トレセン学園警備員さんは、ウマ娘に勝ちたい。   作:秋津モトノブ

43 / 66
39話 気紛れジョージと試合前日。

 特に何事が起こることもなく、ホッカイドウトレセンの日々は過ぎて行った。

連日のライからの鬼電にも慣れ、校庭の片隅での突発食事会の参加者も雪だるま式に増えていった。

ライスやタイキからは『戻ったら一緒にご飯が食べたい』なんて、カワイイお願いが来ていてほっこりしたな。

……オグリからも来ていたから、帰ったら在庫を調達しないといけないと決意した。

あと、ハヤヒデから『ブライアンが野菜を食べなくなった』と半泣きで連絡が来たので特製レシピを送付しておいた、アイツも大変だな……なんか、すまん。

 

 ちなみにウララからは『さみしいよー!』というメールが届いていた。

……正直、コレが一番心にキた。

キングから『ビックリするほどウララさんの元気がないです』って追加まで来たし。

即、真波さんたちに『死ぬほど甘やかしてやってくれ』と連絡したところ、『もうやってる、全力で』という返信が来た。

よかった……頼もし過ぎる。

頑張ってくれ、爺さん連合軍。

 

 まあ、そんなこんなで滞在は3日目。

明日はいよいよ試合当日なので、今日の夕方の飛行機で北海道を出ることになっている。

なので、本日の勤務は3時までだ。

 

 フドウギクと組んで、若干の名残惜しさを感じつつ巡回していたんだが……

 

「ここは〇-ミン谷じゃねえぞ……」

 

「ユニーク、スね……」

 

 正門にもたれかかって、ハーモニカを吹いている人を発見。

見た目はアレだ、完全に〇ナフキンのコスプレした不審者だ。

その上、演奏は無茶苦茶下手くそだし。

ツッコミどころしか存在しねえぞ。

 

 とりあえず、声をかけるしかねえな。

 

「……あの、何かご用ですか? アポイントメントは――」

 

「――いい風が吹いてるよォ、いっくん」

 

「あー……今日はコレなんだァ……」

 

 よく知ってる人だった。

とても、よく知っている人だった。

 

「お久しぶり……エリモねえさん」

 

「132日と約6時間ぶりだねェ、いっくん」

 

「何で覚えてんだ……こわ……」

 

「こわくな~い、こわくないよ~?素敵なお姉さんだよ~?」

 

 〇ナフキン帽子から覗く、眠たそうな瞳。

適当に見えて、しっかりと手入れされた鹿毛のロングヘア。

現役時代は、なんとも極端な競争成績で未だに記憶と記録に残り続けるサラブレッドウマ娘。

 

 『気紛れジョージ』こと、『エリモジョージ』がそこにいた。

……トーワねえさんとの旅行が終わっても、まだ北海道にいたんか、この人。

 

「山田先輩、お知り合いスか?」

 

「ああ、この人はエリモジョージ。俺とは……」

 

「いつも主人がお世話になっています、妻です」

 

「違うよ?」

 

 相変わらず真顔でとんでもねえボケをねじ込んできやがるぜ……

 

「エリモジョージ!気紛れジョージさんスか!ジブン、大ファンなんス!!」

 

「おやおや、それは嬉しい……サインいる?」

 

「ハイッ!!」

 

 フドウギクのテンションが超高い。

こんな風に、エリモねえさんには結構熱心なファンが多いんだよな。

『稀代の気性難』なんて物騒なあだ名もあるが、『ドリームトロフィーリーグ』でも長く活躍してたし当然ではあるな。

普段の言動がアレなんで、どうにもイメージし辛いがね。

 

「フ、ド、ウ、ギ、ク、さんへ……っと」

 

「ジブンをご存じなんですか!?感激ス!!」

 

「今年はいっくんにやられて残念だったねェ~。去年の全日本空手の決勝戦、現地で応援してたよォ」

 

 エリモねえさん、空手の大会好きなんか。

いつもながら趣味がよくわからん。

 

「ホイできた、カバーも付けちゃう」

 

「あ、ありがとうございます……!家宝にするス!!」

 

「額に入れて飾ってもいいよ~?」

 

 フドウギクは、サインを胸に抱いて大層嬉しそうだ。

こういうの見ると、エリモねえさんってスターなんだなあと思う。

普段の姿を見ていると、全く実感が湧かないけども。

 

 この人との付き合いは、結構長い。

師匠関連で知り合った人の中では一番じゃないだろうか?

