トレセン学園警備員さんは、ウマ娘に勝ちたい。   作:秋津モトノブ

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55話 おおっぴらに稽古ができるって、最高だなあ。

「ヤマダサ~ン!」

 

 走り込んできたタイキが、目を輝かせて飛び込んでくる。

 

「ドーン!デース!!」

 

「よっと――ぬんっ!」

 

 走り込んだ勢いのまま、ハグしてくるタイキ。

今日は趣向を変えて……横回転だ!

しばらくグルグル回してから止めると、彼女は目を細めて笑っている。

 

「ワーオ! こっちも好きデース! パワフルデース!!」

 

「あらあら~。よかったわねタイキちゃん」

 

 後ろから歩いてくるのは、崇城トレーナーだ。

相変わらずばんバ並にでかい。

 

「トレーニング終わりですか?」

 

「そうなんです~。今日もタイキちゃんは最高の仕上がりですよ~」

 

 確かに、ちょいと汗ばんだ感じがする。

 

「随分上りが早いですね、まだ15時ですけど」

 

「この後定期会議があるんですよ~。だから、今日は早めで~す」

 

 ああ、成程。

 

「ヤマダサンも、お仕事フィニッシュですカ~?」

 

 抱き着いたままのタイキが聞いてきた。

今更だが高等部でこの距離感はいいのか。

今更だが。

 

「おう、おそろいだなあタイキ」

 

「オソロデース!」

 

 そんな俺たちを、崇城トレーナーは微笑ましく見つめている。

 

「仲がよくって羨ましいわ~……あ、もうこんな時間! タイキちゃん、また明日ね~!」

 

「ハーイ! また明日デース!」

 

 思ったよりも時間が押しているのか、崇城トレーナーは足早に去って行った。

会議か……USCの会議よりも難しい議題とか出るんだろうなあ。

こっちは警備に関することばっかだし。

 

「タイキはこの後どうすんだ?」

 

「シャワーの後、ドーベルとお出かけデース!」

 

 ドーベル……メジロドーベルか、たしか同室だって言ってたな。

何度か話したことがあるが、どうにも……距離を感じる娘だった。

距離感0のタイキと比べるとわかりやすい。

 

「そっかそっか、そんじゃあ楽しんできな」

 

「ハーイ!……オゥ」

 

 くるる、とカワイイ腹の音。

ほぼ密着してるからよくわかる。

 

「頑張ったんだなァ……っと」

 

 体を離し、ポシェットを探る。

ええっと……あったあった。

 

「ほい、ご褒美のドライフルーツ。今日はパイナップルだ」

 

「ワオ!魔法のポシェットデース! ありがとうございマース!」

 

 タイキはそれを受け取り、すぐに頬ばった。

 

「それ食って元気に行って来な、タイキ」

 

「むぐむ……ヤミ―ッ! とってもおいしいデース!」

 

 こんなに美味そうに食ってくれれば、作った甲斐があったってもんだ。

その頭を思わず撫でる。

 

「じゃあな、タイキ」

 

「ンフフ、ハーイ!」

 

 何故か俺の胸に頬を擦り付け、タイキが身を翻して走り出した。

うんうん、元気で結構っと……お。

スマホに通知……タキオンからだ。

 

『練習場は押さえた。いつでも来てくれたまえ。できれば美味しいものと一緒に』

 

「アイツまだ腹減らしてんのか……まったく」

 

 一旦詰所に戻ってから行くか。

 

「あーっ! けーびいんさーん!」

 

 おや、この声は……そうだな、ウララだな。

アイツも練習終わりらしく、キングと一緒にいる。

福久トレーナーは……いねえな。

 

「おう、おつかれウララ。練習頑張ったか?」

 

「どーん! えへへ、がんばったよ~?」

 

 腰にぶつかってきたきたウララは、俺を見上げて笑っている。

 

「そうかァ。ほれ、あーん」

 

 今度はバナナだ。

コイツも結構な自信作。

 

「あむ……むぐぐ、おいしーっ!」 

 

 目を輝かせるウララの後ろから、キングが歩いてきた。

 

「キングもお疲れ。ドライフルーツをやろう、疲労に効くぞ」

 

「いつもありがとう、山田さん。んん……あら、本当に美味しい」

 

 上品に齧るキング。

気品すら感じるぜ……この学園には結構こういう感じの子、多いけどな。

 

「けーびいんさんも、お仕事おしまい?」

 

「おう、終わりだ。この後は室内練習場に行って運動するぜ、お稽古だな、お稽古」

 

 タキオン様様だな。

 

「そーなんだ! ねえねえ、わたしも行っていーい?」

 

「お? いやまあ……別にいいが。ウララは用事ねえのかよ?」

 

 この子は俺の正体知ってるから問題はない。

 

「あの、それなら私も行ってみたいんだけど……いいかしら?」

 

「キングまで? なんだァ? 格闘に興味が出てきたのか?」

 

 俺の稽古が見たいなんて……変な趣味だな?

