紅き彗星の滅竜魔導士   作:雷電 芽衣

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間章 銀翼と悪魔
銀翼の過去 前編


「はぁ……結局来ちゃった」

 

ジンを大人しく休ませる為に、ジンの家に来たミラ。一つ屋根の下で共に暮らすのは心の準備ができていないので泊まるわけでなく、毎日通ってジンの療養を手伝うということにした。

 

「よしっ」

 

最初は戸惑ったが、ここまで来たら腹を括るしかないと意気込む。

 

「ミラ、なんだか通い妻みたいだね。うぷぷっ」

 

「アイル?良い加減にしないと怒るわよ?」

 

「ごめんなさい」

 

目が笑っていないミラに逆らえず間髪入れずに謝るアイル。とりあえず中に入り、ジンをベッドに寝かせた。

 

「家事は俺も手伝うが…ぐはっ!?」

 

「ダメ。寝てなさい」

 

立ちあがろうとするジンだが、ミラは肘鉄で黙らせて再び寝かせた。

 

「徹底的だね〜」

 

「ジンは丈夫だからこれくらいやっても大丈夫よ。というか、これくらいやらないと大人しく寝てくれないでしょ?さっ、早速ご飯を作りましょ!」

 

「おっと、ミラはジンを見てて。ご飯を作るのは僕の役目だから」

 

「えっ?いいのアイル?そんな任せっきりにしちゃって」

 

「ふふん、僕を誰だと思ってるの?サポートなら何でもこなすのが僕のモットー。お客さんの手は煩わせないよ!」

 

アイルは手慣れた動作で飯の支度を始める。小さい身体でありながら、幾度も料理を作ってきたアイルの料理はギルドの者達から好評価を貰っているほどだ。

 

出された料理を見てミラは目を輝かせる。

 

「わぁっ!流石アイル!あなた、やっぱりギルドの専用シェフにならない?」

 

「あんまりギルドに長居するわけじゃないから無理だよ〜。ジンは傷を早く治す為の料理を作ったから、これを食べてから薬を飲んでね」

 

支援において、アイルの右に出る者はいない。そう自負するアイルは普段、ジンの健康にも気を遣いながら料理の献立を考えているのだ。

 

「アイルって凄いのね。ジンが今まで倒れずに過ごせてきた理由がよく分かるわ」

 

「僕は相棒だからね。ジンのことならなんでも知ってるし、もう慣れたよ。でも、知ってるだけじゃ……」

 

「……?どうしたのアイル」

 

珍しく俯くアイルにミラは心配するが、アイルはすぐに顔を上げていつもの明るい表情に戻った。

 

「いや、何でもないよ。ただ、ジンには僕だけじゃなくてミラのような人も必要だって思っただけ」

 

「な、何よそれ〜……からかってるでしょ、もう」

 

「えへへ〜」

 

赤面してるミラに対してアイルは誤魔化すように笑う。一方、ジンはご飯を食べた後、言われた通り薬を飲んで静かに眠った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

飯を食べた後、俺はいつのまにか寝ていた。

 

いつ以来だろう。このように何もせずにゆっくりと休んだのは。疲れや傷が癒えていくのがよく分かる。自分が思う以上に疲労が溜まっていたのを痛感した1日だった。

 

ふと、今日を思い返してみるとミラがいてくれたおかげでアイルの負担が減って有難いと思った。2人は飯を食いながら俺のことについて楽しく語り合っており、内容はよく聞いていなかったが、俺の名前がよく飛び交っていたので俺の話が中心だろう。

 

ミラがあんな風に誰かと笑って話し合うのは……久しぶりに見た。俺は普段、ギルドに長居しないから見てないだけかもしれないが。

 

だが、彼女が笑う度に、この場に『アイツ』がいればもっと良かった……と、そう考える時がある。

 

「……」

 

ミラとエルフマン。彼等は姉弟であるが……実は彼女達には妹がいた。ある日、アイルの料理の腕を披露する機会があり、その料理を姉弟達に振る舞った時、今みたいに楽しそうに笑い合っていた。

 

