紅き彗星の滅竜魔導士   作:雷電 芽衣

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ジン、挑戦を受ける

 

……ジンだ。

 

俺はマスタージョゼとの戦いの後、どうやら眠ってしまったらしい。

 

人間を嫌っている『ポーリュシカ』という妖精の尻尾の顧問薬師の元へ運ばれ、そこで治療を受けたそうだ。

 

自分の能力故に、戦いが終われば血が足りなくなって意識を失うとは、俺もまだまだだ。

 

俺が眠っている間に起きたことは、今回の幽鬼の支配者との抗争で評議員も黙っておらず、議員の連中に取り囲まれた。抗争のきっかけは故意ではないにせよルーシィという少女で、彼女は特に評議員からの事情聴取が多く、大変だったと。

 

だが、幸いにも状況証拠は揃っている。襲撃を受けたのはむしろ妖精の尻尾の方であり、最終的にはギルドの活動に支障が出ないほどの判決が下されることとなり、一件は片付いたと言えるだろう。

 

ギルドは破壊されて瓦礫の山となってしまった。俺も回復後は復旧作業を手伝うこととなり、今は休憩中なので剣を研いでいる。

 

「……」

 

この黒鉄の剣は、俺を育ててくれたバルファルクの鱗を使用した特別製のものだ。奴が作ってくれた武器を刃こぼれしないようにいつも研いでいる。ナツが自身の育て親であるイグニールという龍にもらった桜色のマフラーを大事にしているように、俺もこの剣と生を共にしている。

 

「よーうジン!帰ってきて早々敵の大将やっつけたって!?カッコいいじゃねぇかよオイオイ!」

 

「マカオ、酒臭い」

 

マカオ。この妖精の尻尾の古株の1人で一児の父。回復しての作業初日からこの絡みをされるが、俺は構わず剣を研ぎ続ける。

 

「ミラのお願い聞いて帰ってきたってぇ!?相変わらずミラに弱いねぇジンは!このこの〜!」

 

「カナ、離れろ。酒臭い」

 

カナ。俺たちとは同じくらいの年頃の酒好きの女。いつも樽に入っている酒を飲んでいる酒豪。カードを使う魔法を得意とする。

 

酔っ払いどもめ。剣を研いでいるのに邪魔をするな。……しかし、これもまた鍛錬と思えばいい。

 

俺は常に心掛けていることがあり、剣を研ぐ時は己の精神も研ぎ澄ませる。敵を屠るために、常に殺気を衰えさせないようにしている。

 

「おいナツゥッ!テメェの周り熱いんだよ!もっと魔力抑えやがれ!レンガ溶けたらどうすんだ!!」

 

「ああん!?オメーこそ服脱いでんじゃねぇよ!やる気あんのかタレ目やろうがっ!!」

 

「五月蝿い……」

 

ダメだ。精神を研ぎ澄ませようとすると聴覚まで敏感になって、少し距離があるはずのナツとグレイの喧嘩まで聞こえてきた。ここでは鍛錬にならん。今は……我慢だ。

 

「僕のジンったら凄いんだよ〜。ビュビューン!って現れてぇ…ズバズバ!って敵をやっつけたんだ!」

 

「わぁ、凄い!」

 

ギルドのメンバーたちに俺の戦いのことを嬉しそうに話しているアイル。それを聞いていたラキ・オリエッタという眼鏡とポニーテールが特徴の女性は拍手で褒めている。

 

「おい!ナツ!グレイ!真面目にやらんか!」

 

「「あいあいさー!!」」

 

ナツとグレイは相変わらずエルザに嗜められてるようだ。変わらないなあの3人は。ギルドが壊されてもこの雰囲気は変わらない。妖精の尻尾の皆はいつも通りの活気を取り戻していた。

 

「ジン……」

 

ふと、呼ばれたので横を見るとミラジェーンがいた。白い髪に長髪で、彼女はこのギルドの看板娘だ。……いや、なったという方が正しいのか。

 

「ミラ」

 

「今、大丈夫かしら?隣に座っていい?」

 

「あぁ」

 

ミラは俺の隣に座る。彼女は何か思い詰めたような顔をしていた。

 

