トレセン学園警備員さんは、ウマ娘に勝ちたい。 作:秋津モトノブ
「ここだよな?」
「ソウ、ここ!山田サン、谢谢!」
Uー1にも参戦している格闘ウマ娘、フェイロン。
タイキと一緒に彼女を案内し、昼食予定の『春華楼』に到着した。
うん、いつ来ても『まさに町中華』て感じの店構え。
「いい匂いがしマース!ベリーハングリーデース!」
「ああ、俺もだ。ここは餃子も炒飯もなんでも美味ェからなぁ」
フェイロンは嬉しそうに店に入っていく。
「2人とモ!サービスするかラ、いっぱい食べテ!」
「そいつは嬉しいなあ」
フェイロンに続いて店内へ入る。
昼食時ということもあって、結構な混み具合だ。
「イラッシャーイ!……あ!『フェイロン!どこ行ってやがった!?遅いから心配したぞ!』」
「『ごめん叔父さん、ちょっと迷っちゃって。そこの2人に案内してもらったんだ』」
店主は先程の女性……フェイロンと中国語で話している。
英語も微妙な俺は何もわからん。
「『いい加減道を覚えろよ……』ありがとねお兄さんたち!……って、山田さんじゃないか!」
ここには結構通っているので顔と名前を覚えられてるんだ。
店主の……たしかチャンさん?は賑やかで楽しいオジサンだ。
「ああ、買い物に来たら姪っ子さん?を見つけてなあ。2人だけどいけるかい?」
「アイヨー!奥のテーブルにどうz……た、タイキシャトルちゃんじゃないか!!」
おお、ここでも知名度が高い。
「コンニチハー!」
「この子が故郷にお土産を買うのに付き合ってね。ホラ、林さんとこの店だよ」
この店も林さんに教えてもらったしな。
「そうかいそうかい!姪の恩人だし、腹いっぱい食べてってくんな!」
「サンクスデース!!」
手を振るタイキに相好を崩すチャンさんを見つつ、テーブルに向かう。
「タイキシャトルちゃんだ!」「うおー!私服カワイイ!」「サイン貰おうかな……大丈夫かな……」「横のデッカイ男はお父さんかな?」「バリバリの日本人顔だろ……どういう関係だろ?」
店内の客の視線が突き刺さる。
奥のテーブルでよかった。
「さっすが未来のマイルクイーン。大人気だなァ」
そう言うと、タイキは嬉しそうに笑った。
「エヘヘ……嬉しいデース!ファンのヒト、大好きですカラ!」
なんだ、この天使は。
トレセン学園はいい子ばっかりだなあ。
席に突き、メニュー表を渡す。
「さ、好きなのをいくらでも食いな。崇城サンにはバッチリ許可貰ってるしな……俺の奢りだ」
「ノーウ!悪いデース!」
「いいのいいの、『お前も知ってる通り』プチ金持ちだかんな。それに子供が遠慮すんじゃないの!」
年下の学生を飯に連れてきて、割り勘なんて恥ずかしい事できるかってんだ。
対面に座ったタイキの頭をガシガシ撫でる。
ファイトマネーがまだまだまだある。
全然金使わねえしなあ、俺。
最近、家と職場の往復しかしてねえ。
「ウウ、嬉しいデスケド……子供、違いマース!」
「おっと、そいつは失礼。じゃあジェントルマンとしてレディをしっかりエスコートしねえとなァ」
俺がジェントルマンかどうかは疑問だがね。
「ウチのオススメ、『マンプクセット』ネ」
フェイロンが水を持ってきた。
着替えたのか、店員の服装になってる。
ここで働いてんのか。
切れ長の目と、赤みがかった髪……やはり、テレビで見た格闘ウマ娘のフェイロンだ。
「炒飯と餃子、それに好きなメニュー一品、選ぶネ?」
「ああ、俺はそれで……一品は棒棒鶏だな。タイキはどうする?」
「ワタシも同じでいいデース!イッピンは『ユーリンチー』お願いしマース!ア……ヤマダサン、ソノ」
タイキが少し恥ずかしそうにメニューを見せてきた。
なになに……『特製杏仁豆腐』?
