トレセン学園警備員さんは、ウマ娘に勝ちたい。   作:秋津モトノブ

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17話 勤務と猫とSPと。

「腕の振りが遅いぞー!重心を意識するんだ!」「ハイッ!」

 

「夏合宿を思い出しなさい!蹴り足を重視して踏み込む!」「ハイッ!!」

 

「ラァイス!頭の位置を意識しなさいッ!!そうそう、その角度が一番カワイイッ!!」「は、はいぃ……」

 

 ……一部に不審者スレスレなのがいるが、グラウンドのあちこちで生徒たちが練習に勤しんでいる。

夏合宿も終わり、これからレース開催が盛んになる。

合宿の間に付けた力をいかんなく発揮するために、必死になってるってわけだな。

 

「まだ暑いっスね~、ウチの制服だけ水着になんないスか?」

 

「その場合は真っ先に通報してやるわ、直々に」

 

「んなぁ~、パイセンに逮捕されちゃうッス~♪」

 

「オイオイ無敵かこのばんバ」

 

 今日も今日とてお仕事だ。

やっぱ、今回みたいな準夜勤が一番楽だと思うなァ。

日勤は結構忙しないし、夜勤は逆に暇すぎる。

これくらいがいい塩梅だと思う。

 

「久しぶりにパイセンの顔が見れてウチのテンションがアゲアゲッス!あげみざわッス!!」

 

「あげみざわはよくわからんが、俺も顔の包帯だけでもなくなって嬉しいよ」

 

 ライが言うように、顔面の包帯は本日をもってめでたく取れた。

まだ体の包帯は取れんが。

……まあな、『路面電車に撥ねられた』傷がそんなに早く治ったらやばいしな。

『無名認定』どころか『ミュータント認定』されてもおかしくねえし。

 

「傷、やっぱり残ったスねえ……」

 

「まあな、別に構わんが」

 

 右眉の上には、横一文字に傷が残った。

若干赤みがかっているが、これは消えるだろう。

傷自体は消えんだろうが。

 

「俺がモデルとか芸能人なら大変だろうがな、今更傷が増えた所でなんとも思わんよ」

 

「おお……パイセン、男の子ッスね!」

 

「そうだよ?」

 

 そんな話をしながら、グランドを回る。

ライにはグラウンドを見てもらい、俺は林だ。

まあ、こんなに日が高いうちから不審者もいないとは思うが……

そうじゃなくてもスズメバチとかがいる可能性もあるし、気をつけないとな。

 

「みぃあ!めぇおう!」

 

「ようハテナ、今日もパトロールご苦労」

 

 ハチではなく、草むらから見知った猫が出てきた。

すっかり顔なじみになったハテナさんだ。

いつも理事長の帽子にいるような感じだったが、意外と活動的だよなあ。

 

「ハテナちゃーん♪今日もカワイイッス~、んちゅちゅ~」「ナァアォッ!」

 

 おいやめろライ、明らかに嫌がって……

 

「フシャッ!」「ぁ痛いッ!!」

 

 言わんこっちゃねえ、顔面猫パンチされてら。

爪立てられなかったことを感謝するんだな。

 

「みぃい!」

 

 ハテナがライの手から逃れ、俺の肩に登ってきた。

お前高いとこホント好きだな。

初めに会った時も枝に登ってたし。

 

「ハテナちゃんはほんとにパイセンの肩が好きっスね~……」

 

「というよりお前のウザノリが嫌いなだけだと思うわ」

 

 しばらく待ってみたが、一向にハテナが降りない。

それどころか、肩を起点にして器用に前後に寝そべる有様だ。

……仕方ねえなァ。

 

「このまま行くか」「めぇおう~」

 

「今日のパイセンは萌えキャラっス」

 

 そんな要素はねえよ。

まあとにかく、巡視を継続することにした。

どうせ校舎行くしな、ついでに理事長室に送っていくか。

 

 

・・☆・・

 

 

「なんやなんや、今日の山田はんはおもろいことになってんな~」

 

「あ、タマちゃんおっすおっす。練習お疲れっス~」

 

「ライはんもお疲れやで~」

 

 グラウンドを後にして校舎に差し掛かった頃、水飲み場で休憩している様子のタマに出会った。

 

「なんかな、休憩場所にされちまったんだよ……ハテナ、そろそろ降りねえか」

 

「なぁあん!」

 

 ……降りたくねえらしい。

何が気に入ったのやら。

 

