トレセン学園警備員さんは、ウマ娘に勝ちたい。   作:秋津モトノブ

40 / 66
36話 女性に付けるあだ名としては不適切だよな、『貴公子』ってのはよ

「――っじゃ!!」

 

 息を吐き、ハイキックを放つ。

我ながら豪快な風切り音を放つそれを、びたりと止める。

一拍後、引き戻す

 

「――っふ!!」

 

 すぐさま下段蹴り。

雑草を引き千切り、止める。

 

「っしぃい……」

 

 放った下段蹴りを軸足に変え、体を回す。

 

「――おぉあっ!!」

 

 そして、中段の後ろ回し蹴り。

ぼ、という音が林に反響する。

 

「ふうぅ……」

 

 蹴りを戻し、息を吐きながら残心。

集中を終えると、周囲の音と気配が戻ってくる。

 

「いやあ、いい汗かいた」

 

 残暑は過ぎ去ったとはいえ、こう動くと汗をかくなあ。

かれこれ2時間、か。

お目付け役のライもいねえし、この辺でやめとくかね。

 

「山田さん、お疲れ様」

 

 ざ、と足音。

林の影に、見慣れたウマ娘がいた。

 

「お前は……葦毛のアイドル!」

 

「オグリキャップなんだが?」

 

「うん知ってる」

 

 ここは、トレセン学園USC出張所……つまりいつもの詰所から奥にある林。

そこの空き地だ。

最早BBQ専用地へとなりつつある。

 

「山田さんは休憩中……なんだよな?」

 

 林から出てきたオグリが聞いてくる。

 

「というか自由時間だな。本日の勤務は15時で終了……今はフリーだ」

 

 もちろん、会社にもトレセン学園にも許可は取ってるぞ?

 

「あの……もう試合まで1週間なんだが、そんなにハードトレーニングをしても大丈夫なのか?」

 

「ハードトレーニングぅ?どこが?試合前だから軽く終わらせたんだけど?」

 

「……山田さんはすごいな!」

 

 深く考えるのをやめた様子のオグリである。

普通ならこの5倍はやるからな。

 

「よっこい……せ、っと。そんで?オグリはどうしてこんなところまで来たんだ?」

 

 切り株に腰かけ、クーラーボックスから飲み物を取り出す。

 

「この前レースだったので、今日は練習が無いんだ。それで……散歩していたんだ」

 

「ほーん……こんな端っこまで来なくてもいいだろうによ。ほれ」

 

 とりあえず、『キュンと来る青春!桃の炭酸水』をオグリに放り投げた。

 

「ありがとう!」

 

 オグリが飲み物を受け取り、俺の正面にある切り株に腰かけた。

 

「んく……ぷは。山田さん、さっきから気になっていたんだが……もしかしてその足に付けているのは」

 

 お、さすがに気付いたか。

 

「知っているのかオグリ雷電!」

 

「雷電……? あ、ああ、それは……『シンザン鉄』だろう?」

 

 そう、俺が足に装着しているもの。

それは……空前絶後のレジェンドウマ娘、『シンザン』が使用した蹄鉄だ。

もっとも、レースに使用できるような靴的なものではなく、靴に着脱できるようにしたものだが。

 

「ああ、そうだ。ちょいと伝手があってな……これがまた丁度いい重りになるんだわ、これつけてレースすんのは無理だけどよ、さすがに」

 

 シンザンはよくもまあ、こんなモン付けて走れてたもんだな。

並のウマ娘用蹄鉄の3倍以上の重さはあるぞ。

 

「やはりそうか!その、見せてもらってもいいか?」

 

「もう稽古は終わったし、別にいいぜ。よっと……」

 

 蹄鉄を靴から外す。

興味深そうに目を輝かせたオグリに、そっと手渡した。

 

「うわ、やはり重いな……シンザンのレース映像は何度も見たが、あの大地を抉るような踏み込みの秘訣はこれか……」

 

「それだけじゃねえだろうがな。重い蹄鉄付けただけじゃ脚は強くならんからな、むしろいきなり付けても逆効果だ」

 

