トレセン学園警備員さんは、ウマ娘に勝ちたい。   作:秋津モトノブ

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42話 トーナメント4戦目 フェイロン 後編

「こら!こらオグリ!やめっ!やめろっちゅうとんのやー!!」

 

「むむむむ……!」

 

 とある地方のホテル。

そこには、オグリキャップとタマモクロスがいた。

ここは、彼女たちの遠征先である。

 

 レースを終え、部屋の備え付けのモニタで観戦しているのは……U-1トーナメント。

 

「食い過ぎ!食い過ぎや!!試合始まってからこれまでで、どんだけ食うてんねん!北井のおっちゃんにしばかれんで!!」

 

 タマモクロスが言うように、モニタを食い入るように見つめるオグリキャップの周囲には……綺麗に空になった皿がうず高く積まれている。

 

「もも、めめめ、もっも(タマ、この試合……見ていると山田さんがとても心配なんだ)」

 

「山田はんが心配やっちゅうのと、あんたがバカスカ食うのになんの因果関係があるっちゅうてんねん!!」

 

「むむむ、も、ごご、むぐ(しかし緊張して……お腹が空くんだ)」

 

「しかしもカカシもあれへんっ!!……でも、山田はんの試合はホンマに心臓に悪いで……」

 

 オグリキャップを怒鳴りつけたタマモクロス。

しかし、次の瞬間にモニタへ向いた表情は……普段になく切なそうなモノだった。

 

「山田はん……死なへんように頑張ってや、ウチらが、こないに応援してるんやさかいに……」

 

 

・・☆・・

 

 

「おキクちゃんっ!」「了解ス!!」

 

 無名側のコーナー。

真っ青な顔色のライデンオーが、フドウギクに叫ぶ。

叫びながら、自身はうがい用の水を用意している。

 

「先輩、触りまス……ッ!」

 

「――どうした?俺の胸板があんまりセクシーだからビビったか?」

 

「バ鹿言ってないで口ゆすぐッス!!」

 

 ライデンオーが無名の口に水を含ませる。

しばし後、吐き出されたそれは――真っ赤だった。

 

「っひ!?ぱ、パパパパイセン、これ……!!」

 

「……舌を噛んじまった、口ン中が痛ェや」

 

 狼狽するライデンオーをよそに、フドウギクは無名の胸部を触っていた。

その表情が、こわばる。

 

「先輩、右の肋骨……一番下、折れてるス。それ以外に、ヒビが、3本」

 

「んにゃあ!?た、たたた大変じゃないッスか!?」

 

「――声がでけぇよ、バ鹿。大丈夫だから黙ってな」

 

 慌てるライデンオーの頭を、無名が撫でる。

 

「先輩、棄権すべきス。これ以上攻撃をもらったら、ズレた肋骨が内臓に突き刺さるかもしれないス……危険すぎまス」

 

「ふにゃ……♡っへ!?ちょっ!ソレやばいッスよパイセン!!」

 

 頭を撫でられて気が抜けた声を漏らしたライデンオー。

彼女もフドウギクの切迫した声を聞き、表情を変える。

 

「そいつは、ノーだな」

 

「……何故スか……先輩が討マ流、だからスか?」

 

 咎めるような、フドウギクの口調。

無名は、彼女を正面から見つめて言った。

 

「違うなァ、違う」

 

 無名が立つ。

ダメージを感じさせない、力強い動作で。

そして、2人を振り返って、また言った。

 

「――それが『俺』だからだよ」

 

 

「『フェイロン、大丈夫か!?』」

 

「『内臓が口から飛び出しそう、よ。なに、あの打撃……恐ろしい、武術ね』」

 

 フェイロン側のコーナー。

セコンドが、彼女の腹部に氷嚢をあてがっている。

そこは、二度の打撃によって赤黒く腫れつつあった。

 

「『アレだけじゃ、ないわ。彼の全ての行動が、対格闘ウマ娘に特化している……!!』」

 

「『ああ、恐ろしいな。お前の突きが完全に入ったのに、まだ動くところも』」

 

 フェイロンが水を口に含んで吐き出す。

無名と同じように、真っ赤だった。

 

