トレセン学園警備員さんは、ウマ娘に勝ちたい。   作:秋津モトノブ

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11話 親睦を深めるには……そうだな!BBQだな!!

「……もうこの際だからついでに聞いとくわ、シンボリルドルフ」

 

 俺の心に大ダメージを与えたカミングアウトから、しばし。

最早冷めきった紅茶で喉を潤し、口を開く。

 

「さっきちらっと言ってた『反ウマ娘思想』の活性化ってどういうこった?」

 

「え、ええ。実は……」

 

 復活して……何故か頬の赤いシンボリルドルフが語ったことは、次のようなモノだった。

・俺がエキシビジョンマッチで勝ったあたりから、トレセン学園に怪文書?のようなメールが届くようになった。

・内容は『人間の強さを思い知ったか』『思い上がったウマ娘どもに天誅を下す』などといった過激なモノ。

・アトヴァーガ戦を経た今では、毎日のように内容が過激になり……しかも違うIPアドレスで届く。

・不特定多数の人間?が送ってきているらしい。

・最近では、学園の生徒に危害を加えるような内容も増えてきた。

……との、ことだった。

 

「……社長ォ、IP逆探知して自宅特定しましょうや……」

 

「フムン、で……それからどうする?」

 

「この世に生まれたことを後悔させてやるだけですよ、それだけです……」

 

 気に入らねえな……気に入らねえよ。

俺が勝ったんだぞ、正々堂々の試合で、格闘ウマ娘に!!

その勝利の結果を、関わりのねえ第三者が、しかも最悪のやり方で利用してやがる!!

こんな理不尽、許しておけるかよ!!

 

「他人の褌で最悪の相撲取りやがって……全員の褌剥ぎ取って不浄負けにしてやらァ……」

 

「イチローは本当にウマコンだな、ははは」

 

 社長は笑っているが、笑いごとじゃねえだろ。 

 

 ちなみにウマコンとは『恋愛対象がウマ娘に限定される人間』を指す隠語である。

そんなことはない!俺はウマ娘だけが恋愛対象ってワケじゃ……ワケ、じゃ……あれ、俺の今までの恋愛遍歴って……あれェ?

……うん、この考えは今関係ないな!絶対に。

 

「フフフ、そこは私に任せておけ……この前からの会議がようやく実を結ぶな」

 

「それは、どういう……?」

 

 社長がドヤ顔を披露している。

そして……飴玉まみれの鞄から、折り畳まれたパンフレットを取り出した。

そこには……

 

「『USCサイバーセキュリティ』?」

 

 そう、書かれていた。

 

「新規開拓だ、この先はこの分野が伸びるからな……今回の件に照らし合わせれば、脅迫メールをブロック、IPを抜き……簡単に言えば片っ端から訴えたり、警察に丸投げしたりできる」

 

「なるほど」

 

 俺がぶん殴るよりは早そうだ。

物理じゃ対抗できない部類の話だしな。

 

「『無名』がウチのHPに出した『声明文』への反響も凄いぞ。『そんな人とは思わなかった』『信じていたのに』『もうファン辞めます』等々……素敵な悲鳴が届いている。ふふふ、日に日に過激化しているから、こっちでも賠償金が稼げる日も遠くはない、と言うわけだ」

 

「最悪ジャンルの不労所得だ……」

 

 俺が思うよりも『反ウマ娘思想』てのは根強いらしい。

はあー……しょうもない人間ってのは意外と多いんだなァ。

 

「好機ッ!トレセン学園、そしてURAはこの流れに断固として反撃の姿勢を取るッ!USCと歩調を合わせてな!!」

 

「フフフ、毎度ありがとうございます」

 

 悪い顔してんなァ、社長。

 

「素晴らしいぞイチロー。どれだけ叩き潰しても心が痛まず、さらに金を産む理想的な敵だ」

 

「それは素敵ですね、とっても」

 

 ま、俺もそんな相手に同情なんざしねえがな。

精々震えて眠くなってそのまま永眠してろ。

 

「……ヤマダ」

 

「お?」

 

 ブライアンが遠い目をしている。

 

「……アンタの会社の社長、その、凄いな」

 

「ブライアンのとこの理事長もな」

 

「……ああ」

 

 味方にすればこれほど頼もしいほどの存在はいないが、敵に回すとひたすら恐ろしい。

味方なので問題ないが。

 

「山田さん、この度は私の先走りで……」

 

 おっと、シンボリルドルフがまた謝ろうとしている!

