トレセン学園警備員さんは、ウマ娘に勝ちたい。 作:秋津モトノブ
「――この度はご足労頂き、感謝します……山田一郎さん」
「……まあ、呼ばれたんでな」
俺の目の前には、職場でおそらく一番の有名人がいる。
トゥインクル・シリーズでも稀な、『無敗の三冠』を達成し、今でも進化を続けているという俊英。
トレセン学園の生徒会長にして……『全てのウマ娘の幸福』を至上課題とする生徒。
人呼んで『皇帝』――シンボリルドルフだ。
「どうぞ、お掛けになってください。お茶を用意しましたので、そちらも」
「ああ……そりゃ、どうも」
ここは、トレセン学園生徒会室。
俺は、ひょんなことからここに呼びつけられることになってしまった。
さて……一介の警備員に、何の御用でしょうねえ。
ここに呼ばれた時のことを思い出しつつ、とりあえず茶を待つことにした。
・・☆・・
「ヤマダサーン!コレ、どこ持っていきマスカー!?」
「あー、そいつは1階の倉庫だからこっち、……って、いいんだぞ?そんなことしなくっても」
「ノープロブレム!ワタシ、今ヒマですカラっ!」
「おー……ならお願いしようかね」
「ハァイッ!」
あのBBQから一夜明けた。
夜勤が終わって、昨日の片づけをしていると……朝も早いのにタイキシャトルがやってきた。
それで、なにくれとなく手伝ってくれている。
生徒だから気にしなくてもいいんだけどなあ……ライなんか勤務が終わった瞬間に夢の中なんだし。
「なあタイキー、昨日のことなら俺が好きでやったことだから気にしなくってもいいんだぞ?」
「イエース!だからワタシも、好きでやってマース!」
「おおん……」
駄目だ。
俺は子供相手でも口では勝てないらしい。
甘んじて受けよう。
「ま、それじゃ何も言わんよ。頑張ってレースで勝ちまくって、将来『俺はあのウマ娘の頭を撫でたことがあるんだぜ~?』って自慢させてくれ」
どっかの飲み屋とかでな。
隠居したらそういうほら吹き爺さんになりてえ。
こっちはホラじゃねえが。
「ホワーイ?ずうっと撫でてもいいんですヨ?」
「仕事できねえじゃん、お互いに……よっこいせと」
炭の残りを集める。
小さな欠片は燃えるゴミに、大きな奴は別により分ける。
デカい方は再利用できるからな、今日日炭も結構高いし。
「!ソレ、燃えるゴミですカー?」
「おう、そうだよ」
「トラッシュボックス、持っていきマース!!」
タイキは目を輝かせ、燃えるごみの袋を持てるだけ持って走り出した。
「ゴミ置き場は駐車場の脇だ!ゆっくりでいいからな、コケるんじゃねえぞ~!」
「ノープロブレムッ!ワタシにお任せデースッ!!」
タイキは、ライとタメ張れそうなほどの勢いで走って行った。
ゆっくりでいいって言ったのに……
「まあいいや、よっぽど寂しかったんだろうな。BBQの力は偉大だぜ」
「それだけじゃないと思いますけど~?」
「うおっ」
かけられた声に振り向くと、そこには見知ったばんバ……じゃない、人間がいた。
「おはようございます、
「は~い、おはようございます山田さん」
俺に届くほどの長身と、女性にも関わらずかなり筋肉質な体。
だが、その表情はいつも笑みを絶やさない柔和なもの。
それもあって、厳つい印象はない。
彼女は、タイキシャトルのトレーナーさんだ。
たしか、高校時代はレスリングの国体を3連覇したとか。
警察や自衛隊のスカウトを片っ端から断り、猛勉強してトレーナーになった……んだったか。
社長も、ウチに昔スカウトしたらしく『惜しい……』と言ってたのを覚えている。
初対面の時にばんバと間違えかけたのは秘密だ。
……だってでっけえ帽子被ってたんだもんよ。