可愛いもん好きなんだな。
「超OKだ!バケツ一杯頼んでもいいぞ?」
「そ、そんなに食べる、無理デース!」
タイキは……ウララ以上ライス以下くらいだな、食うのは。
ふむ……この『ニンジン餃子』も追加で頼んでおこう。
「レースに差し支えなきゃ、バンバン食ってでっかくなりゃいいんだよ。遠慮すんなよ?」
「ハイ!ゴチソーになりマース!」
というわけで、注文する。
相変わらず安いな、この店。
「山田サン、アナタなにしてるヒトか?」
注文を取り終わり、厨房へ通したフェイロンからそう聞かれた。
まあ、気になるだろうな。
「俺はUSCの警備員だ。そんで、トレセン学園で働いてるんだよ」
「ケイビイン……ああ、警卫ネ?なるほど、強そうなワケネ」
「まあ、仕事だからな」
フェイロンは納得したように頷き、厨房へ去って行った。
「……あのヒト、強いデスか?」
タイキが周囲を窺い、小声で聞いてきた。
「ああ、強い。っていうかU-1に参加してる選手はみんな強ェよ」
フェイロン、たしか彼女の戦闘スタイルは中国拳法。
八極拳をベースとして、格闘ウマ娘専用に練り上げられたモノだ。
何度かダイジェストで試合を見たが、鋭く正確な打撃で対戦相手を成すすべなく葬っていた。
討マ流の『通し』に似た……というかあっちが本場である『発勁』の精度もかなり高かった。
ただでさえ強力な格闘ウマ娘の打撃力、それに加えて発勁まで。
はは、たしかにコイツは強敵だ。
もし俺と当たるんなら、今回もしんどい試合になりそうだぜ。
「ヤマダサンの顔、ちょっとコワイデース……」
「おっと、すまねえ」
ついついやる気が顔にまで出ちまったか。
怖がらせちまったな。
水を一口含み、視線を外す。
すると、テレビでタイミングよくU-1の話題が流れていた。
こいつはタイムリーだ。
アナウンサーが頬を赤くして喋っている。
かなり興奮してんなあ。
『先程、U-1運営より本年度トーナメントの組み合わせが発表されました!!』
おお、さらにタイムリーだ。
すぐさま、アナウンサーの背後に合成されたトーナメント表が映し出される。
『まずはAブロック!注目選手は……』
さあて、俺こと『無名』は……おお!Bブロックか。
ふうん……端っこね。
そしてもう片方の端っこには『スターラッシュ』の文字。
どっちも勝ち上がれば、準決勝でぶつかることになるな。
再会はまだ遠くなりそうだな。
「ヤマダサン……!」
同じように画面を見ていたタイキが、服の袖を引く。
ああ、わかってるよ。
俺の、隣り合った箇所。
そこには『フェイロン』の文字があった。
っは、そうくるかよ。
「お待たせネ~♪」
タイミングがいいのか悪いのか、当の本人が料理を運んできた。
いつもながら美味そうな料理だが、どうにも居心地が悪い。
「フェイロンちゃんがニュースに出てるぞ~!」「頑張れよ!」「人間の男なんか叩いてのしちまえ!!」
客たちが、口々に激励している。
半年前に来たって話だが、かなり固定ファンがついているっぽい。
まあな、見た目も美人だし。
「多謝!頑張る!勝ったら2品マデ無料サービスと……ノミホーダイ!、するネ!」
「「「やったぜ!!」」」
「『おい飛龍!!お前そんな勝手に!!』」
「『いいじゃない叔父さん、これまで通り宣伝してあげるから』」
おうおう、もうお祭り騒ぎだ。
アウェー感が半端ねえ。
「ヤマダサン……」
別に今ここで戦いが始まるわけでもねえのに、タイキが心配そうだ。
「は、何だその顔はよ。ホレ、タイキあーん!」
取り箸で棒棒鶏を掴み、顔の前まで持っていく。
彼女は一瞬止まった後、猛然と喰らい付いた。
箸まで食う気かよオイ。
ブライアンを思い出すなァ。
「あむ、ももむ……デリシャス!」
「だろォ?ここはなんでも美味いんだ。食え食え……俺も追加注文すっかな、歩いて腹減ったし」
タイキは目を輝かせてレンゲを手に取った。
よしよし、それでいい。
不意に、寒気。
俺の斜め後ろに立っている……フェイロンから。
「(――2週間後、よろしくネ)」
そして、俺にだけ聞こえる声量で一言。
……バレてやがる。
ここで違うというのも角が立つし……どうすっかな。
ええい、ままよ。
「(……なんのことかわからんねェ?)」
そう言い、口の端を持ち上げた。
「……ふふふ♪」
俺の表情で察したのか、フェイロンは人のよさそうな笑みを浮かべた。
だが、その口の端からは俺と同じように歯が覗いている。
「山田サン、アナタいいオトコ。サービスするネ♪」
「おお、そいつはありがてえ……追加で小籠包2人前よろしく!だが、勿論金は払うぜ?」
「じゃ、オオモリはムリョーにしとくネ♪」
フェイロンは嬉しそうに厨房に去って行った。
さて……ボチボチ気合、入れるかね。
「ムゥウ……!」
で、何故タイキは耳を絞っているのだろうか。
「サービスだってよ?イイ男は辛いなタイキ?」
「もももむも!モモモモモ!」
おいおいおい、そんなに一気に餃子食ったら――
「もごぐ!?」
ああああ、言わんこっちゃねえ。
熱いだろ、オイ。
「タイキ、冷たいお茶だホラ。飲め飲め」
「ムムムム!……プッハ!?」
火傷してねえかな?