「『試合の映像を見て知ってはいたけど、本当に肋骨を防御に使うなんてね……あの瞬間、無名は自分から『当ててきた』わ……避けられないと、知った瞬間に』」

 

「『奴の肋骨は確実に折れている。これは勝負だ、奴が棄権しないなら――遠慮なく、狙っていけ』」

 

 これは、卑怯なわけではない。

古来より、戦いにおいて相手の弱みを攻めるのは当然だ。

弱みを、作る方が悪いのだ。

そして、それを承知で……無名は立っているのだ。

 

「『当たり前よ……手心を加えて勝てるような男じゃないわ、無名は。だけど、狙うことすら『読んで』いるかもしれない』」

 

「『だろうなァ……おい、見ろ。やる気らしい』」

 

 座るフェイロンの視線と、立ち上がった無名の視線が噛み合う。

胴着から露出した部分は数多くの痣に覆われ、その胴着も自らが吐血した鮮血に彩られている。

――いるが、その目に宿る戦意はいささかの衰えも、恐れもない。

 

「『――お祖父ちゃんの言った通り、ね』」

 

 フェイロンも、立ち上がった。

痛みをこらえ、各所の動きを確認しながら――言う。

 

「『――彼、殺す気にならないと倒せないわ』」

 

 そして、歩き出した。

 

 

『第三ラウンド、開始ッ!!満身創痍に見えるが、無名選手は戦えるのか!?フェイロン選手、このラウンドで決めてしまうのかーッ!?』

 

『未だに信じられません、あの打撃を喰らって……彼がまだ立っていられる事実を』

 

「っへ、節穴が……あれしきで人間がくたばってたまるかよ」

 

「普通の人間は死んじゃうよ、鐐ちゃん」

 

 実況に毒づく干支野に、エリモジョージがツッコミを入れる。

 

「ええっ!?」

 

 その膝上に相変わらず座らされているハルウララ。

その目に、薄く涙が盛り上がった。

 

「だいじょぶだいじょぶ、いっくんは普通のヒューマンじゃないから~。ホラホラ、後ろの2人も食べた食べた、おごりだよ~」

 

「あの子がアレくらいでどうこうなるもんか!こっちはどっしり構えて見てりゃあいいんだよ!」

 

 それを慰めるエリモジョージに、トーワターフ。

 

「おじさま……」「ムミョウサン……」

 

 ライスシャワーと、タイキシャトル。

2人は、心配そうにリングを見つめている。

 

「全く、罪作りなウマコンだなぁ……ふふ」

 

 そんな様子を横目で見ながら、ムソウシンザンはビールを豪快に煽った。

 

 

「っし!」

 

 第三ラウンド、まず初めに動いたのはフェイロン。

気迫を込めた息を発し、低い体勢で前に出る。

 

「――ッ!(来る、か!)」

 

 対する無名。

左半身を前に出し、構えを変えた。

両の指を鉤爪状に曲げ、手首で交差させる。

 

 討マ流、応報の構え「連雀」

攻撃に、攻撃を合わせる……『超攻撃型』の『防御の構え』

 

「(構えが変わった!これはジャルワール戦の……!だけど、それがどうしたって言うの!!)」

 

 一瞬目を見開き、フェイロンが駆ける。

低い体勢のまま、地を這うように。

 

「(攻撃そのものにカウンターを合わせるんでしょ!だったら……合わせれば、いい!)」

 

 フェイロンが接近しながら、左右に跳ぶ。

幻惑しながらも、決して最高速は落とさない。

 

「ぃいい、ッヤ!!(――その攻撃ごと、破壊するッ!!)」

 

 裂帛の気合。

彼女が選択したのは、無名の右側に回り込みながらの、右手による裏拳。

疾走の勢いと、回転を余すことなく乗せたそれが、無名へ迫る。

 

「――じゃッ!」

 

 無名は身を引きながら、まず右掌底をその手首に下から撃ち込む。

そして続けざまの左掌底を、全く同じ個所に、同じ方向から撃ち込んだ。

乾いた音が連続し、裏拳の軌道がズレる。

 

「(それは――読んでいたッ!!)」「(やはり本命は、ここかァッ!!)」

 

 フェイロンが、右を空振った勢いすら乗せた左掌底。

空気を焦がすほどの速度で、無名の右胸へ。

 