 

「もういい、もういいってシンボリルドルフ。この話は終わりだ、終わり!いいな?」

 

 そう言い、手を差し出した。

シンボリルドルフは、俺の手を見つめて……柔らかく微笑んだ。

 

「これは……仲直りの握手、ということですね?」

 

「元々仲違いもしてねえだろ。俺がまっとうなウマ娘と喧嘩する理由なんてねえからな」

 

「そうですか……ふふ」  

 

 シンボリルドルフと、がっちり握手した。

……まあ、色々あったが終わりよければすべてよし!だ。

 

「ついでに私も……女帝殿も、ホラ」

 

「え、えぇ?……う、うむ」

 

 握ったままの手に、ブライアンが手を乗せてきた。

そして、さらにその上にエアグルーヴ。

なんだこれ、三国志みたいな状況になったんだが。

 

「歓喜ッ!仲良きことは美しき哉ッ!!」「めぉおう!!」

 

 理事長とハテナが、〆のように同時に声を上げた。

……八方丸く収まった、か?

 

 

・・☆・・

(※三人称)

 

 

「んなぁああああああああ~~~~~!?!?」

 

 トレセン学園、合宿所。

騎バ隊との仕事を終え、休憩をしていたライデンオー。

彼女は、スマホを見て突如として悲鳴を上げた。

 

「ワッツ!?どうしたんデスか、ライデンオーサン!?」

 

「ど、どうしたの?ライデンオーさん」

 

 たまたま近くにいたタイキシャトルとライスシャワーが、慌てて寄ってきた。

彼女らの質問にも答えず、ライデンオーは震えながらスマホだけを見つめている。

 

「ひ、人が、人が寂しさに耐えて労働に勤しんでいたというのに……あんの、あんのパイセンん……!!!!」

 

「ヤマダサンに何か、あったデース?」

 

「おじさま、今日は学園に戻ってるんだよね……な、何かあったのかな?」

 

 相談する2人の前で、ライデンオーは地面に突っ伏し……たかと思うと、高速で横回転を始めた。

なんとも、表現できない光景である。

 

「ミギャアアアアアアアアアアアアアアッ!!ウチも!ウチも学園に行きたいッスぅう~~~!!!!」

 

 まるで子供のようである。

子供がやってもギリギリな行動だが、身長190センチオーバーのばんえいウマ娘がやればそれはもう恐怖である。

 

「なんやなんや!?てっきりフクキタルあたりが吠えとるんかと思たら……ライデンオーはんやんけ!?タイキ!ライス!何があったんやコレ!?」

 

 騒ぎを聞きつけてか、タマモクロスがやってきた。

 

「そ、それがライス達にも何が何だか……」

 

「スマートフォンを見て、その後……こうなったデース!」

 

「スマホぉ?……これかいな」

 

 地面に落下したままのスマートフォン、それをタマモクロスが拾った。

画面はまだスリープ状態に移行しておらず、先程までライデンオーが見ていた内容がそのまま映し出された。

どうやら、メールソフトを起動していたようだ。

添付されていた写真が表示されている。

送り主は『山田 一郎♡』

最後の♡は、恐らくライデンオーが電話帳に追加したものだろう。

 

「あっ……(察し)イヤイヤイヤ、なんやこのメンツぅ!?!?」

 

 タマモクロスは驚愕し。

 

「うわあ……いいなあ、みんな。ライスも行きたい……」

 

 ライスシャワーは羨み。

 

