トレセン学園警備員さんは、ウマ娘に勝ちたい。 作:秋津モトノブ
「山田さんには申し訳ありませんが、私は……この『無名』選手とあなたが同一人物だと考えているのです」
にこやかな顔で、シンボリルドルフが告げる。
ふむ、これは『確信』しているな。
『ごまかしは通用しねえぞ!』って、顔に書いてある。
……どうすっかなァ、コレ。
「なるほどぉ……で、質問なんだが……俺がこのマスクマンと同一人物だったとして、それがどうしたって?」
出方がわからんので、とりあえず質問には質問で返す。
半分以上認めたようなもんだが、『YES』と言わなきゃ認めたことにはならんのだよ。
エアグルーヴとブライアンは、黙って俺を見ている。
……いや、ブライアンの方はちょっと興味深そうに映像を見ているな。
好きなんだろうか、格闘技。
「――山田一郎さん、少し、あなたのことを調べさせていただきました」
俺の質問には答えず、シンボリルドルフが話し出す。
ふうむ、別に隠すようなことはないんだがな。
「驚きましたよ、失礼ながら……ばんえいウマ娘の家系出身かと思っていましたが、お母様がサラブレッドウマ娘とは」
「……よく言われるよ。突然変異だってな」
よく調べてんなあ。
どこで……ああ、シンボリ家の力を使ったんだな。
「お母さま……『ロンググッドバイ』先輩のレースは私も映像で拝見しました。素晴らしい末脚とレース勘をお持ちだったようですね」
「そうかい?ウチじゃオフクロが恥ずかしがってね……生きてる時には現役の写真すら見せてもらえなかったよ」
後になって写真を見て、全然老けてねえから驚いたぜ。
いくらウマ娘が種族的に若い期間が長いって言ってもな、ありゃあ驚きだ。
……人間の女の一部がウマ娘を毛嫌いしてんの、それが原因じゃねえのかな。
『生きている時』という言葉に気付いたのか、エアグルーヴの目が僅かに揺れた。
あれ?俺の経歴知ってんじゃなかったのか?
シンボリルドルフだけか、知ってるのは。
ブライアンは……試合に夢中だ、ちょっとかわいいなコイツ。
「で?俺の家系の話がどうしたんだ?……あのよぉ、わざわざ調べたりしなくっても、聞いてくれたらだいたい答えるぜ?」
「それでは、あなたはやはり『無名』選手なのですか?」
俺はその質問に――
「その質問には、答えられん」
そう答えた。
「……え?」
シンボリルドルフは、ぽかんとしている。
お、そんな顔すっと年相応に見えて可愛いらしいな。
「シンボリルドルフ、1つな、ヒントをやろう」
指を立てる。
「『俺は、USCの社員だ』……これで、賢いお前さんならわかるだろう?」
「それ、は……!」
シンボリルドルフが一瞬考え込み、納得したように頷いた。
さっすが生徒会長サマ、飲み込みも早いか。
「ヤマダ、これがアンタなのか!?凄いな!格闘ウマ娘を正面から倒すなんて!!」
ブライアンの俺の見る目に、若干の尊敬の念が見える。
コイツ……さては何も考えてないな!?
「……さーて、どうかな?」
「いや、背格好も重心も歩き方も、よく見ればヤマダじゃないか! セコンドはどう見てもライデンだし、すごいじゃないか!何故隠すんだ!?」
……直観力が凄ェ!
