トレセン学園警備員さんは、ウマ娘に勝ちたい。   作:秋津モトノブ

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56話 名門メジロのかわいこちゃんたちと、来校者。

「ふっ……ふっ……!」

 

 ぎしり、と器具が軋む。

よし……これで……ノルマ、終わり!

 

「ふぃい……」

 

 足を定位置に戻し、一息入れる。

いやあ……流石は天下のトレセン学園、トレーニング器具も揃ってていいなあ!

 

「山田さん!お疲れ様です!」

 

 寝ころんで足を上げる器具……レッグプレスを終えた俺に、声と一緒に差し出されるスポーツドリンク。

 

「おお、悪いな」

 

「いえいえ! あたしの保持も手伝ってもらいましたから!」

 

 礼に答えてニッコリと笑うウマ娘。

ショートに切り揃えた髪に、一筋の流星。

そして、トレーニングウェア越しにでもわかる、鍛えられた体。

 

「それにしても……これを上げられるなんて、本当に凄いですね山田さん!」

 

 キラキラと目を輝かせ、俺を褒めるのは……名門メジロ家のウマ娘。

メジロライアンだ。

メジロのウマ娘の中では、マックイーンと同じくらいよく話すな。

筋トレ仲間だ。

 

「USCの同僚ならもっと重くしてやってるからな、そんなに凄くねえよ」

 

「なんでばんえいウマ娘と同列なんですか……あはは!」

 

 どっこいしょ、と。

椅子に座って、ライアンに貰ったドリンクを飲む……なんだこりゃ。

『スパークリング飼い葉味』ィ……?

青臭ェ……だが、ライも同じようなのを美味そうに飲んでたからな。

ウマ娘には美味いんだろうし、貰ったもんを残すわけにはいかん。

 

 ここは、トレセン学園内にあるジム。

15時で勤務を終了した時は、許可を取ってここで夕方まで汗を流すのが日課だ。

ウマ娘以外にも、トレーナー連中もよく使ってるしな。

今日はタキオンが予定があるので、いつもの練習場は使えないが……ここでも十分だ。

 

「ライアンは、今日はずっとここなのか?」

 

「はい! トレーナーが出張なので!」

 

 ライアンとは、ここでちょくちょく会うのですぐに仲良くなった。

コイツ、結構人懐っこいし……バリバリトレーニングしてる男は珍しいらしい。

 

「そっか……ホイ、ドリンクのお返しだ。アイスニンジン、蜂蜜がけな」

 

「わーっ! ありがとうございます……むぐぐ、おいひぃ~!」

 

 ウマ娘にはレモンの蜂蜜がけよりも受けがいいな、コレ。

俺はどっちも好きだがよ。

コイツもいい顔で飯食うなあ……この学園、そんな娘ばっかりだからな~……無限に飯を食わせたくなる!

 

「山田さん、あたし専属のご飯トレーナーになって欲しいですよお!」

 

「はっは、嬉しいお誘いだなあ」

 

 メジロ専属か……給料よさそう。

まあ、今の給料に何の不満もないし、転職する気はねえが。

 

「でも、いつ見てもいいなあ~、山田さんの筋肉……あたしもばんえいの人くらい筋肉つけたいなあ~……」

 

「種族が違うから無理だろ。ライアンはそのままでも十分だと思うがなァ」

 

 どれだけでかくなりてえんだよ。

 

「あら、ライアンに……山田さん。ごきげんよう」

 

 お、新顔の……マックイーン!

 

「おう、珍しいな、ここに来るなんて……ちょっと待ってろマシン掃除すっから」

 

「まずはトレッドミルからやりますので、お構いなく……相変わらずとんでもない負荷ですね。山田さんは規格外ですわ」

 

 ジャージ姿で現れたマックイーンは、優雅に会釈してマシンへ向かおうとして……ライアンの食ってるアイスニンジンを目にして動きを止めた。

こいつ……正直すぎる。

 

「ライアン……まさかそれは、山田さんの手作りですの!?」

 

「むぐ、そうだよマックイーン。アイスニンジンの蜂蜜がけ! 甘くて美味しいよ!」

 

「そ、そそそそうですの……! む、むぐぐ……!!」

 

 あ、この反応は……そうか、こいつ……また体重問題が持ち上がったな。

マックイーン、スイーツが大好きだけど太りやすいんだよな……ライが言ってた。

勿論、この場でソレを指摘はしない。

男山田、セクハラには気を遣う。

 

「マックイーン、スマンがソレはライアン用だ」

 

「そ、そうですのね……」

 

 そう言うと、マックイーンはこの世の終わりのような顔をして項垂れた。

まったく、俺の前でそんな顔しやがって……!