「ノォウ!またBBQデース!ヤマダサン、ズルイデース!!」

 

 タイキシャトルもまた、羨んだ。

 

 添付された写真、そこには……

 

 『色々あったが、丸く収まりました』という題名と。

焼き台を囲み、カメラを見る……6人の女性が写っていた。

シンボリルドルフ、エアグルーヴ、ナリタブライアン、駿川たづな、秋川やよい……そして、ムソウシンザン。

山田はカメラマンなのか、画面にはいない。

 

「パイセンの……パイセンの裏切者オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!」

 

 ライデンオーの的外れな雄叫びだけが、雄々しく空に響き渡った。

 

 その叫びに……合宿所の生徒たちが、また不審者か!?と一時パニックに陥ったという、そういう顛末であった。

 

 

・・☆・・

 

 

「ホラ、ブライアン。肉焼けたぞ肉、丁度いい焼き加減だ……そして俺が特製タレで丹念に焼き上げた飴色タマネギさんも食え」

 

「ン」

 

「美味いか?いくらでもあるからな、どんどん食って大きくなれよ~」

 

「ン」

 

 ブライアン、食ってる時は素直だな。

ま、食ってる時以外もそれなりに素直なんだがな。

 

「イチロー、私にも肉を」

 

「あ、そこら辺のヤツ全部OKなんで好きに食ってくださあいだだだだだだ!?!?」

 

 背中が!背中の肉が抓りで抉り取られる!?

なんてパワーだ!?

 

「雑過ぎるなお前……そんなにナリタブライアンが好きか?アレか?サラブレッドウマ娘なら何でも好きなのか?私は名義上お前の雇い主なのだが?」

 

「こ、こちら……合宿中にコッソリ仕込んでおいた燻製卵と燻製チーズですぅ……お納めください……」

 

 それを見た社長とたづなさんの目が輝いた。

2人は酒飲みだからな、食いつきも違う。

あ、2人とも勤務は終わっているので飲酒しても大丈夫だ。

たづなさんは今日は早出だったらしいし、社長に至っては社長だからなんとでもなる。

 

「ん~♪おいしいです!山田さんは格闘だけじゃなくて燻製の才能もあるんですね~♪」

 

「フフフ……ブランデーがよく合う……」

 

 社長、それBBQで飲むランクの酒じゃないでしょ。

機嫌が直ったからいいけどさ。

 

「ほれルドルフ、コレがホッカイドウトレセン直伝のメチャウマ焼きモロコシだ、食え食え」

 

 あの生徒会室での一件以来『ルドルフでいい』と言われたのでそう呼ぶ。

 

「ありがとう、山田さん……ン、美味しい!これはブライアンが夢中になるわけだな!」

 

 俺も『敬語いらね』と言ったのでなんか、ちょっと仲良くなれた気がする。

 

「ほれほれ、エアグルーヴも。こっちはナゴヤトレセン直伝みそ焼きオニギリだ!」

 

「わかった!わかったからそう押し付けるな!自分で食べられる……たわけが」

 

 エアグルーヴも、かたっ苦しい敬語がなくなっていいことだな。

 

「理事長、サガトレセン直伝の焼きつくねができましたよ」

 

「美味ッ!!」

 

「ハテナ~、お土産のアジは美味いか?ちゃんと冷ましたからな」

 

「んみみぃ!んなぁおう!!」

 

 理事長とハテナもちゃんと楽しんでいるようでよかったな。

ハテナはともかく、理事長はいつも忙しそうだからここでリフレッシュしていただきてえ。

 

 ……いやあ、ライとこっそり焼くために詰所の倉庫に炭と焼き台を隠しといたのが役に立った。

やはり、友誼を深めるには同じ釜の飯……同じ網の飯を食うのが一番だなあ!

 

「……ヤマダ、これはなんだ」

 

「これか?焼きつくねを生のパプリカに詰めたもんだ。本当はピーマンがいいんだが……これならブライアンも美味しく食えるぞ!騙されたと思って食ってみろ!ほれほれほれ」

 

 取り箸で顔の前まで持っていくと……ブライアンは何のためらいもなくかぶりついた。

コイツ、餌付けされ慣れているな!

