくらいバクバク言っている。
1人目が笑顔で戻ってきて2人目が行く。
2人目もやった!と親指を立てながら帰ってきて次の3人目が行く。
3人4人5人と繰り返していき遂に僕の番になった。
「香山白夜君」
「はい」
冷静に返事を返してゆっくりと壇上へ上がる。
「手をここへ置いてください。そうです」
手汗でびしょびしょの手のひらをズボンで拭い取り言われた場所に手を置く。ダンジョンはやだ。ダンジョンはやだ。と祈りながら機械を見つめる。
機械が動き出し僕の今までのプロフィールが表示され1秒、2秒、3秒、4秒、5秒。結果が出た………
「………適正結果、無能」
隣で見ていた教頭の声が体育館に響き体育館中が一気に騒つくと同時に壇上の左右から黒服のゴツい男2人が現れて僕を取り押さえる。
「ぐっ……」
身体を地面へと這いつくばされ両手に手錠が掛けられる。
痛いが抵抗はしない。あれだけ父さんと母さんに言われたけどダンジョンに行かされることはなんとなく分かっていたし諦めも既に着いている。
「抵抗するなよ」
黒服の男にそう言われ首を縦に振る。
僕が暴れない事を確認した黒服の2人は僕を抱えて何処かへ連行していく。
体育館を出て向かうのは駐車場。そこの1台の車の助手席へと押し込まれ学校を去りここ3年間毎日通っていた道を通る。
多分僕の家に行くんだろう。
「降ろせ」
運転席に座っている黒服の男の指示で後ろの席に座っていた男に強引に降ろされ、運転席から出てきた黒服の男が言う。
「坊主。1時間だけ待ってやる。家族と話してこい。荷物は用意してある。持っていきたいものだけ持ってこい」
背中を押されて僕は家の扉を開ける。
「ただいま」
「おかえり白夜。どうだった?」
パタパタとスリッパの音を鳴らしてリビングから出てきた母さんの言葉に僕は首を横に振る。
「うそ………」
母さんは腰を抜かして床に座り顔を手で覆う。
「ごめん」
「ううん。白夜のせいじゃ無い」
靴を脱ぎ捨て母さんの目の前に座り謝ると母さんは僕を抱きしめて涙声で呟く。
「大丈夫か?白夜」
「父さん……」
母さんの声を聞いた父さんと父さんに続いて紗夜もリビングから出てくる。
「おにぃ……ダンジョン行くの?」
「うん。無能になっちゃったからね」
「………」
母さんに続いて紗夜も僕に抱きついてくる。嬉しい。
「取り敢えずリビングに行こうか」
父さんはそう言って母さんを抱き抱えてリビングに行く。僕もそれに続き紗夜を抱っこしてリビングへ向かう。
紗夜軽いかと思ったら意外と重い。筋肉か?
ずっとくっ付いてくる紗夜をそのままにソファに座り残り時間を伝える。
「後1時間か……」
「取り敢えず写真撮ろう?」
僕の腕の中にいる紗夜がスマホを取り出し、家族全員で写真を撮っていく。勿論僕のスマホでも。
その後はずっと思い出話をしたりしながら気付けばあっという間に1時間経つ。
「死なないでね。白夜」
「わかってる」
僕だって死にたくないし。
「頑張れよ」
「うん」
頑張るに決まっている。
「………」
「またな。紗夜」
「うん。お兄大好き」
「僕も大好きだよ」
柄にも無い事を言い僕は玄関の扉に手を掛け、一言。
「行ってきます」
「「「行ってらっしゃい」」」
3人に見送られながら僕は家を出た。
Ж
家の外に出ると黒服の男が車の屋根の上に灰皿を乗せ一服していた。僕に気づいたのかタバコを灰皿で潰し腕時計を確認する。
「丁度だな。家族と良く話せたか?」
「はい」
「んじゃあ行くぞ。これから俺と5時間くらいのドライブだ」
ほら乗れ。と無理矢理車に押し込められて助手席に座る。
5時間も乗るのかと憂鬱になりつつリュックを抱えて家を見つめる。これから一生見れないかもしれない光景を目に焼き付ける為に。
「出発するぞ。シートベルト閉めたか?」
「えぇ」
「トイレとか行きたくなったら言えよ。車ん中で漏らされても嫌だからな」
「了解です」
僕だって漏らすのは嫌だ。恥ずかしいし。
車が発進し生まれ育った家が段々と遠ざかっていく。さっきの1時間で覚悟は出来ていたつもりだったけど………
「やだなぁ……」
「それが普通だよ。坊主。あんなところ物好きなやつだって行きたがらない。ダンジョンはそういうところだ。というか坊主は俺が見た中では1番大人しい。15歳じゃ無いみたいだ」
