トレセン学園警備員さんは、ウマ娘に勝ちたい。 作:秋津モトノブ
「おー来たッス、来たッスよパイセン」
「来たなあ」
トレセン学園、正門前。
現在の時刻は午前10時過ぎ。
ライと並んで立っている俺の目の前に、でっかいバスがやってくる。
それも、5台。
勿論、ここいるのは俺達だけじゃない。
なんたって『来賓』の出迎えなんだもんな。
今回の『交流行事』の。
俺達USCの警備員に、アイルランドのSP隊。
学校関係者と、勿論理事長。
そして……生徒会のメンバーだ。
ファインは国賓だが、区分的には『一生徒』なのでここにはいない。
「いつ見ても、でかいバスだ」
横に立っているブライアンが呟く。
お前生徒会の所にいなくていいんかよ。
こっちはすげえ後ろだぞ。
「USCの契約してるばんえいウマ娘専用車両ッス。座席も広いし最高なんスよ~」
「ああ、俺も何回か乗ったがゆったりしていていいよな」
俺もライもデカいから、普通のバスだと隣の席の人に申し訳なくなっちまうが……アレならその気兼ねもない。
まあ、座席面積を確保する目的で長いし、乗れる人数も少ないがな。
通常の大型バスなら40人前後の定員だろうが、アレは20人だ。
今回の『交流行事』のためにホッカイドウトレセンからやってくるのは、総勢80人。
向こうの教職員、トレーナー、そして勿論現役のばんバたちだ。
……まあ、教職員とトレーナーもほとんどばんバだけどな。
「今更だが、出迎えに行かんでいいんかブライアンよ」
「……もう少ししたら行く。話さなくて済むのはいいが、一番前に出るのは少し苦手だ」
レースとは勝手が違うってか?
まあ、行くつもりがあるならいいが。
「ウチも学校行事は好きだったッスけど、挨拶とか宣誓とかは嫌いッス」
苦手じゃなくて嫌いときたよ。
コイツ、ホントにこの体たらくで重賞を何回も勝ったばんえいウマ娘なのか?
とても信じられんぞ。
「あ、理事長ッス」
ライが言うように、先頭のバスのドアが開いて人影が出てきた。
大きな、人影が。
「ウチの現役時代からぜんっぜん老けてないッス。社長もそうっスけど不思議ッスよね」
バスから初めに降り立ったのは、ウマ娘。
社長に抜かれるまで、ばんえい競馬の獲得賞金総額1位を誇っていた女傑。
そして、未だに破られていない『最多出場数』『最多重賞連覇』の記録を持つ……ホッカイドウトレセンの理事長。
社長よりも大分前に引退したが、明らかに推測される実年齢よりも若々しい。
「歓迎ッ!遠路はるばるようこそお越し下さった!『アオノエース』理事長ッ!!」
半袖のワイシャツに、スラックス。
シンプルだがピシッと決まった服装の理事長は、破顔して軽く手を上げた。
その身長は俺どころかライすら超える、2メートル10センチ前後。
いつ見ても、でかい。
「やよいちゃ~ん、今回もお世話になるわね~♪」
が、その口から出たのは朗らかで女性的な優しい声。
相変わらず、すげえギャップだぜ。
見た目は黒髪ロングでキツ目の大美人だっつうのにな。
現役時代は、どれだけの斤量を背負っても笑みを絶やさずに勝利を重ねるから『菩薩』っていう異名があったらしい。
俺も映像で見たことがあるが、ニコニコしながらとんでもねえデカさのソリを曳いていた、
逆におっかねえ。
「アオノエース理事長、ようこそいらっしゃいました。トレセン学園一同、歓迎を申し上げます」
秋川理事長の横に進み出たシンボリルドルフが、綺麗に一礼。