時は俺達がまだ小さかった子供の頃まで遡る。6年ほど前のことだ。当時、ギルドに入りたてのまだ俺たちは、まだ自分の魔法を完璧に操れない未熟者達に過ぎず、力だって強くはない。

 

しかし、その中でもエルザとミラは同世代達の中でも頭ひとつ抜けていた実力を持ってはいた。

 

俺は別に誰かと競争などするつもりはなかった。ナツとグレイは負けず嫌いだからよくエルザと小競り合いをしていたが。

 

話を戻そう。ナツと同じで、自分を育てた竜を探していた俺は、様々な依頼をこなしながらその竜を見つけようと、そのために強くなろうとしていた。そんな日々を過ごしていた頃……

 

「おい!お前!!」

 

「?」

 

ある日、依頼を受けようとする俺の後ろから聞こえてきた声に反応して振り向く。

 

「お前……えっと、なんだっけ。名前は忘れたけどナツより強いんだってな。私と勝負しな」

 

俺より少し年上の女がいきなり勝負を挑んできた。

 

この口の悪い奴はミラだ。そう、冗談抜きであのミラジェーンだ。今との口調も服装もガラリと変わっており、昔は露出の多い服を着ていて男勝りな性格をしていた。

 

「…何故だ?」

 

「お前が魔法を使うところを誰も見たことがねぇって誰もが言うからな。私がそれを出させてやる!」

 

彼女がエルザによく勝負を挑んでるのは知ってるが、その矛先が俺に向けられるとは思ってなかった。俺の名前すら知らない辺り、情報は他のやつから仕入れたものでそれで興味を持った……といったところか。

 

この時、勢いの強いミラに対して俺は少し返答を考えていた。別に不快感を持ったわけじゃない。

 

思考を巡らせる。俺の滅竜魔法は、ナツやグレイのようなエレメント系の属性魔法に対して無効化できる魔法だ。

 

一方、ミラとエルフマンは接収(テイクオーバー)という魔法を使い、生物の姿をコピーすることが出来る。ミラは変身魔法も使えて他の者になることもできるのだが、魔法はコピーできない。

 

その魔法を使ってきたとして、俺の魔法を使っても大した有効打でもない。ましてやギルドの者達と戦う理由が俺にはなかった。故に

 

「お前に使う必要はない」(訳:ギルドの仲間であるお前とは戦う理由がない)

 

「……はっ?」

 

と、返した。これが俺とミラの最初の会話だった。

 

魔法を使っても効果はイマイチ、そもそも戦う理由がないと言う意味でそう返した後のミラの顔は、呆気にとられたかと思えば、次の瞬間怒りの形相と化して俺に詰め寄ってきた。

 

「テメェ……私にも魔法は使わないつもりか?ナメてんのか……?」

 

「……?いや、お前は凄く強いぞ。お前の使う魔法は俺にとって意味がないだけだ」(訳:お前は凄く強い。お前の使う魔法に対して俺の魔法は有効打ではない)

 

「アァッ!?それ結局ナメてるってことだよなァッ!?」

 

「……???」

 

珍しい組み合わせかと思ったのか、ギルドの者達は観客のように見ている。

 

俺は何故こいつがこんなに怒っているのか理解出来ない。その理由は後から知った。この時、俺が唯一分かっていることは、ミラに目をつけられて勝負を挑まれてしまった。それだけである。

 

仕方ないから相手をしてやった。奴はムキになって全力で俺を攻撃してきた。

 

「ぜぇ……ぜぇ…マ、マジで魔法使わないなんて……!!」

 

「はぁ……はぁ……」

 

付き合ってはやったが、俺は攻撃するつもりはなく、避けるか防御するのみ。スピードは俺の方が勝っていたが攻撃の重さと手数はミラが上回っており、怒涛の連続攻撃に俺はかなり疲弊したのを覚えている。

 

エルザとミラはこの時からS級になれる才能があると言われており、この時まさにミラがかつて『魔人』と言われていた理由が分かった。

 

「やめだ」

 

「はぁっ!?ふざけんな!まだ勝負は終わってねぇ!」

 