その上であのガタイなんだから……
「タイキちゃんは妹はいますけど、お兄ちゃんはいなかったですからね~。自分の為に色々骨を折ってくれた『お兄さん』の役に立ちたいんですよ~」
「ああ、なるほど」
「山田さん、生徒たちに人気ですよ~?特に小さい子たちに……よいしょっと~」
崇城トレーナーは、積まれていた焼き台を片手に1つずつ持ち上げて中庭の隅に持っていく。
……先祖にばんバいるんじゃねえかな、この人。
先祖返りっての、この世界意外と多いらしいし。
桐生院トレーナーとか……いや、あの人はもっとわからんな。
普通の背格好なのにとんでもないパワーとスピードがあるし。
「頼んだらいっつも肩車してくれるって、ウララちゃんが嬉しそうに言ってましたしね~」
「移動式遊具的な好かれ方してんなあ、俺。まあ基本断りませんがね」
まあ、ウララにはよく肩車してやってるし。
他の小さい生徒たちにもやってるなあ、そういえば。
一回タマモクロスが見ていたので「やるか?」と聞いたらむっちゃ怒られた。
高等部だって知らなかったんだよ……アレは悪いことしたなあ。
「ふふ、それじゃ私が頼んでもしてくれますか~?」
「いや、大人は流石に……」
ちょっと絵面が面白すぎるだろ。
できるとは思うがね。
崇城トレーナー、レスリング経験者ならバランス感覚もしっかりしてるだろうし。
「え~?いいじゃないですか~、私より大きくて力持ちな男の人って本当に珍しいから~ちょっと憧れるんです~」
「……は、はあ」
そこ、普通はお姫様だっことかじゃねえの?
なんで肩車なんだよ……
「戻りましターッ!あ!トレーナーさん、グッモーニン!ハウディ~?」
「タイキちゃ~ん!ぐっもにー!アイムファインよ~!」
戻ってきたタイキが崇城トレーナーを見て目を輝かせる。
そして、走り込んだ勢いでドーンとハグをした。
……もう半分タックルじゃねえかな。
「今日もタイキちゃんは元気でカワイイわ~!」
「ユアーウェルカム!トレーナーさんもKAWAIIデース!」
2人はハグしながら回転木馬よろしく何度か回転。
けっこうな暴風を撒き散らして止まった。
……大迫力。
「は~い、山田さんにもパ~ス」「――はぁ?」
微笑ましく見ていると、崇城トレーナーはタイキをこちらへリリース。
遊び相手を見つけたように目をキラキラさせながら、タイキが真っ直ぐ突っ込んできた。
咄嗟に腰を落とし、迎撃の……いや防御の体勢を取る。
「――ふんっ!!」「ワァオ♪」
加速したタイキを、怪我をさせないように衝撃を殺しながら抱き留める。
この短い距離でこの加速……さすが、サラブレッドウマ娘!
「イイぶちかましだ、これならウマ相撲でもいいとこまでいけるかもな」
「オゥ、お相撲!今度チヨノオーに教えてもらいマース!ンフフ……♪」
タイキは、俺の胸に頬を押し付けてなにやら楽しそうだ。
……たしかに、普通の兄ちゃんならじゃれあいくらいはするだろうな。
相手がウマ娘だから、ちょいと普通の人間には荷が重いんだが。
そういうのも含めて、タイキは嬉しいんだろうな。
「あーっ!けーびいんさんとタイキちゃんがお相撲してるー!」
「……そもそも、なんで山田さんや崇城トレーナーはウマ娘のタックルを正面から止められるのよ……?」
ウララとキングヘイローがやってきた。
やっぱこの体勢、どう見てもハグには見えねえよなあ。
「私もー!」「あっ、ウララさん!」
新しい遊びだと思ったのか、ウララが満面の笑みで走ってくる。
……もう片付けはあらかた終わったし、まだ朝食まで時間はある。
ここは広いし……よし!朝の稽古ついでにウマ娘たちを利用させてもらおう!!
日常もまた、訓練だ!!