本能で生きてるタイプのウマ娘はコレだから――
「おいブライアン、今は会長が話をして――」
エアグルーヴが割って入った、ちょうどその瞬間。
ばあん、と。
背後の扉が開いた。
振り向くとそこには――『ごめんなさい』とばかりに頭を下げるたづなさんと。
ウチの社長、ムソウシンザンが立っていた。
「――邪魔をするぞ、シンボリの小娘」
どかどかと入ってきた社長は、俺の横にすぐさま腰を下ろした。
「ムソウシンザン社長、これは――」
「困るなあ、困るよ、シンボリルドルフ。組織同士の話をする時に、トップを抜かすとは話にならんぞ?」
シンボリルドルフの話を遮り、社長が言う。
ああ、これ……絶対面白がってんな。
「イチロー、話したか?」
「『USCの社員でござい』とは言いました。到着が早いですね、まだ昼前ですよ」
「フムン、良し良し。社会人としては100点満点の回答だ……私は久しぶりの東京が楽しみでな、早く着きすぎたのだ」
新しい禁煙パイプをがりりと噛み、社長が微笑む。
嘘つけ、こりゃ俺に電話した時には東京にいたな。
食えない人だよ、ほんとに。
「まあ少し待て、シンボリルドルフ。まだ『役者』が揃っていないのでな……駿川秘書、理事長は?」
「もうすぐいらっしゃいます」
たづなさんも室内へ入ってくる。
俺の横まで来ると、申し訳なさそうに呟いた。
「(ごめんなさい山田さん、こじれるようなお話になるとは私も知りませんでした……)」
「(別に、拗れちゃいませんよ。そうだ、お詫びってんなら……今度コーヒーのうまい喫茶店を教えてください、奢りますから)」
「(あら、お上手ですね♪)」
そんな話をしていると、廊下を走る小さな足音。
へえ、理事長って結構足速いのな。
「と、到着ッ!!」
「ほお、お早い到着だ、理事長殿」
理事長が肩で息をしつつ、社長をジト目で睨んだ。
帽子につかまっているハテナが、俺と目が合ってにゃおと鳴いた。
お前さん、マイペースだな。
「憤慨ッ!!『早く来ないと生徒会室を更地にする』などと言うからではないか!!」
……無茶苦茶だよ、社長。
そんなこと言ってたのか。
「さて……理事長、駿川秘書、かけたまえよ。これから面白い話が始まるぞ」
ここの主かよ、社長。
無敵すぎる。
理事長も『?』という顔をしつつも……エアグルーヴの隣に腰かけた。
たづなさんはその後ろだ。
どうやら座らないらしい。
「さて、イチロー。情報の開示を『この部屋限定で』許可する」
「ありがとうございます」
お許しが出たので、俺はシンボリルドルフを真っ直ぐ見つめた。
そして――
「俺こと山田一郎は、USC所属のファイター、『無名』だ」
と、そう言った。
「へにゃあ!?」「みゃうぅ!?」
理事長が変な叫びを上げ、それに驚いたハテナが帽子から脱出……何故かテーブルの上を走り抜けて俺の肩に乗った。
いや、なんでだよお前。
「あら、まあ……」
たづなさんは少し目を見開いたが、それだけ。
これは……気付いていたわけじゃないが、納得したということだろうか?
「……?ヤマダ、そんなに簡単に言えるのなら、なぜさっきは言わなかったんだ?」
ブライアンは首を傾げている。
素直だなあ、そして正直だ。
「フフ、それはな……社会人なら当然のことなんだよ、『ブーちゃん』」
「!?な、何故そのあだ名を……あ」
なんか、ブライアンがカワイイ名前で呼ばれてんな。
知り合いか?
「あ、アンタはまさか……『飴のおねえさん』!?」
今度は社長がカワイイ名前で呼ばれた。
どういうこったよ……情報が多重衝突事故してんぞ。
「『飴のおねえさん』……ま、まさか!ムソウシンザン社長……やはり!!」
エアグルーヴまで何かに気付いた。
誰か説明してくれよォ!?