ハヤヒデ、甘やかしすぎだぞ!まあいいけどなァ!

 

「んもむ……ン、ンン」

 

「美味いか~?」

 

「ン、悪くない」

 

 フハハ!美味いって顔に書いてあるぞ!

 

「はっはっは!恥ずかしがり屋さんめ!」

 

「……うるさい、次を寄越せ」

 

「よーし、じゃあこれだ!これは帯広名物のタレで塗った焼き豚を……おにぎりに巻き付けたヤツ!おっと、付け合わせのニンジングラッセも食えよ~」

 

「ン、ン」

 

 さーて、俺は何を食うかな。

調子に乗って準備しまくったから、在庫はまだまだあるぞ!

うっかりオグリやライスがいる感じで用意しちまったからな!ハハハ!

 

「す、すごくいい匂い……お腹空いたなぁ……ええぇ!?会長さんたちがバーベキューしてる!?」

 

 おや、見るからに腹ペコそうな女子生徒がやってきたな!

あれは……たしか。

 

「お前は……ゴールデンウィークだな!こっち来て食え食え!」

 

「す、スペシャルウィークですぅ!……ってぇええええ!?む、ムソウシンザンさんもいるべ……!?」

 

 お、北海道出身か!

それならば……!

 

「スペシャルウィーク!帯広の豚丼もあるぞ~!らっしゃいらっしゃい!」

 

「帯広のっ……!?け、警備員さん、いいんですかぁ!?」

 

「いいに決まってんだろ!山田家家訓『腹ペコの子供の横で笑って飯食う奴は殺す』だァ!!」

 

「わ、わーいっ!!」

 

 はーいスペシャルウィーク1名ごあんなーい!!

焼くぞ焼くぞ~!

 

「ほれまずは焼きモロコシを……食ってるな!ヨシ!遠慮すんなよ!!」

 

「めめめもめめも~(おいしいですう~)」

 

 やべえ!ニンジンが焦げちまうところだった!

食材に呪い殺されちまうわ!

 

「とてもお腹がすいたねぇ……いい匂いだねぇ……」

 

「ハイそこのナリタタキオン!!足ほっそいなあお前!食ってけ食ってけ!!」

 

「そんな肉食モンスターみたいな名前はやめて欲しいねぇ……アグネスタキオンだよぉ……」

 

 よし!アグネスタキオン1名追加!ごめんな名前間違えて!

 

 っちゅうかこれ、ウマ娘の嗅覚を甘く見てたな!

ほぼ合宿だから大丈夫だと思ってたが、意外と残留組も多いんだなァ。

……まあいいけどな!

『泣いてるウマ娘にはとりあえず飯を食わせろ』……山田家家訓だ!

別に誰も泣いてねえけどな!!

 

「すごく……すごいいい匂いです!今日はお祭りですか!?」

 

「トプロちゃあああああああん!!ライがマジで申し訳ないから食ってけ食ってけ!!」

 

「え?ぇえ?特に心当たりはないですけど……じゃあ山田さん、いただきますっ!!」

 

「らっしゃいせ!!」

 

 ほんともう申し訳ないからいくらでも食ってくんな!!

 

「カイチョー!ボクに黙ってバーベキューなんてズルいよーっ!!ボクも食べたーい!!」

 

「出たなトウナンカイテイオーッ!!泣くまで食わせてやるから食え食え!!」

 

「 ト ウ カ イ テ イ オ ー !」

 

「申し訳ねえ!はちみーのような物体を飲めッ!!」

 

「ワーイ!!」

 

 その後、匂いにつられてやってくるウマ娘たちに片っ端から飯を食わせた。

いやー……あのスペシャルウィークっての、ばんえいウマ娘級に食うのな。

在庫が足りなくて商店街までダッシュしちまったぜ。

 

 俺1人じゃ手が足りねえから、たまたまそこにいたウマ娘たちも巻き込んだけどな。

金は俺の持ち出しだが……こんなことがなけりゃ特に使わねえからな!