舐めるなよ、俺を!

 

「ので、マックイーンにはコレをやろう……試作品だ」

 

 そう言って、クーラーボックスからあるモノを取り出す。

 

「ま、まあ!そ、それは……チョコレートケーキですか!? なんと美しい……で、ですが!ですが駄目!駄目ですわ!!」

 

 やっぱり減量に来たんだな、コイツ。

 

「おっと、これはおからとココアパウダーで作ったケーキだ。低カロリー!高たんぱく!そして腹持ちもいい!!」

 

「や、ややや山田さん! それは本当ですのッ!?」

 

 無茶苦茶食いついてきた。

お嬢様がしちゃいけねえ顔してやがる……

 

「俺が大事な大事なウマ娘に変なモノ食わせるわきゃねえだろ! 不安ならメジロの栄養士に聞いてみな!」

 

「や、山田さんって本当にあたしたちのこと好きですよね……あはは」

 

 何を当たり前のことを言いやがる、ライアン。

 

「はっは、何を今更。俺はお前らみんなが大好きだよ」

 

「ま、真正面から言いましたわ……」「しょ、正直すぎる……反応に困るよぉ……」

 

 どうしたメジロの2人、急に小声で。

 

「と、いうわけで……トレーナーにこのレシピを見せて許可を貰ったら食え。もちろん、しっかり運動してからだがな」

 

「っは!はい!早速連絡を取りますわ~!!」

 

 マックイーンはスマホを取り出し、猛然とタップを開始。

しばし後……大きくガッツポーズをした。

どうやら許可が出たらしい。

 

「やりましたわ~!! あ、山田さん、トレーナーからご連絡が行っているハズですわ」

 

「お?」

 

 スマホが振動。

ウマインを立ち上げると……『立山トレーナー』の表示。

なになに……

 

『ウマコンに感謝。だが手を出したら殺す』

 

「中等部相手に何言ってんだ立山サンは……」

 

 この立山トレーナー、マジメで性格もよく、そして美人。

なのだが……何故か俺がメジロのウマ娘に手を出すと思い込んでいる困った人だ。

それだけ担当ウマ娘への愛が深いんだろうが……困りもんだな。

ちなみに、ライアンのトレーナーも兼任している。

 

『出しませんよ。子供だし、なにより学生でしょ』

 

『なんだと。ウチのマックイーンに魅力がないと言うのか』

 

『メジロの子たちはみんな魅力的ですよ。大ファンですってば』

 

『やはり手を出す気だな。覚悟していろ……』

 

 ……なんか、ライスのトレーナーさんと似たものを感じる。

あの人ほど突き抜けてはいないがな。

 

「……お許しも出たようだし、ノルマこなしたら食っていいぞ。ココア豆乳もオマケしといてやる」

 

「ねーマックイーン! やっぱり山田さんに専属料理人になってもらおうよ!」

 

「至れり尽くせりですわ~! おばあさまに掛け合いますわ~!」

 

「やめろやめろ!飯ならいくらでも食わせるから俺をUSCから引き抜くんじゃない!」

 

 社長とメジロの重鎮が大喧嘩したらどうする!!

 

「それではやりますわよ~! スイーツがわたくしを待っていますわ~!!」

 

 俺の抗議をガン無視し、マックイーンは器具に走って行った。

……欲望に忠実すぎるが、まあ……いいか。

 

「山田さんっていつでも美味しいもの持ってますよね! 他にはなにがあるんですか?」

 

「いつもってわけじゃねえよ。この学園にゃそれほどいねえが、ホッカイドウトレセンはよく腹ヘリで半泣きになってる生徒が多かったんでな……ええと、他か」

 

 クーラーボックスには……

 

「果実100%シャーベットと、低糖質バニラアイス、冷やしレモンニンジンと……イチゴ大福かな」

 

「わーっ! すごいすごい! もうお菓子屋さんですよ、それ!」

 

 興奮するライアンの見事な腹筋が、くぅ……と音を立てた。

 

「あ、あわわ、そ、その……聞こえちゃい、ました?」

 

「さてさて、なんのことやら……だがライアン? 何が欲しい?」

 

 この子はスイーツで体重爆増はしないからな、なんでもやれる。

今まさに猛然と器具に取り掛かっているマックイーンには聞こえてないようだし。

 

「え、ええと……その、イチゴ大福……」

 

「ほいよ、ちなみにあんこは低カロリーなモノを使用しているからそんなに重くねえぞ。甘さは控えめだが、イチゴが甘くていいものだから問題ない」

 

 1個くらいなら後でマックイーンにやろうか。

 

「わぁ~……! い、いいんですか?」

 

「いいに決まってんだろ。食え食え、そしてレースでバンバン勝て、勝ちまくれ」

 

 ライアンの可愛い手のひらに、イチゴ大福を乗せてやる。

はは、こんなもんで笑顔になるんだ……いくらでも食わせてやるさ。

……減量中のウマ娘以外にな!