その後ろにはエアグルーヴと、いつの間にか合流したブライアンの姿。
「ルドルフちゃんも元気そうでよかった~、うんうん、よろしくね~♪」
そして、アオノエース理事長の後ろからゾロゾロと生徒が降りてくる。
うーん、凄まじい大迫力。
誰もが最低でも身長170センチ以上、最大はアオノエース理事長に並ぶ2メーターオーバー。
圧力が、すげえ。
「シンボリルドルフ会長、お久しぶりです。今回もお世話になります」
「カグラテンリュウ会長、こちらこそよろしくお願いします。よき交流祭としましょう」
栗毛のウマ娘……向こうの生徒会長がシンボリルドルフと握手している。
見た目は完全に母娘くらいの身長差だ。
カグラテンリュウ、久しぶりに見たな。
相変わらずでっけえ。
ライよりもデカいからな。
「カグラちゃんも元気そうッス。この前帰省した時は一緒に味噌ラーメンを梯子したっス」
「そういえば仲良かったなお前ら」
俺はここに来るまでホッカイドウトレセンに勤務してたから、そこらへんの交友関係は知ってる。
本場の味噌ラーメン、久しぶりに食いてえな。
生徒たちは口々に挨拶しながら、自分の荷物を背負って学園の方へ移動していく。
この行事中、彼女たちは校舎内の空き教室に分散して宿泊する。
空き教室とはいっても、しっかりとしたマットレスや布団が置かれているしクーラーもある。
食事はカフェテリアが全面的に支援するので、この前から恐ろしい量の追加食材が搬入されている。
トレセンで大食いと言えばオグリだが、ばんバでは『ちょっとよく食べる子』くらいのランクなのだ。
まさに、異次元胃袋。
シンボリルドルフがカグラテンリュウ……カグラを先導しながら歩き出す。
部屋に荷物を置かせ、その後は体育館で歓迎行事を行うためだ。
ゾロゾロと歩く生徒たち。
先頭は高等部、その後ろに中等部が続く。
当たり前だがだいたいは高等部の方がデカい。
だが、たまーに中等部の方でもデカいのがいる。
そのうちのデカいのの1人が、明らかに警備員の中でも後ろにいる俺の方へ向いた。
あー……見つかった。
隠れとくわけにはいかねえもんな、歓迎の都合上。
「ライ、じゃじゃウマが来るぞ」
「うひ、ウチは巻き込まれんように退避するッス……」
さっ、と俺から離れるライ。
気持ちはわかるが、もうちょっと歯に衣を着せろ。
「一郎さんッ!一郎さんですわぁ~~~~~~!!」
中等部の列からそうデカい声が聞こえると同時に、列が割れる。
タマやタイシンの身長くらいある鞄を足元に置き、そのウマ娘がこちらへ走り出す。
視界の端で、SP隊が一斉に身構えるのが見えたが……ホッカイドウトレセンに勤務経験があるUSC警備員は動かない。
慣れてるからだ。
「っすぅう……」
今更どうにもならんので、腰を落として身構える。
息を吐き、筋肉の緊張を和らげ……『衝撃』に備えた。
「お久しぶりでございますっ!わぁ~~~!!」
走り込んできたウマ娘が、両手を大きく広げて抱き着いてきた。
「――ぬんっ!!」
タイキのそれとは比べ物にならん衝撃力を、上半身から下半身……そして地面へと受け流す。
しかしさすがは現役のばんバ、これだけでは吹き飛ばされてしまう。
「――お、おぉおッ!!」
消しきれなかった衝撃を、横方向へ変換。
抱き着いてきたそいつを保持し、ジャイアントスイングよろしく回転。
何度かそうすることで、衝撃を完全に受け流した。
コイツ……前より破壊力が増してやがる!
