紅き彗星の滅竜魔導士   作:雷電 芽衣

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プライドの激突

 

「来いッ……ラクサス!」

 

「グルルルッ!!」

 

理性を失い、獣のような唸り声を上げるラクサスは上空に飛ぶジンを追いかける。一瞬早く上空へと抜けたジンに対してラクサスは無数の雷光弾を放ち、ジンはそれを華麗に躱した後にラクサスに向き直る。

 

ジンは魔力を高め、『地獄変(ヘル・フォース)』を発動。こちらはラクサスの神鳴殿のダメージのお陰で準備は既に整っていた。

 

「フッ!」

 

「ガァァッ!!」

 

二人は空中で激突。持ち前のスピードで消えたり現れたりの高速移動を繰り返しながら剣と拳をぶつけ合わせ、激突からの攻防を繰り返す。

 

戦ってみて肌で感じた。目の前にいるラクサスが同じ滅竜魔導士だということを。それでも自分の動きについてこれるラクサスに驚きを隠せなかった。

 

(速いな。まさか俺のスピードについて来れるとは。この妙な力の影響か?)

 

雷の滅竜魔導士とはいえど、本来はラクサスはジン程のスピードはなく、ナツと同等の速さだった。だが、今の彼が纏う禍々しいオーラの影響からか、魔力とスピードが桁違いに上がっている。

 

だが、理性を失っているラクサス相手には付け入る隙があった。攻防の中で空いているボディを目掛けて薙ぎ払うように剣を振るう。

 

「ヌゥゥッ!!」

 

「何ッ!?」

 

ラクサスはそれを己の反射神経だけで見切り、剣を指で挟むように受け止めた。

 

あまりの反応速度に驚いて一瞬動きを止めたジンにラクサスは蹴りを叩き込み、ジンを地面に叩き落とす。

 

ジンは街の外の人がいない荒野までふっ飛ばされる。意識が飛びそうなほどの衝撃だが根性でそれを耐え、ジンは体勢を立て直して何とか着地をした。

 

だが、すぐ目の前では既にラクサスが追撃を仕掛けようとゼロ距離で雷を放とうとしていた。

 

「くっ!」

 

それを相殺する為、手のひらに魔力を集中させ、ラクサスの雷に自分の龍属性をぶつける。

 

互いの魔法が相殺されて消えると、ジンはすぐさまラクサスの腹部に龍属性を纏わせた拳を叩き込んだ。

 

「グァッ!?」

 

ようやく渾身の一撃がラクサスに当たって怯みだした。その後、拳を引っ込めるジンはもう片方の手で剣を振り下ろす。

 

ラクサスは全身に雷を纏わせて身体強化をすると、振り下ろされた剣に対して思いっきり腕を振るうことで、ジンの剣を手から弾き飛ばした。

 

「なっ……」

 

直前に龍属性の攻撃を受けても、雷の魔法を問題なく行使できることにジンは違和感を感じた。

 

「ッ…この黒いオーラのせいか!」

 

どうやらラクサスを暴走させているこの禍々しいオーラがジンの龍属性に対して何かしらの耐性を付与していることで効果が半減しているようだ。

 

「グハッ!?」

 

ラクサスは剣を弾き飛ばされた後のジンの腕を掴み、身体全体を持ち上げると容赦なく地面へと叩き落とす。

 

一度だけでない。まるでおもちゃを振り回すかのようにジンの身体を揺さぶって何度も何度も地面へと叩きつけた。

 

「グルァッ!!」

 

「…グッ……調子に…乗るなッ!天彗龍の咆哮ッ!!」

 

拘束を解く為、ブレスを当てて多少怯んだラクサスに蹴りを当てる。その際、掴む手が少し緩んで何とか拘束を解いた。

 

「ヌァッ!!」

 

拘束が解かれ、ジンは渾身の拳を下からラクサスの顎に叩き込んだ。

 

再び上空へと飛んだ二人は激突。今度は拳同士をぶつけて攻防を繰り返した。その中で二人の拳が互いのボディに炸裂。

 

「うっ……!?」

 

だが、神鳴殿によるこれまでのダメージと今受けたダメージが重なり、流石のジンも激痛に顔を歪ませ、距離を取る。

 

