トレセン学園警備員さんは、ウマ娘に勝ちたい。   作:秋津モトノブ

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44話 なんとも居心地が悪い入院生活、いやまあ有難いけども。

「けーびいん!!さあああああああんっ!!!!」

 

「よォウララ」

 

 ドアを突き破る勢いで入ってきたウララが、涙目で突進してくる。

ありゃりゃ、泣いちゃってまあ……

 

 いきなり飛びつきそうだったウララは、ベッドの横で急ブレーキ。

涙目のまま、なんとか椅子に腰かけた。

 

「学校はどうした?」

 

「と、トレーナーが行ってきていいって、言ったからぁ……う、ううう……」

 

 座ったまま、ウララが震えている。

 

「ああ、そうかあ……福久さんにもお礼言っとかねえとなあ」

 

 そう言いつつ、ウララの頭を撫でる。

何度かそうしていると、そのまま腕に縋り付いてきた。

 

「心配かけてごめんなァ、ウララ」

 

「う、うう……うわぁああん!うわぁああああああああん!け、けーびいんさんが、げんきでよかったよぉおお~~~~!!!」

 

 そのまま、ウララは腕に全力で抱き着いてぎゃんぎゃん泣き出した。

……これ、試合でどんだけぶん殴られるのよりも心にくるもんがあるなァ……

 

「よーしよし、よーしよし……」

 

 肋骨骨折どころじゃねえ痛みを抱えつつ、ウララの気がすむまで撫で続けた。

甘んじて受けよう、全て俺が悪い。

 

 

「ほれウララ、あ~ん」

 

「もむ……おいしーっ!」

 

 切り分けた桃を、フォークに刺してウララへ食わせる。

 

「けーびいんさんも、あーん!」

 

「はいはい……ちょっと待てソレでかくね?んごごごごご……!!」

 

 お返しとばかりに、ウララがニッコニコでメロンをねじ込んできた。

お前これ全体の4分の1くらいのサイズなんだが?

顎が外れそうなんだが?

 

 ……だがこれも、甘んじて受けよう。

やっとウララの機嫌が直ったんだ、目が真っ赤なのが痛々しいが。

 

「タイキちゃんとライスちゃんも来たい!って言ってたんだけどね、たづなさんが1日に1人にしましょうね~って……だから、今日は私の順番なの!」

 

「そっかそっか、気を遣わせて悪いなあ」

 

 そういう感じになってんのか。

たづなさん……色々考えてくれてんだなあ。

今度なんか奢ろう、そうしよう。

 

「……あ、俺ってどういう風に説明されてんの?」

 

 ウララのトレ―ナーは、俺の正体を知らん。

だが、病休扱いになってるってことは……どんな感じなんだ?

 

「もむむ……んく」

 

 差し出したリンゴを飲み込むウララ。

そういえば、なんで食べさせ合ってんだ俺達。

ライ達が仕事に行ってて助かったぜ……ウマロリ扱いされちまう。

 

アイツは、今朝一番に来て『ウチは半分くらい身内判定なんで介護休暇ッス!!』と主張していたが『ちゃんと前もって有給を申請しろ、さすがに当日の朝は駄目だ』という社長からのお達しに項垂れて仕事へ行っていた。

たぶん明日からずっといるなアイツ……

フドウギクは普通に行ったが。

 

「えっとね~……『おぼれたイルカさんを助けておぼれた』んだって!キングちゃんが心配してたよ~?」

 

「なんだ、その面白すぎる理由……」

 

 どんどんオモシロ警備員と化してねえか、俺。

社長……アンタ何考えてんだよ。

別の意味で話題になるだろ。

もうちょっとこう……なんかなかったんか。

 

「けーびいんさん、あのね、キングちゃんにもヒミツ教えてもいーい?本当に心配してるんだよ~……」

 

「あー……うん、そろそろ限界だよなァ。ちょいと待ってな」

 

 さすがに、付き合いも長いしな。

騙し続けてるっても心苦しくなってきた。

スマホを立ち上げ、社長にメールを送る。

『キングヘイローに俺の正体ばらしてもいいですか』っと。

 

「……はっや」

 

 送ってから約1分後、社長から返信。

 

『許可する。というか、イチローが教えてやりたい相手には基本的に許可するぞ?どうせトレセンの生徒だろうしな、危険はなかろう』

 

 ……うーん、把握されてやがる。

まあ、トレセン学園以外だと深い交友関係ねえしなあ、俺。

 