「フフン、あんなに小さかった2人が今や立派になって……月日が過ぎるのは早いことだなァ」
「社長、あの……昔からの知り合いなんですか?」
収集がつかないので質問する。
「正確に言えば、『2人の母親と』知り合いなのだ。同じ年ごろの娘を抱える、同年代の母としてな……今でも東京に出て来た時には一緒に呑む仲だぞ?」
「ああ、そういう……」
それで、小さなころを知ってるってわけか。
「ちなみに『飴のおねえさん』というのはな、会う度に飴玉を配っていたからだ。ここの生徒たちにも、会議に来る度にいつも配っているぞ?」
「嘘でしょ……」
そう言って、社長は高そうなハンドバックを開けてみせた。
……嘘だろオイ、財布とスマホ以外は全部飴玉でパンッパンじゃねえかよ。
バッグが泣いてんぞ。
「特にサラブレッドウマ娘を見るとなあ……小さかったころのテンマを思い出してつい、な」
ムーブが完全に不審者だけど大丈夫なんか。
ちなみにテンマってのは社長の娘、『リョーガテンマ』のことだ。
……小さくてかわいい頃を想像できないほど、今ではデカくて立派に育っている。
目下、ばんえい競バにおいて獅子奮迅の大活躍中だ。
たまに社長が『嫁に……』なんて言うが、俺は絶対に嫁にはしたくない。
第一、テンマはまだ中等部だぞ!……もう俺より背がデカいけど。
「こちらでも把握しています。ムソウシンザン社長はその度にきっちり名乗っておられますので、問題はありません」
たづなさん、マジかよ。
律儀に名乗って飴玉あげてんのかよ、社長。
面白すぎるだろ。
「お母様と同年代、だと……!?」「オフクロと、同年代……!?」
エアグルーヴとブライアンは、よくわからん部分で驚愕している。
ああ、社長の若さってウマ娘から見ても異常なのか。
「驚天ッ!?ちょ、ちょっと待ってくれ!山田クンが『無名』というのは本当のことなのかッ!?」
理事長が俺に食って掛かって来た。
ようやく現実に復帰したらしい。
「ああ、そうですよ理事長。副業申請はしていますし、稽古も時間外にしていますので問題は――」
「切望ッ!!後で扇子にサインをしてくれまいかッ!!」
「あ、ハイ」
意外とミーハーだった!この理事長!!
なんか面白くなってきたな、こうなると。
「なあ、ブライアン……俺は『無名』として『USC』に所属してんだよ、つまりは『契約』だ。だからな、『契約主』である社長がOKを出さんと、勝手に『ハイそうです』って言っちまうわけにはいかねえのさ、わかったか?」
「ああ……なるほど、わかった」
「ブーちゃんは賢いなァ」
「っそ、その名前で呼ぶんじゃない!」
真っ赤になっちゃって、かわいいこった。
ま、つまりはそういうことだ。
無関係なマスコミに名乗る気はサラサラねえが、世話になってるトレセン学園の関係者ともなれば……聞かれて許可が出れば、そりゃ普通に答えるさ。
「――さて、色々回り道になっちまったがご満足いただけたかい?シンボリルドルフ会長」
さっきから黙り込んでいるシンボリルドルフに、そう問いかける。
いや、同情するよ。
俺だってこんなふうに無茶苦茶になるとは思ってなかったからなァ。
「……どうやら、私の軽挙妄動だったようです。ムソウシンザン社長、山田さん、そして理事長……まずは謝罪をさせていただきたい」
シンボリルドルフはやおら立ち上がり、こちらへ向かって深々と頭を下げた。
「U-1での人間選手の勝利、それに伴う『反ウマ娘思想』の活性化……そして今回の合宿所の不審者騒動……言い訳にしかなりませんが、不測の事態が起こり過ぎて……このシンボリルドルフ、視野狭窄となっておりました」
頭を下げたまま、彼女は続ける。
ん!?待て待て待て、今さらっととんでもねえこと言わなかったか!?