U-1のファイトマネーも丸々残ってるしよ!

英気を養って、次の試合も勝つぞォ!!

後顧の憂いもなくなったしな!

 

 

 火の始末をして、BBQはお開きとなった。

たづなさんと理事長、そして社長は既に帰った。

一緒に食ってたウマ娘の皆が片付けを手伝ってくれたので、思ったより早く済んだな。

みんないい子で素晴らしい……食わせ甲斐があるってもんだ。

 

「では山田さん、これで失礼するよ。テイオー……は、このまま背負って寮まで送っていくとするか」

 

「モウタベラレニャイ……モンニー……」

 

「おう、お前さんも早く寝るんだぞ」

 

「はは、さすがに少し運動してからにするよ。ウシ娘になってしまう」

 

 ルドルフは、腹いっぱいになって眠ったトウカイテイオーを背負って去って行く。

今更だが2人ともよく似てんなァ、親戚か?

ウマ娘って直系じゃなくても似てる人たちいるからな、血縁がなくても驚かんが。

 

「山田、それでは私も失礼する」

 

「おう、じゃあな。あ、真波サンがよ、珍しい花の種があるから明日あたり取りに来いってよ」

 

「なに……!そ、それは楽しみだな!」

 

 エアグルーヴは、少しだけ軽やかな足取りで帰っていく。

あんだけ世話してんだ、花が好きなんだなァ。

……花壇の空いてる所にライとサツマイモ植える計画、実行しなくてよかった。

 

「おーっと、ブライアン。コレお土産な、ハヤヒデと一緒に食え」

 

「ム、なんだこれは」

 

「暇な時に作ったバナナチップス。美味いぞ……1人で食うなよ、ソレしたら仕込み中のビーフジャーキーは全部スぺちゃんに食わせるからな」

 

「――わかった!必ずそうする、だから……」

 

「よーしいい子だ、明日取りに来い。俺は合宿所に戻るけど萩谷(はぎや)さんって警備員に預けとくからな」

 

 爺さん3人衆の1人だ。

たぶん、あの人からもなんか貰えるぞ。

無限にウマ娘甘やかすジャンルの人だからな。

 

「~♪」

 

 あらあら、楽しそうに帰るなあ。

ブライアン、問題児だって聞いていたが……いい子じゃないか、素直で。

 

 これでみんな撤収した。

さて……ちょっと休憩したら今日中に合宿所に帰るかな。

明日は準夜勤だから時間に余裕はあるしな。

 

「……ありゃ?」

 

 スマホの通知ランプがめっさ自己主張してる。

しまった、みんなに色々食わせるのに夢中で忘れてたな。

社長が一緒だったから仕事の連絡じゃないと思うが。

合宿所のトラブルとかもないとは思うが、一応確認を……

 

 

『着信:86件』

 

 

 ――ッヒ!?

なんだこの惨状!?

おいおい!数少ない親戚に不幸でもあったのか!?

 

『着信履歴:ライ ライ ライ ライス タイキ ライスシャワーのトレーナー ライ ライ ライ 川添トレーナー……』

 

 あー……うん、無視していいヤツだわこれ。

特にライ。

8割ライじゃねえかよ。

そんなにBBQ途中の写真送ったのが気に入らんかったんか。

 

 うわー、メールもギチギチに来てるじゃん。

アイツ焼肉と俺好きすぎるだろ。

先輩離れしてくんない?