んで、その次がサクラショウリことショウリねえさんだ。

 

 道場にフラッと遊びに来ては、釣りだキャンプだ天体観測だと連れ回されたなァ……

あれから俺は大きくなったが、エリモねえさんは全く変わっていない。

ウマ娘の神秘だ。

 

「ねえさん、それでここに何の用?」

 

「ここっていうかいっくんに用があってねェ。ここに来るのが一番手っ取り早かったから~」

 

 俺に?

っていうか、なんでここに派遣されてるって知ってんだよ。

 

「『反ウマ』とか『ウマ娘至上主義』とか、妙なのに好かれてんねェ。いっくんは相変わらず波乱バンジョーだ、あはは」

 

 ……だから、なんで知ってんだよ?

 

「――気紛れだから♪」

 

「それさぁ、前からいつもいつも言ってるけど……理由になってねえぞ」

 

 謎の情報源の件もそうだし、そもそもこの人なんの仕事してんだ?

不定期に日本どころか世界各国をブラついて写真送ってくるし、謎が謎を呼んでカオスになってんぞ。

確か先月に『バグダッドって最高じゃね?』っていう写真とメール送ってきたよな。

レース時代の賞金かねえ?

かなり稼いでたはずだし。

 

「んでさ~、明日試合でしょ?私も一緒に東京行くからここに来たってわーけ」

 

「なるほど……あ、航空券は?」

 

「USC経由で予約済み~♪ ついでに武道館のVIP席も、ムソウちゃんにお願いして押さえてあるよ~」

 

「いつの間にうちの会社とパイプを……」

 

「イイ女には謎が多いんだよ~?」

 

 ……まあ、この人が美人なのは今更言うまでもない。

それにしたって謎が多すぎるんだが?

俺が知ってるのなんか名前と性格くらいだぞ。

趣味だって毎回ハマってるものが違うし、把握しきれねえ。

 

「そういえば、なんで今日はス〇フキンなんだよ?」

 

「そういう気分だった。ムーミ〇谷に行けるものなら行きたい今日この頃~♪」

 

 フリーダム過ぎる。

確か前に会った時は、超マイナーな国の民族衣装だったし。

俺は、もうこの人が何一つわからんよ。

 

「とりあえず3時に勤務終了で、それから空港へ移動することにはなってる」

 

「おっけおっけ、んじゃ終わるまでUSCの詰所で待ってるね~♪」

 

 そう言うと、エリモねえさんは下手くそなハーモニカを吹きながら去って行った。

うーん、マイペース……

 

「すごい人スね!さすがG1バ!」

 

 フドウギクの全肯定ぶりがすごい。

 

「ファンは盲目……いやまあ、ある意味ユニークではあるんだが。とりあえず、巡回に戻るか」

 

「押忍!」

 

 ここにいてもしょうがないし、動いてないと地味に寒い。

次の巡視場所に向かうべく、フドウギクを促して歩き出すことにした。

なんかこう、なにもしてねえのにどっと疲れたな……

 

 

・・☆・・

 

 

「レディ!セット……ゴーッ!!」

 

「――っふ!!」

 

 ぎしり、と金属の軋む音。

トレーナーの掛け声に合わせ、体操服姿のばんえいウマ娘が前に出る。

その体は、ハーネスで大きなソリに繋がれている。

 

「蹴りが甘いッ!初動で勢いを付けろ!もう一度だ!」

 

「ハイッ!――ぬ、うぅ!!」

 

 再びのスタートダッシュ。

ハーネスが伸び切り、ソリが軋みながら引かれていく。

 

「そうだっ!その動きを忘れるな! もう一度、今度は50メートル!」

 

「ハイッ!!」

 

 いつ見てもすげえ迫力だ。

あのデッカイソリ、何キロあんだろうな。

 

「壮観だなあ……トレセン学園とはまた違った迫力だぜ」

 

「ジブンも曳いたことありまスけど、下半身強化にはもってこいスね」

 

「あ、俺も。アレいいよなあ、トレセン学園にも欲しいよな」

 

「……自分で言っておいてなんですけど、曳くんスね……」

 

 巡視の傍ら、校庭に目をやる。

そこかしこにばんえいウマ娘たちがおり、それぞれ違った練習をしている所だ。

昼飯前だってのに、ハードトレーニングだなァ。

 

「しっかし、平和だなあここ」

 

「変なマスコミが絶滅してるからスね……社長のお陰ス」

 

 ここはトレセン学園よりも柵が低かったりカメラが少なかったりで、かつては盗撮被害も多かったんだが……

今となってはすっかりいなくなったなぁ。

 

「俺の正体なんか探っても何にもおもしれえもん、出て来ねえのにな……それともアレか?まだドーピングでも疑ってんのかねェ?」

 

「どっかの学者サンが言ってたスね『ドーピングごときで格闘ウマ娘に生身で勝てるわけない』って。ほんと、その通りス……山田先輩が度を越して強いんス」

 

「嬉しいこと言ってくれるよなァ」

 

 薬くらいで、種族の壁をお気楽に超えられるワケあるかよ。

あったとしたら絶対体に悪いわ、ソレ。

むしろ毒じゃねえの?