「それで、とにかくまずは『無名』選手のことだけでも把握しておこうとこのようなことを……誠に、誠に申し訳ございません。この上は――」
「――待った、シンボリルドルフ。アンタの考えはよーくわかったから、それ以上の謝罪は不要だ」
まずは、痛々しく見えるその謝罪を止めてもらう。
「座ってくれ、まずはそれからだ」
「しかし――」
「座ってくれって、俺は言ったぜ」
重ねて言うと、やっとシンボリルドルフは腰を下ろした。
そして、今度は俺が立ち……頭を下げた。
「――申し訳ない。俺の方こそ、いらん火種をこさえちまったな」
「山田さん!?」
シンボリルドルフの、驚愕した声が聞こえる。
「これこそ言い訳になっちまうが……俺は、自分がやったことがこれほどの影響を及ぼすってのを、本当の所はよくわかってなかった。ただただ、自分の……目的だけを考えてたんだ」
エキシビションマッチで勝って、初戦で勝って。
『格闘ウマ娘に勝つ』ってのが、これほど社会に影響を与える行為だってのが、本当の所はわかっていなかった。
「すまんなあ……すまん、警備している先の学生に迷惑をかけて、これじゃ警備員失格だ」
「いえ、コレは私が勝手に暴走しただけで――」
「それでも、だ。子供にいらん手間を取らせ、疑心暗鬼にさせた――それは、大人である俺の落ち度だ」
少しばかり、我がままにやり過ぎた。
「――だから、俺の方こそ申し訳ない」
しん、と静寂が満ちた。
「あの……山田さん、とにかく、お座りください」
……だな、このままじゃ話もできん。
とりあえず、座り直した。
「まぁお」
……お前、そう言えばまだ乗ってたな。
頭下げた時は器用に腰に移動してたなァ……変な猫だ。
「ああ、これだけは補足しておくぞ、まず俺は『反ウマ娘思想』とは――」
「『全てのウマ娘を愛しています』だったな、ヤマダ」
「――嫌な事覚えてやがるなァ、ブーちゃん」
「だから!その名前で呼ぶなと言った!」
トマトになっちまったな、ブライアン。
いや、悪い悪い。
だがこっちも恥ずかしいんだぞ?
「……アレは、社長が勝手にだな」
「ほう?ではイチローは……ウマ娘が大嫌いなのだな?」
「……概ね、その、公式見解の、ええ、通り、ですゥ……」
社長ォ……
もう殺してくれ。
「と、ともかく、ともかくだ!俺は『格闘ウマ娘と戦って勝ちたい』が!それによってウマ娘を見下したり、勝つことで人間の方が上だとか……そういうことを言いたいわけじゃないんだ!」
「――ええ、それについては……十二分にわかっていますよ」
と、シンボリルドルフ。
「基本的に、生徒さんからの評判は良いものしかありませんし♪」
と、たづなさん。
「当然ッ!業務と関係ないにもかかわらずハテナを一生懸命探してくれたしな!」「みぃあ!」
と、理事長とハテナ。
……それ関係あるか?
まあ、いいけど。
「フフ、イチローは愛されているなあ。さすが、ばんバに好かれ過ぎてホッカイドウトレセンを追い出された男だ」
「しれっとフィクションを混ぜないでいただきたい!」
アレはそういうことじゃないだろォ!?
「……あの、今回のことは純粋に山田さんにお話をお聞きしたいと思っただけで……別にその、害意はないのですよね、会長?」
エアグルーヴが、恐る恐るシンボリルドルフに問いかけた。
「ああ、勿論だ。山田さんは善良な警備員……コレを原因にしてどうこう、などと考えたことはないよ……今回のことは、焦りで段取りを失念した私のミスだよ、エアグルーヴ」
……まあ、色々遠回りしたが……なんとかなったのか、なあ?
「じゃあ……ええと、その、何でも聞いてくれ」
とりあえず、こう言おう。
もう、隠すこととかは特にねえし。
「ヤマダは、なんでそんなに強くなれたんだ?」
物怖じしないブライアンから、まず聞かれた。
「死ぬほど……いや違うな、死ぬ一歩手前付近で反復横跳びしながらひたすら稽古しただけだ」
「……ぐ、具体的には?」
今度はエアグルーヴだ。
「そうだなあ……まずは死ぬほど道場稽古だろ、評判の悪い道場に総当たりで道場破りだろ、盛り場で悪さをする半グレを総当たりで半殺しだろ、それと師匠に適当な山に放り込まれて野生動物と……」
「わ、わかった!わかりました……その、大変な苦労をされたんですね?」
なんか同情されたぞ、オイ。
過ぎ去ってみれば楽しい思い出なんだがなあ……いや、楽しくはないな!死にかけたし!軽く二桁!!