 シンザンの強さは、シンザン鉄があったからじゃねえ。

『シンザン鉄を使用できるほどの』脚の強靭さがあって、初めて蹄鉄の強みが発揮されるってワケだろう。

 

「オグリの蹴り足の強さも一級品だぜ?さすがは『笠松の英雄』だなァ」

 

「む、真正面から褒められると照れくさいな……しかし、この蹄鉄……映像で見たのと少し違うような気がする」

 

 ふふふ、そこに気付くか。

 

「ご名答、そいつは『レース用』じゃなくて『練習用』だ。本番用よりもさらに重くしてある、な」

 

「ということは、シンザンはこれで練習していたのか……!」

 

 レースに出るわけじゃない俺にとっては、そっちの方が都合がいいんだ。

足腰を鍛えるにはそっちのほうがいい。

 

「興味があんなら、同じのを調達できるように話を通そうか? 勿論北井トレーナーの許可を取ってからだがね」

 

「それは、是非ともお願いしたい!……しかし、山田さんは顔が広いな!」

 

「いや、これは師匠の関係だよ。あの人の顔は超広いからな」

 

 ちなみに師匠だが、まだ東京にいる。

もう俺の部屋には泊まっていないが、先日北海道からやってきたトーワねえさんと一緒に旅館にご宿泊中だ。

思う存分イチャイチャしてんだろうな。

……改めて、あの人の収入源が謎すぎんな?

っていうか畑ほっぽっといていいんかよ。 

 

「干支野さんか、あの人はとてもいい人だな!いつも美味しいものを沢山くれるんだ」

 

「だろうな……この後トーワねえさんと合流したら2倍貰えるぞ、たぶん」

 

 2人してウマ娘大好きだもんよ。

北井トレーナーにキレられなきゃいいんだがねェ。

ソレに関しちゃ、俺は知らねえぞ。

 

「それは楽しみだ……!」

 

 オグリが目を輝かせている。

これだもんなァ、無限に飯を食わせたくなる。

 

「おーい、オグリ~……あ、やっぱりここにおった」

 

 林の中からタマが出てきた。

背が低いから草まみれになってる。

 

「オグリは気が付いたら山田はんとこに行っとるよな~。カモの子供かいな」

 

「鴨……鴨は美味しいな」

 

「そんで気が付いたら飯のことも考えとる!なはは!」

 

 自分でツッコんで自分で笑ってるな。

レベルが高い。

 

「それで、タマはどうしたんだ?山田さんか私に何か用事か?」

 

「うんにゃ、暇やったからだべりに来たんや。ウチも今日はオフやから」

 

「街にでも遊びに行けよ、うら若きJK共」

 

 以前ライが言っていたように、なーんかUSC周りがたまり場になりつつある。

別に困らんがな、ここはトレセン敷地内だし。

 

「それに、優しい山田はんが何かしら出してくれるしな~♪」

 

「それは、はしたないぞタマ」

 

「オグリにだけは言われたないわ!」

 

 2人が揃うと賑やかでいいなァ。

 

「あのなあ、俺だっていつもいつも何か持ってるわけじゃねえぞ?今日は飲み物と……フルーツ100%シャーベットしかねえが」

 

「十分やんか!? あの、アレやで?さっきのんは冗談やからな?ねだったわけやあれへんからな?」

 

「シャーベット……山田さんの手作りなのか?」

 

 タマが慌てたように手を振っている。

こういうところ、しっかりしてるよなコイツ。

そしてオグリは平常運行。

 

「まあまあ、作っちゃったもんはしょうがねえから食えよ。体にもいいぞ~……オレンジとグレープフルーツと夏みかんがあるぞ?」

 

 ひょいひょいと取り出し、容器ごと放り投げる。

使い捨てのプラスチックカップは超便利。

 

「ありがとう!いただきます!」

 

「わわ!?ご、強引なんやから……ほんなら、ありがたく」

 

 オグリは元気よく、タマは申し訳なさそうに付属のスプーンを手に取った。

うんうん、ウマ娘は素直が一番だ。

 

「ン……とてもおいしい!山田さんはなんでも作れるな!」

 

「うっまぁ……! 売れるでコレ」

 

 ふふふ、喜んでもらえてなによりだ。

俺も食うかな……オレンジにしよっと。

 