「俺の負けでいいぞ。それで気が済むならな」

 

元より決着をつけるつもりはない。勝ちを譲るのに何の躊躇いもなかった俺はその場を去る。

 

「ちくしょぉぉぉ!!全く勝った気がしねぇ!!何なんだよアイツ!!」

 

「ミラのばーか。ジンのやろーはあんな感じだって言ったじゃん」

 

地団駄を踏むミラに対して、『あーあ』と呆れているナツがミラに話しかけた。ジンの情報を提供したのは彼だったのだ。

 

「んだとナツ!てかアイツ、ジンって言うのか……次会ったら泣かす!絶対泣かす!エルザよりも泣かす!」

 

「私は泣いてないが。というか今、お前が泣いてないか?」

 

「うるさい!!」

 

「てか、オメェ後から入ったとはいえ名前知らねーのかよ!ひでーな!」

 

「だってアイツ暗いし誰にも話しかけないし、目立たないから覚えられないだろ!!」

 

「それは言えてるかもね。近寄りがたいってのはある」

 

エルザ、グレイ、カナも会話に加わってジンについて話す。

 

この時、ジンは元々の性格からか、同世代の者達とはあまり馴染めていなかった。それ故か、ジンのことはよく知らないものも多い。

 

「……」

 

そんなジンの後ろ姿を見て、何かを感じている女の子が唯一会話に混ざっておらず、皆の知らぬ間にその後を追いかけていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…バルファルク……何故、俺の前からいなくなった」

 

ジンは独りが好きと思われているが、その実孤独を恐れていた。

 

育ての親の名前は『天彗龍バルファルク』。銀の鱗を纏う音速の龍であるとジンは本人から聞いている。その速さはまだ追い切れないほどで、ジンはバルファルクから滅龍魔法を教えてもらい、尋常でない速さを身につけた。

 

親子のような関係だった2人だが、777年の7月7日。この日、バルファルクは何も言わずにジンの前から姿を消した。

 

親がいなくなった喪失感から悲しみに暮れる毎日を過ごし、やがて独りで旅をしていた時にマスター・マカロフと出会い、フェアリーテイルに入った。

 

ジンはいつもクエストに竜の目撃情報がないか確認し、バルファルクを探しつつクエストを遂行する毎日を繰り返している。全く成果のない毎日のため、気持ちが落ち込みため息を吐くこともしばしばある。

 

「おーい!待ってよジン!」

 

ふと、後ろから声をかけられたことで足を止めて振り向く。追いかけてきたのは、先ほどのミラジェーンの妹である『リサーナ・ストラウス』だった。

 

「リサーナ……?何の用だ」

 

「何の用っていうか……気になったの。何でジンはもっと他の人と話さないのかなって思って。ジンとはまだ全然話したことないから、もっとジンのこと知りたいの」

 

リサーナは優しい女の子で、気遣いのできる良い子としてギルドの者たちから愛されている。フレンドリーで誰とも仲良くなれる彼女だが、ジンとはまだ会話したことがなく、独りでいようとするジンをほっとけなかったようだ。

 

「すまない……人付き合いは苦手でな。マスターにはよく『もっとナツ達と話してみたらどうか』と言われるが、どう話しかければ良いのか分からん」

 

「へぇ……ジンって結構シャイなんだね。それはそうと、ミラ姉があそこまで怒ってた理由は分かってる?」

 

「いや……」

 

どう言う会話をしたのか問われ、ジンは丁寧にリサーナに説明する。それを聞いたリサーナは若干苦笑いしながら呆れる。

 

「それはミラ姉じゃなくても怒るよ〜……。自分を格下に見られてるって思っただろうから。結論、ジンの言い方が良くない!」

 

「……そうなのか?」

 

ビシッと指をさされたジンはたじろぐ。

 

「そうだよぉ……はぁ、やっぱり分かってなかったんだ。でも、ごめんねジン。ミラ姉だって悪意があったわけじゃないの。ただ、ミラ姉も口下手だから口は悪くても、本当はみんなと仲良くしたいって思ってるし、いつもエルザに勝負を挑んだりするのは、ミラ姉なりの挨拶みたいなものなの」

