トレセン学園警備員さんは、ウマ娘に勝ちたい。 作:秋津モトノブ
今年も不定期投稿でよろしくお願いいたします。
「初めまして、ムソウシンザン社長、そして無名選手。お体の具合はいかがですか?」
低く、重厚な声。
「『快方に向かっています。何の問題もありませんよ』」
俺は、マスクで変声された声でそう返した。
ここは、俺が入院している病院の……貸し切り談話室。
俺のマンションの部屋よりも広いそこで、テーブルを挟んで『客』と向かい合っている。
「そうですか、それは何よりです」
横にいる社長を前にしても、何の動揺もしていない……男。
身長は俺に少し足りないぐらいだが、体の厚みは俺以上だ。
贅肉ではなく、筋肉で。
「おっと、私としたことが……この度は訪問を承知してくださってありがとうございます。私はU-1執行部所属……神宮寺和夫と申します」
高そうな特注スーツを筋肉でパツパツにした50前後の男……神宮寺はそう名乗った。
執行部って言うからどんなのが来るかと思ったら……予想を超えるのが出てきやがったな。
さて、何の御用でしょうかねえ。
社長が昨日言った通り、朝飯を食ってしばらくしたら来客があると報告が来た。
朝一に来て『ウチも!ウチももう半分家族みたいなモンッスから一緒に参加するッス~!』という妄言を垂れ流していたライは、苦笑したフドウギクに引きずられて勤務へ向かって行った。
仕事しろよ後輩。
俺のこと好きすぎだろ、アイツ。
まあとにかく、そんなわけで……この談話室へやってきたのだ。
ここでの会話が表に出ることはないだろうが、用心のためにマスクを着用してな。
「これは驚いた。てっきり格闘家が来たのかと思ったよ、私は」
「まさかまさか、年齢も年齢ですからね。健康の為に鍛えているだけですよ」
……嘘つけ神宮寺サン。
じゃあその拳ダコと餃子みたいな耳はなんだよ。
少なくとも、打撃と寝技はそれなりに修めてるみてえだな……
「まあ、後輩はヒューマントーナメントに参加しまして……初戦で無名選手に敗れましたが」
なに、初戦?
ってーと……
「『【雷撃館】の……柳田選手ですか』」
「おや、一撃で倒した相手をよくご存じで」
存じ上げているよ。
いいパンチ打ってきたんで、カウンターの威力がとんでもねえことになってたかんな。
手加減のレベル、あれから下げたんだよな。
「『……私が言うのもなんですが、彼は大丈夫でしたか?』」
「体の方は、ね。ですがもう試合は出来ないでしょう」
……俺、悪くねえぞ。
「おっと、別にあなたを非難するつもりは毛頭ありませんよ。アイツは望んで試合に出たのです……たかだか一度負けただけで折れるくらいなら、もう少しわが身を顧みればよかったのでしょうが」
……あー!完全に思い出した!
アイツ、無茶苦茶性格悪そうだったな。
セコンドのライ見て『いいケツしてんね~、俺が勝ったらこっちのセコンドにつかない?』って言ってたし。
まあライはそれに『アンタの金玉潰させてくれるんなら』って言い返してたな。
アイツ、マジで身内以外にはキッツイなあ。
「天狗の鼻をへし折る拳で、心まで砕かれたということです。全く情けない……腕だけは多少マシでも、心根がアレではね……あなたがいなくても、エキシビションマッチでTKOされていたでしょう」
まあ、なあ。
トーナメントで戦った相手の中で、アイツはたしかに頭一つ抜けてた。
抜けてたが……あのパンチじゃな。
俺はともかく、スターラッシュの意識を飛ばすには『軽すぎる』
この人の言う通りだったろうよ。
「いや、脱線してしまいましたな。申し訳ない」
そうか、【雷撃館】ってことはこの人……『無双雷神流』か。
明治以前から続く、柔術の一派。
『その拳打、稲妻の如く。組めば落雷の如し』だっけか。
たしかに拳速は大したもんだったがなあ。
「ええと、今回私が来ましたのは……お知らせと、質問が1つずつありまして」
「ほう、メールでもよろしいのにわざわざ来られたと」
社長の言葉に、神宮司サンは深く頷いた。
「ええ、無名選手は今トーナメントの華とも呼ぶべき選手ですから。そのような無作法は出来ませんよ」
華……いやいや。
俺以外が華だろ、普通に考えて。
美人まみれだぞ。
「さて……まずはお知らせを。申し訳ありませんが、次戦のスケジュールが変更になりまして」
なに?変更?