「……急にごめんなさい。あなたも随分傷ついたから、怒ってるんじゃないかって思って」

 

「怒る理由はないが。そういえば……お前のことをギルドの者達が言っていた。あそこにいるルーシィの身代わりになろうとしたと」

 

俺はナツと戯れているルーシィを見る。話さなくても何となく分かるほど、彼女は人に好かれる女性だと思った。

 

「でも私は……何の力もなれなかった」

 

「しかし、仲間を守る為とはいえ自身を身代わりとして差し出そうとするなど、それ相応の勇気がないと出来ないだろう。戦いから退いたお前だが……決して弱くなっていない。昔のように……強い」

 

ミラはエルザと同じく、元はS級魔導士だ。あることがきっかけで前線を退き、今はギルドの看板娘。彼女はそのこともあってか、仲間の命には敏感だ。

 

「何故泣く。守り通せなかったことか?」

 

「…それもあるけど……みんな……みんな無事で良かった……!!」

 

「……あぁ、そうだな」

 

ミラは顔を伏せて涙を拭おうと必死だった。先程言ったそのきっかけから、ミラは随分と涙脆くなった。

 

しかし、無理もないだろう。もう、これ以上仲間の死は見たくない。それはミラだけでなく、ギルドの者たちも同じだ。

 

「仲間の死は……繰り返されるべきではない」

 

空を仰ぎ、天から見ていると思われる人物に伝える。俺たちはまた生きることが出来たと。見守ってくれてありがとうと。

 

……リサーナ。

 

 

 

 

 

 

「あの……ジンさんですよね?」

 

ジンはミラが泣き止むのを待ち、泣き止んだ後にルーシィが目の前までやってきた。

 

「最近新しく入ったルーシィです。まだ挨拶出来てなかったから……」

 

「あぁ、よろしく頼む。それと、『さん』はいらない。ジンでいい」

 

「あ、ありがとう…ジン。ええと……ナツと同じ滅竜魔導士って聞いたんだけど、凄く強いんだよね」

 

「あぁ」

 

「そ、その剣って凄そうだね〜。とても切れ味良さそう〜」

 

「あぁ、そうだ」

 

目は合っているものの、簡単な返事しか返してくれないジンにルーシィは数秒、身体が硬直して何を喋ればいいか思考を巡らせる。

 

(ヤバイ!全然話が弾まない!!『ああ』くらいしか返してくれないよぉ〜!!)

 

「ルーシィ、すまねぇな。こいつ昔からシャイな奴でよ。悪い奴じゃねぇんだ。許してやってくれ」

 

「いやいや、別に悪いなんて思ってないけど……でも、妖精の尻尾では珍しいよね」

 

グレイが何とかフォローをする。ルーシィは優しい人柄なので、ジンにそこまで嫌悪感があるわけではない。ただ、少し話しづらいと感じただけであった。

 

ギルドの者たちは、よくギルド内で小規模なケンカをする傾向が多い。特にナツやグレイなどの若い世代のものたちは特に活気盛んだ。それを知ってるからこそルーシィからしたらジンの存在は特別に感じた。

 

「むっ……」

 

しかし、ジンは流石にこのままでは印象が悪いかと思い、ルーシィに何か気の利いた言葉をかけてやるべきと判断した。あまり良い言葉を流暢には言えないので、ルーシィを見て率直に思ったことを言うことにする。

 

「お前を見てると、何故か懐かしい気分になる。暖かい気持ちになるような……悪くない気分だ」

 

「へっ?」

 

「……すまない。ただ、ふとそう思っただけだ」

 

「あ、あはは……あ、ありがとう?」

 

ジンは、ルーシィを見て何故かそう思ってしまった。その見た目は何かを思い出させてくれるような感覚だったが、それが何かも分からないし、ただの気のせいかもしれない。ルーシィはとりあえずお礼を言う。

 

「おっしゃぁ!ジン!怪我も治ったことだし久しぶりに勝負しようぜ!」

 

暇になったのか、ナツがジンに勝負を挑んできた。しかし

 

「断る」

 

「なにぃぃぃっ!?」

 

「お前と戦う理由がない」

 

「俺にはあるんだっつーの!ガキの頃のリベンジマッチだ!」

 