「せやせや……誰もいてへんな……山田はん、その後腕の具合はどないや?顔の方は……傷が残ったけど大丈夫そうやな」

 タマは周囲を素早く見回し、声を潜めて聞いてきた。オグリやブライアンとフドウギク戦を見に来てくれてたんだよな。

病院の後にみんなで飯食いに行ったが、ブライアンが興奮していつもよりちょっとテンションが高かった。

 

「ん、まあ動くぜ、痛みはあるがな。筋のダメージは長引くからなァ……」

 

「そっか、治るんならよかったわ。無茶苦茶ボッコボコやり合うとったんでな、もうハラハラし通しやったで」

 

「マスクで隠れてるッスけど、パイセンって試合中クッソ顔怖いッスよね。ライオンみたいな顔してるッス」

 

 どんな顔だよ。

映像で見返したけど、ただ単に笑ってただけだったぞ。 

 

「心配してくれてありがとうな。とりあえず、今は山に行くなよ?また猪が出ても前みたいに守れんかもしれん」

 

「行かへんわ!っちゅうかあんな思いは二度と御免や!!」

 

 はは、アレはすげえ運の悪さだったな。

俺だって、発情期以外にあんなに興奮した猪見たの初めてだよ。

 

「ウチもパイセンに守られたいッスねぇ……いいなあタマちゃん」

 

「お前は本気タックルすりゃいいだろ。ばんえいウマ娘の全力ならそのままハンバーグにできらァ」

 

「んなぁ~!?さすがにS過ぎっス!!ウチもか弱いウマ娘なんスよ~!!」

 

 か弱い……か弱い?

あんだけの荷物引っ張ってレースするばんバが、か弱い……???

 

「山田はん、アンタ時々むっさ酷いわ……」

 

「んみぃい……」

 

 タマのジト目交じりの抗議に、ハテナが同意するように鳴いた。

 

「タマちゃんは優しいッスねぇ~どっかのパイセンにも見習ってほしいッス~」

 

「むわわわわ」

 

 ライがタマを抱え上げて抱きしめた。

胸に思い切り埋まってんな。

窒息する前に解放してやれよ。

 

「っぷわぁ!うむむむ……質量の暴力……ばんバ、すごいわ」

 

「大丈夫ッスよ、タマちゃんもおっきくなれるッス!」

 

「なるわけないやろ!種族的に無理や!!」

 

「でもホラ、イナリちゃんとかロブロイちゃんは?」

 

「……アイツにあの子は、バグや、バグなんや……なんやアレ、おかしいやろ……」

 

 誰かの名前らしきものを出され、タマは摘まみ上げられた猫みたいにぐったりした。

バグ?なんかの隠語か?

 

「せめてボーノくらい縦にもデッカイんやったら納得するんやけど……」

 

「あー、ボーノちゃんウチらに匹敵するくらいおっきいッスもんね~」

 

 ボーノ……ああ!あのでっかい子か!

何度か見たことがあるぞ。

ばんえいウマ娘かと思って、始めは二度見しちまったからよく覚えてる。

アレでサラブレッドウマ娘なんだからなあ……ほんと、ウマ娘は神秘に満ちてるぜ。

 

「……ん?あかん、休憩終わりや!ライはん、下ろして―な」

 

「お、了解ッス~」

 

 タマは地面に下りると、軽くストレッチをしてからグラウンドへ向けて走り出した。

 

「怪我しない程度に頑張れよ~!」

 

「山田はんにだけは言われたないわ~!」

 

 確かに。

それを言われちゃ、ぐうの音も出ねえな。

 

「一本取られたッスね、パイセン」

 

「だなあ……さて、そろそろハテナを理事長室に送っていくか。今頃寂しくて泣いてるかもしれねえし」

 

 ……マジで泣いてそうな予感がすんだよな。

溺愛してそうでもあるし。

この学園に猫がやたら多いのって、理事長が集めてるからじゃねえのかね?

まあ、動物は好きだからいいけどよ。

 

 校舎内の巡視を兼ねて、理事長室へ向かうことにした。

 

 

・・☆・・

 

 

 校内に残っている生徒たちにハテナのことで散々からかわれつつ、校内を巡視。

特に問題があるような箇所もなく、すんなり理事長室前に到着したんだが……

 

「先客がいるようだな。少し待つか」

 

「そっスね。特に急ぎの予定じゃないスから」

 

 廊下の先には、理事長室の立派な扉。

そしてその前に……直立不動で立つ、黒スーツのウマ娘が2人。

ドアの横に、等間隔で立っている。

アイルランドのSP隊だ。

あそこに立ってるってことは……中にいるのは。

 

「ファインちゃんが来てるみたいッスね」

 

「今更だがお前、一国の王女サマに随分気安いよな……敬語とか使わなくていいのか?」

 

 恐れ多いとかそういうのはないのか?