「準決勝戦は11月末日だったのですが……1ヶ月遅れます」
……ってことは。
「それに伴い、決勝戦の予定日も1ヶ月遅れます。1月の最終週に」
だよなあ……
なんでだ?今までU-1といえば大晦日に決勝戦だったのに。
あ、いや待てよ。
これまでと違うことが……あるぞ!
「『まさか、反ウマ娘団体と関係が?』」
そう聞くと、神宮司サンが苦笑いして頷いた。
「ははは……それ『も』あります」
『も』ォ?
それを聞いて、社長が口を開く。
「なるほど、『ウマ娘至上主義』もですな」
あ~……そっちもか、納得。
「現在200件を超える爆破・妨害予告並びに中止勧告が届いておりまして……その対処と、選手や関係者の安全面を考慮しまして。現在警察と協力して犯人の特定と警備状況の練り直しを急ピッチで進めています」
えらいことじゃねえかよ。
そんなに人間がウマ娘と戦うことが問題かねえ。
「ふむ、こちらからも増員しましょう。それは後で会社経由で会議でしょうな」
「ええ、執行部からまたご連絡差し上げます。概算で恐縮ですが……『特別』警備員を増やしていただく方向になるかと」
ウマ娘『特別』警備員……ウチが出せる最高戦力だな。
たしか、全社員の10%くらいしかいなかったハズだ。
「加えて『騎バ隊』からも増員をお願いするでしょうな……おそらく、第一機動部隊を」
「ほう、それは……凄まじい」
社長も驚いているが、マジかよ。
第一機動部隊って言えば……やんごとなき方々とか、サミットの警備に派遣される騎バ隊の中でもエリートオブエリートだぞ。
殆どの隊員が何らかのトップアスリート出身で占められてるって噂だ。
ウチの『特別』にもオリンピック強化選手とか元全日本チャンプとかがゴロゴロいるが……それと同じかそれ以上の経歴ばっかりだ。
かなり本気だねえ……
「ウチの無名のせいだな。特に謝罪はせんが」
俺も俺も。
「ええ、ええ。全くその通り……上層部がこの件を甘く見ていたツケが回ってきただけのことですよ……エキシビションマッチの後にすぐ動いていれば、これほどの混乱はなかったでしょうに……まったく、どこの業界にも頭の固い連中は付き物ですからね」
いや、まあ。
それはどうだろうか?
自分で言うのもなんだが……人間が格闘ウマ娘相手にガチで勝ち進むって思う奴の方が少ないと思うがねえ。
「まあ、コレがお知らせです。本日中に全世界に向けて発表します」
ふむ、俺としても何も言うことはないな。
言ってもどうにもならんし。
スケジュールが少々狂うが……まあ、俺の場合は社長と相談すりゃ済む話だ。
里帰りの予定もなかったし、問題ねえ。
「そしてもう一つ、無名選手に質問がありまして……」
神宮司サンは一呼吸おき、俺と目線を合わせた。
「――どうでしょう?棄権なさるおつもりは、おありですか?」
「『……あぁ?』」
あ、やっべ!?思わず素に戻っちまった!?
だがいきなり何言いやがるんだ、この野郎!?
「……不愉快な話だな、執行部が何故選手の進退に口を出す。それは選手が、無名が、決めることだろう?」
社長から殺気にも似た反応。
横の俺だって肌がヒリつくそれを、神宮司サンは真正面から受け止めている。
「ムソウシンザン社長、私は、無名選手に聞いているのです」
へえ、大した胆力だな。
それじゃあ、俺もソレに免じて答えてやろう。
「『――無ェよ。リングの上で死んだって出るぜ、俺ァ』」
つまんねえこと、聞くんじゃねえよ。
言った後に、しばしの沈黙。
神宮司サンは……破顔した。
笑顔は威嚇……みたいな顔で。
「――ははは、素晴らしい。それでこそ、無名選手です」
ぱん、と手を打つ喜びようだ。
この人……初めからこの答えを予想してやがったな?