「――破ァ!」「――っは!」

 

 衝突する、左掌底と……左掌底。

無名も同じく掌底を放ち、衝撃が相殺される。

 

「っしぃい……はああッ!!!!」

 

「っる、オオオオオッ!!!!」

 

 両者、足を止めた。

そして――拳の間合いで、両の手による乱打が始まった。

 

『これは、1ラウンド目と同じ展開――いやッ!?違う!!』

 

 お互いに、躱さない。

足を止めたまま、お互いの掌と掌が続けざまに衝突する。

パパパパ、と乾いた……しかし鋭い音が何度も、何度も響く。

 

「(来なさい無名!これを捌ききれなくなった時が、アナタの最期!!)」

 

「(乱打の打ち合い!なんちゅうハンドスピードだ!もう逃げられねえ、やるしかねえッ!!)」

 

 お互いの体を狙って放たれる、掌。

それを、お互いが迎撃する。

この拮抗が破られた時、それは即ち――その数瞬後に掌がめり込むということに他ならない。

 

「っしぃい!」

 

 空気を切り裂く、フェイロンの両手。

 

「るおぉっ!!」

 

 その手首を、肘を。

無名の指が突いて逸らしていく。

彼の体を狙って放つフェイロン、その『攻撃』に射程を合わせる無名。

息を止めた超高速の乱打が奏でる音が、会場に響き続ける。

 

「い、息ができねえ……」「っていうか見えねえ……」「あんなもん、俺達なら掠っても死んじまうぞ……」

 

 観客たちが息を呑んでいる。

 

 

「頑張って、頑張っておじさま……!」

 

 ライスシャワーが、目に涙を溜めて祈る。

 

「ファイト!ファイトデース!!」

 

 同じように潤んだ目で、タイキシャトルが拳を振り上げた。

 

「がんばれーっ!ムミョウさーんッ!!」

 

 ハルウララが、メガホンを振って叫ぶ。

 

「おらぁ!女神たちが応援してんぞ~!!根性みせんか!マスクの色男ォ!!」

 

 相変わらずハルウララを膝の上に乗せたまま、エリモジョージがドスの効いた雄たけびを上げた。

 

「弟子が羨ましいねェ、愛されてて」

 

 干支野が、苦笑いしつつこぼす。

 

「アンタは私が愛してるからいいじゃないの」 

 

 その頬に、トーワターフが口付けた。

 

「ダーリンが恋しい……」

 

 ムソウシンザンは、いつになく寂しそうだった。

 

 

「――っだ!!(肺活量じゃ勝ち目がねえ!回転数を上げて――突破する!!)」

 

 続く乱打の打ち合い。

その渦中で、無名の目が煌めく。

 

 人と、ウマ娘。

いかに無名が人外の体力を持っていようとも……

持って生まれた『種族の差』は、否応なしに存在する。

 

「っすぅ――」

 

 息を吸い、無名が仕掛ける。

 

「お、オオオオッ!!」「ッ!?(はや、い!?)」

 

 フェイロンの右掌底。

それを、先程までよりも鋭く無名が弾く。

まず右の貫き手で手首を打ち、続けて左掌底が肘を跳ね上げた。

瞬間的に加速した連撃で、フェイロンの上体が開く。

 

「――轟ォッ!!」

 

 数瞬の、隙。

それを逃さず……無名の右掌底がフェイロンの頭部へ向かう。

狙いは、顎。

三半規管を揺らし、一気に畳みかけるつもりだ。

 

「っが、ぁ!?」

 

 ぱあん、と音、

加速した右掌底が打ち抜いたのは、フェイロンの『頬』

その勢いで彼女の顔が、上体がよろめいて回る。

 

「(ちいぃ!避けやがった、脳は揺らしたが、顎には及ばん!左を軌道修正して――)」

 

 足元をふらつかせ、背中を向けるほどよろめくフェイロン。

 

「(背中から、肺を――『背中』?)」

 

 ぞくり、と。

無名の背筋を悪寒が走り抜けた。

 

「(おかしい、手打ちの掌底が頬に入ったくらいで、上体が回転するほどのよろめきは――)」

 

 フェイロンが、背中を見せる。

 

