トレセン学園警備員さんは、ウマ娘に勝ちたい。   作:秋津モトノブ

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31話 ニンジャってのは本当に人気なんだなァ。

「いつでもいいぜ」

 

 俺が言うと同時に、前方の人物が動く。

 

「――っし!!」

 

 ぼ、と空気を打ち抜く正拳が放たれる。

それに、踏み込みつつ右の裏拳を添える。

攻撃のベクトルをずらされ、正拳が逸れた。

 

「……と、まあこんな感じです。大事なのは『逸らす』こと、正面から当たれば俺どころかそこら辺の格闘ウマ娘の拳も壊れますが、こうすれば最低限の力を用いて無効化が可能です」

 

 『周囲』に説明しつつ、動きを止めた人物……フドウギクに言う。

 

「よし、次」

 

「押忍!」

 

 フドウギクが吠え、踏み込みつつ腰を回す。

ハイキック……じゃねえ!!

コイツ、打ち合わせ忘れたんかよ!?

 

「ぬっ、う!!」

 

 ハイキックの動作が中断され、ミドルの軌道へ。

そいつを、零距離に踏み込んで、太腿に手を添えて受ける。

 

「……お前なあ」

 

 抗議すると、フドウギクは少し顔を赤くした。

 

「すいません。ジブン、ちょっと『楽しく』なったス」

 

「そういうのはな、こういう場じゃないところでやれよ……俺まで『楽しく』なったらどうすんだ」

 

「……いいんじゃないスか?」

 

「よくねえよ!もっかいトーナメントが始まっちまうだろうがよ」

 

 と、そこまで喋った所で周囲の視線に気付く。

 

「え~……これはですね、超至近距離に踏み込むことで、蹴りの威力が『乗る』前に止めました。拳にしろ蹴りにしろ、攻撃ってのは最適の距離がありますので」

 

 慌てて、誤魔化しつつ説明する。

そう、この場にいるのは俺とフドウギクだけではない。

 

 ここは、トレセン学園第三会議室。

そして、周囲にいるのは……真剣な表情でメモを取る、アイルランドSP隊の皆様だ。

本日は、あちら側からUSCへ秘密裏に打診された『近接戦講座』である。

SP隊長さんからウチの社長へのリクエストだった。

俺としては、トップがOK出してんなら別に言うことはない。

先日付でトレセン勤務になったフドウギクもいるしな。

ちなみにライは通常勤務中である。

『ウチも稽古に協力するッス!!サンドバッグ役でいいッスからァ!!』という恐ろしい発言を聞いた社長は、かなり珍しいことにドン引きしながら断っていた。

あの人がああなるの、初めて見たな……

 

ライ、ある意味お前は最強だ。

俺も素直にドン引きだよ。

 

「あの、山田様っ!蹴りに対して接近が間に合わなかった場合はどうすればよろしいのですか!」

 

 メイヴさんからの質問。

なるほど、いい質問だな。

 

「ええ、その場合はですね……フドウギク、もう一度ミドルだ」

 

「押忍!」

 

 体を離し、フドウギクに合図。

今度はちゃんとミドルキックが放たれた。

蹴りをスウェーで躱し、足先が目の前を通り過ぎた瞬間に踏み込む。

そして、体勢を崩したフドウギクの胴体に正拳の寸止め。

 

「ってな感じに正拳を打ち込むのもアリですし、軸足をこう……」

 

 蹴りを放ったフドウギクの軸足に下段蹴りの寸止め。

 

「刈り取るもよし、です。俺の力じゃタイミングを計る必要がありますが、皆さんなら強引にでも持っていけるでしょう」

 

 なんたってエリートの護衛ウマ娘たちだ。

フィジカルもさぞかしエリートに違いない。

 

「よし、ありがとうなフドウギク」

 

「押忍!」

 

 お互いに構えを解く。

 

「ええっと、ここまでで何かご質問は?」

 

 そう聞くと、なんと隊長さん自らが手を上げた。

 

「山田様、大変不躾な質問ではありますが……私どもが『討マ流』を学ぶことは可能でしょうか?」

 

 彼女は少し緊張しながら、そう聞いてくる。

対面のフドウギクも『興味があります!!』という顔色になった。

あー……まあ、そう聞くよなあ、俺の出自知ってりゃ。

 

「ええっと、ですね……」

 