「『反ウマ』は論外ですが、嘆かわしいことに上層部には『ウマ娘至上主義』らしき連中がおりましてね……聞け聞けと五月蠅いものですから。絶対に棄権なぞするわけがない、と言ったのですがね……あんな連中でも上司ですからなあ、はっはっは!」
おい、ぶっちゃけ過ぎだろ神宮司サンよ。
その連中絶対嫌いだろ。
「来年度からは人間用の追加ルールを設けるので、本戦出場権も与えるのでどうか……などとね。噴飯モノでしょう?あなたなら」
「『その通りですね。フラットな立場でウマ娘と戦えないなら……それこそ棄権しますよ、私は』」
そう言うと、神宮司サンはより一層笑みを深くした。
怖ぇよ、あんたの笑顔。
ライオンも裸足で逃げ出しそうだぜ。
「いやあ、これで一応の義理は果たしました……無名選手!」
神宮司サンは立ち上がると、ずかずか歩いて俺の横まで来た。
「より一層の!健闘を!期待します!」
そして、手を差し出してくる。
「『ええ、勿論』」
俺も立ち上がり、固く握手を交わした。
かってぇ、まるで岩だ。
こりゃあ、今でも稽古漬けだなこの人。
「『私からも質問ですが……神宮寺サンは、トーナメントに参加しないのですか?』」
この手応え、体付き、重心の据わり方。
間違いなく、俺が戦った後輩なんぞ片手で殺せるぞ。
「……ここだけの話にしておいていただけますか?」
神宮司サンに、頷く。
すると、彼は少し頬を赤らめてこう言った。
「実は私、生粋の『ウマコン』でして……試合とはいえ、ウマ娘を殴れる気がしません!ははは!」
……なるほど、ね。
「なんだ、無名の大先輩じゃないか」
やめてくださいよ社長!!
・・☆・・
「神宮司、さん、へ……これで、いいですか?」
「はい!はい!どうも!どうもありがとうございます!ライスシャワーさん!!」
……これは、さっき握手をした相手と同一人物なんだろうか。
「家宝にいたします!」
「しょ、しょんな……」
神宮司サンは、ライスのサインを受け取ってはしゃいでいる。
比喩ではなく、躍り上がって喜んでいる。
握手の後、話は終わりということで……病棟の出口まで見送ることにした。
社長同伴なら病室から出てもいいって言われたからな、外の空気も吸いたいしよ。
そしたら、今日もお見舞いに来てくれたらしいライスとバッタリ。
神宮司サンは雷に打たれでもしたかのように動きを止め……ライスに深々と頭を下げ、サインをお願いしたんだ。
で、今に至る。
「いやあ、今日は実にいい日だ……無名選手にも!まさかライスシャワーさんにもお会いできるとは!!」
ライスに会えた方が百倍くらい喜んでねえか?
まあ、むさい男よりもカワイイウマ娘の方がいいってのは俺も同意するがよ。
「よ、喜んでもらえて……ライスも、嬉しいでしゅ!あうぅ……」
あ、噛んだな。
「……ライスシャワーさん、不躾ですが……レースに勝敗は付き物です。必死に走っても、いや必死に走るからこそ……必ず勝者は敗者を作り出す」
神宮司サンは姿勢を正し、マジメな顔でそう言った。
これは……例のレースのことか。
「は、はい」
ライスもそれに思い至ったのか、表情を硬くした。
「――ですが、それを恥じないでほしい。あなたの走りを批判した人間の何倍も、何百倍も……あなたの走りに魅せられた人間がいるということを知っていてほしいのです」
だがそれを聞いて、ライスは顔をほころばせた。
「はい!ライスも知ってますから、いっぱいのファンの皆さんのことも……ライスはライスでいいんだって、言ってくれた人たちのことも!」
……立派になったなあ、ライス。
ブーイングに落ち込んでた時から。
ああいかん、なんか涙腺に悪いなあ。
「それはよかった、本当に……よかった。あなたの周りには、大勢のよき人たちがいるようですね」
さっきまでの喜色満面とは違い、神宮司サンは優しく微笑んだ。
心から、嬉しそうに。
「それでは、お騒がせして失礼いたしました……無名選手、次の試合も楽しみにしていますよ」
「『どうなろうと、恥じぬ試合を心がけます』」
そう言うと、神宮司サンは嬉しそうに何度も頷いて病棟から出て行った。
いやはや、なんともキャラの濃い人だったな……まあ、善人ではあったが。
「――ハルウララさんではないですか!も、申し訳ありませんがサインをいただいても……」
「うん!いいよ~!」
……ウララもお見舞いに来てくれたのか。
「イチローの大先輩だなあ、フフン」
「『……黙秘、します』」
社長、その顔はなんだよもう……
「あの人、おじさまに似てるね。とっても優しい、あったかい人だって思うな」
……こいつめ。
「はひゃう!?にゃ、にゃんで撫でるの!?」
「『ライスがとっても優しくってあったかいから、かねぇ』」
・・☆・・
「そんでね!セイちゃんが寝たまま滑り台から……」
「マジかよ、セイウンスカイすげえなあ」
来客が帰り、いつものような時間が戻って来た。
例によって大量にあるお見舞いの消費をみんなに手伝ってもらいつつ、談笑している。
「はい、剥けたわよ」
「お、すまねえなキング。ほほ~……流石は一流、林檎の剥き方も一流ときた」
「当然よ!キングの剥いた林檎を食べる権利をあげるわ!」
病室には、ライス、ウララ……そして、キングヘイロー。
あと社長……社長、仕事は?
