ジンはカナに言った通り、
「これが生体リンク魔法か」
かれこれ50個ほど破壊したが、全くダメージを受けた様子はない。思ったよりも順調でジン自身も多少驚いている。
「フン……こんなものか。このペースならすぐに終わりそうだ」
「そうはいかないぜジン」
「ッ!?ラクサス!?」
突然、ラクサスがホログラムとしてジンの前に現れた。神鳴殿を破壊されていっているというのに彼の顔には焦りが全く見えなかった。
「神鳴殿を破壊されるのは想定していたさ。俺がお前に対してなんの対策をしてないと思ってたのかよ?空を見てみろ」
ジンはラクサスに言われた通り、空に視線を移す。そこには先程壊した神鳴殿が復活していたのだ。復活とはいえ再生されたわけではなく、新たに設置された神鳴殿が空に大量に浮かんでいたのだ。
「まさかお前……俺の魔法を知っていたのか」
「ジジイから昔こっそり聞いたんだよ。お前の魔法は属性を無効化出来るってよ。だがな……その無効化するのにも魔力がいるはずだ。こうなることを見越してオメェ専用に俺は神鳴殿を大量に用意してある」
ジンは通信越しにラクサスを睨みつける。つまり、神鳴殿を止めるにはラクサスが用意した未知の数の神鳴殿を破壊しなければならない。流石のジンもここまでの量の神鳴殿を相殺し切れるかは本人でさえ分からなかった。
「根比べといこうぜジン。オメェの魔力が尽きるか……俺の神鳴殿の貯蔵が尽きるかをよォッ!」
「……いいだろう」
だからとてやることは変わらない。とことん付き合ってやると豪語してジンはラクサスに背を向けた。
「フッ…フハハハハッ!その澄ました顔が歪むのが楽しみだぜ。言っただろ?後悔させてやるってな。お前はそこで他のメンツがやられるのを指を咥えて待ってるんだな」
「お前こそ首を洗って待っていろ。天を翔る龍は雷をも喰らう……俺がお前の元へ辿り着いた暁には、礼として空から引き摺り下ろし、地べたを舐めさせてやる」
「ハッ、出来るもんならやってみな」
背中越しに聞こえてくるラクサスの言葉を返し、そこでラクサスの通信が途絶える。ジンは気合いを入れ直し、魔力を込めて再度、神鳴殿の破壊を続行する。
その途中、誰かが魔水晶に向けて突っ込んでいくのが見えた。
「アイツは……ジュビアか!」
身体を水にして突っ込もうとするジュビアを見て、それを阻止しようと遠距離から龍属性魔法を放った。
だが、それはフリードの術式によって阻まれてしまい、ジュビアは魔水晶を壊す。代償として雷を喰らったジュビアは地面へ堕ちていった。
「クソッ……あそこは術式が張ってあるのか……」
空にも及ぶ結界なので、ジンの遠距離魔法も通らなかった。ジンは彼女と一緒に行動していたカナが術式に閉じこめられ、ジュビアがああすることしか手はない状況に追い込まれていることを察知する。
▽
少し前、カナとジュビアは共に行動してラクサスの居場所を突き止めようとしていた。
しかしそこで雷神衆の1人であるフリードと対峙する。フリードを追いかける2人だが、そこで彼の罠に嵌り、術式に閉じ込められることとなる。
「くっ!術式が!」
「こうやって皆さんが強制的に戦わされたんですね……」
勝者が出るまで術式が解かれないこの状況で、フリードは外からそれを傍観している。
「さぁ、戦え。勝者とは俺が戦ってやる」
「フリード卑怯よ!こんな術式なくても私が相手になる!1人でかかってきなさいよ!!……それとも何?女2人を相手にビビってるの?情けないわねフリード!!」
「俺自身の手をあまり汚したくないだけなんだがな」
「何だとテメェッ!!」
自分の手を汚さないやり方に激昂するカナ。フリードはカナの煽りに動じることはなかった。
「出来ればカナが残ることを期待しているよ。ジュビア・ロクサー……お前は所詮ファントムの女…いつ裏切るか分かったものじゃないからな」
「!」
ジュビアは自身にとって痛いところを突かれたからか、表情を暗くして黙り込んでしまう。幽鬼の支配者がやったことを考えれば、ジュビアはそれに言い返すことはできなかった。
「フリードォ……テメェッ!!」
カナは確かにフリード同様、ジュビアやガジルを警戒していた時があった。しかし、短い時間といえど一緒に過ごしていく内に彼らのことを知り、彼らにも仲間を想う気持ちがあることを知ったことで次第に少しずつだが仲間と受け入れていったのだ。
それを何も知らないフリードに好き勝手言われるのが我慢ならなかった。
「……こうなったら仕方ありませんね」