「山田はん、次はカンフー使いとやるんやな?」

 

 シャーベットを食いつつ、タマが聞いてきた。

 

「お、タマも知ってんのか」

 

「うへへ、今まではあんま興味もあれへんかったけど、知り合いが出とるとなるとな……歴代のトーナメントとかも見てもうて、最近寝不足や」

 

 ドはまりしてんじゃねえかよ、オイ。

 

「最近タマがフラフラしている理由はそれだったのか……私もよく見るようになったが、夜更かしのし過ぎは駄目だぞ」

 

「お、おう……オグリに真っ当に注意されてもうた……」

 

 俺も珍しい光景を見たな。

 

「興味を持つのは嬉しいが、レースにあんま影響しないようにな」

 

「それは流石に大丈夫やで!」

 

 ま、タマはマジメだから大丈夫だろうがな。

 

「中国拳法か……笠松のカメさんが公園でやっていた、ゆっくり動く体操のようなモノか?」

 

「ああ、そりゃ太極拳だな。だが、アレは素早く動く方もあるんだぜ?今回の俺の相手は八極拳がベースだがな」

 

 中国拳法って一口に言ってもかなりの種類があるからなあ……説明するのはなかなか難しいものがある。

 

「離れた場所から相手を吹き飛ばす技もあるのだろうか? その、大丈夫なのか山田さん」

 

「残念ながらそんなのは漫画や映画の中にしかねえよ、多分な」

 

 そんな武術があったら、今頃世界中の格闘大会が荒らされまくってるわ。

 

「だが、今までの相手よりも衝撃を『通す』ことにかけちゃあ一級品の相手だからな。俺みてえな人間だと、クリーンヒット一発で大ダメージ必至だ……今まで以上に気を付けねえとな」

 

「コレで稽古していてもか……恐ろしいな」

 

「オイうせやろ!?ソレひょっとせんでも『シンザン鉄』やんけ!?山田はん、こんなもん使うて稽古してんの!?」

 

 タマが、オグリの持つシンザン鉄に気付いたようだ。

まあ蹄鉄の形しててこんだけ重そうなら、それしかねえしな。

並のウマ娘が使おうもんなら、即刻予後不良だ。

 

「すごく重いぞ、タマも使ってみるか? 私はトレーナーに許可してもらったら試してみたい」

 

「足千切れるわ!!」

 

 今日もツッコミが冴えてるな、タマは。

 

 

「――あっはっは!いいツッコミや!!」

 

 

 林の方から、嬉しそうな関西弁が聞こえてきた。

そちらを見ると……うん、よく知ってる人だ。

 

「久しぶり、なんでここに?」

 

「おっひさ~、いっちゃん。今日はアレや、納入や」

 

 『JINBA蹄鉄』というロゴが入った帽子を被った、作業着姿のウマ娘だ。

目深に被った帽子から、艶やかな栗毛が覗いている。

 

「お!蹄鉄使うとるんやな~? どないや、調子は?」

 

「もうちょい重くてもいいが、概ねイイ感じだよ」

 

「はっはっは!そもそもレース用の蹄鉄を武術の稽古に使うんやないって!」

 

 するすると近付いてきたその人は、俺の肩をバンバン叩く。

こちらもいいツッコミだな、流石関西出身。

 

「蹄鉄会社の人か、いつもお世話になっている。オグリキャップだ」

 

 オグリが綺麗にお辞儀した。

こういうとこしっかりしてんだよな、親御さんのしつけが良かったんだろうなあ。

 

「コリャご丁寧に……オグリキャップちゃんやん!?いっちゃんどないして引っ張ってきたんや?手ェが早いな~?」

 

「引っ張ってきたってなんだよ。ここの生徒だからいてもおかしかねえだろ」

 

 突っ込むと、笑いながら肩をバンバン叩かれた。

地味に痛ェよ。

 

「あのォ……山田はん、ちょっと聞きたいことがあるんやけど……」

 

 と、ここに至るまで無言だったタマが口を開く。

どうした、改まって。

 

「こんお人、ひょっとして……」

 

「お?キミ、ボクのこと知ってるん……タマモクロスちゃんやっ!ふわ〜ちっちゃ!ごっつカワイイわ~!」

 