 

「一流になるためには、一流のアスリートの練習風景を見るのも重要だと思ってね!」

 

「なんていう上昇志向……お前さんは既に一流だよ」

 

 俺が一流のアスリートかどうかは別問題だが。

 

「まあいいが……それじゃ、1時間後に現地集合でいいか? 俺も準備があるしよ」

 

「わかった! キングちゃん、シャワーいこ、シャワー!」

 

「はいはい、そんなに引っ張らなくても行くわよ、ふふふ」

 

 ウララがキングの手を引き、足早に去っていく。

 

 なんだかあの2人、同年代なのに年齢差があるように感じるなァ。

キング、面倒見がいいのに中等部なんだよなあ。

ま、いいか。

仲良きことは美しき哉……ってやつだ。

 

 

・・☆・・

 

 

「よく来たねえ山田くん! 美味しいものは持ってきたかい!?」

 

「あいよ、世話になるぜ。美味しいかどうかは知らんが……ほい、山田式煎餅詰め合わせだ」

 

 クソデカバスケットをデンと置く。

 

「大きいねえ!?とっても大きいねえ!? 私はオグリくんではないのだが!?」

 

「ウマ娘4人なら丁度いいんじゃねえのか?」

 

 トレセン学園校舎内、室内練習場。

掃除の行き届いた室内には、トレーニング器具が置かれている。

 

「いいにおーい! けーんびいんさん、おせんべいなんて作れたんだね~?」

 

「本当に器用ね、山田さんは」

 

 ここには、合流したウララとキング、そして俺を待ち構えていたタキオン。

 

「日本茶の方がよかったでしょうか……?」

 

 煎餅の山を興味深そうに見つめる、カフェがいる。

今回もお目付け役的な感じでいてくれるのか、悪いねえ。

 

「ま、好きに食ってくれよ……それで、もう始めていいのかタキオン」

 

「もひゃひゃ、もも、むぐぐ、めっむめむ(夕方まで予約しているからいつでも大丈夫だねえ)」

 

 ハムスターみたいになってやがる。

そんなに腹減ってたのかよ。

 

「大丈夫なようですよ、たぶん」

 

 カフェがそう言うなら大丈夫だろうな。

うっし、やるか。

 

 着ていたジャージの上着を脱ぐ。

1人の稽古なら下も脱いでインナーだけになるが、うら若き娘たちがいるから今回はここまでだ。

 

「ふわーっ! けーびいんさん、やっぱりすっごい筋肉! バキバキだ~!」

 

「鍛えてるからなァ。当然、当然」

 

 長袖のインナーだから傷跡は見えないが、体にフィットするからボディラインが出ちまう。

ウララは目を輝かせて見入ってるな……サラブレッドウマ娘はあんまり表に筋肉出んからな、珍しいんだろ。

海水浴の時にも驚いてたなあ。

 

「あ、相変わらず岩みたいな体ね……それで、最初は何をするの?」

 

 若干顔を赤くしたキングが聞く。

 

「もちろん、柔軟だ。こいつはどんなスポーツでも重要なことだからな」

 

 時間をかけ、筋肉と筋、それに神経をほぐす。

ぶっちゃけやらなくても動けるが、やるとやらんのでは雲泥の差がある。

稽古中に靭帯断裂とか、肉離れとか……そういうリスクは避けたい。

特に俺の場合、『出力』が人間以上だからな。

 

 全身を弛緩させ、何度か軽く跳ぶ。

そうしてから肩をほぐし、上半身から柔軟だ。

 

「わわわ、そんなに首曲げていたくないの~?」

 

「ん、まあ慣れだ慣れ。ウララ達はそこまで重要じゃないが、俺の場合はこれも大事なんだよ」

 

 首は受け身の要の一つだからな。

ここが硬いと、もしもの時に大事故になっちまう。

プロレスラーだって首はバンバンに鍛える箇所だしな。

 

 さて、上半身は完了。

足首を回した後、床に腰を下ろす。

 

「山田さんの討マ流は、とっても古い流派? なんですってね。それなのに近代的な柔軟体操も取り入れてるのね……」

 

「使えるものはなんでも使う、そうやって色々パクってきたらしいからなウチは」

 

 師匠の受け売りだがね。

タックルから寝技に持ちこむやり方とかは、明らかに他流派の痕跡があるし。

 

「すっごいすっごい! おすもうさんみたい!」

 

 脚を限界まで開き、体を前に倒す。

俗に言う『股割り』だ。

中学の頃、入門したての時はこればっかりやらされたなあ……辛い記憶だ。

 