これで中等部だってんだから、この先が恐ろしい。
「あ~、久しぶりですわ~この感覚!一郎さん以外の方ではこうはいきませんわ~!」
艶やかなロングヘアを揺らし、ころころと笑うウマ娘。
見た目は完全に大人なのに、中身はやっぱり中等部だ。
外見は年々社長に似てくるけど。
「……絶対に、俺以外の人間にコレやんじゃねえぞ、お嬢」
「あらぁ、独占欲ですの?」
「アホか、普通の人間にやったら人身事故だよ」
何度もぶん回したのに、一切目が回った様子の無いウマ娘。
USC社長、ムソウシンザンの1人娘にして……将来を嘱望されているばんえいウマ娘。
『リョーガテンマ』である。
「テンマちゃんが走り出したと思ったらやっぱり山田さんじゃん!」「すっごいよね、あんな後ろにいるのに」「あ!ライデンオー先輩もいる~!」
「ちゃオッスちゃオッス、みんな元気そうッスね~♪」
中等部の子たちが、いつものことのように動じていない。
高等部の子たちも、『ああまたか……』みたいな反応。
「テンマ!勝手な行動をとるんじゃない!」
カグラ生徒会長だけが、憤怒の形相でやってくる。
「全く、もしも人違いだったらどうするんだ!」
「アラ、いやですわ生徒会長。わたくしが一郎さんを見間違えることなどありえませんことよ?」
「そういうこっちゃねえんだよ、ホレ離れろ」
いまだに抱き着いているテンマを引き剥がす。
まったくもう……コイツが初等部のころから知ってるが、中身は変わらんのに外側がデカくなりすぎなんだよ。
「山田さん、お久しぶりです。いつもすみません」
カグラが頭を下げてきた。
生徒会長だが、ルドルフと違ってエアグルーヴタイプだな。
苦労してそうだ。
「いいんだよ、カグラも大変だな。あとで何か差し入れるからな」
「あ、ありがとうございます……」
こんなアバンギャルドな後輩がいて大変だな、マジで。
「あら、素敵ですわね!」
「お前はちょっと遠慮しろよ……ホラ、とっとと荷物置いてこい」
「ああん、それでは後ほどですわ~」
「コラ、ちゃんと歩け!」
カグラはテンマを半ば引きずるようにして歩いていった。
いやあ、大変そうだ、
「ライ先輩も、のちほど~」
「ウッスウッス!」
そして、ライはいつの間にか帰って来ていた。
「いやぁ、相変わらずテンマちゃんのタックルエグいッス。爆発みたいな音しましたもん……それを捌くパイセンも凄いんスけど」
「年々威力が上がってんだよなァ……アレに比べりゃタイキのハグは楽なもんだ」
アレくらいならいつでも大丈夫だが、テンマの方は心構えしとかねえと吹き飛ばされる。
もはや『攻撃』のレベルになってやがるな。
社長のDNA、恐るべし。
「今回も騒がしくなりそうだなァ」
「いつものことっスよ、いつもの」
今回の交流祭自体は1日で終わるが、勿論北海道から直行直帰って訳にはいかない。
ホッカイドウトレセンの生徒たちは、3泊4日の行程でここに宿泊することになっている。
さてさて、頑張るとするかね。
・・☆・・
「……隊長、今のをご覧になりましたか」
「嫌でも、な。ばんえいウマ娘……それもトップクラスの突進を捌いてみせた。やはり、山田様はただものではない」
「こちらで調べた範囲では何も悪い情報は出てきませんでしたが……USCにコンタクトを取りますか?」
「そうだな、この行事にはムソウシンザン社長も参加される。これを機に会談を持たせてもらおう」
「……しかし山田様になら、正面からでも受け止めていただけるのですね……」
「……おい、その女学生のような顔はやめろ」
「ですが、殿方に真正面からぶつかっていけるのはウマ娘の憧れの一つですから……」
「……むぅ」
・・☆・・
体育館での歓迎行事が終わり、ばんえいウマ娘たちは一旦宿泊部屋に戻った。
この後しばし休憩し、カフェテリアに集合して交流&食事会となる。
俺達警備員は、この先特別な仕事はない。
通常通りの勤務となる。
本番は明後日の交流祭だ。
なので、ライと組んで校内の巡視をしていたんだが。
「一郎さ~ん!」
来たよ、じゃじゃウマが。
おとなしくしてろっての。
「ど~ん!ですわ~ッ!!」
またかよ。
突っ込んできたテンマを抱き留め、さっきと同じように回転して勢いを殺す。
……今更だが、これも十分とんでもない行為だよな。
これで『無名』認定されちゃたまんねえぞ。
交流祭では絶対にしないように言い含めておかねえとな。
「ライ先輩にも~!」
リリースすると、テンマはライに向かってダッシュ。
「うっしゃ来るッス!」
そして、ライは真正面からぶつかった。
どむ、という普段聞かないような異音が廊下に響いた。
ライは少しだけ足を滑らせたが、問題なく受け止める。
「わー!キングちゃん!すっごい音!」「まるで交通事故ね……ライデンオーさんはともかく、やっぱり山田さんが受け止められるのはおかしいわよ……」
周囲の生徒たちの、というかキングヘイローの目線が痛い。
今日は行事のために、授業はないからなァ。
普段は授業している時間帯だが、普通に生徒がいる。
「けーびいんさーんっ!わたしもー!」
目を輝かせたウララが突っ込んできた。
その後ろにいるキングヘイローは『やっぱり……』と諦めたような顔をしている。
仕方ねえな……別に嫌じゃねえけどよ!