「そんな…ジュビア!?本気なの!?」
ジュビアは何か意を決した顔で身体を水に変える。
「ジュビア!?一体何を!?」
そのままカナに攻撃するかと思われたが、彼女は見えない壁を蹴るように移動しながら水を上昇させ、どんどん高い所へと向かっていった。
「無駄だ!いくら飛んでもこの術式からは逃れられない!!」
「仲間を傷つけるくらいなら……ジュビアは道で良い!!」
彼女は魔水晶に向かっていた。自分が犠牲になることでカナを術式から出そうとしているのだ。
「なっ!?まさか神鳴殿を!?」
「ダメよジュビア!それを壊したら!!」
ジュビアは魔水晶を躊躇なく破壊した。その際、満足そうにカナに向けて微笑みを届ける。
カナは微笑んでくれたジュビアの顔を見ると胸がキュッと締め付けられたような感情を抱いた。
「ッ……アァァァッ!」
ジュビアは身体が水なので、人よりも雷が通りやすい身体のはず。故にそのダメージは計り知れないだろう。堕ちていくジュビアをカナは受け止め、身体を揺さぶった。
「ジュビア!ジュビア!しっかりしてよ!何でこんなバカな真似を!?」
「これで…術式は解けました。……ジュビアは認めてほしかった……妖精の尻尾の仲間だって。みんなが……優しいみんなが……ジュビアには眩しくて……少しでも近づきたかった」
「何言ってんのよ……私達はもう仲間じゃない!認めるも何も……あなたは立派な妖精の尻尾の仲間よ!!」
涙を堪えて絞り出すよう答えてくれたカナに、ジュビアは満足そうに笑みを浮かべ、力尽きてしまう。
「……良かった……」
「な、何だこいつは……自分よりもカナを優先して自ら傷つくだと……!?」
フリードは分からなかった。ジュビアが何故自分を犠牲にしたのか。敵だった者が仲間を守ろうとするなどあり得ないと思っていたからだ。
カナは武器であるカードを構える。ジュビアの仇を討つ為、堪えていた涙を流す。怒りを力に変え、果敢にフリードに立ち向かった。
「……フリィィドォォォォォッ!!!」
▽
一方その頃。ガジルはナツとジンとは別行動をしていた。ギルドを出る前にレビィに忠告されていたことがあったからだ。
『いい?ナツ、ガジル、ジン。街中にはまだフリードの術式がある。アンタ達がひっかかったら元も子もないんだからここを出たら別行動しなさい』
そう3人にそう告げていた為、彼らは単独で行動していた。ナツはラクサスの匂いを辿ろうとしたが、街には人々が大勢いる為嗅ぎ分けるのが難しく見つけるのに手間取っていた。
ガジルもまた木の上に上り、ラクサスを探していた。
「へっ火竜にもいずれ雪辱を果たさなきゃならねぇが、まずはあの増長した雷兄さんを潰す。ずいぶんとやってくれたからな。……問題はねぇよな?マスターイワン」
ガジルの横には人型の小さな紙が浮いていた。何者かと通信をしており、マスターイワンと呼ばれる者が怪しい笑い声を漏らしながらガジルの問いに答えた。
『あぁ。今は仲間だと信頼を得る事が重要だ。気づかれるなよ。妖精の尻尾の一員として行動しろ。妖精の尻尾に罰を与えるのはまだ先だ』
「ギヒッ、了解」
不穏なやり取りにガジルは何の不満も抱かずにそれを了承した。
『それはそうとラクサスと戦うんだったな。だとしたら十分に気をつけろ』
「あ?どういうことだ?」
確かにラクサスが強いことは知っている。だがわざわざ忠告までするとは、何か特別なことがあるのだろうと予想した。
『まぁ元々はあの
ひっそりと話すようにガジルはマスターイワンの言葉に耳を貸す。
「!?」
その言葉を聞いた瞬間、ガジルは驚きの声を上げ、マスターイワンとの通信が切れた後も暫く動かなかった。
▽
ミラとアイルは倒れている仲間を発見しながら応急処置に尽力していた。
その途中でエルフマンを発見。エバーグリーンにやられたことから他の者よりも受けた傷は酷く、応急処置をして安全な場所へ連れて行こうとしていた。
「姉ちゃん…アイル……すまねぇ」
自分の不甲斐なさを謝罪するエルフマン。落ち込むエルフマンに対してミラは首を横に振った。
「いいのよ。私にできることはこれくらいだから……」
「大丈夫!きっとジン達がやってくれるよ〜!」
「えぇ、そうね」
希望を信じ、目的地に向けて歩いていく3人。すると、ミラ達が歩く先の上にある橋が崩れ、傷だらけのカナが落ちてきた。
「アァッ!クソッ……!」
「カナ!?」
「しぶとい。流石はギルドの古株といったところか」
カナは立ち上がる力が残っていないようだ。橋が崩れ瓦礫の上からフリードが顔を出してミラ達の前にやってきた。