 

ジンはそう言われると、先程の自分の失礼な発言を悔やむ。彼女の厚意に

素っ気無い態度を取ったことを反省し、謝ろうと思った。

 

「私がミラ姉とジンの間に入ってお互いの誤解を解くから、一緒にいこ?」

 

「ああ。感謝するリサーナ。良ければ、また俺に人との関わり方を教えてほしい」

 

「勿論!」

 

ジンとリサーナが友になれたきっかけはこの時だった。ギルドに帰る途中、ジンはバルファルクのことや自分のことをリサーナに話し、リサーナはそれを真剣に聞く。

 

普段会話をしないジンだが、誰かと会話するたびにバルファルクと過ごした日々を思い出し、孤独感が薄れていくのを感じた。

 

ギルドに戻り、人との接し方を教わったジンは、まずミラに対して頭を下げる。

 

「すまなかった。俺はただ、仲間に刃を振るう必要はないと言いたかっただけだった。お前の優しい気持ちを無下にしたことは、後で詫びる。どうか許して欲しい」

 

いきなり謝られたことでポカーンとしているミラ。すぐにハッとなって隣にいるリサーナを見て声を荒げる。

 

「リ、リサーナ!?お前なんか余計なこと言ったろ!?」

 

「よ、余計じゃないよ!ただちょっとアドバイスしただけ!」

 

「チッ……!あー、まぁいいって。後から何となくそうかなって思ったし。別に?どうせ私の方が……」

 

「お前の思いはよく分かった。とりあえずお前と仲良くなる為にお前を全力で叩きのめすことにする」

 

「はいぃぃっ!?」

 

ミラはどうせ自分の方が強いと言おうと思ったが、何をとち狂ったのか、ジンは隣にいたリサーナが声を上げるほど驚く爆弾発言をかました。

 

彼はどこか清々しい顔をしながらリサーナに目を向ける。

 

(ジン、何その顔!?なんで『やってやったぜ』みたいな顔してるの!?確かに勝負を挑んだのはミラ姉だけども!!)

 

「お前に手を抜いたのは侮辱だと気づかされた。俺は全力を持って挑むことでお前の思いに応えよう」

 

「へ、へぇ……?それはつまりお前は全力出せば私を倒せると……!?これまた随分なご挨拶だな……!!」

 

こめかみをピクピクさせながら怒りを爆発させないようにするミラに対してジンは自身ありげに宣言した。

 

「あぁ、倒してみせよう。これからクエストに行くから、その後にやろう」

 

「上等じゃん……!!」

 

「そうだ。クエストの途中で食べようと思ってたおにぎりがある。これをやろう。空腹でイライラする気持ちは分かるからな」

 

「何でそこでおにぎり出すんだよ!てかイライラしてんの腹減ってるからじゃねーよ!お前だっつの!!」

 

「ハッ……そうだった」

 

仲良くしたい気持ちが先走りしたのか、それともどこか抜けているのか……ミラは全く掴みどころのないジンに対してツッコミが絶えなかった。

 

「……ま、まぁ?私もさっきのはいきなりすぎたと思ってるし?仲良くしたいってならしてやってもいいけど〜?……チラッ」

 

なんと、珍しくミラの方から和解を示す態度を取った。その光景に誰もが驚く。小っ恥ずかしいのかミラは顔を逸らし、横目でジンの方をチラッと見るが……。

 

「ジン、そのおにぎり食わねぇならくれよ!」

 

「あぁ。まだ一つあるから食べても良いぞ」

 

「聞けよッ!!」

 

ナツとの話で夢中でミラの話を聞いていなかった。現代でもこれは偶にある光景だ。

 

(期待に応えすぎるのも大概なんだね……)

 

紆余曲折はあったが、何とか打ち解けられそうになってリサーナは安堵した。何かと突っかかるミラに対して、ジンは受け流すかのように対応する。そのやりとりを見て、案外良いコンビなのかもしれないと思うのであった。

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