「いいってよ、ウララ」

 

「よかったぁ!じゃあじゃあ、今度一緒にお見舞いに来るね~!その時に教えてあげて!!」

 

「おう、フルーツ山盛りで待ってるよ」

 

「もーう!こっちが用意するんだからね~!」

 

 ベッドの端に腰かけ、ウララが頬を膨らませる。

そういえばそうかあ。

 

「いかんせんお見舞いの量がな……ウララ、もっと食っていいぞ?何が食いたい?」

 

 現在、俺の病室には大量のフルーツが存在する。

昨日のアトヴァーガたちや、ライスのトレーナー、それにUSC経由でホッカイドウトレセンからもどっさり届いているからな。

向こうの理事長個人からは、何を思ったか大量のメロンが届いている。

俺はメロンを玉単位でパクパク食える人間じゃねえんだよ。

見舞いに来るだろうウマ娘に、バンバン食わせねえとな……来てくれるかな?消費追いつくくらい。

 

 ……そういえば、ライスのトレーナーもイルカ説信じてるんだよなあ。

なんか、あの人にも説明しといた方がいいのかもなァ。

もうなんか付き合いのあるトレーナーは全員に言ってもいいんじゃねえの?

崇城トレーナーなんか格闘経験者だし、もう半分くらいバレてる気がする。

 

「ん~とぉ……じゃあ、メロン!」

 

「ほいほい」

 

 とりあえず、ウララにメロンを切ってやるところから始めよう。

心配させた分、しっかりうまいもん食わせてやらんとなァ……

 

 

・・☆・・

 

 

『いやあ、凄い試合でしたね小次郎さん……』

 

『ええ、両選手とも命に別状はないそうですが……今回のトーナメントは荒れますねえ。無名選手の快進撃に当てられたのか、他の選手たちも白熱しています!』

 

「俺のせいみたいに言いやがるじゃねえかよ……」

 

 『また来るね~!』と、元気よくウララが帰っていってからしばし後。

医者の巡回診察が終わって暇になった俺は、とりあえずテレビをつけた。

なお、医者は『嘘だろ……1日で痣が治り始めてる……現代医学の敗北……』と、なんか項垂れながら帰っていった。

 

 そして、ワイドショーはと言えば……まあ、例によってU-1のニュースで持ち切りだった。

ホント、注目されてんなあこの大会。

まあ、自分で言うのもなんだが……今までの大会より『面白い』展開だろうけどな。

人間が格闘ウマ娘に勝ってるんだから。

 

『ここで、本日のスペシャルゲストをお呼びしています!』

 

 ワイドショーには、俺の試合の時にもいた実況2人。

そして司会のアナウンサーと……賑やかしのタレントが3人いる。

ゲスト?特に表示は出てなかったが……

 

『エリモジョージさんにお越しいただきました~!!』

 

『やっほ~、どうもどうも~!』

 

『『『キャーッ!!!!!』』』

 

「ブーッ!?!?!?!?!!?」

 

 あああ!お茶が!お茶が布団に!?

 

 なんでェ!?

そういえば今日はいなかったよな、あの人!?

 

 画面の中のエリモねえさんは……何故か紋付袴をバッチリ着こなしている。

なんで袴なんだ……似合っているけど。

 

『なんでも、エリモジョージさんは無名選手とお知り合いだとか……』

 

『はいそーですよ~♪』

 

「ブゥウーッ!?!?!?!?!?!?!?!?!?」

 

 ぐううわああああ!?またお茶が!?!?

ちょっと!?ちょっと待って!?

アンタなに言ってんだよ!?

 

『えー!そうなんですかァ!?じゃあじゃあ、無名選手の正体とかもわかっちゃったり!?』

 

 タレントの女性が歓声を上げる。

ええっと……誰だったっけ?わっかんね……

いやいやいや、それどころじゃねえ!?

 

『それは私も……いや、全視聴者の気になるところですよ!』

 

 オイ司会!乗るんじゃねえ!!

