トレセン学園警備員さんは、ウマ娘に勝ちたい。 作:秋津モトノブ
7月最終週、日本武道館。
そこは、エキシビジョンの時よりも更なる熱気に包まれていた。
「今日もやってくれんのかな!?『無名』!!」
「全くわかんねえけど、こんなに興奮させてくれる試合は久しぶりだよ!!」
「そうだよ!伝説の『王者』と『雷神』の一戦を思い出すよな!!」
「20年前の試合じゃん……まあ、わかるけどさ」
試合開始までは、まだ時間がある。
だが、その待ち時間すらも……観客たちは楽しんでいた。
エキシビジョンマッチの衝撃。
『無名』がまた何か見せてくれるのではないか、と。
あの時のように、驚くべき何かを見せてくれるのではないか、と。
・・☆・・
『無名』
会場の最奥に、そう書かれた部屋がある。
出場選手の控室だ。
この場所を挟んだ会場の反対側には、対戦相手の『アトヴァーガ』の控室がある。
「パイセン、ファイトっす!!」
室内。
無名のセコンドであるライデンオーが、そう激励をしていた。
いつもの人懐っこそうな笑みは、黒いマスクに隠れて見えない。
明らかに、エキシビジョンマッチの時よりも隠れる場所の多いマスクだ。
注目度が上がったので、より機密性の高いものを……と、会社から支給されたものだ。
「おう、まあ……なるようにしかならねえよ」
対する無名こと山田一郎。
自然体でマットレスに腰を下ろし、入念なストレッチを行っている。
「あるんスよね!?なんかこう……必殺技!アトヴァーガをこう、ボカーンってやっつけられる感じのヤツ!!」
自分が戦うかのように、ライデンオーは虚空に向かってシャドーを放っている。
「必殺技ァ?……あるよ、そりゃ」
「あるんスかァ!?!?!?!?」
「使えねえけど、な」
ライデンオーが豪快に転ぶ。
パイプ椅子がひしゃげ、スクラップへと変わってしまった。
「んなぁ!?なんでなんスか!?アレすか!?むっさ難しいとか!?それともなんかこう……オーラ的なモノを充填しないと駄目とかァ!?」
「いや、そういうワケじゃない。まあ、まだ時間はあるから説明してやるか」
股割りをしつつ、山田が言った。
彼は胸をピタリとマットレスに付けたまま、話を始めた。
「例えば『絶歌雷電』って技がある、お前と似た名前のな」
「おおっ!カッケー名前っスね!!ど、どんな技なんスか!?」
ライデンオーが色めき立った。
それを、山田はどこか申し訳なさそうに見つめてから答えた。
「――どちらかの手で相手の両目を潰しながら眼窩に指を引っ掛けて、下方向に引き倒しつつ人中って急所に肘を叩き込む。それで、意識を失って倒れた相手の延髄に……飛び上がって踵を落とす」
「っし、死んじゃうじゃないスか!?」
「だから言ったろ、『必殺』技ってよ」
顔色を蒼白にしたライデンオーに、山田が笑いかけた。
「U-1じゃ使えねえし、使う気にもならねえ技ってこった。俺ァ『戦いたい』けど『殺し合い』がしたいわけじゃねえんでな」
『討マ流』は、スポーツではない、古流武術だ。
この世の武術がすべからくそう出発したように……その原初は殺し合いである。
「触れもせずに相手を倒せる技とか、ないんスか……?」
「ねぇよ、そういうのはな、『魔法』って言うんだよ。この前お前と遊んでた、魔女帽子のなんとかちゃんが好きなやつだ」
そう言い切った山田は、ドアに視線を向けつつ立ち上がった。
「――開いてるぜ、入ってきな。ライ、お客さんだ」
「へ?まだ試合開始には1時間もあr――」
ライデンオーが不思議そうな顔をする中、ドアノブが回った。
ドアが開き、誰かが入室してくる。
「んなっ――!?」
開いたドアから入ってきたのは、彼女もよく知る人物。