「はぁ…はぁ…取り消しなさい!ジュビアをファントムの女と言ったことを取り消しなさい!!ガッ……ガァァッ!!」
カナの身体から骨が軋むような音が聞こえ、彼女は胸を抑えて苦しむ。まるで内側から攻撃されたかのように見えるその光景をミラ達は痛々しくて見ていられなかった。
「カナ!」
やがてカナは痛みに耐え切れず、意識を失い倒れた。
「ちくしょう!!」
エルフマンは我慢できず、傷ついた身体を無理矢理動かして瓦礫の上にいるフリードに立ち向かう。
「無駄だ」
エルフマンの攻撃はフリードに全て躱された。今の彼は怪我で動きが鈍っている。攻撃が当たらないのは当然だ。
「エルフマン。お前はエバに負けた。バトル・オブ・フェアリーテイルに参加する権利はもうない」
「うるせぇ!!」
「良い加減にしなさいフリード!私達仲間じゃない!」
「かつてはな。ラクサスの敵は……俺の敵だ!」
フリードは攻撃してくるエルフマンとのすれ違い様に彼の胸に文字を書き込む。
「一度敗れた駒がゲームへ復帰する事は禁ずる。その掟を破りし者は死よりつらい拷問を受けよ。闇の
「な、なんだ……グァァァァァァッ!!?」
先程のカナと同じように激痛に苦しむエルフマン。
「その文字は現実となり、お前の感覚となって襲いかかる。
「そんな……フリード!もうやめて!お願いよ!」
ミラの悲痛な願いも聞く耳を持たず、フリードは再びエルフマンの文字を書き込もうとする。
「エルフマン!」
アイルが間一髪でエルフマンを抱え、フリードから離れるように飛翔して攻撃を避けた。
「闇の文字……『翼』!」
フリードは冷静に文字を書き込み、自身に翼を加えてアイル同様飛翔。エルフマンを抱えて若干スピードが落ちているアイルに追いつき、アイルに拳を打ち込んだ。
「うわぁっ!!」
エルフマンと共に墜落したアイル。フリードは着地をすると、エルフマンにトドメを刺すべく彼の元へゆっくりと歩いて近づこうとした。
「や、やらせない……!!」
だが、彼とエルフマンの間にアイルが立ち塞がる。フリードを前にして恐怖が拭い切れていない証として、彼の身体は震えていた。
「だ、ダメだ……アイル!逃げろッ!!」
「い、嫌だ!僕だって仲間だ……僕の相棒だったら……ジンだったら絶対逃げない!僕はあの人のように強くはなれないけど、仲間を守る気持ちは同じくらい強く在りたいんだ!」
「ア、アイル……」
エルフマンにとって、いつも小さいと思っていたアイルの身体。だが、今の彼の後ろ姿は逞しく、大きく見えた。
「俺は決めたんだ……小動物にだって容赦はしないぞ……!闇の文字……『痛み』!」
「ッ…アァァァッ!!」
「アイルゥゥッ!!」
「アイル!!」
自分より小さいのに、身を挺して守ってくれるアイルが痛めつけられて、エルフマンとミラは悲痛な声を上げた。
「う、うぅっ……痛い…よ……」
「どうした。ジンに助けを求めないのか」
一度倒れるアイルだが、フラフラになりながらも身体を支え、ポーチからドリンクらしきものを取り出してそれをがぶがぶと飲みまくる。
「回復薬か?その痛みは傷を負わせるものじゃない。感覚を刺激するものだ。そんなものでどうにかなるわけないだろう」
確かにフリードの言う通り、こんな回復薬を飲んだくらいでは解決にならない。だが、この回復薬のおかげで感覚だけでも痛みは少し和らいだ。そして、少しでも意識を保つ為にはこの方法しかアイルには思いつかなかった。
「助けは……いらない……!今は、ジンの邪魔をしちゃ……いけないんだ!ジンにはジンの戦いがあって、僕には僕の戦いがある!絶対に逃げないぞ!!」
「勇ましいな。その小さな身体でどこまで耐え切れるか……俺が確かめてやる!闇の文字……『恐怖』!」
「ひっ……ギャァァァッ!!」
恐怖の文字は相手の恐怖心を増幅させ、アイルは悲鳴を上げて苦しむ。
「やめて……!やめてフリード……!!アイル……もう立ち上がらないで……!!」
もう、仲間の悲鳴を聞きたくなかった。ミラはどうすれば良いのか分からず、頭を抱えて泣きながらうずくまる。
「闇の文字……『痛み』!『痛み』!!『痛み』『痛み』『痛み』ッ!!」
「もうやめろフリードォォッ!アイルが死んじまうッ!!」
エルフマンの言う通り、回復薬すら追いつかないほどの痛みを与え続けられてアイルは悲鳴すらあげられない死にかけの状態まで痛みを刻み込まれた。
「やめてぇぇぇぇぇぇッ!!」
「闇の文字……『死滅』!!」
(死……?)