 

「あ、テンマさんス」

 

「ほんとだ……うわぁ」

 

グラウンドの奥の方に、ウェイトを満載したソリを笑顔で曳くテンマがいた。

トレーナーの指示に従い、地面を蹴り抜くようにして進んでいる。

 

「……まるで軽自動車、いやもう戦車だな。すっげ」

 

「彼女はばんバの中でもトップ層スね……」

 

 社長からの遺伝+才能+努力って感じかな。

アイツと同期のばんバにとっちゃ悪夢だろうなあ……

たまにいるんだよな、世代のバグみたいな天才が。

 

「一郎さ~ん……!!……でっすわ~……!!!!」

 

「気付かれたス」

 

「気付かれたな」

 

 目がいいな、アイツ。

ほぼ反対側にいるってのによ。 

 

 そしてテンマは、先程よりも速度を増してこちらへ走り出した。

背後でトレーナーが驚き、俺達を発見して『ああ、そういう……』みたいな感じで納得している。

納得すんなよ。

 

「逃げようかな」

 

「あの状態で追ってきますよ、たぶん」

 

 それは避けたい。

足元グッチャグチャになるぞ。

仕方ねえなあ、待つか。

 

 

「ぜひゅー、ぜひゅー……いちろうさん、ご、きげんよう……」

 

「ちょっと落ち着けよ、チアノーゼ一歩手前だぞ」

 

 結局テンマはペースを落とすことなくグラウンドを横断した。

その結果、現在俺の目の前で汗だくになり小刻みに痙攣している。

無理し過ぎだろ、レースよりも本気じゃねえかよ。

 

「ホレ飲み物、そしてタオル」

 

「わぷぷぷぷ」

 

 顔を拭いてやり、ドリンクを渡す。

 

「テンマったら、本当に山田ちゃんが好きだねぇ……」

 

 ソリの傍らで、テンマのトレーナーである『クレッセント』さんが苦笑いしている。

名前からもわかる通り、元ばんえい競バの選手である。

トレセン学園と違い、ばんえいのトレーナーはほぼ元選手で構成されている。

経験がモノ言うんだろうなあ、たぶん。

 

「クレッセントさん、なんかすいません」

 

「いいのいいの、今の直線で自己ベスト更新してたしこの子。いっそのことゴールに山田さん置いとこうかねえ?」

 

 吊り下げたニンジンかなんかか、俺は。

そしてそんなにお手軽にベストを更新すんな。

 

「勘弁してくださいよ……ほらテンマ、ハーネス外して休憩しな。息を整えてクールダウンだ」

 

「んはあ……一郎さんの匂いでしゅわ……♡」

 

「誰が全力で抱き着いて来いって言ったんだよあだだだだ!?肋骨が!肋骨が軋んでる!!」

 

 これはもうハグを越えてベアハッグだ!

このままだと試合前に怪我しかねないので、自由になる手で肩のツボを押して力を抜かせる。

 

「うにゃあん!?」

 

 おもしれえ悲鳴を上げて、テンマが離れる。

ハテナの親戚か何かか?

 

「はい!我に返った所でクールダウン!グラウンドを歩いて1周してきな!」

 

「んが、合点ですわぁ……」

 

 根が真面目なテンマは、おとなしく指示に従って歩き始めた。

クールダウンは大事だからなあ。

 

「そういえば山田ちゃん、相変わらず強そうだね? 東京で大暴れしてんだろ?」

 

「ははは……向こうは物騒ですから」

 

 テンマがよろよろ歩き去ると、クレッセントさんが聞いてきた。

大暴れはしてねえぞ、職務上ではな。

 

「……1つ、アタシからアドバイスしといてあげる」

 

 周囲に視線を飛ばしたクレッセントさん。

人影がないのを確認したのか、悪戯っぽい笑みを見せた。

 

「あのね、山田ちゃんは『一応』ただの人間なのよ? それなのに……そこのフドウギクちゃんと同程度の『体幹のブレなさ』はおかしいでしょ~……?」

 

「――ッ!?」

 