「――隊長!いくらなんでもそれは失礼に過ぎます!山田様が血の滲むような思いをして得た技術を、そのように簡単に……!」

 

 おおっと、思ってもみない所からの発言だ。

メイヴさん、随分優しいな。

いかんいかん、俺のせいでSP隊が揉めるのは避けたい。

 

「いやいやいや、その件についてはしっかり説明しますんで落ち着いてください」

 

 とにかく宥める。

 

「メイヴさんも、隊長さんも気にしないでくださいね。フドウギク、アレ頼む」

 

「押忍!」

 

 用意していた荷物から、フドウギクが鉄板を取り出した。

倉庫にあった、厚さ5センチ程度の一般的な大きさの鉄板である。

それを、俺に向かって構える。

 

「とりあえず、今から実演しますね」

 

 息を吸い、ゆるく構える。

フドウギクに目で合図し、向こうの準備が整ったのを見て踏み込む。

足先から力を連動させ、捻りを入れた掌底を放つ。

 

「――破ッ!!」

 

 掌が鉄板に触れた瞬間に、力を向こう側へ『通す』

踏み込みの音と同時に、掌底を打ち込んだ鉄板がへこむ。

ふむ、今日は調子がいいな。

 

「これは『拍打』っていう技です。まあ、修行は必要ですが皆さんなら『似たような』技は習得可能でしょう……ですが、ウマ娘が『討マ流』を会得することは『不可能』です」

 

 技の威力というか、掌底打ちが鉄板をへこませたことに驚いていたSP隊の皆様が我に返る。

 

「あの、それはどういう……?」

 

 メイヴさんが代表するように質問してきた。

 

「はい、討マ流は『人間が死ぬほど鍛えて格闘ウマ娘に勝てる……かもしれない』っていう武術なんですよ。つまりはそう、『人間としての』限界ギリギリまで力を出すっていうのが『最低条件』なんです……フドウギク」

 

「押忍!」

 

 今度は、荷物の中から軟式野球のボールを取り出すフドウギク。

ぽおん、と下手でこちらへ放る。

 

「――っふ!!」

 

 両掌で挟む。

衝撃が中央で炸裂し、軟球は内側から割れた。

 

「……これは『雷拝』って技でしてね。両側から同時に衝撃を叩きつけて『通し』、内部で炸裂させるヤツです」

 

「ジャルワール選手に使った技スね?」

 

 技を見るのが楽しいのか、フドウギクの目が輝いている。

意外と子供っぽいな……そりゃそうか、ライよりも年下なんだし。

 

「ああそうだ。んで、これもまあ……修行さえすれば、やっぱり『似たような技』は使えるでしょうね」

 

 手をはたき、軟球の破片を落とす。

 

「さて、ここで種明かし……って程でもないんですがね。討マ流の技は『人間用の』チューンをしたデバイス、だと思ってください」

 

「人間用、ですか?」

 

 隊長さんの質問。

 

「ええ、討マ流は人間がウマ娘に勝つために……アホみたいな年月をかけて完成された武術です。『ウマ娘が使用』することは、ハナから考えられてないんですよ」

 

 フドウギクに合図。

今度は、薪用の角材が飛んでくる。

 

「――鋭ッ!!」

 

 横方向へ身を翻しつつ、右肘を叩き込む。

タイミングがバッチリ決まった一撃が、角材を弾くことなくめり込んだ。

そして、破砕。

 

「あ、これは『紫電』って技です。……つまるところ、討マ流は徹頭徹尾人間用の武術なんです」

 

 散らばる木材を払い、続ける。

 

「人間でも生半可な鍛え方をした奴が、表面上だけなぞっても大怪我します。技の『反動』に、体が耐えられないんですよ」

 

「あ!ということは……」

 

 メイヴさんが目を見開いた。

 

「ええ、ウマ娘が討マ流の技を使うと……『威力が大きすぎて』体が反動に耐えられません。だいたい、ウマ娘の皆さんは人間よりも出力が桁違いなんですから……わざわざ討マ流を使うまでもないでしょ?」

 

 討マ流はギリギリのせめぎ合いで、なんとか超格上の格闘ウマ娘に勝つ……勝てるかなー?って武術だ。

ウマ娘なら、別にこんなもん使わなくてもいい。

空手でも柔道でも合気道でも、討マ流を使うよりも強くなれるだろう。

だって、こっちは技出すだけで最悪予後不良レベルの大怪我しちまうんだぞ?