ミラは恐怖の中、『死』という言葉と共に今は亡き妹の姿がフラッシュバックとなって蘇る。
姉であるはずの自分の不甲斐なさで起きた事故で『弟』を苦しめた。『愛する人』を悲しませた。
あんな想いは二度としたくない。させたくもなかった。
だご今、仲間がまた1人この世からいなくなってしまう。嫌だ……嫌だと考えるよりも先に身体が無意識に動いていた。
身体の中から血が沸騰するような感情が湧き上がり、ドクンと心臓が大きく鼓動するのを感じる。
その瞬間、彼女の何かが切れた。
「ッ!?」
フリードが文字を書き込もうとした瞬間、何者かに腕を掴まれてそれを阻止される。
「やめろって言ってんのよ」
彼の腕を掴んだのはミラだった。しかしいつもの姿ではなく、テイクオーバーをして見た目も大きく変わっており、その見た目はまさに人型の『悪魔』のようだ。
(な、何だこの力はッ!?解くことが出来ないだなんて!!)
「くっ!」
フリードは掴まれていない方の手に剣を持ち替え、ミラに向けて剣を振り下ろす。ミラはすぐに手を離して剣を躱し、フリードは警戒するように後退して距離を取った。
(こいつの変化は……まさか!?)
「ラクサスもあなたも……次から次へと仲間を傷付けて……!クッ……!!」
「ね、姉ちゃん……」
アイルは薄れゆく意識の中、久しぶりにテイクオーバーしたミラの姿を見て心の中で静かに歓喜した。
(ミラの本当の力……リサーナが亡くなってショックを受けたと同時に使えなくなった力だ。僕達が傷つけられた怒りで、眠っていた力が呼び起こされたんだ)
怒りに震えて歯軋りするミラは後ろにいるエルフマンに声をかけた。
「エルフマン、カナとアイルを連れてここから離れなさい」
「で、でもよ……!」
「さっさとしなさいッ!私の理性が保つうちにッ!!」
「あ、あいさー!!」
口答えを許さない怒号にエルフマンはビビり、アイルとカナを抱えてこの場から離れた。
ミラはそれを見送った後、フリードに視線を戻す。
(こ、これが『魔人』と恐れられたミラジェーンの真の姿……!)
「…潰すッ」
ミラは魔力を解放し、一瞬でフリードに近づくと膝蹴りをフリードの腹部へ叩き込んだ。
「ぐぼぉっ!?」
その後、追撃としてミラはフリードの後頭部を掴んで投げ落とすように地面に叩き落とし、衝撃でバウンドする彼を容赦なく蹴り飛ばす。フリードは蹴り飛ばされて宙を舞うが、翼を使ってブレーキをかけて何とか体勢を立て直した。
「くっ、手加減はないようだな!」
「手加減って何かしら?」
「ハッ!?」
フリードが体勢を立て直した時には既に背後にミラが迫ってきていた。慌てて距離を取るフリードは自身に文字を書き込む。
「魔には魔を持って制する……闇の文字『暗黒』!」
最終手段としてフリードは黒い人型の魔物のような姿へと変貌。ミラよりも悪魔らしいその姿で対抗しようとするが……。
「フン」
「!?」
フリードは自ら近づこうとしたのに、ミラはその考えを上回るかのように先に接近してフリードの首を掴む。そして、もう片方の手に魔力を込め、それをフリードに向けて解放した。
「グァァァッ!?」
エネルギーの奔流に呑まれ、大ダメージを負ったフリードは暗黒の衣が解け、元の姿へと戻る。追い詰められたフリードはミラに容赦なく首を掴まれながら地面に叩き伏せられた。
「こ、こんな……一方的なのか……!!クソッ……」
フリードの上に跨り、逃げられない状況になったことで彼はミラに殺されると確信した。
「ねぇフリード。ジンの頭はね……とーっても硬いの」
「な、何を言ってる……?」
あまりにも突然すぎた。ミラがジンの話をする時は、いつも楽しそうにするのだが、今のミラの顔は表面は冷たいながらも激しい怒りの炎が中で燃え上がるのを感じ取れる。
「昔、彼の何度頭を叩いてもダメージを受けるのは私で、拳で殴ったら逆にこっちの骨が砕けそうになった。腕っぷしを鍛えて、いつか泣き顔晒してやると意気込んで
……こんな風にね」
ドゴォォォッ!!