 一瞬、息が止まった。

 

「ふふふ、アタシみたいに『目』がいい連中は結構多いよ~……? 一息で正体に『至る』かどうかは別として、『違和感』は持つでしょうね~……」

 

 ぽん、と肩を叩かれる。

 

「アタシは山田ちゃんが生粋の『ウマコン』だって知ってるし、普段の勤務態度も見てるから……変なことしてるとは、思わないケド、ね?」

 

 す、と。

笑顔のまま、クレッセントさんは離れていく。

 

「若いんだからしょうがないけどさ、『強い』ってことは意外とすぐにバレちゃうよ~……? あ、テンマが帰ってきたら片付けと柔軟したら今日は上がっていいって言っといてね~♪」

 

 後ろ手に手を振り、その百戦錬磨のトレーナーは去って行った。

 

「……体幹かァ、マジに盲点だった」

 

「ジブンもス。確かに、よくよく考えてみれば……山田先輩、普段から正中線が一切ブレてないスね」

 

 そこで違和感持たれるとは思ってなかったなァ……

 

「……考えてみりゃ、師匠は普通のオッサンみたいに歩いてたなァ」

 

「そういえば、干支野さんはそうでしたス。見ただけだと、とても山田先輩と互角の立ち回りをするようには感じなかったス」

 

 ……成程、じゃあアレは師匠なりの『擬態』ってワケか。

 

「気を付けようか。『まっとうな』マスコミにはレース上がりのウマ娘もそこそこいるしな……」

 

「元格闘ウマ娘関係っていうのも多いスよ」

 

「だよなあ……アレか?無理やり適当な歩き方すっかな?それはそれで腰を傷めそうだが……」

 

「……試合後にしておきましょう。今は駄目ス」

 

 たしかにそうだな。

今体を傷めるわけにはいかん、か。

 

「テンマさんが戻ってきたスよ」

 

 お、もう1周してきたのか。

……なんか微妙に速足じゃないか?

クールダウンになってんのか微妙だぞ、アレ。

 

「戻りましたっ!わぁ~!」

 

「再び汗だくじゃねえかよお前、タオルタオル」

 

「わぷぷぷぷぷ」

 

 新しいタオルを投げつける。

そんなに早く戻りたかったんかよ。

 

「柔軟して片付けたら終わりだとさ。俺達は巡回に戻るからよ、後で飯でも食おうぜ」

 

「アラ素敵、了解しましたわぁ~!それでは後ほど~♪」

 

 テンマはウキウキと片付けを始めた。

今更だが、そのソリも片付けるんだよな……すげえなあ、おい。

片付けも稽古みたいなモンじゃんか。

 

 

・・☆・・

 

 

「ももめむももも、ももも(いよいよ明日が試合ですわね、レースがあるので行けませんが、勝利を祈っておりますわあ~……)」

 

「何一つわからん、飲み込んでから喋れ」

 

 食堂にて、ハムスターの化身みたいになったテンマと……

 

「山田さん、ご武運を。今度こそは応援に行きたかったのですが……」

 

「気にすんな、お前らもレース頑張れよな」

 

 それを呆れたように見ているカグラと、飯を食っている。

フドウギクは微笑ましそうに笑っている。

コイツ、意外と肝が太いなァ。

 

「北海道のトウモロコシはおいしいねェ~……♪」

 

 あ、エリモねえさんもいた。

自然に混ざり過ぎなんだよこの人。

いつ許可取ったんだよ。

 

「今日はビュッフェの日だから戦場だな」

 

 早めに確保した俺達と違い、すきっ腹を抱えて突撃してきた生徒たちで修羅場になっている。

あ、ここはトレセン学園と違ってみんな同じ手法で飯を食う。

あっちほど生徒数いねえしな。

 

「ぞぞぞ……んぐ。遠く北海道の空の下から応援をしておりますわ~♪ ほら、ウララちゃんにはわたくしの分まで応援を頼みましてよ?」

 

 特大味噌ラーメンを完食したテンマが、スマホを向けてくる。

 

「お前らホントにすぐ仲良くなったよなァ……なにこれ」

 

 テンマのスマホには……寮の部屋らしきところでピースするウララの姿。

それだけならカワイイね~で済むんだが、問題は着ているものだ。

 

 『無名』と書かれたカラフルな法被と鉢巻き……顔には試合中の俺を模したようなマスク。

そして、やたらとデフォルメされた無名のイラストがプリントされたメガホンまで。

 

「USCが売り出している無名応援グッズですわ!お母様曰く、『ちょっと笑いが止まらない』くらいに売れているらしいですの~♪」

 