一方、ラクサスは痛みを感じても止まることがない。ただ相手を仕留めることだけを目的とするラクサスに苦戦するばかりだった。

 

「ハァ……ハァッ……ぐっ……こちらが攻撃しても全く倒れる気配がない……どうすれば……」

 

一つの手として地獄変による更なる魔力増強を考えた。だが、これ以上魔法を行使すると精神に異常を起こしてラクサスと同じような状態となる可能性があった。

 

(歯止めが効かなくなるまで強化すれば、勝てる可能性は十分にある。だが、たとえ勝ってもその先がどうなるのか分からない。仮に今のラクサスのように見境なくなれば本末転倒だ)

 

「ギルドの最強ハァ……オレダァ……!!」

 

理性を失いながらも、自らの力を誇示するラクサスは言葉を発する。最強の名を欲しいがままにする彼の勝利に対する執念は凄まじかった。

 

 

 

 

 

 

幼い頃。ジンは龍に育てられ、戦い方を学んでいた。

 

天彗龍バルファルクは人が寄りつかないような遥か高い崖の上に住んでいて、ジンもそこで育った。

 

『グハッ!』

 

滅竜魔法を教えられ、親であるバルファルクには修行をつけてもらっていた。修行中は立て続けに襲いかかる攻撃を掻い潜らなければならず、相手をしてくれるバルファルクに一撃を与えることさえ困難だった。

 

『ダメだダメだ!どこにどう動くかを頭で考えんじゃねぇ!身体で覚えろ!直感で移動しやがれ!』

 

どうしても隙ができてバルファルクに返り討ちにあうジン。

 

動体視力。反射神経。速度。この頃は何もかもが足りなかった故に高速で動くバルファルクの動きを捉えることが出来なかった。

 

『バルファルクはどうやってるんだ?』

 

『あ?だから……』

 

バルファルクは目で追いかけられないスピードでジンの目の前から消え、そのまま背後に回った。

 

『こうだ』

 

『もっと具体的に説明してくれ……』

 

口での説明は苦手なバルファルクに悩まされる日々だったが、日々自分が強くなることを実感できる毎日が楽しかった。

 

『剣を奪われたり失くしたりしても大丈夫なように、簡易的な空間魔法は教えておく。魔法陣を通して剣を召喚できる魔法だ』

 

剣をどこか別の場所に飛ばしたり、他の物体を動かすことは出来ないが、剣を自分の手元に戻す空間魔法を教えてもらい、早速使ってみようとするが……

 

『あっ』

 

『何やってんだお前ェッ!!』

 

崖の外側に召喚してしまい、剣が落ちてしまう。失敗のたびに何処かへ飛んでいってしまう剣をバルファルクが焦って仕方なく取りに行く。何事も上手くいくわけではない日々でもあったが、それでも楽しいことには変わりなかった。

 

修行以外の時間では、よくバルファルクはジンを背に乗せて空を飛び回り、はるか上空から見える景色を共有していた。

 

その途中でジンはバルファルクにある質問をする。

 

『なんでバルファルクは天彗龍って呼ばれているんだ?』

 

『そりゃ……めちゃくちゃ速いからだろうが』

 

『……それだけ?』

 

『それだけってなんだ!何でもかんでも強かったらそいつは最早神だろ!俺は神じゃねぇんだよ!』

 

『じゃあ、バルファルクは神よりも弱いのか?』

 

『……かもな』

 

『……』

 

あっさり答えられたので表情は薄くとも、俯いて落ち込むジン。

 

『だが……速さだけは誰にも負けねぇよ』

 

一瞬、気の弱い返事が来たかと思えば、その後確かな自信と誇りを感じた声がジンの魂にまで響いてきた。

 

『どんなことがあろうと止まらねぇ。傷がつこうが風穴開けられようが、止まることなく突き進んで相手の喉を噛みちぎってやる。ジン……俺の息子なら絶対に忘れんな。相手が一歩先に進むなら十歩先へと追い越せ。相手が攻撃を百発撃ち込んできたら千発撃ち込んでやり返せ』

 

「バルファルク……」

 