「リベンジ?……昔、お前が勝手に突っかかって来た時か」

 

「お前、ガキの頃に戦ったけど全然本気出してなかっただろ!今日は全力で戦ってもらうからな!同じ滅竜魔導士として負けてられねぇ!!」

 

「本気を出さないのではない。出せないのだ。お前が弱かったからな」

 

「カッチーン……ンガァァァッ!!上等じゃねぇかァァァッ!!だったら今度こそお前をぶっ飛ばしてやる!尚更勝負しやがれジン!!」

 

上空に火を吐き出しながら憤慨するナツ。いつもは仕事だと言って逃げているジンだが、休暇中でその理由は使えない。ナツの性格上、こうなっては引かないと昔から分かっているのでジンは呆れつつも了承しかけ立ち上がるが……。

 

「待って、ジン」

 

「?」

 

隣にいたミラは、ジンが手に巻いている包帯を取る。急なことでジンも避けられず、包帯を取るのを許してしまった。

 

「ジン!お前……それ!!」

 

「酷い傷跡……!!」

 

ルーシィ達は、その手に刻まれた傷の数々を見て絶句する。その手には幾千の戦場を乗り越えた証のような、様々な傷跡が残されている。火傷、切り傷、挙げ句の果てには縫い目のようなものまで見えた。

 

「昔よりも傷跡増えてるじゃない!どうしてこんなになるまで!!」

 

これほどの痛々しい手を見せられては黙ってられないと、ミラは怒鳴る。しかし、ジンは怒鳴るミラに対して黙ったままだ。

 

「まさか……」

 

すると、その傷を見たエルザは何かに気づいたようだ。

 

「エルザ、何か知ってんのか?」

 

グレイはそう聞く。

 

「私はジンとジョゼの戦いを見て初めて分かったことがある。ジンは自分の滅竜魔法の強化をするのには、自身の血が必要になる。つまり、傷付けば強くなるのがジンの魔法だ」

 

「なんだって!?」

 

「恐らく、ジンはこれまで私達の知らない所で、あえて傷を作るような戦いに身を投じていた。そうだな、ジン」

 

「……」

 

「沈黙は肯定と受け取るぞ。続きだ。元よりジンの実力はS級になってもおかしくないと私とマスターは知っている。そのジンが、ただの依頼でここまでの傷跡を残し続けるとは思えない」

 

「まさか、ジン……!ッ……あなたって人は!」

 

「えっ?えっ?どういうこと?」

 

確かにミラが怒る気持ちも分かるが、単に傷を増やすだけの怒りではなかった。ルーシィはその理由が分からず、その答えをエルザが言う。

 

「コイツはS級魔導士になれる資格がありながら、その試験を放棄し続けている。S級クエストを受けているわけでもないのに、何故かここまでの傷跡を残すほどの激闘が昔から繰り返されていた。ジン……お前は任務以外の日は何をしてる?」

 

エルザはこう考えた。奴はクエストを受けていない間も戦っているのではないかと。休まずにろくな娯楽にも手を出さず、身体を痛めつけるような真似をしてると踏んだ。それがミラの最も大きな怒りの原因だった。

 

ジンは観念したのか、自分のやっていたことを静かに白状する。

 

「鍛錬……魔獣迎撃……鍛錬……魔獣迎撃……それだけだ」

 

「それだけって……!アイル!!あなた、ジンと一緒にいて止めなかったの!?」

 

「うっ!……ごめんなさい。ジンにとっては、S級クエストを受けないで強い敵とこっそり戦える機会が欲しかったんだ。みんなには心配かけたくないって……」

 

「アイルを責めないでくれ。俺が決めたことだ」

 

「それを聞いて心配しないわけないだろう!そんなことだから、ろくに休んではいないはずだ!まずは休め!そして寝ろ!!」

 

エルザを始め、ギルドの者たちはジンを休ませようと押さえつけようとするが……

 

「待て!みんな!」

 

「ナツ……」

 

その中で、唯一皆を製止しようとしたのがナツだ。彼は腕を組み、ウンウンと頷くような仕草をしてから自分の考えを述べる。

 