「他の人はどんな感じなんですか?」
「良くて泣き喚いたり呆然となったり。悪いと暴れたり最悪自殺しようとしたりするな」
確かにその中だったらまだ僕はマシな方なんだ。
僕自身ダンジョンに行くのは怖いし嫌だけど、そんなに喚くほどじゃ無い。
「まぁ狂わなきゃなんでもいいか。質問とかどんどんしてくれていいぞ。守秘義務がある事とか俺も知らねぇ事とかあるがな」
5時間黙っての運転は嫌だからな。と笑いながら運転している黒服の男を見ながらいくつか思い浮かんだ質問をしていく。
「スマホとかって使えるんですか?」
「ダンジョン内は電波が届いてねぇ筈だから使えねぇと思うが写真とか電波が要らない機能ならいけるんじゃねぇか?」
ならよかった。これで紗夜の写真が見れる。
僕のスマホのフォルダには紗夜の小さい頃から現在までの写真がいっぱい詰まってるからな。全く見れないとかだったら死んでしまう。
「後はダンジョン内ってどうなってるんですか?」
「それは正確には答えらんねぇな。ダンジョンにまず入るとすぐにとんでもなく広い街が広がっているらしい。そこで基本的には暮らしてるらしい。そこに坊主用の家もある」
「えぇ?家ですか?」
「おう。と言ってもアパートの一室だったりが殆どで一軒家なんて物はそうそう当たらないらしいがな」
ダンジョンすごすぎ。家貰えんのか〜。
アパートの1室がガチャで言うRで家はSRみたいな感じなんかな。
「んで、ダンジョンの中は俺も知らねぇんだ。街がある事くらいは噂で何度か聞くんだがそれ以外は全くだ。そもそも俺はダンジョンがある島まで行けねぇしな」
「そうなんですか」
この人もこれが本職って訳じゃなさそうだし詳しく知らないのも無理はないか。
「じゃあ次はお金についてなんですが、ダンジョン内って別の通貨とかになったりしてますか?」
「普通に日本円で取り引きできる。一応あのダンジョンも日本の領土扱いになっているからな。ちなみに物価とかは全然違うから当てにしない方がいい」
「銀行に預けてあるのは……「ATMがダンジョン内に置いてあるから問題は無い」あ、そうですか」
んー。後なんかあるかな?こう言うのって実際に行動した時にあれ聞いとけば良かったなぁって思うんだよな……
うんうんと悩んでいるのを横目で見た黒服が話し出す。
「もう無いか?」
「今パッと思いつく物はないです」
「そうか。まぁ時間はたっぷりとあるし思いついた事を質問してくれれば良い。俺も運転しているだけじゃ暇だからな」
黒服の男はそう言い置いてあったコーヒー缶を口に付けた。
その後は休憩を1時間おきくらいにとり漸く到着した。
「おい。坊主起きろ。着いたぞ」
「んぁ?あっ。すいません寝てました」
目を覚まして周りを見渡すと僕達が乗ってきた車と同じ車がズラーっと並んでおり、その車達の横にその車が乗せてきたであろう僕と同じ無能判定をされた人たちが黒服の男に腕を押さえられながら立っていた。目の前には海に掛かった巨大な橋が堂々と存在している。
「全く呑気な坊主だ。ほれ降りろ」
言われた通りに僕は車から降りるとヒューっと冷たい風が身体中に当たる。クソ寒い。暖かい車の中に戻りたい。
「あ〝ぁー。なんか羽織るもの持ってくればよかった……」
「そのくらい我慢してくれ。これを渡しておく。坊主の家の鍵とその家の場所が書いてあるマップが入っている」
ありがとうございます。と黒服さんから僕の名前が書かれた茶封筒を貰い中を確認すると同じ鍵が2本と紙が入っていた。
「坊主。18時になったら目の前のこの橋を渡れ。ここから先に進めるのは坊主達だけだからな」
「……了解です」
橋の真ん中に浮くように取り付けられている巨大な時計。
それがカチカチ、と静寂な空間の中で時計の針の音が響き渡る。
後数分の筈なのにそれが妙に長く感じる。
「長いですね」
「まぁそういうもんだ」
「そういえば名前聞いてませんでしたね」
「あ?そうだな。俺の名前は黒田半蔵だ」
「香山白夜です。ではそろそろ時間なので。行ってきます」
「おう。生きろよ、白夜」
黒田さんにペコリとお辞儀をして橋へ歩いていく。
何処からともなくゴーン……ゴーン………ゴーン………と綺麗な鐘の音が鳴り響く。
橋の先を目指して。