「イチャイチャ……してマシタ!」
「どのへんがァ?あれがイチャイチャなら……今頃タイキとは結婚してるわ」
すると、タイキの顔が真っ赤になった。
ははは、麻婆豆腐食い過ぎたライみてえ。
半日買い物に付き合ってるんだしな、もう夫婦じゃんその感じで言うと。
「の、のの、ノォーウ!わた、ワタシまだコドモ、コドモデース!トゥファーストデース!!」
「そうだよ?よくわかってんじゃねえか……ほい、酢醤油にラー油な」
コイツ餃子そのまま食ってたからな。
それも不味くはねえが……やっぱりタレがいるだろう?
「おかわりしてもいいから、味わって食えよ?」
さて、じゃあ俺も炒飯から食うか。
うっま、相変わらずうめえ……秘訣は中華鍋と火力かなあ。
今度外で大火力を試してみよう。
部屋のガスコンロじゃ火力足りねえし。
「タイキの親戚、喜んでくれるといいなァ?」
「ゼッタイ喜んでくれマース!ボビーオジサンはとってもニンジャマニアデース!!」
ま、カワイイ親戚の娘が、しかも海外からわざわざお見舞いを送ってくるんだ。
中身がなんであれ、嬉しいに決まってるさ。
タイキが気にするような関係性なら、まず間違いなくな。
「ヤマダサン!オカエシデース!あーんデス、アーン!!」
「もごご!?」
考え事をしていたら油淋鶏をねじ込まれた。
あっづ!?美味いけど熱い!!
「2560円になりマス」
「あいよ……ごちそうさん、美味かった」
レジで支払いを済ませる。
結構食ったハズなんだが、相変わらずリーズナブルな店だ。
普通の人間なら、1人で1000円も払えば腹いっぱい食える量だしな、ここ。
結構食うタイキがいてもこれか……助かるが、この店大丈夫なんか?
「お釣りネ」
「はいよ」
お釣りをもらう。
レジ担当は手空きのフェイロンだった。
たぶんというか、確実に俺の正体はバレているが……別にどうってことはない。
なにかされることもないだろうし。
これが『反ウマ』が相手ならぶん殴ってでも記憶を消すんだがね。
「また、来てネ‥‥‥山田サン♪」
「ああ、『2週間』過ぎたらな?」
トーナメント終了後に、な。
「フフ、再見♪」
フェイロンはそう言って手を振ってくれた。
俺も軽く手を上げ、外で何故か耳を絞り始めたタイキの元へ歩き出した。
だから、全然イチャイチャしてねえっての。
・・☆・・
「『飛龍、アレは……無名だな』」
「『さすが叔父さん、いいえ師父も気付いたんだね』」
「『前からタダの兄ちゃんじゃないとは思ってたが。改めてじっくり見てみればわかった……驚いたな、あれほど練り上げた肉体を持つ人間にお目にかかるなんざ……大陸でもそう何人もいない、な』」
「『私も、間近で見てわかった。とても凄い功夫(鍛錬)よ、あの人』」
「『だろうな。生半可な鍛え方じゃ……格闘ウマ娘に勝つなんてできない……おい飛龍、その顔をやめろ。客が逃げちまう』」
「『ごめん、ちょっと嬉しすぎて……ふふ、出稼ぎ感覚でU-1に出てよかった』」
「『あと2週間、か。楽しみだなあ、飛龍』」「『ええ、とっても』」
「フェイロンちゃーん!ビールおかわり~!」
「ハイハーイ!今行くネ!!」
・・☆・・
「ヤマダサンはプレイボーイデース!」
「たぶんそれ、俺から一番遠い概念だぞ」
奢ってやったソフトクリームを舐めながら、タイキがからかって来る。
やっと機嫌が戻りやがった……俺が会ったばかりのウマ娘とどうこうなるワケねえだろうが。
そんなにプレイボーイだったら、今ごろイタリア人みてえになってるわ(偏見)
「帰りは送ってやるよ、トレセンに帰るんだよな?」
「YES!いいんデスカー?」
電車賃もタダじゃねえからな。
学生にあまり使わせるのも偲びねえ。
「ランチもゴチソーになったシ、色々悪いデース!」
「気にすんなっての、俺ァ大人だぞ?」
無限に金を出すつもりは流石にねえが、これくらいはな。
タイキもレースの賞金とかがあるだろうが……それはいつか、引退した後に使うもんだ。
サラブレッドウマ娘の競技生命は、他のスポーツ選手よりもさらに短い。