 

『あ~……彼とはですねェ♪』

 

 画面の中のエリモねえさんは、カメラ目線で妖艶に微笑んで――

 

『私が紛争地帯にいる時に……武装強盗に巻き込まれまして、その時に助けられたのが縁で知り合ったんですよ~♪』

 

「……はァ?」

 

『そんなことがあったんですね!?』

 

『えー!大変~!』

 

『いやあ、あの時ばかりはさすがの気紛れジョージも死を覚悟しましたよォ……』

 

 『紛争地帯!?』というテロップが流れた。

 

『襲い掛かる強盗を千切っては投げ千切っては投げ、そして無名さんは連中の装甲車を奪い取って私と一緒に脱出しましてね……』

 

 テレビを見ながら、スマホを起動。

ウマインを立ち上げ、『これどういうことすか』と社長に送信。

すぐさま『欺瞞工作は意外と大事なんだぞ?』と、かわいいスタンプ付きで返ってきた。

……社長も納得済み、か。

 

『なるほど、彼の高い戦闘能力ならば納得ですね……では、彼は傭兵かなにかを?』

 

『いいえぇ、オアシスを広げる緑化活動?をしていたらしいですよォ?なんかそういう……NPO的なやーつを』

 

『うっそォ!意外~!』

 

 ……よくもまあ、次から次へと嘘がポンポン出てくるもんだ。

ぬ、新しいメッセージが。

社長から『ちなみに内容に関しては私は一切関与していない』だと。

ううむ……さすがは気紛れジョージ。

なにが流石かはわからないけども。

 

『あのっ!エリモジョージさん!ワタシ、無名サンのお顔がどんな感じなのか気になるんですゥ~!』

 

『ふむふむ、顔ですか……写真はUSCにメッ!されちゃうので……似顔絵を持参しましたよ!』

 

 エリモねえさんが、胸元から大きいスケッチブックを取り出した。

 

『おー!それはすごい!!』

 

 カメラが寄っていく。

ゆっくりと、スケッチブックが開いた。

 

『こ、これが無名選手の……素顔!!』

 

 実況の格闘家の方が、驚愕の声を漏らす。

 

『イケメンでしょ~?』

 

 ドヤ顔のエリモねえさんが示した、そのページには……

 

 長めの金髪で、碧眼、そして顔の中央にクロス状のでっかい傷がついた……筋骨隆々のイケメンが描かれていた。

っていうか、ねえさん絵うめえな……〇斗の拳に出てきそうなキャラだ。

……いやいやいや、なんだこの生命体。

 

『が、外国人なのですか……?』

 

『ん~、確か北欧と極東と南洋の血が入ってるとかいないとか聞きましたねェ~?』

 

 無茶苦茶だ。

無茶苦茶すぎる。

 

『では国籍は日本だと?』

 

『あ~、たぶんなんかそんな感じっぽいですよ~?』

 

 ……すげえ。

よくよく聞いたら何も確定的な情報出してねえ。

嘘とも本当とも言ってねえ。

武装強盗のくだりはアレだけど。

 

『えっと!じゃあ趣味とかはわかりますか!?』

 

『そうですねェ、美術館巡り、寺社仏閣巡り、あ、植物園によく行くって言ってましたねェ』

 

 言ってねえよ。

なんだ、その俺からどんどん離れていく情報は。

ありがてえっちゃありがてえけど……

 

『で、では討マ流について、何かご存じであれば……』

 

 実況者の方が目を輝かせて質問している。

 

『なんかねぇ、極めるとビームとか出せるようになるって風の噂で聞きましたよォ?』

 

 ……うん、ありがとうねえさん。

喋れば喋る程、俺から疑いの目が離れていく。

なんだよビームって。

 

『そ、そうですか……それと先日の試合なんですが、VIP席にいらっしゃいましたよね?』

 

『いましたね~』

 

『ムソウシンザン社長の他にいたのは、どういった方々なんでしょう?トレセン学園の関係者との情報も出ているんですが――』

 

『――あ、それはノーコメントで。ごめんなさいねェ~?』

 

『は、はい……』

 

 エリモねえさんが、質問した司会の超至近距離まで顔を近付けて断った。

今一瞬見えたが、目が全然笑ってねえ。

……さすがねえさん、ウララ達の情報は絶対出さんか。

VIP席周辺は撮影禁止エリアだしな、写真が出てくる恐れもねえし……観客にはバレてるだろうが、他言無用のルールがあるからな。

USC以外のVIP席もあるし、いろんなお偉方がお忍びで来てるからなあ。

 

『さあて、他に質問あるかな~? ないならここで今月の新曲を~……』

 

 エリモねえさんは、懐から何故かフルートを取り出した。

和装だからそこは尺八とかにするんじゃねえのかよ……

 