「ここまでやれとは言わんが、お前らもこのストレッチは大事だからな。まあ、釈迦に説法ってやつだろうが……」

 

「それはわかっているが、キミの巨体でそうも柔らかく動かれると驚くねえ」

 

 ふう……これでよし、と。

体がじんわりあったまってきやがった。

最後にアキレス腱を伸ばして……終了っと。

 

「タキオン、この練習場は外から見れねえんだよな?」

 

「ああ、時間が来るまでは原則封鎖されているよ。ウマ娘でも外に見せたくない訓練をすることがあるからねえ」

 

 それならいいか。

じゃ、久しぶりに『アレ』が使えそうだな。

 

 クソデカバスケットと一緒に持ってきたバカデカリュックサックを持って来る。

大っぴらにこれが使える日が来るとはなあ……

 

「けーびんさん、それなーに?」

 

「見た感じ、かなり重そうだけれど」

 

 どず、と地面に置いたリュックを見てキングが眉を顰める。

 

「ウエイトトレーニングみてえなもんだ。キングもやるだろ……っと」

 

 中の物を出していくと、ウララ以外のメンバーは『マジか』みたいな顔になった。

 

「これはウチの流派で『試し甲冑』って言われてる……まあ、年季の入ったウェイトだよ」

 

 それは、黒く塗られた金属製の甲冑一式だ。

まとめて持ち運びやすいように、一切の装飾を排除してある。

 

「タキオンがここを使わせてくれるからなあ、大手を振って使えるぜ」

 

「まるで戦国時代だねえ……」

 

「けーびいんさん、わたしも手伝うよ~!」

 

「おお、すまねえなウララ。それなら胴の後ろにある紐を結んでくれ。後は俺でもできるから」

 

 そこだけは微妙に難しいからな。

 

 

「壮観だねえ。このまま時代劇に出れそうだねえ……」

 

 全身に鎧を着込んだ俺を見て、タキオンが呆れている。

久しぶりに全身着込んだが、まあまあ重いな。

 

「まあ、矢とかは通さねえだろうがな。よし、これでコイツを装着すれば……っと」

 

 露出している靴部分に、着脱可能になっている蹄鉄をガチャリ……コレで完成だ!

 

「すごーい!かっこいいね、とっても!」

 

 ウララがぴょんぴょん飛び跳ねている後ろで、キングが何かに気付いた。

 

「ちょっと待って山田さん。今足に付けたのって蹄鉄?」

 

「たしかに、かなり大きいですが私達が使うものに似ていますね……」

 

 カフェも興味津々だ。

 

「ばんえい用の蹄鉄……ではないねえ。何故か見覚えがあるような気がするねえ……」

 

「お、タキオンは目敏いな。お前らの大先輩にしてレジェンドが使用していた……『シンザン鉄』ってやつだよ」

 

 やっぱりこれ装着してレースしてたあのお方はバケモンだと思う。

 

「シンザン鉄……!これが噂の……!」

 

「たまげたねえ、こんなもの付けてたら足が千切れるねえ」

 

 さて、このまま立ちっぱなしってわけにもいかんな。

体が冷えちまう。

 

「ウララ、あぶねえから離れてろよ」

 

「はーいっ!」

 

 元気よく返事して、ウララがキングと並ぶ。

よし、あれだけ離れてりゃあ大丈夫か。

 

「こぉおお……」

 

 緩く息を吐き、両手を腰だめに。

まずは、掌の型稽古からかな。

 

「――破ッ!!」

 

 踏み込み、右の掌底を放つ。

ぐ、重いせいか弾道がブレたな。

病み上がりってのもあるだろうが……修正しねえと!

 

「――鋭ッ!!」

  

 反対側も放つ……ふん、体幹がちょいとブレてやがんな。

このまま連打の型で修正しちまおう!

 

 再び腰に両手を引き寄せ――連打!

 

「――っし!!」

 

 左右のコンビネーション。

敵の放つ拳を右掌で逸らし、空いた脇の下を左掌の側面で打ち抜く。

貫通した衝撃で相手の体を崩し――手元に引いた右手を曲げて、肘で鳩尾を撃ち抜く!

 

「――じゃっ!!」

 

 後方に翻り、残心。

構えは解かず、敵の反撃に備え……ゆっくりと息を吐く。

よし、次だ。

 

「――おおおッ!!」

 

 『朧』で踏み込み、右の下段蹴り。

足の甲で敵の足を払う。

右足の動きを止めずに、一回転の軌道へ。

同時に軸足の膝を折り、低く、低く……独楽のように回る。

 

「――しぃいあッ!!」

 

 ぼ、と。

一回転でさらに加速した右足が、再び虚空を薙ぐ。

 

 討マ流、打の型『雷迅独楽』

一撃目で足を払い、二撃目で落ちてきた体を砕く技だ。

U-1で使えるかはわからんが、問題なく動けるな。

 

「ふぅうう……」

 

 立ち上がりながら息を整える。

よし、よしよし……怪我の後遺症はねえ。

それどころか、技の冴えが増している気がしやがる。

こいつはいいねえ、いいねえ!