「むわわわっ!?!?」

 

 タマは、掻っ攫われるように抱きかかえられた。

 

「ボクも知ってんで~?『白い稲妻』!おんなじ関西人として誇らしいわァ!」

 

 その人が笑い、帽子が少しずれる。

その下の顔を見たタマは、雷に打たれたように動きを止めた。

 

「こ、この栗毛に流星、間違いあれへん……!って、『テンポイント』はん!!」

 

「はーい!『流星の貴公子』こと『テンポイント』とはボクのことやでっ!!」

 

 そう、おどけたように笑うこの人は『テンポイント』

『グリーングラス』『トウショウボーイ』と合わせて、『TTG世代』と呼ばれたサラブレッドウマ娘だ。

数々の名レースを繰り広げ、今なお最強の世代だと主張するファンも多い。

 

「お、お会いできて光栄ですっ!……ってぇ!?そないに動いて大丈夫なんでっか!?だってテンポイントはん、足が……」

 

 目を輝かせて挨拶したタマが、次の瞬間に顔を曇らせる。

 

「そ、そうか。テンポイントさんは……」

 

 オグリも気付いたのか、心配そうにしている。

さすがに知ってるか、そこは。

 

 テンポイントは、レース中の大怪我で引退したウマ娘だ。

引退した当初は、二度と歩けないんじゃないか……と言われる程の重傷だったらしい。

だが、そこからがこの人の凄い所だ。

当時のトレーナーと二人三脚で辛いリハビリをやり遂げ、今では日常生活を問題なく送れるレベルになっている。

その時のリハビリデータは、同じような故障をしたウマ娘たちの為に大いに役立っているとか。

 

ちなみに、当時のトレーナーは現在彼女の旦那さんである。

トレーナーと結婚するウマ娘って、地味に多いよな。

 

「だーいじょうぶ!現役時代みたいには無理やけど、バッチリ完治しとるで~!ホレホレ!」

 

「あわ、わわっ!?」

 

「おいおい、大丈夫かテンねえさん」  

 

 テンポイント……テンねえさんは、故障した方の足でケンケンしている。

 

「わかっ!わかった!わかりました!わかったさかい無理せんといて~!?」

 

「あっはっは!優しいなァタマモクロスちゃんは~?」

 

 ケンケンの後、何回か回転した後タマは解放された。

 

「……山田さんは、元々テンポイントさんとお知り合いなのか?」

 

「おお、っつっても元々は師匠から紹介してもらったんだけどな」

 

 稽古に使えるんじゃねえかって言われて、それからはずっと使わせてもらってる。

ああ、勿論俺の『正体』は知ってる。

ウチの社長と、『JINBA蹄鉄』の社長が知り合いだったからな。

 

「せやせや、干支野さん元気~?トーワちゃんの北海道旅行、ボクも行きたかってんけど仕事がな~?」

 

「今こっちに来てるよ2人とも、たぶんイチャイチャしてる」

 

「お?そういえばさっきトーワちゃんからメール来とったなあ?それか!」

 

 テンねえさん、トーワねえさんと同い年だもんな。

グリーングラスさんとは一緒に北海道行ってたし……仲がいい同級生だな。 

 

「山田はん、ホンマ顔広いなあ……」

 

「だから俺じゃねえって、師匠夫婦の顔が広いんだよ」

 

「あ、せやったせやった……」

 

 テンねえさんは、スマホを取り出して俺に向けてきた。

 

「社長がな?『どんなふうに使っているか見てみたい』っちゅうとってな。休憩しとるとこすまんけど、頼めるかいっちゃん」

 

 お、動画かなんか撮るのか。

 

「ほいよ。オグリちょっと返してくれ」

 

 オグリが渡してくれた蹄鉄を装着し、立つ。

 

「そんで、何すりゃいいんだ?」

 

「お好きなように!なんならモンロー・ウォークでもかめへんで~!」

 

 誰も喜ばねえだろ、それ。

まあ、それなら……

 

 足を肩幅に広げ、構える。

息を緩く吐きつつ……まずは右ロー。

 

「――っふ!」

 