 それからも、ワイドショーはエリモねえさんの独壇場だった。

重要な情報は何一つ出ることはなく、無数の偽情報をばら撒いて終わる形となった。

微妙に近いようでいて、全然違う情報を出すのがまたいやらしい。

しれっと俺の現在の勤務地が孤島になってたし。

なんだよ孤島って。

そんな出張所聞いてことねえわ。

 

 

・・☆・・

 

 

「……すまない、今いいだろうか」

 

「お前は……灰色のヒロイン!」

 

「オグリキャップなんだが?」

 

「うん知ってる、そんなとこにいないで入れ入れ……うおっ」

 

 ワイドショーを見終わって休憩していると、ノックの後に知った声。

そう、オグリだった。

……クソデカい風呂敷包みを背負った、オグリだった。

 

「お前なんだソレ」

 

「うん、ここに来る前に笠松に寄ったんだが……『とてもお世話になった人が入院して悲しい』と言ったら、皆がお見舞いを持たせてくれたんだ。見てくれ山田さん!」

 

 どすん、とベッド脇に置かれる風呂敷包み。

でっか……

 

「これはトメさんの畑で獲れたトマトとキュウリ、こっちはカメさんが漬けてくれた漬物で、こっちはシゲさんがお店で出しているお饅頭の詰め合わせ、これはシュウさんが作っている佃煮の……」

 

「わかった、わかった……すげえ嬉しい、うん」

 

 オグリ……絶対人間が入院したって言うの忘れたろ。

ウマ娘が入院したと思われてんぞ、周囲に。

しかも、コイツと同程度食うウマ娘。

 

「あー……とりあえずお見舞いありがとうな?重かったろ?」

 

「いや、いつもお世話になっているから当然だ」

 

 フンス!というドヤ顔のオグリ。

なんか、ターボとかそこら辺のウマ娘に見えて……ついつい頭を撫でてしまう。

やっべ、と思ったが……うん、大丈夫そうだ。

それどころかちょっと嬉しそう。

 

「山田さんの手はやはり暖かいな……元気そうで本当に良かった!」

 

 オグリは、太陽のように笑った。

後光が見える……

 

「あー……まあ、俺は最強の警備員だからな。えっと……なあオグリ、今飯食えるか?」

 

「無論だ」

 

 いいお返事だこと。

 

「よし……それなら、見てわかると思うが俺だけじゃとても食いきれん。手伝ってくれ!」

 

「いいのか!?し、しかしお見舞いに来ただけで……」

 

 オグリは遠慮している。

 

「いいに決まってんだろ!お前が美味そうに食ってくれるだけで怪我の治りが早くなるってもんだ!」

 

「そうなのか!?山田さんはすごいな!」

 

「ああそうだ!なんたって笠松の英雄だからなお前は!」

 

 まずは近くにあったメロンから食わせてやろう!

フハハハ!在庫は無限になるからなァ!!

 

「では……いただきます!」

 

 

「山田は~ん、オグリが来とると思うんやけど~……やっぱりおった!」

 

「よォタマ!お前も見舞いに来てくれたんだな、ありがとうよ!」

 

 オグリに見舞い品の消化を手伝ってもらっていると、タマがやってきた。

 

「もももみ、むむ(タマじゃないか、遅かったな)」

 

「遅かったちゃうわいオグリ!3時に駅で待ち合わせて行くっちゅうとったやろ!なんで直に来とるねん!!」

 

 ……タマ、この状態のオグリの言葉がわかるのか。

いいコンビだなお前ら。

俺には何一つわからんぞ?

 

「あ、スマン山田はん……コレ食うてや、お見舞いや」

 

 タマは、某関西圏で有名などら焼きを持ってきてくれたようだ。

悪いなあ……

 

「せやけど元気そうで安心したで、オグリなんか試合終わった時涙目で真っ青やったもんな~?」

 

「む、めめめ、ももん……(わ、私もそうだがタマだって涙目だったじゃないか。がたがた震えていたし……)」 

 

「は、はぁあ!?ち、ちゃうわい!お前の目の錯覚や!錯覚ゥ!!」

 

 オグリに何か言い返され、タマが真っ赤になった。

前半部分がまるでわからんぞ。

まあ、2人にも心配かけちゃったみたいだしなあ……

 

「そうかぁ、タマにも心配かけたなァ」

 

「べ、別にウチはそんな……にゃあ!?撫でんでええわい!子供ちゃうねんっ!」

 

 スマン、丁度いい所に頭が来るんだよ……お前ちっちゃいから。

言わねえけど。

 

「で、でも大丈夫なんか山田はん?」

 