「……朝から幻覚が見える。山田さんがタイキシャトルを肩車してスクワットしてる幻覚が……」
「どっこい現実だよ、お兄ちゃん☆ カレンもお兄ちゃんにあれしてほしいな~?」
「ウゥ……おんぶなら……」「わーいっ♪ 言質とっちゃったぞ~♪」
「ウワーッ!?ウチが寝ている間に……パイセンが淫猥な催しを!?」
「ぶん殴るぞお前!この状況のどこがそう見えるんだ!?」
騒ぎに気付いたのか、ライが起きてくるなりパニックを起こしている。
朝から面倒くっせえなコイツ……!
「ライスを肩車してスクワットしてるだけだろうが、加重トレーニングとしちゃ軽いくらいだぞ?……ライス、もっと食ってもいいんだからな?これちょっと痩せすぎだろ」
「……おじさま、それはちょっと……どうかって思うな」
「耳が千切れる!?」
年頃の女の子にはアレな答えだったのか、ライスに両耳を引っ張られた。
やめてくれ!耳だけは鍛えようがないんだから!!
「離しなさい!離しなさい崇城トレーナー!!ライスを肩車するのは私なんだから!!」
「トレーナーちゃんは下半身がよわよわだから駄目で~す。ライスちゃんが危ないから駄目~、鍛えましょうね~」
中庭の隅でまたライスのトレーナーが暴れてる……それを完全に抑え込む崇城トレーナー、やはりすげえ。
「は~い♪ 頑張れ頑張れお兄ちゃんっ☆」「98、99……100ぅ……!」
そして、何故か川添トレーナーはカレンチャンをおんぶしてスクワットをしている。
体力ないのによくやるわ……これ、完全に精神力でやってんな。
カレンチャンを無様に落とすわけにはいかない……って感じか。
愛だねえ、愛。
「ウチに火まで起こさせたんスから、次はウチっすからね!!」「はいはい」
焼き台の1つに向かい、団扇を振り回していたライが怒っている。
お、綺麗に火が起こったな。
朝食までにはまだ時間がある。
なので、焼き台を1つ残しておいて……これも昨日余った冷や飯を使って焼きおにぎりでも作ろうかと思ってな。
運動してたら腹減ったし。
「筆でお醤油塗るんだよね、はじめてだから楽しみ!」「ハケと言うのよ、ウララさん」
ウララ達も待ってるし、そろそろ切り上げるかな。
ちょうど、そろそろ500回は行くし。
あんまりもたついてると、他のウマ娘に嗅ぎつけられるかもしれん。
さすがに全員分はないからなあ。
「醤油の焼けるいい匂いがする……気がする」
まだ焼いてもないのに一番見つかりたくないオグリキャップに見つかっちまった!!
なんだその第六感!?
「報告に帰社、ですか?」
『ああ、先日の事件をお前の口から直接聞きたくてな。なに、支社出張のついでだよ』
焼きおにぎりをみんなで楽しみ終わった頃、社長から電話がかかってきた。
なお、作ったものは大部分がオグリとライ、そしてライスの腹に収まった。
かなり用意したハズなんだがな……
「わかりました、今からトレセンへ戻ります」
『ン、私は夕方に到着予定だから適当に時間を潰していてくれ』
「社長ォ!ウチも当事者なんで一緒に戻るッス!」
横で聞いていたライが乱入してきた。
耳いいなお前。
『お前は今度だ。今日は騎バ隊との交換連絡会だろう?そっちへ行け』
「忘れてたッス……パイセン、知らないオンナに着いてっちゃ駄目っスよ?」
「俺は幼児か」
というわけで、今日の予定は決まった。
ライがわかりやすくしょげているが、お前もそろそろ先輩離れしてくれまいか。
車に乗り込み、エンジンをかける。
昨日大荷物を運んだ愛車は、変わらずに頼もしく吠えた。
車は頑丈でよく走るモノに限る。
・・☆・・
「おや、山田クンよく焼けたねえ……向こうはどうだい?不審者が出たって聞いたけど、みんな怖がってなかったかい?ウララちゃんとか、小さい子たちは」
数時間運転し、もはや懐かしいトレセン学園に帰ってきた。
駐車場から詰所に向かおうとしていると、爺さん警備員の『
ウララを特に可愛がっている人だ、心配なんだろう。
「少しは緊張してましたがね、昨日ちょいとした催しをやったんで今日はみんな元気でしたよ。ウララなんか『おじーちゃんたちにお土産にする』って、なんか綺麗な貝殻を集めてました」
「ああ、そうかい。それはよかったねぇ」
その光景を想像したのか、真波さんはふわりと笑った。
「合宿でうんと疲れて帰ってくると思うんで、なんか甘いモノでも用意しとくといいんじゃないですかねえ」
「そうだなあ、わしらも話し合って用意しとくかね。ほんと、ここに来てから孫が増えたみたいで毎日楽しいんだよ」
うんうん、そりゃあよかった。
って、孫?
