空っぽの少女が中身と友達を手に入れる話   作:──

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私の始まり

私には何もなかった。

葵レナ18歳、趣味は睡眠で小・中学校で打ち込んだのはゲーム。

それもライトユーザー止まりで本気でのめり込んだことなど一度もない。

高校卒業後の進路すらまともに定まらずに悩んでいた。

はっきりと言えば、このまま死んでしまいたいほどに何もしたくはないのだ。

将来に希望もないし、明日が楽しみでもない。

エナジードリンクをガブ飲みして寿命を減らす毎日。

そんな私に『どうせ何もやることないなら、Vtuberやってみない?』という話がやってきたのはおよそ一週間前。

 

話を持ってきたのは親戚の集まりでしか合わないような遠い親戚の女性。

なんでも、彼女が始めたいVtuberのグループ『レインボウナンバーズ』のメンバーとして私を迎えたいらしい。

本人曰く、〝十人十色、色とりどりのレインボウを目指してるから、綺麗な色だけじゃなくてもいいと思うの〟

との事で、私を無気力系かそれに近い系統で売り出そうとしているのではないかと予測できた。

だが、私を勧誘する彼女の勢いがあまりに強いから思わず首を縦に振ってしまった。

首を縦に振ってしまった途端にどこかへ連絡する彼女。

そして瞬く間に一週間後、私のデビューの日となってしまったのだ。

 

『無気力の権化、月白真白【初配信】』

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『無気力の権化さんはここですか』

『白髪ダウナー系のビジュが刺さったので来ました』

 

こんなコメントが流れる中、私は配信を始めなければならない。

 

「……どうしよう、寝ようかな、そっちの方が楽だし」

 

当てもなく、エナジードリンク片手にそう呟くとコメントが一気に加速した。

 

『寝ないで』

『配信してくれ』

『初配信をバックれて寝ようとする女』

『初配信してクレメンス』

 

「……あ」

 

どうやらマイクはオンだったらしい。

私の虚無に吸い込まれるはずだった独り言は聞く人の鼓膜を震わせ、コメントにて私を引き止めさせるに至ってしまったらしい。

 

「……どーもー。レインボウナンバーズの無気力の権化、月白真白です。趣味は睡眠、好物はエナジードリンク。よろしく〜」

 

『低めの声……いい!』

『声いいね』

『趣 味 睡 眠』

『エナドリ新発売飲んだ?』

 

「えーっと、趣味睡眠はほんとだよ。どんな時に寝ると気持ちいいとかトークできるくらい好き。新作は飲んだけど二つ前のやつが好きかな、箱で注文してるし」

 

『箱!?』

『箱かぁ』

『箱……?』

 

「箱だよ、3箱」

 

そんな話をしていると、ちょうど飲みかけだった缶がからになったので足元のゴミ箱に捨てつつ、机の上に置いておいた予備のもう一缶を開ける。

すると、机に置いた時の置き方のせいだろうか?それとも持ち上げ方が悪かったのだろうか?缶の飲み口から泡立った内容物が少しばかり顔を覗かせる。

あ〜、炭酸が抜けるな、なんて思いながら泡が失せるのを待つ。

しかし、私の予想に反して泡の増殖は止まらず、私が焦った時にはすでに遅く吹き出した泡は缶から溢れて床まで溢れてしまった。

 

「……あ〜、ちょっと待っててね」

 

『?』

『なんかこぼした音がした』

『エナドリこぼした?』

 

「うん、吹きこぼれた。……日頃の行いかなあ?」

 

『とりあえず拭きな』

『PCとか大丈夫?』

 

「もう拭いてるし、溢れたのはPCとは関係ない床だよ……っと、ふぅ、拭き終わったから今後の予定話すね。まず今週は毎日22:00〜23:00くらいから配信をやる予定。初めの一週間だから、私の顔覚えてねウィークだよ」

 

画面を操作して、先ほど片手間で作り上げた予定表を配信画面に表示する。

 

「……それで、早速明日なんだけどさ。──あ、ちょっと待ってね開けたままだった二缶目を一口飲むから」

 

そういえば吹きこぼれたのを拭いたあと放置していたな、と思ってエナジードリンクを乾いた喉に流し込む。

すると、何やらコメント欄の動きが早くなっている。

缶を机に置いてコメント欄を見ると

 

『キマってるw』

『目ガン開きやんけ』

『びっっくりした』

 

「……?どゆこと?」

 

視聴者たちのコメントによると、エナジードリンクを飲んだ私が飲む前とは比べ物にならないほど目を開いており、それに反応していたらしい。

私としては〝カフェインガンギマリ〟というコメントは少し不名誉な気もしたが、キャラ付けとしては面白いだろうと思うので注意はしないことにした。

 

「……こほん、ちょっとカフェインキメちゃったけど、明日の予定の話するね。明日は、題して【リスナーで決めろ、私の中身】ということで、睡眠しか趣味がない私の新たな趣味を捜索する配信だよ。ぼやいたーで募集するぼやき貼るから、私に合いそう、または私にやって欲しい趣味になることを返信で送ってね〜」

 

『俺たちにかかってるのか』

『おじさんの好きなゲームおすすめしちゃうぞ』

『果たして新しい趣味は見つかるのか……?』

 

「じゃあ、また明日。じゃね〜」

 

そう言って配信を閉じた。

ぼやいたーにてぼやきを投稿すると、様々なおすすめが先ほどの配信を視聴した人たちから送られてくる。

中にはコメント欄で見た覚えのあるアイコンやアカウント名も混ざっている。

……あぁ、今日は久しぶりに、明日が楽しみかもしれない




用語解説
『レインボーナンバーズ』
様々な個性を!という言葉を掲げるVtuber事務所。
名前の由来は、十人十色→様々な色の象徴として虹(レインボー)。
千差万別→数が多い、数の英語でナンバーズ。という感じ。
『ぼやいたー』
現実のXのようなSNS。
『ぼやき』
ポスト。
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