 

「なるほど……お手間を取らせました、山田様」

 

 隊長さんが深々と頭を下げてきた。

 

「いえいえ、これくらいは軽いもんですよ。むしろ、説明せずにあなたたちに大怪我でもされたら夜も眠れませんしね」

 

 俺の試合は、全世界で見られている。

それを見て真似したウマ娘がいたら……まあ、心苦しくも自己責任だが。

彼女たちは同じトレセン学園で働く仲間だ、そんな未来は心苦しいどころの話じゃない。

……とりあえず、USC経由で注意喚起だけしてもらおう。

他の武術にも言えることではあるんだがな、『生兵法は大怪我の基』っていう言葉もあるし。

 

「あの、山田様。銃を持った相手にはどのように立ち回りますか?」

 

 ええ?メイヴさんそれは……そっちが専門でしょ?

あ、いや……他の視点からの話を聞きたいのか?

ふむ、そういうことなら。

 

「そうですねえ……討マ流には飛び道具相手の立ち回りも、技もありますが……むーん……フドウギク、武道場から弓とか借りてきてくんねえか?」

 

「押忍!」

 

「「「いいえ!それには及びません!!」」」

 

 言葉で説明するよりも実際に見せた方が早いかと思ったが、フドウギクが動き出す気配を見せた瞬間にSP隊の皆様が総出で止めに来た。

……なんで?

 

「山田様!大事な試合を控えておいでなのに……!」

 

 メイヴさんがそう言うと、残りの皆様も必死で頷く。

いや……別にいいんだがな。

 

「あの、別に鏃を付けるわけじゃないんで……」

 

「いえっ!言葉でご説明していただければ十分ですので!!」

 

 隊長さんまで……?

ふうむ、そういうことなら……

 

「じゃあ、ええっと……」

 

 フドウギクから距離を取る。

だいたい10メートルくらいだ。

 

「俺は護衛じゃないので、対象の守り方とかは門外漢です。なので、戦って無力化する方法を説明しますね?」

 

 皆様無言で頷く。

 

「この状態で、相手に誘いをかけて発砲を誘発するか……左右どちらかに跳びながら、銃を持つ手に手裏剣を投げます」

 

 わざとタイミングを外して発砲させるか、銃そのものを撃てなくするか。

飛び道具に関してはそれに尽きる。

 

「そして、再度撃たれるまでに――」

 

 脚を跳ね上げることなく、蹴る。

剣道のすり足に似た動き……『朧』である。

これは、至近の間合い以外でも使う。

足を後方へ蹴り出す動きで、上体をブレさずに接近する。

 

「――セイッ!!」

 

「お前ッ!?」

 

 フドウギクが迎撃の正拳を、左右二連打。

朧を中断しつつ、横に跳んで躱す。

……コイツ、また『楽しく』なりやがったな!!

 

「お前、ホントにお前なァ……」

 

「凄いス!今の歩法!自分が受ける側になるとより違和感が増すッス!」

 

 フドウギクは目をキラキラさせている。

コイツ……

この、バトルジャンキーめが!

 

「まあ、これはお前にも使える技術だから今度教えてやるよ……似たような技は他の流派にもあるだろうけどな、古流なら特に」

 

「押忍!嬉しいス!!」

 

 いい顔しやがってまあ……

ま、まあな、学習意欲のある奴は人間もウマ娘も好きだ。

それについては別にいい……い!?

 

 気配に振り向くと、SP隊の皆様が、なんか近い。

超怖いんだけど。

 

「ど、どうしました?」

 

 恐る恐る聞くと、代表するかのように隊長さんが口を開く。

 

「……シュリケン、お持ちなのですか!?」

 

「え、ええ、はい……一応は」

 

「投げて見せていただけるのですかっ!?」

 

「は、はい……」

 

 おい、今までの何の技より、体捌きより……手裏剣に食いつくのかよ!

そんなにニンジャが好きか、外国人!