「ありゃ、真波さん、お孫さんいたんすね」
「恥ずかしながら子だくさんでねえ、今じゃ18人の孫がいるよ。何人かはトレセンを目指してるんだ」
「そっ……そりゃあ、すごい」
真波さんか、子供さんの誰かがウマ娘と結婚したんだろうな。
ウマ娘はウマ娘からしか生まれないし、基本的に。
「今は合宿の子たちが多いから、少し寂しくってねえ」
「はは、もう少しすれば嫌でも賑やかになりますよ」
今は8月の中旬。
俺の試合は9月に入ってからなので、その頃には学園に生徒が大勢いることだろう。
「まあ、お陰でこんな爺さんでも巡視が務まるんだがね。不審者なんかが出た日には……その時は頼むよ、山田くん」
「ご安心を、不心得者は片っ端から叩いてのしてやりますから」
「はっは、頼もしいねえ……」
笑うと、真波さんはゆっくりと駐車場から出て行った。
あの人、ウララ以外のウマ娘にも結構懐かれてるからなあ……寂しいんだろうな。
誰だっけ、葦毛のでっかいウマ娘……あの子も今は別の所で合宿してっからなあ。
『じーちゃん!キジ捕まえたから食おうぜー!』ってこの前大騒ぎしてたもんな。
普段付き合いがないからなあ……ええっと、ステイゴールド……じゃねえよな、ゴールドが付いてたことは覚えてるんだが。
まあいいや、今度ライに聞こ。
なんか前にプロレス技かけあってたし、仲いいだろ。
さて、帰ってきたがまだ昼前。
社長との会議の関連で通常勤務はないし、既に決まっているシフト組に混ぜてもらうのもなあ。
ジムが空いていたら、飯まで筋トレでもさせてもらおうか。
……そうと決まれば、詰所に置いている着替えを回収してこよう。
「山田さん、ちょっといいですか?」
「あ、たづなさん。お疲れ様です」
車から鞄を取っていると、たづなさんが来た。
「昨日の件、大変でしたね……ライデンオーさんはもう大丈夫ですか?」
トレセン学園の職員には、昨日の時点で詳しい顛末を伝えてある。
それもあってか、心配そうだ。
「ああ、すっかり元気ですよ。昨日なんかオグリと2人で肉の塊を綺麗に平らげてましたから」
「まあ、それは……安心ですね♪」
アレはすごい光景だった。
肉の塊がどんどん消えていくんだからな。
野菜も同じくらいの速度で消えてったけど。
好き嫌いせずに食えて偉いぞ、オグリ。
ライは知らん、大人だし
「あ、それで……帰ってきたばかりで申し訳ないのですけど、今お時間は大丈夫ですか?」
「ええ、夕方までは空いていますよ。アレですか?もしかしてお茶のお誘いとか?」
な、訳ないけどなあ。
「あら♪ それは素敵ですけれど……残念ながら違うんです。ちょっと生徒会室まで行っていただきたいんですよ」
「生徒会室?」
一回も行ったことねえぞ。
理事長室なら何回かあるが。
「そりゃまた……なんでです?」
「昨日の件で、シンボリルドルフ会長がお話を聞きたいと……」
あー……なるほど。
生徒たちを総括している立場だからな、そりゃあ気になるか。
「……どこまで話していいんですか?」
生徒に開示されてんのは、『不審者が出たけど問題なく拘束した』ということだけだ。
「会長に対しては、全て話していただいて結構です。大まかな流れは既に伝わっていますし、彼女たちから生徒に漏れることはありません」
「わかりました、いつ向かえばいいですか?」
「できれば、今からお願いします」
うい、了解。
暇だしこのまま向かうか……一応制服着といて助かった。