「わーいっ!」
「よっと、ほいっ」
駆け込み、半ば飛びついてきたウララを受け止めてテンマにしたように回転させる。
あー、軽い軽い。
テンマに比べりゃ羽だぜ。
回転させたウララを、フィギュアスケートよろしくそのまま肩に乗せた。
「ウララは軽いなあ、ちゃんと飯食ってるか?」
「うんっ!今日の朝ご飯はおかわりもしたよ~?」
「そっか、そりゃあいい。いっぱい食ってでっかく強くなるんだぞ、ばんバくらいに」
「それはどう考えても無理じゃないかしら……?」
近付いてきたキングヘイローが、それはもう見事なジト目を披露した。
わからんぞ~、例のボーノちゃんとかもいるし。
「あら、可愛らしいお2人ですこと!わたくし、リョーガテンマと申しますわ~」
ライとハグしていたテンマも寄ってきた。
たしか可愛いもの好きだったもんな。
「テンマさんだね!こんにちは!ハルウララだよ~!」
「あの、キングヘイローと申します、よろしく」
「あらあら、よろしくお願いしますわ~!お2人は中等部かしら?それならわたくしと同じですわね~」
ここの校舎は中等部しかいないので、テンマはそう思ったんだろう。
「そーなんだ!じゃあ、テンマちゃんだね~!」
「嬉しいですわ~、でしたらわたくしはウララちゃんとお呼びしますわ~」
俺の肩に乗ったウララが、テンマと楽しそうに握手している。
一瞬で仲良くなったなお前ら。
さすがウララ、天真爛漫故のコミュ力よ……
「ちゅう……とう、ぶ?」
そしてキングヘイローは、宇宙空間を背景にした有名な猫みたいな顔をしていた。
うん……ビビるよな、テンマはばんバの中でもデカい方だし。
「ばんえいウマ娘はみんなデカいからなあ、ホッカイドウトレセンじゃたしか……最低でも身長170センチ台からだぜ」
「おっきい人がいっぱいなんだね!羨ましいなー」
「うふふ、わたくしとしましてはこちらの皆様のように小柄な方々に憧れますわ~?」
ないものねだりというやつか。
人はいつも、自分にないものを欲しがるって言うしな。
「ウチも身長がもうちょっと低かったらって一瞬考えたことがあるッスね。ばんえいウマ娘なら誰もが一度は通る道ッスよ」
ライが懐かしむように、うんうんと頷いていた。
「ウララ達はこれからカフェテリアに行くのか?歓迎会で」
「うん!そうだよ~」
さすがに全校生徒は入らないので、希望だか選抜だかで中・高等部の生徒たちが参加することになっている。
「一郎さんもご一緒しましょう?」
「残念ながら俺ァ正門当番だ。ライがそっちの担当だから仲良くな……よっと」
ウララを下ろし、帽子を深くかぶる。
「そろそろ時間だな……俺は門へ向かうから、引率を頼むぞライ」
「おけまる~ッス。さぁみんな行くッスよ~♪」
「わーいっ!」「ちょっ、ちょっとライデンオーさん!?私は大丈夫……ひゃわわわ!?」
ウララとキングヘイローを米俵よろしく抱え上げ、テンマを従えてライが去って行く。
……あの、歩いて一緒に行けばいいんじゃねえのか?
ウララは喜んでいるが……すまん、キングヘイロー。
軽く周囲を巡回した後、正門へ向かうことにした。
・・☆・・
「あら山田さん、お仕事お疲れ様です」
門まで来ると、先にたづなさんがいた。
どうしてここに……?
「たづなさん、歓迎会はいいんですか?」
「あちらは生徒会主催ですので、私は今オフなんです♪」
オフなのに……なおさらなぜここへ?
「山田さんとお話をしに来ました♪」
「はあ……」
たづなさんが、俺に話?