トレセン学園在学中に引退するウマ娘がほとんどだ。
そりゃあ、中には『ドリームトロフィーリーグ』まで参加して長く活躍するウマ娘もいる。
だが、それは本当に一握り……選ばれたウマ娘たちだ。
トゥインクルシリーズを故障せずに走り切る丈夫さ、そしてその上にもちろん実績が必要なんだ。
そう、例えば……
『鉈の切れ味・シンザン』
『最強の女王・クリフジ』
『黒鹿毛の勇者・セントライト』
『野武士・タケシバオー』
『大英雄・ハイセイコー』
――彼女たちのような、競バ史に燦然と輝く……そんな実績が。
タイキがそこまで行けるかは、俺にはわからない。
俺は頭がいいわけでもねえし、トレーナーでもねえ。
それはわからんが……それでも、この学園にいる間は。
彼女が、彼女たちが、自分の意思で走り続ける限りは。
俺は、それを見守りたい。
そして……できれば、ほんの少しでも手助けしたい。
一警備員の俺にできることなんざタカが知れてるが、それでもな。
「ヤマダサン、優しい顔してマース……ワタシ、その顔好きデース!」
「ははは、ありがとうよ。タイキの笑ってる顔には負けるがな」
「ワッツ……!?も、モーッ!からかうの、NOデース!!」
褒めたのに怒られた。
思春期って難しいなァ。
「『――ウマ娘は保護され過ぎているッ!!!!』」
「ワッツ!?」
急に聞こえてきた大声に、タイキがびっくりして抱き着いてきた。
アレは……拡声器か。
「っち……タイキ、遠回りすんぞ。ゴキブリ以下の害虫が吠えてやがる」
見れば、道の先にある街頭で演説している……10人ほどの一団。
一番年かさの男が壇に立ち、メガホン片手に怒鳴っている。
周囲の人間は手に『人類解放戦線』とかいうネジの外れた旗を持っている。
おそらく、無許可のデモだろう。
だってあんなアホみたいなデモ、許可されるワケねえし。
まだ十分距離があるな。
「タイキ、これ被りな……んで、この上着を腰に巻け」
申し訳ないが俺の帽子を被らせ、脱いだ上着を渡す。
とにかくウマ娘だってバレたらまずい。
ウマ娘を敵視してる連中に見つかったら、何言われるかわからん。
「い、YES!大きいデース!」
すまんな、臭かったら本当にスマン。
なんか嬉しそうだから大丈夫だとは思うが……
「『人口としては極小数のウマ娘のために!我々人間がどれほど我慢を強いられて――』」
タイキの肩を抱き、道を変える。
こうすれば、奴らからは俺しか見えない。
「タイキ、耳塞いどけ。あんなもん聞いたら変な病気になっちまう」
「……大丈夫デス!変なヒトより、いいヒトのこと、知ってますカラ!」
なんていい子だよ、泣きそうだぜ。
胸が詰まりながらタイキと歩き、角を曲がる。
先には誰もいない……よし。
「あ、やべ。さっきの角で落とし物しちまった……タイキ、ゆっくり歩いててくれ!」
「ハーイ!」
タイキと別れ、曲がり角まで戻る。
「『政府はあまりにも弱腰である!何故多数派の我々人類を――』」
人類と『反ウマ』を同一視しているアホ演説。
それを聞きつつ、足元に転がっていた空き缶を蹴り上げ――掌底で打ち抜く。
討マ流、射ノ型『燕』
奢ってやるからありがたく受け取れや、カス共。
「『URAの専横!これ以上見過ごせるものでうわひゃああああっ!?!?!?』」
真っ直ぐ飛んだ空き缶が、拡声器に命中して壇上の男の手から吹き飛ぶ。
それに驚いてバランスを崩し、男が尻もちを突く。
「うわひゃあだってよ、ダッサ」「誰か知らねえけどよくやったぞー!」「このクソ演説ほんっと五月蠅かったんだよ!」「おーい馬鹿野郎!無許可のアホ演説なんてのは、布団被って壁に向かって言ってろや!!」
周囲の人間が野次り出すのを見届けつつ、俺はタイキの方へ踵を返した。
っへ、脳天にブチ当てなかったことを感謝するんだなァ。
さあて、対戦相手とのお目通りも済んだし……稽古、すっか!
【ライデンオーのヒミツ】
・このデート?の顛末を聞きつけ、遠く北海道の空の下で失神した。