「な、ななな!何しに来たんスか!?」
『エキシビジョンマッチ』で、よく知る――格闘ウマ娘、『スターラッシュ』だった。
「ぱ、パイセンに何する気ッスか!?まさか意趣返しッスか!?闇討ちッスか!?ま、ままままずはウチが相手に――」
「やめろって。このねえちゃんにその気はねえよ」
武器のつもりか、何故かシュガースティックを両手に持ったライデンオー。
山田はそれを制止し、パイプ椅子を差す。
「スターラッシュ、まあ座りなよ」
その動きに、スターラッシュは黙って従う。
そして椅子に座り……山田と真っ直ぐ視線を合わせた。
しばし後、その唇がゆっくりと開き。
何かを話そうとした、その時
「――わかってねえよなあ、マスコミも、馬鹿な格闘ファンもよォ」
向かいの席に腰かけた山田が、まずそう言った。
「アレは油断じゃねえよなァ、スターラッシュ。俺も、アンタも……ただガチで戦っただけだもんなァ?」
「……ぁ」
スターラッシュが目を見開いた。
よく見れば、その目元にはクマがある。
化粧でも、隠れないほどの。
「――見てなよ、スターラッシュ」
座ったまま、山田が手を伸ばす。
「俺は今日も勝つ、必ず勝つ。そして――また、仕切り直しだ、アンタもまだ、トーナメントに出るんだろう?」
エキシビジョンマッチの勝者が人間選手だった場合、本選の出場資格を得る。
そして、ウマ娘選手は初めからトーナメント出場が内定しているのだ。
だから、どちらかが敗退しなければ……いずれはまた、ぶつかることになる。
それが、いつかはわからないが。
山田の手を、スターラッシュが握った。
震えるその手を、山田がきつく握る。
「最後の左ストレートな、マジでヤバかったぜ。アンタが本調子だったら、沈んでたのは俺さ……頬骨にヒビまで入ったしな」
「……アンタ、さ」
「うん?」
スターラッシュが、この部屋に入って初めて微笑んだ。
その目から、涙が一筋流れた。
「あの時言った通り、色男だね」
「……なんだよ、今頃気付いたのか?俺ァ生まれてから今まで、ずうっとイイ男なんだけどなァ」
山田とスターラッシュの視線が重なり、どちらかともなく笑い出した。
「……あ、これやべッス。完全に赤い実的なアレが弾けた気がするッス」
コーヒーを入れながら、ジト目で呟いたライデンオー。
その声は、2人のどちらにも聞こえていなかった。
「――ねえ、『ムミョウ』」
「あん?」
何故か苦味が強かったコーヒーを飲んだ後。
控室から出て行こうとしたスターラッシュが、山田に声をかけた。
「それ、リングネームよね? よかったら名前、教えてくれる?……別に、マスコミになんか流さないから、さ」
「あー……」
それを聞き、山田は頭をガリガリと掻いた。
「――今日勝ったら、教えるよ。なんか、その方がさ……格好いいだろう?」
「っふふ、そうよねェ」
その答えに、スターラッシュが小さく笑った。
「それじゃ……勝ってね、ムミョウ」
「応よ」
来た時とは違って、満面の笑みを残しながら……スターラッシュは去った。
どこか浮ついた足音が遠ざかり……そして消える。
「……あのォオ、パイセン――」
「うおおおおおおお~~~~……闇討ちに来たかと思って焦ったァあ~~~~~~……」
山田が大きく息を吐き、マットレスに倒れ込んだ。
ライデンオーが目を丸くしている。
「あっぶねぇえ……反撃方法を30通りくれえ考えてたんだが、使わなくてよかったァ……マジで何話したか覚えてねぇくらい緊張した……お?今なんか言ったかライ」
「……ふへへ、なんでもねッス」
「なんだ、いつも通りしまりのねえ顔しやがって」
「マスクで見えないッスよね!? へ、ヘイトスピーチ……ヘイトスピーチッスよパイセン!!!!」