「でもビックリしたわ。まさか山田さんが『無名』だったなんて……このキングの目をもってしても見抜けなかったわね」
社長からの許可をもらい、病室でネタバラシをしたんだ。
しばらく目を見開いていたが……マジマジを俺を見てから納得してたな。
チケットみてえに叫ばれるかと思って身構えちまったぜ。
「まあ、仮面してるしよ。それに学園じゃそんなに話題になってねえだろU-1なんざ」
みんなレースやら勉強やらで忙しいだろうしよ。
トレセン学園って場所なら猶更だ。
「……ウララさんやライスさんっていう一部を除いて、トレセン学園でのU-1視聴率はほぼ100%よ」
ジト目になったキングが言ってきた。
「嘘だろオイ」
「やれやれ、イチローは本当に疎いな……注目しない訳がないだろうに」
メロン半玉を丸かじりしていた社長が苦笑いしている。
「人間がウマ娘に殴り合って勝ったのだ。さらにその上、本人は稀代のウマコンであると世間に公表している……話題だよ、ウマ娘の間では特にな」
「捏造公表したのは社長でしょうが……」
「おやおやぁ?イチローはウマ娘が大嫌いなのかねぇ?」
その声に、ライスが泣きそうな顔になり――
「馬鹿言うな!大好きに決まってんでしょ!!」
――満面の笑みになった。
……ちくちょう、ちくしょう……俺は一生口では女には勝てねえ。
「わたし、知ってるよ~?」
「そうだなあ、ウララ……ほれ梨食え梨、あーん」
「もむむ」
ウララにはもっと勝てねえ。
「そら、キングヘイローもしっかり食べなさい。母上が仰っていたように少しやせ気味だからな、もっと食べて体を作りたまえ……成長期なのだからな」
「え、ええ?あの、ムソウシンザン社長……母をご存じなのですか!?」
「飲み友達だな、いわゆるママ友という奴だ。先日もナリタブライアンの母とエアグルーヴの母と一緒に旧交を温めたばかりだぞ」
なんちゅうママ友連合だよ。
全員レジェンドウマ娘じゃないかよ。
「おっと、ライスシャワーの母とも知り合いだぞ?娘を心配していたから、また連絡でもしてあげなさい」
「お母様も!?は、はいぃ……!」
……社長のママ友ネットワークが恐ろしい。
「けーびいんさん、桃どーぞ!」
「お、すまねえなあ……うんま、コレ美味いな!?ウララも食え食え!絶対高い奴だコレ!!」
もう深くは考えず、果物に舌鼓を打つことにした。
・・☆・・
「なあライス、帰らなくていいのか?」
「はうう、やっぱりライスがいたら迷惑なんだね……」
「いや全然。他に用事とかねえのかなって」
「ないよ!おじさまのお見舞い以外に大事なご用なんてないよ!!」
「そ、そうか……」
社長がついでだからとウララ達を連れて帰ってからも、ライスだけが残っている。
ウララ達は練習があるらしい。
じゃあライスは……と思ったら、レースに出たので休日らしい。
入院してると日付の感覚が狂っていかんな、いかん。
「よし、暇なら介助を頼もうかな」
「は、はじめてだから心配だけど……がんばるね!ライス!!」
「何を勘違いしたか知らんがまずその尿瓶を置こうか、ライス」
真っ赤な顔で尿瓶を持つライスを止める。
ソレ未使用だからな。
「違うって、筋トレをするから時間を読み上げてほし――なんで抱き着くんだ」
「――こ、ここに来る時にお医者様に言われたの。おじさまが筋トレしようとしたら抱き着いてでも止めろって……!!」
あの医者めが……もう大丈夫だってのに!