王女だぞ、王女。  

 

「あ、ファインちゃんそういうの苦手っちゅうか嫌みたいッスよ。普通の女の子扱いしてくれ~って言われましたもん」

 

「ほーん……そういうことなんか」

 

 そういえば、ラーメン屋も教えてもらったんだっけか。

随分と庶民的?なお姫サマなんだな。

 

 話しながら近付いていくと、向こうも俺たちに気付いたらしい。

一瞬緊張して……俺を、正確に言えば俺の肩にいるハテナを見てそれを解いた。

っていうか、ちょっと笑ってないか?

別に爆笑してもいいんだぜ?

 

「お前のせいで随分愉快に思われてるみてえだぞ、ハテナ」

 

「なぉおん」

 

 すげえドヤ顔しやがって。

絵になるな、お前。

 

 さらに近付き、適当な所で止まってから会釈。

向こうさんは、綺麗な立ち姿で見事な礼を返してきた。

 

「山田様、ライデンオー様、こんにちは」

 

 みんな似たような背格好なのでわかりにくいが、たぶんこの人はこの前の会議で代筆してくれた人だな。

声が少し特徴的なので覚えている。

 

「こんにちは、お仕事お疲れさまです」

 

「こんにちはッス」「みぃあ!」

 

 ハテナまで挨拶したので、SPさんはサングラスの下の目を軽く見開いた後微笑んだ。

 

「ふふ……申し訳ございませんが、現在理事長様と殿下がお話しになっております。しばらくお待ちください」

 

「ええ、こちらは急ぐ用事ではありませんので、お構いなく。このまま待たせてもらいますよ」

 

 そう言って、ライと一緒に待つことにする。

 

「山田様、お怪我の具合は……あら、傷が残ってしまったのですね」

 

 SPさんは俺の顔の傷を見て顔を曇らせた。

 

「いえ、日本には『向こう傷は戦士の誉』という言葉がありましてね。私としてはより男前になったと満足していますよ」

 

 正真正銘、戦の中で付いた傷だしな。

誇りに思うことはあっても、悔やむような傷ではない。

 

「ッスッス、パイセンは元々男前っすけどね~」

 

「よせやい、あんまり褒めると無限に調子に乗るぞ俺ァ」

 

 ライの軽口に返す。

その様子を見て、SPさんは顔を綻ばせた。

 

「あら……山田様はサムライなのですね」

 

「さて、どうでしょうかね。先祖は一応そうだったらしいですけれども」

 

 死んだ爺さんがよく言ってたっけか。

ウチは譜代大名の家系で~ってな。

どうだかねえ、山田なんつうよくある苗字だしな。

 

「ウチもそうらしいッスよ。関ケ原で大暴れしたとかしないとか聞いたッス」

 

「どっちなんだよ……まあ、ばんバの兵隊ならクソ強いだろうけどな」

 

 この膂力で槍なんか振り回されたら、もう台風みてえなもんだ。

どっかの神社には刃渡り8メーター超えの『ウマ娘専用大太刀』なんてのも奉納されてるし、戦国時代は軽く地獄だな。

討マ流でもなんとか間合いに入らんと、アウトレンジから斬り殺されちまう。

まあ、この令和の世の中に刀持ちと戦うことなんてそうそうないだろうが。

 

「パイセンパイセン、SPさん達見てたら交流行事のこと思い出したッス。テンマちゃんが言ってたッスよ、『全然ウマイン返してくれないんですの!』って」

 

「また唐突だなあ……返してんぞ、10回に1回は。アイツが送り過ぎなんだよ」

 

 テンマのやつ、そんなことばっかしてるから補習祭りになってんじゃねえのか?