「(まさ、か――!!)」

 

 

「――覇ァッ!!」

 

 

 ――びきり、と。

無名の体内で、鈍い音が反響する。

 

「っか、は――(背中、いや、肩、これは、これは八極拳の――!?)」

 

 その胸に、フェイロンが体重を預けるように寄りかかっている。

否、肩を『ねじ込んで』いる。

彼女はわざと頬を打たせることで回転し、よろめいたフリをして……背中からの体当たりをカウンターでねじ込んだのだ。

 強靭な足腰から繰り出される、震脚。

その勢いを余すことなく乗せた、背面からの体当たり。

 

「(――鉄山、靠――!!)」

 

 『鉄山靠(てつざんこう)

中国拳法の中でも、特に近距離の間合いに特化した八極拳。

その中でも、随一の破壊力を誇る技である。

 

 極小の間合いで、絶大な破壊力を繰り出す――それが、八極拳なのだ。

無名は、血反吐を吐きながら吹き飛ばされた。

 

『クリーンヒットォオオオオッ!!無名選手、吹き飛ばされたッ!!フェイロン選手、返り血に染まったァ!!!!』

 

『いけない!アレは危険ですッ!!今の角度だと、胸骨が完全に破壊されて――な、にぃ!?』

 

 無名は吹き飛んだ。

吹き飛びながら、コーナーポストに、衝突。

更に血を吐きながら――リングロープを、掴んだ。

掴んで、踏みとどまった。

 

「――無名選手ッ!!」

 

 血相を変えたレフェリーが、駆け寄る。

いかに倒れなかったとはいえ、ダメージを受けた胸への再度のクリーンヒット。

最悪の状況を想定し、TKOの宣告を決意した。

 

「ご、ぼっ」

 

「無名選手――!!」

 

 駆け寄るレフェリー。

無名がやおら顔を上げた。

 

「ッ!?」

 

 口元からは鮮血が溢れ、胴着と床を汚している。

出血量からしても、内臓が傷付いている可能性がある。

だが、レフェリーは何も言えなかった。

 

 ――その両目に宿る、消えぬ戦意を見て。

 

「止め、たら――許さん」

 

 それだけを吐き捨て、無名はリングロープを離した。

そして、前に出る。

 

 足を震わせ、左右へ揺れながらも。

しっかりと前を見据え、フェイロンに向かって。

 

「ふ、ふふ……うふ、ふふふ!」

 

 それを見て、フェイロンは笑う。

背筋を走り抜ける、歓喜を感じた。

 

「『鉄山靠が完全に、入ったのに……まだ動く!まだ、私に向かって来る!!』」

 

 ざ、と。

足を開く。

そして息を吸い、構える。

 

「『わかったわ、無明。私は――殺すつもりで、技を放つ』」

 

 ゆるゆると、彼女の足先に力が溜まっていく。

一足で、間合いに飛び込む力が。

 

 フェイロンとて、余力はない。

先のラウンドにおいて胴に喰らった2回の打撃。

そして、頬に喰らった掌底。

内臓へのダメージは蓄積し、揺れた脳はまだ回復していない。

このラウンドどころか、次ラウンド……否、明日までも残るダメージだ。

 

「ふぅう、う……!」

 

 フェイロンが、息を吐く。

――突き出した右拳を、ぎちりと握りしめた。

 

 

「……決めに、来るな。さてどうする、弟子ィ」

 

 それを見て、VIP席の干支野が小さく呟いた。

 

 

 人間相手なら、掌底で十分。

それが、中国拳法の発勁を修めたフェイロンならばなおさらだ。

しかし、彼女は拳を握った。

人間の耐久力からすれば、オーバーキルになる程の威力。

それが、格闘ウマ娘の拳なのである。

 

「(殺す、つもりで――胸を、撃つ)」

 

 フェイロンの目線の先。

無名が、止まった。

 

「(カウンター……否、全力で初撃を潰しに来るはず。それしか、無名に勝ち筋はない!)」

 

『無名選手、構えたッ!!その場でフェイロン選手を迎え撃つつもりなのかッ!?!?』

 

『まだ、戦う気なのか――!!』

 

 無名が、構える。

右手を引き、左掌を前に突き出す……いつもの構えである。

 