『今のお前はまだ弱い……だが自信を持て。最終的に俺達を出し抜くことなんざ出来やしねぇ。止まることのない彗星の如く突き進む圧倒的なスピード……それが俺達のアイデンティティなんだからよ』

 

 

 

 

人や龍だけではない。生物には己にとって譲れないプライドがある。

 

「バカだな俺は……」

 

リサーナが死んでからジンの戦い方は攻撃を避けるよりも受ける方を優先するものだった。それが自分の魔法である地獄変を最大に活かすはずだと思っていたから。

 

強化魔法を高める為にその戦い方が必要な時も出てくるだろう。しかし今の相手は自分の完全にパワーを上回っており、スピードは互角。

 

更にはここに来るまで体力と魔力を消費しているのに、相手の領域にわざわざ踏み込み、同じ土俵でやり合うことをする必要が何処にあるか。

 

龍の親に教えられてきたことを思い出し、今一度ラクサスに視線を向ける。

 

「グゥッ……ウォォォォォォッ!!」

 

雄叫びを上げて雷のオーラを放つラクサスの魔力がまた高まっていく。ジンの地獄変のように段々強くなる彼の暴走は止まらず、底が見えない。

 

「フン、アイデンティティ…か。ラクサス……お前は恐らくその力こそが己のアイデンティティなんだろう。確かに単純なパワーでは今のお前が上かもしれない。頑なに自分の意志を貫こうとするお前のおかげで、俺にもどうしても譲れないものがあったのを思い出した。バルファルクに教えられ、身につけてきたこの速さこそが俺にとっての誇り……誰にも追いつけないスピードで敵を屠ることが天彗龍の使命だ!」

 

ジンは地獄変(ヘル・フォース)による力の割り振りを変える。今までは全身の能力を均等に強化していただけだった。

 

(身体の防御は全て捨てろ……脚と腕に全ての力と速さを強化させ、常にラクサスの先を進む!)

 

集中するジンを見て本能的にそれを阻止しようとラクサスは一直線にジンに向かって襲いかかる。

 

だが、両者の身体が交錯する瞬間、まるで時間が飛んだかのようにラクサスの身体に急な激痛が走る。

 

「グァゥ!?」

 

ラクサスは何が起きたのか分からず呻き声を上げることしかできなかった。理解できたのは、すれ違いざまに打撃攻撃を数発撃ち込まれたような感覚に陥ったこと。

 

その後、振り向いた後にありえないものを見るような目で背後にいるジンの姿を捉えた。

 

「雷竜の崩拳ッ!」

 

お返しとして振り向きざまに雷を纏った拳を振るう。

 

「……!」

 

その攻撃に対してジンは拳が届くよりも速く気合を込めて腕を振り、その腕に龍属性エネルギーの膜を発生させてラクサスの雷を弾き飛ばした。

 

「!?」

 

「恐らく俺の言いたいことはナツが言ってくれた。後はお前を倒すだけだ」

 

今のジンは防御力を捨て力と速度を極限まで高めており、それはラクサスを完全に上回っていた。

 

自分の力の方が上だと思っていたラクサスは本能が認めたくないからか動揺し、その隙にジンの拳がラクサスの頬に突き刺さる。

 

ふっ飛ばされるラクサスに追従するジンは一撃、二撃、三撃と追撃のパンチをラクサスの腹部に叩き込み、最後に渾身の一撃を叩き込むと拳を伝ってきた龍属性エネルギーが爆発を起こす。

 

「ガァッ!!」

 

異常な耐久力を持つラクサスはダメージを受けるがすぐに体勢を立て直し、爆風を突き破ってジンの顔面目掛けて拳を放つ。

 

しかし、ジンは一歩も動かず顔を横に逸らす。無駄のない最小限の動きだけで躱し、カウンターとして腹部に拳を一撃喰らわせる。

 

「ガッ……!?」

 

「天を支配する龍はお前じゃなく、この俺だ。天彗龍をナメるなよ……ラクサスッ!」

 

拳を引っ込めず、そのまま殴り倒すようにラクサスを上空へとふっ飛ばす。

 

「まだまだこれからだッ!」

 

そのラクサスに追いつき、その脚を掴むと思いっきり下へ向けて投げ飛ばす。

 