……好きなんだろう、なァ。

全員の目がもう……ウララ並みに輝いていやがる。

もう、何も言うまい。

これは実演しないとおさまりがつかんだろうなァ。

 

「……フドウギク、デッカイ板よろしく」

 

「押忍!」

 

 厚みのある板を、フドウギクが持ち出す。

用意しといてよかった……本当は蹴るか殴るかして割る用だったんだがな、仕方あるまい。

 

 壁に立てかけられた板を前に、懐からまずは棒手裏剣を取り出した。

 

「えーと、まずは普通に投げてみますね。これは『棒手裏剣』っていう種類のヤツでして――」

 

 初めからSP隊の皆様は熱心だったが、今はさらに熱量が違う。

背中が熱くなるような幻覚を感じつつ、説明を再開した。

 

 

・・☆・・

 

 

「あ、イチャ付いてたパイセンがやーっと帰ってきたッス」

 

「生徒がいる空間で風評被害ばら撒くのやめてくんねえか?」

 

 SP隊への格闘講座……もとい『わくわく手裏剣体験教室』が終わり、カフェテリアに足を踏み入れるとジト目のライがいた。

待ってたのかお前……

 

「ライ先輩、お疲れ様ス!」

 

「うーいうい、おキクちゃんもお疲れっスよ~……パイセン、浮気とかしてなかったッスか?」

 

 いつのまにか定着していた、時代劇みたいなあだ名をライが口に出した。

あと浮気ってなんだよ。

 

「……? 皆さん大喜びでしたス、山田先輩は教えるのがお上手ス。ウチの道場に欲しいくらいス」

 

 フドウギクはライの妄言に答える努力を半分放棄した。

かしこいな、お前。

 

 しかし……後半ほとんど手裏剣のことしか説明してねえんだがな?

まあ、役に立たん技術ってわけでもないが。

この日本では特にな。

銃が使えない場面では役に立つし、何より音が出ないから有効でもある。

それにしても、流石はエリートウマ娘集団……コツを覚えるのが早いのなんのって。

終わる頃にはそれなりの練度になっていた。

まさに、好きこそものの上手なれってね。

 

「なんスかその遠い目は!汗ばんだSP隊の肉体を思い出してぐぎいああああああ……!?!?」

 

 とりあえずアイアンクローで黙らせる。

 

「(今回のことはオフレコだし、なにより子供たちの教育に悪いだろうがバ鹿)」

 

 いつ生徒が来るかもわからんのだぞ、アホ。

 

「っしゅ、しゅいませんっしたぁあ……わる、悪乗りしすぎたッスぅう……」

 

「わかればいいんだよ、飯にすんぞ飯……に」

 

 そこまで言った所で、入り口が騒がしくなってきた。

いかん、手裏剣講座が長引いた結果ズレこんだか!

 

「フドウギク、端っこの方でとっとと食っちまおう。これから混むぞ」

 

「押忍!」

 

「あ、じゃあパイセンとおキクちゃんは席確保よろしゃす!ウチが行くッスから!何定食にしときましょ?」

 

 こういう時は素早いんだよな、ライ。

 

「うーん……じゃあA定食な」

 

「ジブンも同じでいいス。申し訳ありません、ライ先輩」

 

「いッスいッス!」

 

 ライが注文口へ駆けていく。

 

「山田先輩、ジブンは飲み物を確保しまス。何がいいスか?」

 

「普通に冷たい茶でいいよ、すまねえな。ライも同じでいいだろ」

 

 フドウギクも速足で動き出した。

よし、じゃあ俺は席を確保すっか。

 

 

「お待たせッス!」「持ってきました」

 

 端の方の目立たない席を確保してしばし。

2人がほぼ同時に帰ってきた。

ライ、全員A定食にしたんだな。

 

「ミックスフライ定食ッス~♪ウチこれ大好きッス~♪」

 

「トレセンの飯は本当美味いス。コレだけで就職した甲斐があるス」

 

 湯気が立つ美味そうなフライ定食。

白身魚と極厚ハムカツ、ササミフライに山盛りのキャベツ。

それに豚汁と漬物、白飯……今日も最高だな。

 

「生徒たちのビュッフェも美味そうッスね~♪」

 

 ドヤドヤと入ってきた生徒たちは、思い思いのメニューを取りに群がっている。

 

「人数が違うから仕方ねえな。一々注文聞いて作ってたら大変だぞ」

 

「ホッカイドウトレセンは半々でしたッス。ビュッフェの日は戦争だったッス~……」

 

 ああ、俺も調理側で何回か手伝ったことがあるからよく覚えてる。

あれはまさしく戦争だった……

 

「オグリが複数いる感じだったもんな、北海道トレセンは」

 

「うへえ、そら迫力やなあ」

 

「お?」

 