「……では、不躾ですが」
シンボリルドルフが、俺を真っ直ぐ見て。
「――私がこの場であなたに襲い掛かったとして、対応できますか?」
「――できる」
即答した。
「だが、やらん。決してな……正確に言えば、『勝てるがキミとは絶対に戦わない』ってこった」
この返答は予想していなかったのか、シンボリルドルフの目が丸くなる。
「それは……私が弱いからですか?」
「違う、キミが『サラブレッドウマ娘』だからだ」
これだけでは伝わらんので、補足していく。
「俺の、『討マ流』の技は『武術を修めた格闘ウマ娘』に使用することを前提に練り上げられている。『サラブレッドウマ娘』に対しては、使用することを『俺が』許さない……これは、インタビューでも言ったがな」
これは、『討マ流』の唯一にして絶対の決まり事だ。
「『対する者を選び、抗う者を選ばず。決して朋友に技を振るうべからず』……つまり『自分から戦うなら格闘ウマ娘、襲い掛かってくる相手にはすべてに反撃する。だが、友人には技を使ってはならない』ってこった」
「では……私たちは『友人』だと?」
「というより、『愛すべき隣人』ってことかな?自分で言っててちょいとくすぐったいが」
要はアレだ。
『戦うに値するやつとは戦う。仲良くできる人とは仲良く。それ以外はまあ……臨機応変にボコれ』ってこった。
「ヤマダ、では私が襲い掛かったらどう戦う?」
「戦わねえって言ったろ、話聞いてたか?逃げるよ、その場合はな」
「ほう……私の足から逃げきれる、と?」
ブライアンから、少し剣呑な気配が出る。
あー、そっちのプライドを刺激しちまったか。
「違う違う……あー……、死ぬほど恥ずかしいからあんまり言いたくねえんだがな……その、ここ以外の皆には内緒にしててくれるか?」
ブライアンは、剣呑な目のまま頷いた。
ええい、ままよ。
言っちまうか。
「――俺はな、お前らサラブレッドウマ娘が走る姿が大好きなんだよ。だから、そんな大好きな相手に暴力なんて振るえねえだろ? 走れなくしちまったら、それこそ悔やんでも悔やみきれねえ」
「ぅあ……?あ、う、うん、わかった」
うわあ、絶対引かれたぞ。
「だからまあ……ブライアンが襲い掛かってきたらだな……なんとか怪我させず気絶させるように立ち回って、それも駄目なら逃げて、それでも駄目なら、甘んじて殴られるかな?ブライアンが諦めるまで。防御力と捌きには自信あるし」
「え?……えぇ……?」
現在進行形でどんどん引かれている気がする。
そして、ブライアンは俯いて動かなくなった。
「麗しいウマ愛だな……では、私が襲い掛かったらどうする?」
「あ、ばんバの方は死ぬほど頑丈なんで普通にぶん殴ります。技は使いませんがあいだだだだだだだ!?!?!?」
社長が恐ろしい勢いで太腿を抓ってきた。
肉が!肉が千切れる!!
「こうまで真正面から好意を向けられると、その、反応に困るな、エアグルーヴ」
「そ、そうですね、会長」
残り2人にも引かれている!!