「うっわ、なにしやがるこのアホ!?試合前に怪我しちまったらどうすんだよ!?」
先程までとは違い、控室からはドタバタとどこか楽し気な音が響き渡っていた。
・・☆・・
静まり返った会場に、勇壮なBGMが流れ始める。
『長らくお待たせいたしました!これよりU-1、本選トーナメント第三試合――開始ですッ!!!』
「「「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!」」」
日本武道館が、揺れる。
これから始まる試合への、期待感によって。
『それでは、出場選手の入場ですッ!!』
会場の照明が落ち、真っ暗になった空間に……スポットライトが、2つ。
それぞれの出場ゲートを照らし出す。
『まずはこの選手ッ!!凍てつく北国からやってきた、美しきファイターッ!!』
ガウンを着た人影が、それを優雅に脱ぎ去る。
透き通るように白い肌がスポットライトに反射して、あたかも精霊のようだ。
『その美しさに反し、戦闘スタイルは凄絶にして苛烈!乱打乱撃の嵐の中、対戦相手は果たして立っていられるのかァッ!?!?』
スポットライトを浴びながら、そのウマ娘は歩く。
まるで、逢引きにでも行くような……嫣然とした笑みを浮かべて。
『『北海の狂瀾怒濤』ッ!!アトォオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!ヴァーガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!』
狂乱する観客の歓声を受け、彼女……アトヴァーガは、するりとリングへ入った。
そのまま、コーナーに背を預けて真っ直ぐ見つめている。
『敵』の、やってくる方角を。
『そしてッ!この選手ッ!!』
スポットライトが、もう1人の選手を照らし出す。
黒いマスク。
鍛え上げられた肉体と、それを包む胴着。
『今回も見せてくれるのかッ!?ジャイアントキリングを!?エキシビジョンマッチにおいて、前人未到の偉業を成し遂げた――この男ッ!!』
山田……否、『無名』が歩き出す。
背後のセコンド、ライデンオーを引き連れて。
その歩みに、一切の淀みは見られない。
『経歴、年齢、容姿不明ッ!だが我々はこれだけは知っている――流派名!!『討マ流』ッ!!!!』
無名が、リングに上がる。
その姿に、アトヴァーガが舌を出して唇を舐めた。
ライデンオーの瞳が、仇敵を見つけたかのように燃え上がった。
『USC所属ッ!!『無名』ォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!』
リング上、両者の視線がぶつかる。
アトヴァーガは、ゆっくりと右手を口元に持ち上げ――その艶めかしい指先にキス。
それを、放るように無名へと差し出した。
無名はそれを受け――普段の山田がついぞ見せることのない、獰猛な笑みを浮かべた。
口の端が持ち上がり、犬歯が露になるほどの笑み。
『威嚇』の、そして『宣戦布告』の笑みだった。
「ワタシは、スターラッシュが弱かったとは思っていナイ」
レフェリーのチェックを受けつつ、アトヴァーガが言葉を紡ぐ。
「アナタが、強かったダケ」
「そうだな、その通りだ」
無名が頷く。
「デモ――ワタシも、強イ」
「ああ、知ってる。とびっきりのいい女だってこともな」
アトヴァーガは、薄く微笑んだ。
「ヨク、言われル。あなたも、イイオトコ」
「あんまり言われたことがねえなァ」
レフェリーのチェック、終了。
すぐさま引き、リング中央にはアトヴァーガと無名が残された。
「――じゃあ、やろうか」「――ええ、愛し合いまショウ」