この前の試合の時も、それで東京行きがパーになったって聞いたぞ。

今度の行事も参加できません、ってことにならなきゃいいんだけどな。

 

「『もっと構ってくれませんと、一郎さんのIDを先輩たちにばら撒きますわ~』とのことッス」

 

「お前モノマネうめぇな……あー、前向きに善処する方向で持ち帰って検討するって言っといてくれ」

 

「それ遠回しな拒絶ッスね……まあ、うまいこと誤魔化しとくッス」

 

 助かる。

高校生にIDが流出した日には、通知が来すぎて携帯が爆発すっかもしれねえ。

 

「まあ……山田様はばんえいの皆様にも慕われておいでなのですね」

 

「パイセンはウマ娘が好きで好きでたまんないお人よしッスから。困ってる生徒には無限に世話を焼くッス」

 

「あら、まあ」

 

 お前そんな人を人助け大好きマンみたいに……

そんなにいっつも世話ばっかりしてたわけじゃ……わけじゃ……ちょっとこの話はやめておこうか、うん。

 

 そんな話をしていると、扉越しの室内から人の動く気配がした。

どうやら、中の話が終わったらしい。

ライと一緒に通路の脇に避ける。

 

 SPさんたちが素早く扉の両脇に寄り、取っ手を持って開ける。

洗練された動作だ、さすが王族直属。

扉が開き、中から左右をSPに挟まれたウマ娘……ファインモーションが出てきた。

こうして間近で見るのは初めてだが、気品がある……ような気がする!

 

 ファインモーションは、廊下にいる俺達に気付いて顔をパッと明るくした。

 

「あ!ライさんだ~、こんにちは~♪」

 

「オッスオッス、こんちわっス~♪」

 

 ……軽いな、軽い。

ほんと、普通の女の子って感じだな。

 

「今日はどうしたの~?」

 

「理事長の猫ちゃんを見つけたんで、連れてきたんスよ。ねえ、パイセン?」

 

 ライがこちらへ水を向けてくる。

さて、どんな感じで話したもんかな……

 

「あー……そうです、このハテナを見つけたので……」

 

 俺が敬語で話し始めると、ファインモーションはあからさまに不機嫌そうな顔になった。

マジかよ、これ駄目?

目でライに話しかけると『駄目ッス』的な目線が返ってきた。

……ええい、ままよ!

 

「……見つけたんで、巡視ついでに届けに来たんだ。なあ、ハテナ」「んみぃあ~」

 

 するとあら不思議。

ファインモーションは元の笑顔に戻った。

……これで正解なのかよ、心臓に悪いぜ。

 

「キミがライさんがいつも言ってる先輩さんだね~?ファインモーションだよ、よろしく~♪」

 

「ああ、よろしく。山田一郎だ」

 

 話し方は気安いが、それでもナチュラルに上からの話し方なんだな。

しかし別に嫌な感じじゃないのが、また凄い。

なるほど、上に立つ者の所作って感じなのか、これが。

 

 廊下に出て歩き出すファインモーション。

その後ろに、ぴったりと張り付くのはSP隊長さんだ。

足運びが淀みなく、変な感じはないのに……足音が極端に小さい。

あの歩法……重心のブレが少ないのか。

熟練の武道家もびっくりだな。

 

「そういえば、ライにいいラーメン屋を教えてくれたんだってな。今度食いに行くんだ、ありがとうよ」

 

「あっ!『本家濱々家』だね!あそこのネギ盛りチャーシュー麺はとってもおいしいから、楽しんできてね~♪」

 

 一瞬で店名とメイン商品まで思い出すのかよ。

こりゃ、よほどのラーメン狂だな

 

「ああ、そうさせてもらうよ――」

 

 

 ――後ろの隊長さんから、不意に殺気。

 

 

 重心を踵に移し、いつでも跳び下がれるように僅かに膝をかがめる。

そして、初撃をいつでも放てるように腕の力を抜いた。

何かを感じたのか、ハテナが少しだけ身を固くした。

 

 そこまでやって、殺気が消えた。

 

「……?」

 

「いや、なんでもない。ラーメンのことを考えたら腹が減っちまってなァ」

 

 急に黙った俺を不思議そうに見るファインモーションに、そう返す。

 

「あは、その気持ちわかるかも~♪」

 

「ウチもッス!」

 

 くすくすと笑いながら、ファインモーションが俺達の前を通っていく。

 

「山田さん、ライさん、それではごきげんよう~♪」

 

「ごきげんようッス!」「ああ、それじゃあな」

 

 ――通り過ぎる一瞬。

隊長さんが、俺に意味ありげな視線を送った。

何かを、試すかのように。

 

 俺は、それに軽い会釈で返した。

隊長さんは、薄く笑って――何も言わずに通り過ぎた。

その他の隊員さんたちは一切の私語もなく去って行く。

 

 ……うーん、ありゃ凄ェ。

なかなかの迫力だ。

 

「……疑われてんのかァ?」

 

「?何スか、パイセン」

 

「うんにゃ、今日の晩飯は何を作ろうかなって思ってよ」

 

「ウチは棒棒鶏が食べたいッスねえ~」

 

「お前ナチュラルに食いに来る気かよ」

 

 理事長が俺か社長の許可無しに正体をバラすとは考えられんし……勘で、俺に何かを感じ取ったってことか?