なんだろう……職務上での連絡事項とかあったかな。
「……『無名』さん絡みのことですよ♪」
――瞬時に、周囲を確認。
まあ、当たり前だが人影はない。
たづなさん程の人が不用意に発言するはずもない、か。
「何かありました?」
そう聞くと、たづなさんが横まで寄ってきた。
うわ、なんかいい匂いする。
内心の動揺を隠していると、彼女は小さく囁いてきた。
「――アイルランドのSP隊が、山田さんのことを調べています。主に、生徒間の噂などの聞き取りといった形ですが」
……あー。
やっぱりそうなったかァ。
「俺も麻痺してたんですけどね。あの方々の前でタイキのタックル……じゃないハグを捌いてたりしたんで、そこらへんから不審に思われたんじゃないんですかね」
今日もテンマを振り回しちまったし。
「あら、まあ……山田さん、さすがにそれは普通の人間さんには無理ですよ?」
たづなさんは苦笑している。
「返す言葉もございません……さすがに、学園外ではやってませんがね」
U-1とかのせいで麻痺しちまった。
あの連中に比べたら普通?の力だしよ。
「この前理事長室に言った時に、向こうの隊長さんに殺気を当てられて……思わず反撃の気配を出しちまいました。それも原因の一つでしょう」
「ふふ、なんだか本当にアクション映画みたいですね♪」
たづなさんはちょっと楽しそうだ。
「理事長には報告しましたが……こんな怪しい男が警備員だったら、そりゃあ王族の護衛としちゃ心配でしょうよ」
「う~ん……私の感覚では『仮想敵』というよりも、今は『とりあえず気になるから調べる』って感じだと思います。生徒たちの話を聞けば、山田さんが変な人物じゃないのはよくわかりますし♪」
うーん、喜ばしい事なんだろうがくすぐったいな。
結構信頼されてんのか、俺。
まあ変なことをした記憶はねえけど。
「今回の交流祭ではムソウシンザン社長がお越しになりますよね?恐らくですが、そこで情報の開示を求める算段だと思いますよ?」
「あー……ありそうですよね、それ。前回の件も含めて社長に報告しときます……よく考えたらこの後もイベント目白押しだな。たづなさん、今ここで電話してもいいですか?」
「どうぞ♪職務上必要な行為ですので」
話が早くてありがたい。
さっそく懐からスマホを取り出し、社長をコール。
「『ムソウシンザンだ』」
相変わらず出るのはええな。
「社長、山田です。今、お時間大丈夫ですか?」
「『大丈夫だ、何の話だ?』」
「実はですね――」
許可が出たので、SP隊とのことをかいつまんで説明した。
社長は黙って話を聞いていた。
「『ふむ……なるほど、恐らく秘書殿の言う通りだな。先程、本社宛に会談の打診が届いていた』」
お、もう話が通ってたのか。
こりゃあ本気かな。
「『コレは少し考え物だな……いや、SP隊に対して含むところはないぞ?だが、今回の会談でその情報を開示すれば、向こうの『本国』まで話が行きかねんのだ』」
あ、そういうことか。
さすがに今アイルランドまで正体が伝わるのもなァ……どうしたもんか。
「俺は一切腹芸ができないんで、申し訳ありませんが社長に全部お任せしたいです」
「『フムン、むしろその方がいいな。よかろう、情報開示の判断はこちらへ任せてもらおうか』」
「よろしくお願いします」
しばし話をして、通話を終了した。
とりあえず、社長に任せよう。
俺がやるよりも何倍もいい結果になるハズだ。
「なんとか丸く収まりそうですよ、たづなさん」
「そのようです♪よかったですね」
たづなさんは手を打ってニコニコしている。
このタイミングで教えてもらってよかった。
さすが、トレセンが誇る敏腕秘書。
「――あ、そういえばもう一つお話があるんです」
もう一つゥ?
これ以上はマジで心当たりがねえんだが……?
「――コーヒーが美味しい喫茶店のこと、調べておきましたよ♪」
たづなさんは、悪戯っぽく笑うとそう言ったのだった。
【リョーガテンマのひみつ】
・実は、ホッカイドウ時代にハグの余波で正面玄関のガラス戸を破壊したことがある。