 

 

『狡いッス』『許さねえッス』『裏切者』『浮気者』『トレセンのドンファン』『ライスちゃんも泣いてるッスよ』『タイキちゃんが拗ねて貝になりました』『タマモちゃんがタコ焼きパーティを始めました』『オグリちゃんに6割食われたッス』

 

 

 ……後半になればなるほどちょっと面白ェじゃねえかよ。

あと、トレセンのドンファンってなんだよ。

 

『オグリキャップだ、たこ焼きは美味しかったがそちらの豚丼も美味しそうでお腹が空いた、今度食べてみたい』

 

……たこ焼きを6割食らいつくした癖にこの食欲、すごいな。

 

「あー……『そっちに戻る時に特製ビーフジャーキーを持って帰るぞ』っと……うお!?……もしもし山田です」

 

『山田さん!それは本当か!?』

 

 着信が早すぎる。

さすがは灰色の怪物とか言われたり言われなかったりするというオグリキャップ。

 

「嘘付いてどうすんだよ……外国産だがいい肉が大量に手に入ったんでな。留守にしたお詫びも兼ねて持っていくよ」

 

『そうか!わかった!!』

 

 不意に、オグリの背後が騒がしくなった。

 

『なんでオグリちゃんに真っ先に電話するんスか!!』『ヤマダサーンっ!寂しいデース!!』『おじさま!悪いウマ娘にさらわれてない!?』『山田はん!!戻ってくる時にタコ買うてきてんか!?もう在庫あれへんねん!!』

 

 ……そもそも、これはオグリからかかってきたんであって……うん、もういいや。

あと、タコは良いものを買って帰ってやるからな、タマモクロス。

 

「それじゃ!楽しみにしとけよ~!」

 

『ああ!ありがとう山田さん!』

 

 嬉しそうなオグリの声を聞きながら、電話を切って着信音とバイブを切った。

うーん……明日帰ろう!そうしよう!!

 

 

・・☆・・

(※三人称)

 

「ふう……いささか食べ過ぎてしまった。山田さんは人に食べさせるのが上手いな」

 

 シンボリルドルフは、トウカイテイオーを寮まで送った後にグラウンドへ向かっていた。

山田に行ったように、軽く走るつもりである。

 日頃から暴飲暴食は戒めているが、今日は少し羽目を外し過ぎたようだ。

 

「生徒も少ないことだし、軽く流していくとするか」

 

 大体の生徒は、合宿へ赴いている。

シンボリルドルフを始めとする生徒会メンバーもそうだったが、今日は山田へ例の件を質問するために戻っていたのだ。

 

「山田さんが、いい人でよかった……」

 

 今日の顛末を思い出し、安堵するシンボリルドルフ。

思えば、かなり不躾な聞き方だったように思う。

焦っていたとはいえ、こればかりは言い訳もできない。

 

「(家族のことまで持ち出して……彼が優しかったからよかったようなものの、アレは言うべきではなかった)」

 

『オフクロが生きていた頃』と発言した彼を、彼女は思い出す。

本人はあっけらかんとしたものだったが、亡くなった家族の話を急に出されたらいい気持ちはしないだろう。

 

「情けない、彼の優しさに縋ってしまった……」

 

 自らの未熟さを痛感しつつ、シンボリルドルフがグラウンドに到着したその時である。

 

 

「――しっかりと反省しているようで感心した。さすがはシンボリの末席に名を連ねる者だな」

 

 

 グラウンド脇のベンチに、人影。

紫煙を吐き出しつつ立ち上がったのは、先程まで彼女と一緒だった人物だった。

 

「……敷地内は全面禁煙なのですが」

 

「なに、ただの水蒸気とアロマだ。有毒なものではないよ」

 

 USC代表、ムソウシンザン。

映像媒体で見た現役時代と比べ、衰えるどころかさらに発達したように見える……年齢不詳の女傑がそこにいた。

 

「だがまあ、見た目で誤解されても困る、か」

 

 口元の電子タバコを、懐へしまい込むムソウシンザン。

そうして彼女は、シンボリルドルフを真っ直ぐ見つめた。

自分よりも40センチは高い所から、貫くような視線。

シンボリルドルフは、それを真っ向から受け止める。

 

「シンボリの小娘……否、シンボリルドルフよ――調べた全てを、あの時言わなかったな」

 