「あ、山田さん」「はい?」
歩き出すと、たづなさんが声をかけてきた。
振り向くと彼女は……悪戯っぽく笑って、
「――今度は、お茶しましょうね♪」
そう、楽しそうに言ったのだった。
うーむ、社長とかと同じ……俺の勝てないタイプの女性だな。
俺はあいまいな笑みを返し、生徒会室へ向かうのだった。
行く途中に社長へ電話したが、移動中らしく出なかったのでメッセージだけ送っておいた。
まあ、そんなに長引かないだろう。
・・☆・・
と、いうわけで。
現在に至る。
生徒会室のソファに座った俺の向かいには、シンボリルドルフと……その左右に2人のウマ娘。
2人とも、シンボリルドルフよりはよく知っている。
「どうぞ」
巡回の時に、よく花壇の世話をしているのを見かける。
見た目はきりっとしていて格好いいが、ああいう優しい所もあるんだなあ。
「……なんだ?」
それで、もう1人のウマ娘。
目つきは鋭いが、口調に敵意はない。
こっちは……
「いや、ここで会うのは初めてだと思ってな。ビワハヤヒデの妹ちゃん」
「――ナリタブライアン、だ。いい加減に覚えろ、ヤマダ」
「ブライアン!なんだその口のきき方は!」
エアグルーヴが怒っているが、別に気にしちゃいない。
「いやいや、気にしなくていい。彼女とは焼きモロコシを一緒に食った仲だからな」
以前に校庭の隅っこでライとこっそり焼いてたら、いつの間にか隣にいたんだ。
『肉はないのか?』と不服そうだったが、ホッカイドウトレセン秘伝の醤油ダレの虜になっていた。
無心でモロコシを齧る表情が、なんかウララ達を髣髴とさせて和んだな。
今の今までろくに名前を覚えていなかったのは謝る。
それより前に知り合っていたハヤヒデはすぐに覚えたんだが……ホラ、ナリタっていっぱいいるじゃん?
ナリタトップロードとか、ナリタタイシンとかナリタタキオンとかさ。
……あれ?タキオンは違ったかな?
「え?は、はあ……」
「――そうだヤマダ、オグリから聞いたが……昨日焼き肉をしたそうだな!何故私を呼ばない!?」
ナリタブライアンが怒っている。
「いや……行ってる合宿所違うから無理だろ。そしてそもそも携帯の番号も知らんし」
トレセン学園の提携施設は多い。
あの合宿所1つにさすがに全校生徒は入らん。
そもそも、この生徒会メンバーのような有力バはもっともっとセキュリティがしっかりしている合宿所に宿泊している。
行ったことはないが、メジロの合宿所なんかもすげえらしいな。
「っく……私としたことが!ヤマダ、スマホを出せ!登録しろ!」
「お、おう」
これ、またやる時には呼ばないと駄目な感じか。
……まあいいか!あんなもんは大勢でやるに限る。
「ホイ登録……と。あ、ハヤヒデにきつく言われてるから野菜も食わすぞ……もっとも、不味い野菜なんぞ出さんがな!」
子供の野菜嫌いってのは、野菜がマズいんじゃなくってマズい野菜を食ったことが原因なこともある。
現に、焼きモロコシはモリモリ食ってたしな。
「む、むぅ……それなら、いい。わかった」
「よしよし、いい子だいい子」
「フン、子ども扱いするな」
ブライアンは少し照れたようにソファに座り直した。
根は素直なんだよな。こいつ。
ハヤヒデもそう言ってたし。
「……」
それを、エアグルーヴが唖然として見ている。
なにか気になることでもあるんだろうか。
「……ブライアンが、素直に野菜を食う、だと?」
あ、そこ?