「みんなの気持ちは分かる。でもな、確かにジンは昔から不器用で独りで何とかしようとして危なっかしい所もあるけど、良い奴に変わりはねぇんだ。ジン……お前別に死ぬつもりはねーんだろ?」

 

「あぁ、死ぬつもりは毛頭ない」

 

「だってよ。じゃあいいじゃねぇか!ジンはこうして帰ってきてくれる!もしコイツが危なくなったら俺達が助ける!それがギルドの仲間ってもんだろ!」

 

ナツはあくまでジンの意思を尊重する立場を貫く。彼もまたギルドでは問題児扱いされることがあるものの、仲間想いな魔導士だ。彼は笑顔でジンの肩にポンッと手を置くと……

 

「だから早く俺と勝負しようぜ!ジン!」

 

『何が『だから』なのッ!?』

 

さっきの言葉はなんだったの!?と全員がナツの何の脈絡もない挑戦に口を揃えてツッコミを入れる。そして更にグレイがきりこむ。

 

「てか、お前!良い事言っておいて結局は早くジンと戦いたいだけだろ!!」

 

「だってよ〜、ジンがそうしたいってんならさせてやれよ。それにコイツは強え。俺と同じ滅竜魔導士なんだ。頑丈さなら誰にも負けねぇよ。なっ!ジン」

 

「当然だ。龍の鱗はそう簡単に砕けない」

 

ナッハッハ!とジンの背中を笑いながらバンバン叩くナツ。元よりこの2人は滅竜魔導士として無茶しがちな所が共通点で似たもの同士かもしれない。

 

流石にここまでくれば折れなさそうだとミラは諦める。しかし、それをそのまま了承することはなかった。

 

「はぁ……分かった。でも、そういう理由ならもうあなたにS級昇格の試験を拒否する権利は与えないわ。必ず合格して正式にS級クエストを受けなさい。あと、任務外は休みなさい。ちゃんと自分の身体も大切にして」

 

「……分かった。最後の方は……善処する」

 

ミラは痛くならないように手を優しく握りながら、ジンの手の包帯を巻き直してあげた。

 

それを見て、ナツの相棒のハッピーとジンの相棒のアイルは口を揃えて……

 

「「どぅえきぃてぇる〜」」

 

「巻き舌風に言わないでハッピーとアイル!」

 

ネコ二匹が冷やかすように『できてる』と巻き舌風に喋る。なんとマセたネコ達だろうかとミラは顔を赤くして怒鳴った。

 

「た、確かに昔買い物に付き合わせたり、一緒にご飯食べたこともあったけど……まだ手を繋いだこともないの!できてるって段階はもう手を繋いでるところいっててもおかしくない。そう、それがまだってことは付き合ってはいないの!付き合う順序はとても大切なの!うん!」

 

普段のミラでは見られない赤面からの早口。もはや呪文かとツッコみたくなるが、周りの者はニコニコしながら『わかってるわかってる』とでも言いたげな後方腕組み傍観者の如く、その早口を聞いていた。

 

「ねっ!そ、そうでしょジン!私達はまだそういう関係じゃないわよね!」

 

(まだ、なんだ……)

 

もう答え言ってるじゃん、とルーシィは心の中でツッコミを入れる。

 

「今日はその虚無顔を悔し顔に変えてやんよ」

 

「そうか。期待してるぞ」

 

「って聞いてないし!」

 

当の本人はナツとメンチ切ってる状態で全くミラの話を聞いてなかった。ここであわよくばジンの照れ顔でも期待していたのだが、そんなものは訪れなかった。

 

「そういえば、お前は黒鉄のガジルを倒したそうだな。どれだけ強くなったか直で確かめてやる。だが、ここでは再建中のギルドにも被害が及ぶ。ついてこいナツ」

 

「へへっ、そうこなくちゃな」

 

スタスタと歩いて行くジンとナツ。置いていかれたミラは落ち込むが、それをグレイが当たり障りなくフォローしてあげた。

 

「えっと……ミラちゃん。その……毎度ながらドンマイ。ほら、ジンって、その……あまりそういう感情知らなそうだからよ」

 

「うぅ……もう!ジンのバカ〜!!」

 

その後、唐変木、朴念仁と空に向けて放った声は、それはまあ良く響くほどだったとか。

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