無名は、左手を前に出した自然体の構え。
対してアトヴァーガは、両手をだらりと下げて小刻みなステップを踏み始めた。
『さァ!!ゴングが鳴って――試合開始ですッ!!!!』
その瞬間、アトヴァーガが飛び出した。
『なんっ――!なんと速攻ォ!?』
軽やかだが、凄まじい踏み込み。
あっという間に、彼我の間合いは零に近付く。
「――ッフ!」
短い呼気に似合わない、乱打。
アトヴァーガの下げていた両腕が、しなる鞭のような軌道で続けざまに放たれた。
手打ちの乱打ではない、突進の勢いと体の『捻り』を利用した乱打である。
「――ッシ!!」
無名も、また動く。
彼の両眼が目まぐるしく動き、突き出した左腕が翻った。
パパパパ、と軽く、乾いた音が連続して響く。
両者はリング中央でほんの少し停止し――
「――っじゃらァッ!!」
無名の怒号が響き、弾かれたかのように同時に跳び下がった。
2メートルほどの距離を開け、再びの停止。
お互いにステップを刻みながら、様子見の体勢だ。
『小次郎さん、今のはッ!?』
『――アトヴァーガ選手の乱打を無名選手が左手で迎撃しつつ、間隙に右正拳を放って……離れた、のかな?スローで見ない事には、ここからではなんとも……』
『初手からそのようなハイレベルな戦いが――』
実況が驚愕する中、無名を観察するアトヴァーガの内面には、嵐が吹き荒れていた。
「(捌かれた!私の連撃が!人間に……捌かれた!)」
「(しかも僅かな隙に、ボディブローまで!掠った所が、たまらなく熱いッ!!)」
背筋を衝撃が走り抜け、つばを飲み込む。
「(それにあの目……あの目!)」
乾いた唇を、舌がなぞる。
「(私を……『敵』として見ている!敵わぬ相手ではなく、容姿が優れたウマ娘としてでもなく!倒すべき『敵』として!私を!私をっ――!!)」
熱い吐息が、漏れた。
「(――嗚呼、なんて……なんて素敵ッ!!)」
こんな場でなければ、駆け寄って行って濃厚なキスでもしたいような気持を抱えていた。
「バブーシュカ(おばあちゃん)……」
思わず、母国語が口をついて出た。
彼女の脳裏に飛来する、幼い日の記憶。
優しかった祖母の思い出。
いつか、暖炉の前で言われたあの言葉。
周囲と隔絶した実力故に、敬遠されていた彼女に……優しく語りかけてくれた言葉。
「『どこかに必ずいるハズよ、アナタと同じ場所に立つ……アナタを、アナタとして見てくれる……素敵な人が』……いたよ、ここに!!」
アトヴァーガは、生まれて初めて……『戦える』異性を得たのだ。
「Я благодарен Богу за то, что мы встретились!!!!!」
『貴方と出会えてよかった』
そう叫びながら、アトヴァーガは歓喜の中で再び足を踏み出した。
「(――おっかねえ、ああ、おっかねえや)」
無名の頬を、汗が伝う。
「(全て威力を『殺して』捌いたはずの左手に、ダメージが入ってやがる)」
じんじんと痺れる左腕を、気取られぬように解す。
「(離れ際の右正拳、躱しようの無いタイミングだったハズだ。だが、腹筋に掠らせるのが精一杯だった)」
その腹筋に触れた感触。
まるで、大型トラックのタイヤを殴りつけたようだった。
「(上方修正、上方修正だ……もっともっと、『予想値』を高く見積もる)」
アトヴァーガに、ダメージが入った様子はない。
『人間相手』なら、掠るだけでも結構なダメージを与えたはずの一撃。
それが、こうまで通用しない……
「(ああ、おっかねえ……おっかねえけど……)」
無名の口が、また弧を描く。
「(楽しい……楽しいなァ!!)」
背筋をひりつかせながら、無名もまた前へ出た。
――この世には、『対ウマ娘』を目的とした武術が数多ある。