本人は然程本気を出してないような雰囲気でフリードの顔の側を狙って拳を叩き込む。轟音と共に街のアスファルトがバキバキと地割れを起こした後、拳を中心としたクレーターが出来上がる。
「……は?」
フリードは呆けた声を出して拳を叩き込まれた場所へ恐る恐る視線を移す。こんなものを喰らってしまえばどうなるのか容易に想像でき、背中がゾクッとするほどの恐怖を感じた。
「街に張った術式を全て解きなさい。さもなくば、この拳を今度はあなたの顔面に叩き込む」
(こ、こいつ元とはいえS級魔導士……だよな?何で魔法より物理攻撃特化なんだ!?いや、そんなことは今はいい!こんなのを喰らえば顔が凹む……それどころか…確実に死ぬッ!!)
一瞬の思考で死を直感するフリード。そんなことはお構いなしにミラは、普段からは考えられないほどの冷たい声で拳を叩き込むまでのカウントダウンを開始した。
「さーん……にぃ〜……」
「や、やめ…!」
「…い〜ち」
ストップをかけてもミラは聞く耳を持たない。フリードはこの恐怖から解放されるため、ラクサスの為にと考えることもなく、すぐに術式を解いた。
「と、解いた!解いたぞミラジェーン!!だからその拳を……!!」
「ゼロ」
何で止まってくれない?話が違うじゃないか。そう叫びたかったが、そんな口すら許さないと拳は振り下ろされた。
「やめてくれぇぇぇッ!」
瞬きする余裕すら無かった。ここで死ぬ運命を受け入れる準備も与えてくれないままフリードは自身の死を悟る。
が、その拳が顔面に到達する直前にピタリと動きを止めた。
「……ッ…はぁ…!ハァッ……ッ!!」
フリードは呼吸するのも忘れていた。止めていた息を一気に吐き出すかのように荒い呼吸をする。
「な、なん…で……」
「……何ではこっちのセリフよ。どうして仲間を殺さなきゃいけないの」
自分にトドメを刺さないミラに問いかけ、ミラは哀しい表情でサタンソウルを解く。
「くっ……俺は、もうお前達の仲間じゃない!俺の仲間はラクサスだッ!!」
「本気でそう思ってるなら、そういう突き放すセリフは……苦しい顔をして言うものじゃないわ。あなたはとっくに気づいてるはず」
「そ、そんなことは……」
「私はあなたみたいに迷った目をしている人をよく知ってる。自分を押し殺して弱さを見せないよう頑張る人が。でも、人はそんなに強くないわ。耐えられない苦しみは誰にだってある」
自身の弱さを見透かされたかのように、ミラはフリードに向けて手を伸ばした。
「そんな寂しい時に優しく手を伸ばすのが……私達『妖精の尻尾』なの。そうでしょう?」
フリードは思い出す。かつて妖精の尻尾のメンバー達とは一緒に笑い合って、喧嘩したりしたことを。今でもそれは変わらないと教えてくれたミラジェーンの言葉に、気がつけば涙を流していた。
「すまない……こんなこと……本当は…したくなかった……!!」
「うん……分かってるわ」
和解したフリードとのやり取りを見ていたカナ、エルフマン、そしてアイル。結末としては良かったのだが、途中異様な光景を目にして気になっていたカナがエルフマンに聞いた。
「……ねぇエルフマン。ミラってもしかしたら1番怒らせちゃいけない人だったりする?」
「姉ちゃんの拳骨はいてぇぞ、マジで」
「今ならジンの頭も砕けるかもね〜」
「砕いちゃダメでしょ!」
ミラが本来の力を取り戻したことに喜ぶ三人だが、力比べをするのは御免だと共感した。
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・ミラジェーンは怪力ゴリラだった。