 リング上の両選手はお互い構えたまま、止まる。

実況も、観客も静まり返った。

 

 そして、誰かが……何かを落とす音がした。

それが、きっかけだった。

 

「――っふ!!」

 

 フェイロンが、踏み切る。

彼我の距離を一足に飛び越える、凄まじい踏み込み。

 

「(無名の手が動かないッ!反応しきれていない!!何を考えていても――先に、拳を叩き込むッ!!)」

 

 加速する意識の中で、フェイロンが最適な攻撃箇所を選定する。

狙いは、胸。

骨折した肋骨を、さらに砕く。

さらに、内部へと至った衝撃力……発勁で、肺をも破壊する。

相手が人間どころか、格闘ウマ娘であっても耐えられぬ一撃である。

 

「――覇、ァアッ!!」

 

 フェイロンが、間合いに踏み込む。

リングを激震させるほどの、震脚で。

更に加速、体重と速度を載せた突きが――放たれた。

 

 八極拳、トップクラスの破壊力を持つ突き技。

虎が山を駆け上がる、という意味を持つ絶招(必殺技)

 

 ――人呼んで、『猛虎硬爬山(もうここうはざん)

 

 本来は2、3撃を合わせての技だが……ウマ娘用にカスタマイズされた技術体系では、一撃で十分な破壊力を持つ。

それが、空気を引き裂いて無名の胸へ向かう。

無名は、まだ動かない。

 

「(――こ、こ、だァッ!!)」

 

「(――なっ、にィ!?)」

 

 その一撃が、空を切った。

 

「(力尽き、いや、違っ――避け、て!?!?)」

 

 無名が、リングに寝そべるように体を倒している。

背中から、半ば倒れ込むように。

 

「お」

 

 リングに倒れ込んでいく、無名。

空振った一撃の勢いを殺せず、体が泳ぐフェイロン。

 

「オ、オオ、オ!」

 

 ――そのリングに、無名の右手が振れた。

 

「――破ァアッ!!!!」

 

 リングに手を突いた無名。

先程の死に体が嘘のように、翻った右足が――フェイロンの、胸を貫いた。

踵を、ねじり込んで。

 

「――ッガ、オ、ァア!?」

 

 ばぎん、と体内に響く音。

絶望的なそれを認識しつつ――フェイロンの体が、糸の切れた人形のように吹き飛んだ。

斜め上に、射出されるように。

 

 

 ――討マ流、打ノ型『伏雷(ふせいかずち)

瀕死を偽装、もしくは瀕死の状態で胸に攻撃を誘発。

地に倒れ込みつつ攻撃を躱し……手を用いて跳ね起きた反動を踵の一点に込めて、相手に叩き込む技である。

 

 

『ふぇ、フェイロン選手が吹き飛んだッ!?!?まるで交通事故のような轟音が響くッ!!』

 

 実況が叫び終わった頃、フェイロンが背中からリングへ叩きつけられた。

一度小さくバウンドした後、その両手両足は、だらりと投げ出される。

 

「っが、こ、ご、ぐふっ」

 

 何度か咳き込み、こぽりと小さく血を吐くフェイロン。

立ち上がろうと何度か空を掻き……くたり、と全身が弛緩した。

 

「――レフェリーッ!!」

 

 叫びつつ、フェイロンのセコンドがタオルを投げ込む。

それが地面に着くまでの間に……レフェリーが大きく手を振った。

 

『――た、タオル!!タオルです!!フェイロン選手、戦闘不能ッ!!む、むむ、無名選手の勝利ッ!!勝利ですッ!!!!』

 

『無名選手は――立ち上がっています、なんという、なんという戦いだ……あっ?』

 

「――おじさまッ!?」

 

 VIP席のライスシャワーが、引きつった喉から悲鳴を放つ。

 

「っち……私だ!救急車をッ!!」

 

 ムソウシンザンが、手元の通信機に叫ぶ。

 

 ――リング上の無名が血を吐き、膝から倒れ込んだのは……それとほぼ同時だった。

 

「だいじょぶだいじょぶ、いっくんはサイキョーだからだいじょぶ」

 

 膝の上で絶句するハルウララを撫でつつ、エリモジョージが呟いた。 

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