 それを引き戻し、ミドルキック――の途中から腰を入れてハイへ軌道を変える。

フドウギク相手に使った、ブラジリアンキックだ。

 

「ふぅう……」

 

 調子がいいな、もうちょっと色々やるか。

足を引き戻し、軽くステップを刻む。

 

「――じゃっ!!」

 

 踏み込みの勢いを乗せ、左ハイ。

すぐさま右ハイ。

シンザン鉄が、轟音とともに風を切り裂く。

 

 後方に跳び、息を整える。

 

「コオォオオ……」

 

 息吹を吐きつつ、標的を見る。

あの切り株がよさそうだな。

 

「っし!」

 

 踏み込み、地面を蹴る。

斜め上の軌道で。

頭を抱え込んで、空中で回る。

景色が回転する……その途中で、足を伸ばす。

 

「――っらぁあ!!」

 

 前方宙返りしつつ、加速した右足の踵を切り株に叩き込む。

どずん、といい音がした。

……うし、こけずに済んだな。

 

 討マ流、打ノ型『蛟』

破壊力は随一の技だが、トーナメントじゃあもう使えねえだろうな。

隙がデカすぎる。

それに、テレビの前で見せちまったからなあ……対策もとっくにされてんだろうな。

外したら一気に劣勢になるし、この技。

今思うと、ぶっつけ本番でよくもまあ決まったもんだぜ。

 

「……テンねえさん、こんなもんでいいかね?」

 

 振り向いて、スマホを構えたテンねえさんに聞く。

……返事がねえな?

なんかアレだったか?撮れてねえとか。

 

「いやいやいやいやいや!」

 

「うおお!?」

 

 やおらテンねえさんが突撃してきた。

 

「いっちゃんアンタ何しとるん!?なんでシンザン鉄嵌めてそないに高く飛べるんや!?」

 

「いや、だって低いと大怪我するし」

 

「そういうことちゃうわ!?」

 

「おわわ!?」

 

 なんで服を脱がそうとしてんだよ!?

 

「アンタ、実はめっさ厳ついウマ娘なんやろ!?せやなかったらあの身体能力に説明がつけへん!?ちょいと見せてみいな!おねえさんに見せてみいなって!?!?」

 

「ウワーッ!?ヤメローッ!?」

 

 なんつう力だ!?これが引退して結構経つウマ娘の力か!?

 

「っちょ!おい!助けてくれ2人とも!このトチ狂ったG1バを止めてくれ!?」

 

 引き剥がせるが、かなり力を入れる必要があるぞ!?

怪我させちまうかもしれん!?

 

「て、テンポイントはん!落ち着いて―な!!」

 

「お腹が空いたのなら私から山田さんに頼むから、落ち着くんだ!」

 

 タマとオグリが加勢してくれた。

だがオグリ、その原因はお前とブライアンにしか適応されんぞ!

 

「おい、なんだこの騒ぎは……ッ!貴様ァ!ヤマダから離れろッ!!」

 

 恐ろしいほど耳を絞ったブライアンが参戦してきた。

ありがてえが、なんでお前そんなに怒ってんの!?

落ち着け!ここは日本ダービーじゃねえんだぞ!!

 

 

・・☆・・

 

 

「美味いかブライアン、夏みかんシャーベット」

 

「ン……美味いが肉はないのか」

 

「肉シャーベットはちょっとチャレンジャー過ぎだろ、絶対不味いぞ」

 

 切り株に腰かけ、ブライアンがシャーベットを堪能している。

 

「グレープフルーツも美味しいぞ、山田さん」

 

「オグリ……そないに食うて腹大丈夫か?知らんで冷えても……」

 

 オグリは5個目のシャーベットに取り掛かっている。

うんタマ、それは俺も心配。

 

「うっは!社長めっさウケとるで!『コイツ本当に人間か?』やと、うはははは!!」

 

 ブライアンビンタで正気に戻ったテンねえさんは、スマホの画面を見て爆笑している。

残念ながら人間だよ。

 

「ま、なんにせよ助かったぜブライアン。あのままじゃ俺の色々が危機だった、カメラ回ってたし」

 

 傍らのブライアンの頭を撫でる。

耳も普通に戻ったな、よかったよかった。

腹が減ってイライラしてたんかね?