 後ろから聞き置覚えのある声。

振り向くと、トレーを持ったタマがいた。

 

「よおタマ、昼飯か?」

 

「せやせや、相席ええか?」

 

「どーぞどーぞッス!」

 

 このテーブルは大きいから、タマならあと5人は大丈夫だ。

 

 そしてタマは俺の横に腰かけた。

……お前。

 

「……足りるのかソレで?おい、ハムカツ食うか?」

 

 普通の人間盛りよりも少ない量だぞ。

知っちゃいたが、マジで少食だな。

 

「かめへんかめへん!これでも前よりは食えるようになったんやで?」

 

 前はコレ以下って……よく生きてたな。

ウマ娘はカロリー消費がとんでもないハズなんだが。

 

「そっか……まあ、体に気を付けろよ?ササミ食うか?」

 

「せやからいらんて!ウチはこれで大丈夫さかい!」

 

 まあ、そんならいいが……

 

「っちゅうか朝見かけて思ったケド、やっぱフドウギクさんやんな?」

 

「押忍、タマモクロスさんスよね。レース見てるス」

 

 へえ、レース見てるのかフドウギク。

 

「先日付けでここの勤務になったんス。よろしくお願いしまス」

 

「よろしゅうに!せやけど、年上なんやから敬語はいらへんよ?」

 

 少し居心地が悪そうな、というか照れているタマである。

 

「じゃあ、そうさせてもらうス。タマモさん」

 

「敬語やんけ!!」

 

 うむ、今日も冴えわたるツッコミだな。

 

「おキクちゃんは誰にでもこんな感じッスよ」

 

「押忍、ジブンの性分なんス」

 

「ほーん……まあ、とにかくよろしゅうに!」

 

 タマは誰とでも仲良くなれるタイプのウマ娘だからな。

あっという間に馴染んじまった。

 

「山田はん、包帯ってまだ取らへんの?」

 

 サラダを食べつつ、タマが聞いてくる。

包帯か……

 

「そういえばもう取ってもいい期日だったな。忘れてた……取っちまうか」

 

 顔の包帯を取る。

おお、顔が涼しい。

さっきの手裏剣講座で汗かいたから丁度いいや。

 

「うっわ……ごっつい傷やんか」

 

 タマは引いている。

そんなにか?

毎晩消毒する時に見てたが……そんなでもないだろ?

 

「そんなことより禿げてねえか、タマ」

 

「しょっぱな確認するとこちゃうやろ……禿げてへんよ」

 

 そうか、ならいい。

 

「向かい傷は勲章だぜ」

 

「パイセンが男の子ッス!」

 

「そうだよ?」

 

 また言うか。

俺が男じゃなかったら何だってんだよ。

 

「あの時はヒヤッとしたス」

 

 そういえばコイツもセコンドについてたんだった。

咄嗟に体を反ってなかったら、負けてたのは俺だった。

 

「結果オーライだな、ははは」

 

「ホンマ、他人事やなあ……」

 

 タマは呆れながら味噌汁を啜っている。

 

「あ、けーびいんさんがいるーっ!」

 

「おじさま、珍し……ッ!!」

 

 トレーを持ってこちらに手を振るウララと、何故か真剣な顔をして速足で近付いてくるライス。

おいおい、零れちまうぞ。

とんでもねえ量が載ってるんだから。

 

「おじさま!ひ、額の傷……とっても痛そう……」

 

 ライスは俺の横へ来るなり、涙目で額に手を伸ばした。

ああ、そんなに痛そうに見えるのか。

 

「大丈夫だライス。禿げてないから俺は超大丈夫だ、いつにも増していい男になったろ?」

 

「おじさまはいつでもカッコいいけど……そ、その、気を付けてね?」

 

 おや、お優しいこった。

有難くって涙が出ちまいそうだな。

 

「けーびいんさん!一緒に食べよ~? わわっ!おっきい傷……い、いたくな~い?」

 

「大丈夫だ、俺ァ最強だからな。大丈夫すぎる」

 

「パイセンは最強って言っとけばなんでも誤魔化せると思ってるフシがあるっすよ……ずぞぞぞ」

 

 ライがジト目で豚汁を啜っている。

うっせえやい。

 

 結局ウララ達も加わり、なんとも賑やかな昼食になった。

さあて、昼からも頑張るか。   




【フドウギクのヒミツ】
・実は、トレセン学園のUSC職員の中では一番若い。
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