 椅子に腰かけ、少し赤い顔でタマが聞いてきた。

 

「あー……まあ、肋骨がちょっと折れまくってるだけで問題ねえよ。寝てりゃ治る」

 

「治るんかい!?あないに血ィ吐いとったんやで!?」

 

「もももむ、むぐん(アレは本当に怖かった……)」

 

 あー、血ね、血。

 

「アレは殴られた衝撃でちょいと口の中と喉が切れただけだ。大事な内臓はそんなに傷付いちゃいねえよ」

 

「そんなにってなんやねん、そんなにて!?大問題やぞ!?」

 

 いやあ、医者も『テレビで見た時は内臓破裂くらいしてると思ったんだけど……人体ってすごいや』って、なんか遠くを見る顔してたっけな。

まあな、頑丈だしなあ俺。

 

「ま、そんなことよりタマも食ってけよ。見ての通り見舞い品がえらいことになっててよ……待ってろ、今お茶を」

 

「アカーン!山田はんは病人なんやから座っといてェ!!ウチに任しとき、ポットはあっこやな!」

 

 タマが俺を制し、素早く準備を始めた。

悪いなあ……

 

「山田はんはしっかり休んで体を治すんや!」

 

「おう、すまねえな」

 

「むぐ……ごくん、そうだぞ山田さん、ゆっくりしていてくれ」

 

 メロン3玉を平らげたオグリも心配そうにしている。

 

「お前らにそう言われちゃしょうがねえな……あ、オグリまだ食えるか?冷蔵庫にモモが入りきらなくってよ……」

 

「任せておいてくれ!」

 

 うーん、いい笑顔だ。

食わせがいがありすぎる。

 

「ええ顔しとるわホンマ……オグリ、すっかり山田はんに懐いてしもて……」

 

「それはタマもだろう?」

 

「っち、ちゃちゃちゃちゃうわいっ!ウチは恩を返しとるだけやっ!猪のなァ!!」

 

 あー、そんなこともあったっけなあ。

随分と懐かしい記憶だ。

 

「まあまあ、それじゃあ一緒に饅頭も食おうぜ。エリモねえさんが持ってきてくれたんだ」

 

 何故か九州のをな。

 

「昼のワイドショー見たんやけど、山田はんホンマに気紛れジョージと知り合いやったんやね……」

 

 お、見てたのかアレを。

 

「まあね、あのテレビとは全然違う感じけどな?」

 

「山田さんは本当に凄いな!私も会ってみたいものだ!」

 

 レジェンドG1バの有名度は段違いなのか、オグリも目を輝かせている。

 

「あー、たぶんすぐに会えるだろうよ。なんかそんな気が――」

 

 と、言ってる途中でドアが開く。

 

「たっだいまァ~♪いっくん、寂しくて泣いてなぁい~?」

 

「――なァ?」

 

 テレビでの紋付とは違い、スタイリッシュなパンツルックに着替えたエリモねえさんが帰ってきた。

そんな恰好してりゃあ、無茶苦茶美人なんだけどなあ。

 

「お!オグリキャップちゃんにタマモクロスちゃんじゃ~ん♪ レジェンドのパイセンだよォ~♪」

 

 急な有名人の襲来に目を白黒している2人。

それに向かって、ねえさんは満面の笑みで手を振っている。

……収録終わってすぐに来たんだろうな、たぶん。

やっぱり俺にはこの人が何一つわからねえ……

 

 

・・☆・・

 

 

「いやあ、今日も賑やかだった」

 

 夕暮れの病室。

すっかり静かになったそこで、俺は呟いた。

 

 あの後エリモねえさんのレース歴思い出話が始まって……タマもオグリも夢中で聞き入っていた。

俺もだけど。

またねえさんの話が上手いんだよ、いやあすげえ才能だった。

講演会とかやっても食っていけるんじゃねえのかな、あの人。

 

 そんなわけで、3人はまた来ると言って帰っていった。

エリモねえさんに至っては『許可取ったから今度は泊まりに来るね~』って言ってた。

いつの間に許可を……抜かりない。

 

「優しい連中が多くて涙が出そうだぜ……おっと」

 

 スマホにメッセージ通知が来てる。

ええっと……

 

「……そうかァ」

 

 ライスからのメッセージだった。

いつものかわいらしいスタンプ類は一切使用されておらずに……

 

『あしたいくね』

 

と、シンプル過ぎるものだった。

……うん、なんか怖い。

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