 

「別に、学園に変質者が紛れ込んだと思っただけだ……おい!撫で方が雑だ、私は犬じゃないぞ!」

 

「おっと、すまんすまん」

 

 手を離すと、一瞬ブライアンの耳が絞られた。

やめたのになんでぇ……?目の錯覚か?

 

「……しかし、それが噂のシンザン鉄か。少し、興味があるな」

 

 ブライアンもか。

オグリといい、脚質が似てんのかね?

 

「だ、そうだぜ?」

 

「そっかそっか!せやったらボクが用立てたるで!……あ、でもトレーナーさんにちゃあんと許可取ってから連絡してんか~?ほな、これ名刺~」

 

 テンねえさんが素早く名刺を配っている。

素晴らしい営業精神だ。

 

「タマちゃんにもな~?ウチとこの蹄鉄は種類も多いし、オーダーメイドにも対応しとるから考えてや~?」

 

「むわわわっ!お、おおきにぃ~……」

 

 テンねえさん、タマのこと本当に気に入ったんだな。

今も膝の上に乗せて撫でまわしてる。

タマ、嫌なら嫌って言っていいんだぞ?

 

「せ、せやけどウチはちょっとその~、マネー的な意味でその~……」

 

「ふっふっふ!ハイこれ!」

 

 懐からパンフレットを取り出すテンねえさん。

 

「これが『トライアルオーダー』!ウチと提携したら、最新技術を使用した蹄鉄をなんとタダで使えんで~? レースでの使用データとかを提出する必要があるけどな~、北井のおっちゃんと相談してみ~?」

 

「はえー!こらええわ! あれ?テンポイントはん、トレーナーのこと知ってるんでっか?」

 

 目を輝かせてパンフレットに見入るタマ。

あいつは兄弟が多いからな……家族に負担をかけたくないんだろう、本当にいい娘だ。

 

「うん、北井のおっちゃんはボクのダンナのお師匠さんやからね!色々お世話になったんよ~」

 

 世間って狭ェなあ。

ま、トレーナーって結構そういうの多いがよ。

 

「社長含め、うちの会社は頑張るウマ娘全員の味方やからね!上昇志向の強い娘たちはもう大好きやで~?」

 

「むわわわわ」

 

 ありゃりゃ、また抱きしめられてるな。

扱いがぬいぐるみじゃん、もう。

 

「山田さん、JINBA蹄鉄の社長さんとは会ったことがあるのか?」

 

「ん?おお、何回かな。ウチの会社にも縁がある人だしよ」

 

「なんだ?社長とはばんバなのか?」

 

 オグリとブライアンは社長が気になるらしい。

あーそうか、ここの社長って表にほとんど顔出さないしな。

そういうのはほとんど副社長がやってるし。

 

「うんにゃ、違うぞ。ええっと……ホレ、去年の忘年会に飛び入り参加した社長さんの写真だ」

 

 スマホを起動し、2人に見せる。

オグリは目を丸くし、ブライアンは珍しいことに驚愕した表情。

 

「あの……山田さん、その人が社長なのか?」

 

「……見覚えが、あり過ぎるんだが」

 

 ありゃ、知らんかったのか2人とも。

でも、ちょっと考えたらわかるだろうよ。

 

 

「ははは、そりゃ『シンザン鉄』扱ってる会社の社長は――『シンザン』だろうよ」

 

 

 ウチの社長と肩を組んで一升瓶をラッパ飲みするウマ娘。

『最強の戦士』もしくは『鉈の切れ味』と呼ばれる、不世出の存在。

ベロッベロに酔ってはいるが、シンザン本人である。

 

「へえ、まるでシンザンそっくりやんか~……って本人やんけ!?!?!?」

 

「あっはっはっはっは!ええわ~、タマちゃんのツッコミホンマにええわ~!」

 

「むめめめめ!?」

 

 タマの叫びと、テンねえさんの笑い声が青空に消えていった。

うーん、今日もいい天気だ。





【JINBA蹄鉄のヒミツ】
・テンポイントの担当は営業部。
 旅好きなこともあって、普段は日本中を飛び回っている。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。