それでも終わらず、ラクサスが地面へ墜落する前に先回りし、腹部に膝蹴りを決める。またもやラクサスは上空へと飛ばされ、当然のようにジンは上へと先回りしており、待っていたかのようにラクサスの身体へ手のひらを翳していた。

 

「遠慮はしないぞ……喰らえッ!」

 

「ッ…グァァァァッ!!?」

 

手のひらから放出される龍属性エネルギーが巨大な熱量を持った光線となってラクサスの身体を包み込み、そのまま地へと堕とす。

 

「……」

 

圧倒的なスピードと攻撃を駆使してラクサスに対して優勢を取るジンは追いかけるように地へと降り、バルファルクから教えてもらった空間魔法で自身が弾かれた剣を呼び戻して構え直す。

 

「ウゥ……雷竜のォォ……咆哮ォォォォッ!!」

 

フラフラになりながらも立ち上がるラクサスは渾身の雷ブレスをジンに向けて放つ。だが、今のラクサスは先程の龍属性の攻撃を受けて無効化まではいかずとも雷の威力が大幅にダウンしている。

 

「もうそれは効かん。天彗龍の紅雷ッ!」

 

故に、ジンはそれを避けず、あのジョゼを倒した一振りの剣で雷のブレスを真っ二つに斬る。

 

「ァ……グゥゥ……!!」

 

ダメージを受け続け、更には魔力の出し過ぎでついにラクサスの身体が悲鳴を上げてきた。すぐにも攻撃を仕掛けようとしたが、龍属性の影響もあって雷の魔力が上手く練り上げられなかった。

 

「ようやく効果が出てきたな」

 

膝をついたラクサスを見て、ジンは好機と判断。意識を集中させ、高められた龍属性の魔力を剣に注ぎ込む。

 

普段はバチバチとした黒と赤の雷のような輝きを放つ龍属性だが、剣に注ぎ込まれるエネルギーにその見た目の派手さはなく、光は薄い。それでもジンは剣にいつも以上の熱を感じ取っていた。ただ力を放出するいつもの剣撃とは違い、その剣に力を収めて逃がさないように魔力を蓄積する。

 

「これでお前の中にある禍々しい力も全て吹き飛ばすッ」

 

今のラクサスは魔力の使いすぎで身体を動かそうにも上手くいっていない様子。

 

「滅竜奥義……」

 

その隙は技を決める絶好のチャンスとなった。十分な溜めと時間を費し、ジンは目にも留まらぬ速さでラクサスに迫り、刃を振るった。

 

「━━━天龍星破(てんりゅうせいは)ッ」

 

ラクサスは気がつけばジンが目の前の視界から消えており、背後に回られた後に自分が斬られたことに気がつく。

 

だが、身体を斬り付けられて流血してるわけでなかった。技の失敗だと決めつけ、唸り声を上げて振り向きざまに拳を放とうとするが、もはや身体が動かず、ついにガタが来たかのように膝をついてガクガクと身体が震え出した。

 

「終わりだラクサス。コイツは剣で相手の身体を斬り裂く技じゃない。剣を伝ってお前の身体に直接龍属性エネルギーを衝撃波として流し込む。より洗練され、強化された龍属性を身体に撃ち込まれた者は一時的に筋肉が麻痺し、一切の回復を許さない。雷を使うお前はもはや魔力を練り上げることもままならないだろう」

 

「グァァ……ジ……ン…」

 

ラクサスが纏っていた黒いオーラも消え、力尽きたラクサス。彼の暴走は何とか止めることは出来た。

 

「……」

 

それでもジンの顔に喜びは無かった。今回、ラクサスのしたことの罪は重い。下手すればギルドメンバーだけでなく、マグノリアの住民達の命を落とした可能性もあった彼の行いは『すみませんでした』で済むとは思えなかった。

 

今回の件を有耶無耶にはせず、きっとマカロフは『祖父』として、そしてギルドを束ねる『マスター』としての責任を持った判断を下すはずだ。

 

「ッ…馬鹿が……」

 

やるせない気持ちを込めて呟くように言葉を吐き、倒れるラクサスを背負って街の方へ向けて歩んでいく。

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