 

 設置されているサンドバッグまで歩く。

さて……肩慣らしは終わり、こっからが本番だァ!!

 

「るぅうぅ……」

 

 呼吸を練りつつ、精神を統一。

引き絞った両腕に力を込める。

 

 そのまま、踏み込んで――右掌!

 

「あぁっ!!」

 

 螺旋の軌道で打ち込まれた衝撃が、サンドバッグを大きく揺らす。

 

「こぉおお――」

 

 そして、戻ってくるサンドバッグに――二撃目を入れる。

右掌は相手の首元、左掌は心臓の位置!

 

「――破ァッ!!」

 

 同時に響く轟音。

サンドバッグが、奇妙な軌道を描いて揺れる。

 

 討マ流、打の型『双雷・拝』

急所を同時に貫く技――からのォ!!

 

「っふ!」

 

 サンドバッグが再び戻るまでに、体を回しつつ、跳ぶ!

 

「――しゃあッ!!」

 

 敵に背面を見せつつ、回転の勢いを乗せた後ろ回し蹴りで――踵を、叩き込む!!

どず、と鈍い音が響いて――踵を起点にしてサンドバッグが吹き飛ぶ。

 

 討マ流、打の型『風塵脚』

フドウギク戦でもこいつには世話になったなあ。

 

「……ありゃ」

 

 翻ったサンドバッグが連結されている金具が弾けた。

そのまま、サンドバッグは慣性の法則に従って――練習場の壁に激突。

ずるずると、地面に落下した。

 

「……老朽化かァ」

 

「なわけないねえ!?」

 

 うおっビックリした。

タキオン、いつの間に後ろに?

 

「なんっだい!?なんなんだい今の一連の動きは!? 実はその鎧ってとっても軽いのかい?!」

 

「ええと……たしか蹄鉄ヌキで30キロくらいか、まあそんなに重くないかな」

 

「重いねえ!とってもとっても重いねえ!?」

 

 ……そうかあ?

体にフィットしてるからそれほどでもねえんだがなあ。

 

「……続けてもいいか? せっかくの機会だからもうちょいやっておきたい」

 

「す、好きにしたまえよ……今まで興味もなかったが、格闘ウマ娘界隈は化け物揃いだねえ……とっても怖いねえ……この化け物でも接戦なのだから……」

 

 化け物とはよく言うじゃねえか。

だがまあ、どこも痛めてねえし……続けるか。

なんか、ウララ以外みんな目がまん丸だが。

 

 

・・☆・・

 

 

「ふうう……いい汗かいたァ」

 

「すっごい汗! けーびいんさん、これどうぞ~!」

 

 小一時間稽古を続けて、止まる。

兜を脱ぐと、ボタボタと汗が地面に落ちた。

 

 それを見て、ウララがタオルとドリンクを持ってきてくれた。

 

「おう、サンキュな」

 

「すっごいね~! アクション映画みたいだったよ~!」

 

 興奮したのか、俺にタオルを渡して飛び跳ねるウララ。

へへ、ちいと恥ずかしいやな。

 

「あの……山田さん、大丈夫? 物凄い汗だけど」

 

「いや別に? U-1のラウンドに比べたら全然だな。稽古じゃ攻撃されねえし」

 

 キングは心配そうだが……こんなもんいつも通りだぜ。

まあ、今日は鎧の分だけ重いがな。

 

「興味深いを通り越して驚愕だねえ……人間でもここまでウマ娘に肉薄できる動きができるとはねえ……」

 

「山田さんが規格外なのでしょうけど、こうして目の前で見ると本当に驚きます……」

 

 なんか俺よりも疲れてねえか、タキオン?

カフェはいつも通りだが。

 

「けーびいんさん、おけいこは終わり?」

 

「ン、どうすっかな……そうだ!」

 

 せっかくこれだけウマ娘がいるんだから、アレもやるか!

 

「なあお前ら、今から鎧を脱ぐんで……目隠しした俺によ、四方八方から鉄球投げてくれ! お前らならとんでもねえ速度でできんだろ?」

 

 前にオグリ達に頼んだ時は無茶苦茶いい稽古になったからなあ!

 

「ええ~! ぜったいやだ!」「お断りだねえ!」「ちょ、ちょっとそれは……」「『お友達』もやめろと言っています……」

 

 ……なんで断るんだよ。

 

 

 結局、どれだけ頼んでも駄目だった。

むう……今度ブライアンに頼むかな。




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