「この際だから言っちまうがよ……『討マ流』の技ってのは、人間がウマ娘と戦う上で死ぬほど効率的に組み立てられてるんだ」
「効率的、ですか?」
ドン引き生徒会3人に代わり、たづなさんが質問してくる。
「ええ、例えば……エキシビションマッチで使った『紫電』って肘打ちがあるんですがね。アレの本来の、本当に本来の使用方法は――初手で足先を破壊することなんですよ」
「足先を……」
「もっと正確に言えば、足指の付け根の骨を砕くんです。いや、『砕けるくらいの威力があればいいなあ』って考えなんですがね……格闘ウマ娘ならできるかどうかギリギリでも、それがサラブレッドウマ娘なら――」
そこまで話すと、たづなさんは納得がいった顔をした。
「そうですね、砕けます。その場合は――競争能力の、消失」
「です。他の技だってそうです、初手を下半身に限定した技ばっかりなんですよ、『討マ流』は」
「戦慄ッ!それは、考えるだに恐ろしい結果になるな!」
理事長にもわかってもらえたようだ。
「別に、サラブレッドウマ娘が格闘ウマ娘に劣ってるとか、人間に劣ってるとかそういう話じゃないんです。役割の違いなんですよ、役割の」
話しながら、考えをまとめる。
「『討マ流』は、格闘ウマ娘に全力で使って……『相手の土俵で』勝てるように研鑽した流派なんです。だから、そもそもサラブレッドウマ娘に使用する流派じゃないんですよ。明らかにオーバーキルなんで」
「なるほど……よく、わかりました」
「うむ、同時に山田クンが……良識があり、学園の生徒たちを心から愛しているということもな!!」
おおう……そんな、真正面から褒められるとその、照れる。
やめてくれ理事長、恥ずかしくって茹でダコになっちまう。
「そうだ、この際私も聞いておこうか」
社長が手を叩く。
……変な事聞かないでくださいよ?
「イチロー、それでは『反ウマ娘思想』の団体が、ウマ娘に危害を加えようとしたら……キミはどうする?」
「――そりゃあ『討マ流』、フルに使って無力化しますよ。犯罪者相手に御仏と俺の慈悲は売り切れなんで」
何故か、生徒会室がしんとした。
なんか変なこと言ったか、俺?
「……さっきヤマダは『格闘ウマ娘にしか使わない』と言わなかったか?」
ドン引きから復帰したっぽいブライアンが言った。
……なんでそんなに顔俯かせてんの?
だが、そんなもん――
「だってそんな人間は『人間じゃねえ』から、俺的にはノーカンだよ。流派的にもな……さっき言ったろ?『抗う者を選ばず』ってよ」
「ぅぁ……そ、そそそ、そうか」
聞いといてドン引きすんのやめてくんないブライアン?
「ははは!はははは!なるほど、『ヴォールク』だ!随分とお優しい『ヴォールク』だがな!!」
「あ!社長、そのヴォールクってのなんで知ってるんですか?とりあえず意味が知りたいんですけど……」
アトヴァーガが散々言ってた文言だよな、それ。
「ヴォールクとは、ロシア語で『狼』という意味だ。何故知っているのかと言えばな……あの試合以降、ほぼ毎日アトヴァーガ嬢から『無名と連絡を取りたい』と、熱烈なラブコールがあるからだよ」
「嘘でしょ……」
ライが言ってた『恋多きオンナ』って、マジなんかよ……
あの試合のどこに、俺に惚れる要素あったんだよ……
「さてはアレだな?彼女は殴られて興奮するというタチの――」
「子供!!子供がいるんですよ!!社長チャック!!お口チャック!!!!」
重苦しい雰囲気で始まった俺への質問会は、最終的に何とも言えない空気になるに至った。
ほら見ろ社長!今ので生徒会メンバーが完全に貝になっちゃったじゃん!!
「……羞恥ッ」
えぇ!?なんで理事長もォ!?
アンタ、そんなナリだけど大人だろォ?
「……私は、いいと思いますよっ♪」
たづなさん、一体どれに関して褒めてくれたんです……?
怖いから、聞かないけど。
・・☆・・
「ちなみにだがシンボリルドルフ、なんで『無名』が俺だってわかったんだ」
「一目瞭然。マスクから見える目が、あなたと同じものだったので」
「嘘でしょ……(目が良すぎるだろ、これだからウマ娘は……)」
【山田一郎のヒミツ】
・実は、マンションの部屋の壁には歴代有名サラブレッドウマ娘のポスターが所狭しと貼られている。