流石は王家直属の護衛、その長だ。

迂闊な動きは慎んだ方がいいな。

何もする気もないが。

 

「……うし、帰宅だぞハテナ」「みゃお」

 

 気を取り直して扉をノックすると『許可ッ!入りたまえっ!!』という、元気な声が返ってきた。

 

 

・・☆・・

 

 

「……隊長、先程のアレは」

 

「少し、『誘い』をかけた」

 

「……それで、如何でしたか」

 

「恐ろしく、恐ろしく自然な動きで対応の気配を見せた……眉一つ動かすことなく、私の取りうる行動すべてに対応できる気配をな」

 

「……探り、ますか?」

 

「学園内での人となりと、評判を。あのUSCが後ろ暗い人間を、それもトレセン学園に配属するとは考えられないが……一応、な」

 

「御意。即座に予備隊を動かします」

 

「ん~?隊長、どうしたの~?」

 

「――いえ、山田様の肩で寛ぐハテナちゃんが可愛らしかったもので」

 

「わかる~!私にもああしてくれないかな~? あれだけ懐かれるんだもん、ライさんが言う通り、山田さんはとってもいい人なんだね!」

 

「――ええ、そのようですね、殿下」

 

 

・・☆・・

 

 

「感謝ッ!!誠に申し訳ない!」

 

 理事長室にて、ハテナを抱っこして理事長が頭を下げてきた。

 

「いえ、お気になさらず。巡視のついでですから」

 

「みぃい」

 

 するすると帽子の上に登ったハテナは、『そうだよ』と言わんばかりに鳴いた。

こいつ……猫だけあって自由気ままだなあ。

 

「理事長、さっきファインちゃん来てたっスけど月末のイベント関連スか?」

 

「うむ、USCとの合同警備体制についての確認だな。それと、ファインモーション経由でアイルランド王家との連絡事項が少しあったのでな」 

 

 すげえな、王家と直に繋がってんのかよ。

俺からすりゃあ雲の上の話だぜ。

 

「それと……山田クン」

 

「はい?」

 

「キミについて隊長殿に聞かれたぞ。怪我の具合などをな、どうやら気になるらしい」

 

 ……やはり、か。

 

「廊下でちょいと殺気で『撫でられ』ましたよ。どうやら、何か……疑っていらっしゃるようで」

 

「驚愕ッ!?それは本当か!?」

 

 がたん、と理事長が立ち上がった。

ハテナは抜群のバランス感覚で揺らいでいない。

 

「まあ、自分で言うのもなんですが俺は目立ちますから。王族の警護をなさる方々からすれば、そりゃあ気になるでしょう」

 

 デカいし、なんか大怪我してるし、男性警備員だし。

不審じゃないかと言われれば、超不審人物だわ。

 

「俺としてはこの件について思う所はありませんから、なんなら社長と話し合って『情報開示』してもいいですが?」

 

 別に、『無名』が不利益になることはないと思うが。

 

「――駄目ッスよ、パイセン」

 

 ライに肩を掴まれた。

なんだこいつ、やけに真面目な声出しやがって。

何か気になることでもあんのか?

 

「――ウチの勘が囁いてるッス……ああいうタイプのウマ娘は強い男がタイプッス!パイセンが格闘ウマ娘と正面から殴り合える人材だって知れたら、国家パワーで住所特定されて二桁の夜這いが――」

 

「猥談キャンセル!」

 

「あがっががっがが!?」

 

 とんでもねえ妄言が始まりそうだったので、とりあえずアイアンクローをかましておく。

まったく、油断も隙もねえ。

 

「とにかく……少し社長と話し合ってみますよ、理事長」

 

「う、うむ!私も気にしておこう!キミが危険な人物でないことはよくわかっているしな!!」

 

 少し赤い顔をして、理事長がこほんと咳をした。

 

「ありがとうございます」「パイセンパイセン、頭が割れるんでもう許しあだだだだだだ!?」

 

 喚くライをそのままに、会釈してから退室した。

大丈夫だよライ、本気でやってもどうなるかわからんから。

ばんえいウマ娘の頭蓋骨って硬ェなあ。

 

「ひぇえ~もうアイアンクローはこりごりッスよぉ~……」

 

 やっぱり余裕あんな、お前。




【タマモクロスのヒミツ】
・実は、せめてもう5センチは身長が欲しいらしい。
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