 ……そういえば何かグッズ版権的な書類にサインしたような気がする。

まさか本当に商品化されてるとは……

 

「U-1公式から出る『ファイターフィギュア・無名』もありますわよ? わたくしはなんとか二次出荷分を予約できましたわ~♪」

 

 新たに表示されたのは、俺のフィギュアだ。

……U-1参戦の時に、そんな書類にもチェックしたような気がする……

し、しかし無名のグッズなんて……

 

「……フドウギクやアトヴァーガみてえな別嬪さんならともかく、俺のフィギュアなんてそんなに売れねえだろ……」

 

「っべ!?じ、ジブンはそんなんじゃないスよ……で、でもホラ、コレ」

 

 顔を赤くしたフドウギクが向けてきたスマホ。

 

「嘘だろ……世の中狂ってるぜ……」

 

 そこには、『好評につき、第四次出荷分まで完売!』という文字があった。

 

「ちなみにアトヴァーガさんは第一次出荷品をゲットしてるス。ウマインに箱抱きしめてる画像上げてましたス」

 

「嘘でしょ……」

 

「ジャルワールさんも買ってましたス」

 

「嘘でしょ……」

 

 どいつもこいつも、何が楽しくてそんなもんを……

 

「……まさか、この前振り込まれた給料がやけに多かったのも?」

 

 あの時は出張手当が付いたのかとか思ってたが……

 

「たぶん来月分の給料はもっと多いと思うス。聞いてません?社長が『U-1関連で儲かってしょうがないからまた特別ボーナス出す』って言ってたんスけど」

 

「……そんなメールが来ていた、ような~?」

 

 試合のことと稽古のことしか考えてなかったからなァ。

それにマ骸流のこともあったし。

 

「一郎さんは本当に人気ですわ~♪ あ、わたくし追加を貰いに行きますが、どなたかお代わりはいりますか?」

 

「すまん、それじゃあカツ丼を頼む」

 

「味噌ラーメンもういっちょ~♪」

 

「ジブンも貰うので一緒に行くス」

 

 まだ食うのかみんな……さすがばんバと格闘ウマ娘。

……1人だけ引退したサラブレッドウマ娘が混じってるけど。

 

「俺はアイスコーヒーを頼む……『普通の』サイズでいいからな」

 

 いつぞやのライみてえに、バケツで持ってこられちゃ困るからなあ。

さて……飯食ったら引き継ぎの手続きして、いよいよ空港だな。

 

「トレセン学園に寄ってる暇、ねえよなあ」

 

 土産物とかも渡したいけど、試合後にすっか。

 

「駄目駄目、さっきたづなちゃんに聞いたけどさァ……マスコミむっちゃいるんだってよ~? わざわざ撮られに行くこともないっしょ~?」

 

「エリモねえさん、たづなさんと知り合いだったんか……ってマスコミも?」

 

 まだ嗅ぎまわってんのかよ、暇だねェ。

 

「『ウマ娘至上主義』はどこにもいるんだよ~?特にマスコミ関連には超多いよ~? 全部が全部変なのじゃないケド、ね。『人間よりもウマ娘が上!』ってより『ウマ娘が好き!』って考えの人の方が多いし」

 

 何故この人はこんなにも詳しいんだろう。

もうつっこまねえけど。

 

「……ちなみにだが、俺っていうか無名のことは?」

 

「過激なのは『殺す!』穏健なのは『不慮の事故で死なないかな~?』って感じ?かな~?」

 

 どっちにしろ嫌われまくってんじゃん。

 

「ま、連中が盛り上がってるから『反ウマ』の連中は動けないでしょ~? ホラ、どっちもアレな連中だけど……『対外的』にはまだ『至上主義』の方がマシだし」

 

「まあ、そりゃそうだけど……」

 

 『反ウマ』の方はテロリストに片足突っ込んでるもんな。

叶うならアレだ、ヤベー連中同士で潰し合ってくれりゃいいんだけど……そうそう上手くはいかねえだろうけど、な。

 

「まあアレだよ~?本当にヤバい連中が動きそうな時には、おねえさんに任しときなよ~?」

 

「いや、それじゃエリモねえさんが危険に……むむむ」

 

 言おうとしたら、頬に指を突きつけられた。

 

「――『気紛れジョージ』はねェ、ちょおっと凄いんだから」

 

 その何とも言えない謎の迫力に、俺はとりあえず頷いておくことにした。

眼力が怖ェよ……





【エリモジョージのヒミツ】
・実は、全国のトレセン学園の理事長と顔見知り。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。