「……はい」

 

 山田の経歴を調べる際、彼女はシンボリ家の力を使った。

長年非合法な活動に従事している……というような特別なケースでない限り、問題なく調べつくすことができる。

あの場で山田がかたくなに否定するようなら、申し訳ないとは思いつつもその『カード』を切る気ではあったのだ。

だが、山田が予想以上に……いやかなり好意的だったのと、シンボリルドルフ自身の『良心』によってその行動にブレーキがかかったのだ。

 

「それでいい――鼻が利いたな、シンボリルドルフ」

 

 ムソウシンザンは、胸ポケットから新たに取り出した棒付きキャンディを口に放り込む。

 

「利口なお前ならわかっているだろう――『誰もがみな、触れてはならない傷を抱えている』」

 

 どこかの小説の一説を引用し、彼女はキャンディを――音を立てて噛み砕いた。

 

「お前が言わずにいた『ソレ』は、間違いなくイチローの『オリジン』だ。誰にも触れられたくない、『誰もが触れてはならない傷』だ」

 

 がぎり、と犬歯が噛み合う。

 

「覚えておけよ、シンボリルドルフ。よおく、覚えておけ」

 

 その両目に、凄まじいまでの熱量を抱えて――彼女は変わらずシンボリルドルフを見た。

 

ムソウシンザンは、『USC』はな、社員を不幸にするものを決して許さない。『全てのウマ娘に幸福を』と掲げるお前のように、な」

 

 彼女は、身を翻して歩き出す。

 

「イチローは優しく、他の社員やここの学生にも好かれている。お前たちのことも、自分の家族のように思っているだろう」

 

 虚空を、何かが飛んだ。

咄嗟にシンボリルドルフがかざした手に飛んできたのは――『キュンキュンイチゴ味☆』と書かれた飴玉の包みだった。

 

「なら、私も一度だけは見逃してやろう。まあ、娘が暴走した時に比べればさほどのことでもないしな」

 

「だから――」

 

 最後に、顔だけで彼女は振り返る。

 

「――ッ!」

 

 シンボリルドルフの全身を、寒気が貫いた。

先程までとは違う、極寒の視線だった。

 

 

――あまり私を失望させるんじゃないぞ。『(エクリプス)』の後継たらんと邁進する……若き獅子よ

 

 

 それだけ言うと、周囲に高笑いを響かせて彼女は去った。

一度も、振り返らずに。

 

 

「……さすがは、女傑。凄まじい迫力だった」

 

 しばし後、全身が冷え切ったシンボリルドルフが呟く。

 

「遠いな、遥かに遠い。お歴々は、遥か高みにいる……私はまだあまりにも、未熟」

 

 飴玉を口に放り込み、何度か舐めて嚙み砕く。

そして、彼女は勢いよく大地を蹴った。

 

「だが、百折不撓――私は、それでも進まねばならない」

 

 外周の土を豪快に吹き飛ばし、シンボリルドルフは走り出す。

いくつもの挫折を抱え、それでもなお前に進む。

 

 それは、未来の指針になろうとする――若き獅子の姿に見えた。

 

 

・・☆・・

 

 

「おや、今日は1人なのか……ふむ、補習?なに、それはいけないな……私も現役時代はよくやらされたものだ、飴をやろう、元気を出して頑張るのだぞ」

 

「いつも元気でいいな、これからの活躍が楽しみだ……ほら、飴をやろう」

 

「ふむ、スタミナか……肉を食い、筋肉をつけることだ。そら、飴をやろう」

 

「お母さんみたい?ふふ、嬉しいことを言ってくれるじゃないか……それでは母親らしく飴をやろう、しっかり歯を磨くのだぞ?」

 

 

「(……マジで飴、配り歩いてやがる)」




【ムソウシンザンのヒミツ】
・実は、身長150センチ以下のトレセン生徒は全員中等部だと思っていた。
 タマモクロスとイナリワンが娘よりも年上だと知った時は、本気で驚愕した。
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