「わかった、わかったよライス。もうやるって言わねえから……なんか力強くなってねえ?」
ぎゅうう……って感じで胴体に抱き着くライス。
「し、信用できないよっ!できないから……もうちょっと!」
「やらないって……」
「も、もうちょっと……!」
駄目だこりゃ、何言っても聞かねえな。
信用が皆無なのかね……俺。
ま、いいやここ個室だし。
天下の往来なら止めたがね……しばらくは、お姫様の好きなようにさせてやろうか。
散々心配かけたしな……次の試合でも心配かけるだろうけども。
「すまんなあ、ライス。もっと強くなるからなあ、俺」
「いいよっ!おじさまはおじさまのままで大丈夫だよっ!」
あかん、いい子過ぎて泣きそうだぜ……
トレセン学園はいい子しかいないのか、まったく。
特に困らんがねェ。
――ドンドンドン!と扉が激しくノックされた。
「はひゃああ!?」
ソレにびっくりして、ライスが俺から離れた。
な、なんだ!?
「すみません!山田一郎さんの病室はこちらでしょうか!!」
声でっか!?
ここ病院だぞ!?
……あれ、なんかこの声聞いたことがある気が……
「あ、ああそうだ、入っていいぞ」
「失礼!します!!」
言うや否や、扉は激しく横スライド。
「クラスを代表して!学級委員長である私がお見舞いに参りました!!」
入ってきたのは……長い髪をポニーテールにまとめた、見覚えのあるウマ娘。
「サクラバクシンオー!です!!」
……バクシンバクシン賑やかなあの子か。
そうか、学級委員長なのか……
「おや?ライスさんではないですか!学級委員長である私に先んじてお見舞いとは……やりますね!」
「え、あ、う、うん……」
サクラバクシンオーはそう言うと、手に持ったクソデカ果物詰め合わせをベッド脇に置いた。
また増えた……
「お見舞いがとても多いです!慕われている山田さんですから当然でしょうが!」
「トレセン学園はいい人ばっかりだからな。一介の警備員としちゃ、嬉しい限りだぜ」
そう言うと、サクラバクシンオーは腰に手を当てた。
「なにを仰いますやら!山田さんは皆さんに大評判ですよ!」
「おいおい、まさか」
ヨイショまでできる委員長かよ。
頭が下がるねえ。
「……痛いんだが、ライス」
「……おじさまがニブニブだからお仕置きだよ」
そんな車のエンジンかけるみてえに抓らないでくれよ……ウマパワーすげえな。
「そうですよ!いつでも皆さんに優しくされていますし、中等部の方々をよく肩車していらっしゃいますし……!!」
サクラバクシンオーまで加わって俺を褒めだした、その時。
「――やはりバクシンオーでしたか」
空いたままだった扉を潜って、新たな来客。
「元気なのは大変結構。結構ですが……ここが病院だということを忘れていませんか?」
高そうなスーツをビシッと着こなした、長身のウマ娘。
今でも重賞の一つくらい楽に取れそうな、引き締まった体。
そして、動きやすそうにまとめた艶やかな鹿毛のロングヘア。
とても、よく知っているレジェンドウマ娘だった。
「ちょわっ……!?」
サクラバクシンオーが目を白黒させている。
ああ、やっぱり知り合いだったか。
「サクラの一員として、恥ずかしくない行動をなさい」
「は、はい!ショウリねえさま!」
師匠の奥さんである、トーワターフさんと同年代のウマ娘。
数々の名レースを駆け抜け、今もレース関係の仕事をこなしているらしい旧知の人物。
「よかった、元気そうですね一郎。お見舞いに来るのが遅れてごめんなさいね」
「いや、仕事忙しいんだろ。むしろ無理しなくてもいいって」
そのウマ娘は、手に持った……バカデカ果物盛り合わせを棚に置いて眉を少し上げた。
「馬鹿を言いなさい。姉が弟の見舞いに来なくて、誰が来ると言うのですか」
「血は繋がってねえけどな」
昔から、俺を弟扱いしてくる人。
【サクラの斬り込み隊長】という物騒なあだ名がある――サクラショウリこと、ショウリねえさんがそこにいた。
【サクラバクシンオーのヒミツ】
・実は、病院内はちゃんと歩いてきた。