「そりゃあ美味い野菜ならみんな食うだろ。今度エアグルーヴにも振舞ってやろう……ホッカイドウトレセン直伝の焼きモロコシをな」
「は、はあ……ありがとう、ございます?」
そんな俺たちの様子を、シンボリルドルフが笑って見ていた。
おっと、放置してしまっていたな。
「――虚心坦懐、山田さんは面倒見がいいのですね。他の生徒たちからも、時々よい噂をお聞きします」
「さて、どうだかね」
学がねえから四字熟語部分がわからねえ。
とりあえず流そう。
「……話の腰を折って済まなかったが、それで……今回は何の用事だ?」
水を向けると、思い直したように空気が引き締まった。
シンボリルドルフを中央に、エアグルーヴとブライアンが左右に座る。
おお、なんか威圧感があるな。
圧迫面接が始まんのか?
「――先日の件について、当事者のあなたから説明をしていただきたいのです」
「いや、それは構わないんだが……別に、そっちが聞いているのと大意は変わらんぞ?まあ、いいが」
どうやら、話さないと帰してもらえないなコレ。
いいけど……説明すんのヘタクソだからなあ、俺。
「じゃあ、とりあえず俺が知っていることを話すな。まず、あの日は駐車場で警邏をしていたんだが――」
「――という、ワケだ。その後連中は騎バ隊に連行されて行って、今も警察署で拘留中。動機やなんかは……俺には伝わっていないな」
そして、簡単な説明を終えた。
細部……具体的にどんな風にぶん殴ったとかは端折ったが、言い忘れはないだろう。
「ちなみに負傷したライデンオーはすっかり元気だ。風呂桶いっぱいくらいのバカみたいな量のアイスを食い、焼き肉を貪り、今朝に至ってはオグリと一緒に焼きおにぎりを踊り食いするくらいには元気だ」
「待て!焼きおにぎりは聞いていないぞ!オグリめ……!」
「ブライアン!今はそこは関係ない!」
「まあまあ、今度最高の奴を焼くから落ち着けよ。ナゴヤトレセン直伝の味噌ダレは最高だぞ」
「む……!なら、いい」
「素直……だと……!?」
エアグルーヴ、なんかリアクション役みたいになってんな。
たぶん、苦労人なんだろう。
「こんな感じだが……ご満足いただけたかな?」
黙って聞いていたシンボリルドルフに問いかける。
「――ええ、こちらで把握していたことと大きな差異はありませんね、ありがとうございます」
よかった。
よかった……んだが、何だその顔?
まだ何か聞きたそう……というか、『本題』はこれからだって感じの顔してんな。
うーん。
すごく、嫌な予感がしやがる。
「――これを、ご覧いただけますか」
そう言って、シンボリルドルフが取り出したものは……タブレット。
それを机の上に置き、画面を俺の方へ押しやる。
彼女の指がついと動き、暗転した画面が再起動する。
――そこに映し出されたものは……見慣れた光景だった。
というか……
――日本武道館の、リングだった。
俺が、『無名』としてアトヴァーガと戦った時の。
「おー、これ地上波か?俺が見たネット局のより綺麗に映ってんなあ……で、コレがどうしたって?」
丁度肩を外されたあたりの映像を見ながら、普通に話す。
……いつかはバレるんじゃねえかと思ってたが、こんなに早く……しかも、まさかシンボリルドルフに言われるとはね。
いや、現段階じゃ疑惑って所か?
さーて、コレどうしたもんかなあ。
薄い微笑みをたたえたシンボリルドルフを見つめつつ……俺は悩んでいた。
【タイキシャトルのヒミツ】
・実は、ハグをするときにガッシリ受け止められるのが大好き。