遥か昔から、ウマ娘は人と共に歩んできた。
だが、歩む『人』が敵ならば……その傍らのウマ娘も『敵』となる。
だから、人は備える。
愛すべき隣人を、屠るための『技術』を研鑽する。
故に、この世界にはウマ娘に対する武術がある。
ある、が……
『討マ流』とそれらには、決定的な違いがある。
通常、対ウマ娘の格闘術において『過度な接近』はタブーとされている。
至近の間合いにおいて、ウマ娘と対峙することは『死』を意味するからだ。
人間がウマ娘を打倒するためには、彼我の戦闘力の差の関係もあって『手数』を必要とする。
だが、ウマ娘にとっては『一撃』で事足りる。
つまり、人間にとってリスクが高すぎるのだ。
よって、通常の格闘術において……倒せるかどうかは別として……ウマ娘に対しては間合い遠く保ち、一方的に攻撃する状況を作り出すことが良しとされている。
『討マ流』にはそれがない。
『討マ流』の間合いは――息がかかる程の、超至近距離。
『討マ流』の創設者とされている人物曰く。
『我らは命を掛金に、命を捥ぎ取る』
それが、『討マ流』である。
それが、彼らの生き様なのだ。
「――ッシィ!!」
アトヴァーガの双腕が、唸る。
しなやかな肢体から生み出される破壊力を乗せ、無数の乱打。
「お、オォオオオッ!!」
それを無名が捌く。
ひりつく心を抱えて、さらに踏み込んで。
掌で、裏拳で、腕で、肘で。
マトモに喰らえば大ダメージ必至の攻撃を、最小の威力で捌く。
そして――
「――らァッ!!」「っぎ!?」
乱打を捌いた、僅かな間隙。
アトヴァーガの正面に身を晒した無名が、体ごとぶつかるように放った、掌底。
それが、彼女の鳩尾に叩き込まれた。
だが、浅い。
強靭なアトヴァーガの腹筋を貫通し、内臓に有効打を与えられるほどの威力では、ない。
衝撃は彼女の身を揺らしたが、それだけだ。
「お、返しィ!!」
アトヴァーガの左腕が翻り、上方から無名の脳天目掛けて落ちる。
足を止めた状態での手刀といえど、ウマ娘の手刀だ。
マトモに喰らえば、意識は消失……どころか、重篤な被害をもたらすだろう。
「――ッ!!」
それを、無名は受けた。
僅かに身を捩り、頭の位置を変え……左肩で、受けた。
ごぎん、という異音。
無名の左肩から発したそれは、明確な脱臼を周囲に伝えた。
「(良し!これならっ――!?)」
そこで、アトヴァーガは気付く。
先程の掌底が、まだ鳩尾に置かれていること。
そして無名の口元が――歯を剥いて笑っていること。
無名に有効打を与えたと思い、アトヴァーガの腹筋は安堵によって弛緩していた。
「(これを、待っていた!!)」
止まっていた右掌底が、極小の空間で再加速。
緩んでいた腹筋に、めり込む。
そして――
「――破ァァッッ!!!!」
どん、と衝撃が抜けた音。
「~~~~~ッ!?!?!?」
アトヴァーガは、己の腹筋を太い杭が貫通する光景を幻視した。
そのまま、後方へ吹き飛ぶ。
否、自分で跳んだのだ。
少しでも、衝撃を殺すために。
「がっは!?ぐ!?ぅう、ぅあ、ああ!?」
無名から距離を取り、アトヴァーガが体を折る。
対する無名は……明らかに脱臼している肩をそのままに、右手を構えていた。
討マ流、貫ノ型『
それが、技の名前。
玄妙なタイミングで二度の打撃を撃ち込み、体内へ貫通する衝撃を放つ。
他流派では『ワンインチ・パンチ』または『寸勁』とも呼ばれる技の――亜種である。
「すぅう、う」
無名は、短く呼吸。
脱臼によってブラつく左腕を痛がる素振りすら見せず。
「るぅ、あッ!!!!」
荒く息をつくアトヴァーガを追って、踏み込んだのだった。
試合は、まだ始まったばかりだ。