 

「はむ……おいひぃ~!」

 

 この顔だけで、代金には十分さ!

 

 

・・☆・・

 

 

 ライアンたちと別れ、シャワーを浴びて校門へ向かう。

いやあ……マックイーンも美味そうに食うから、思わず追加をあげそうになってしまった。

立山サンに殺されると困るので、イチゴ大福を1つだけにしておいたが。

 

「晩飯はどうすっかな~……」

 

 久しぶりにラーメンでも食いに行くかな。

ウララたちと行ってからご無沙汰だし、近所で美味い店を探すかねえ。

ライとかフドウギクを誘ってもいいが……アイツらは夜勤だからな、またの機会にしておこう。

 

「……む」

 

 校門の向こうに、人影。

ロングコートを羽織った、長身がいる。

一瞬マ骸流のアイツかと思ったが……違う。

あれは、ウマ娘だ。

だって帽子から耳が飛び出してるし。

背が高いなあ……俺と同じくらいか。

そして、引き締まっているが隠しきれない筋肉量……おそらく、格闘ウマ娘。

 

「『――すまない、職員の方だろうか。アポは取っているのだが』」

 

 近付いていくと、彼女は俺に話しかけてきた。

やっべ、外人さんだ。

英語はからっきしなんだよなあ……他の言語もからっきしなんだがね。

 

「あ~、じゃすもーめん、ぷりーず! すてい、ひあー!」

 

 とにかく、英語ができる人を探して連れてこよう。

勤務は終了しているが、さすがにこの人を放置していくのは……

 

「『アポイント、ですか。少々お待ちを、今この方に通訳してお伝えしますわ』」

 

 と、俺の後ろから声。

振り向くと……流暢な英語を話すマックイーンがいた。

おお……流石は名門メジロ家、英会話もバッチリか!

 

「山田さん、先程はどうも。こちらのお方は、アポイントを取っているとおっしゃっていますわ」

 

「ありがてえ、助かるぜマックちゃん! アポね……わかった、誰との約束か聞いてもらえるか?」

 

 おや、マックイーンの後ろにライアンもいる。

一緒に帰る途中だったか、仲がいいねえ。

 

「『どなたとのアポイントメントですの?』」

 

「『こちらに入っている警備会社の代表とだ。6時から面談をすることになっている』」

 

 頼もしい、頼もしいぜマックちゃん!

 

 言葉が通じて安心したのか、その人はこちらへ歩き出した。

……正中線にブレが極端に少ないし、姿勢もいい。

これは、やっぱり格闘ウマ娘だな。

それも、かなりの手練れだ。

 

「あの、USCの詰所に行きたいそうですわ。社長さんと話す予定があるとか」

 

「マジか、ウチの客ね。了解……詰所まで行けばなんとかなるか」

 

 ありゃ、てっきり理事長あたりかと思ってたんだが……

ってことは、社長もこっちに来るってことか……フットワーク軽いね、あの人も。

 

「えっ……えぇっ!?」

 

 客人の顔を見たライアンが驚いた。

お、知り合いか?

 

「わ、わあっ……!大ファンです、あたし!」

 

 ライアンがニコニコしながら寄って行く。

大ファン……この人、そんなに有名なの……か……

 

「『あのっ! ビリオンクロック選手ですよね!? あたし、メジロライアンって言います! 握手してもらってもいいですか!!』」

 

「『これは驚いた。キミのような若い子でも私を知っているとはね……ふふ、構わんよ、レディ』」

 

 喜色満面のライアンに、笑いながら手を差し出している格闘ウマ娘。

間違いない……今ライアンが言ってた名前も聞き取れた!

 

 この人は……いつだかライと話してた時に話題に上った有名格闘ウマ娘!

『反ウマ』のカスに脅されて半殺しにして……引退しちまった。あのファイター!

俺が今度戦う、スターラッシュの師匠でもある……ビリオンクロックだ!

 

「わーっ! 感激、感激だ~!」

 

 ライアンは飛び跳ねて喜んでいる。

ウララを思い出すな……

 

「ビリオン、クロック……どこかでお聞きしましたが、有名なお方ですの?」

 

「有名も有名だよマックイーン! とっても強い格闘ウマ娘なんだから! U-1とか、カタストロフとか、バトルアラウンドでも大活躍してたんだよ!」

 

 格闘技イベントに詳しいな、ライアン。

スポーツ全般が好きだとは言ってたが……格闘技にも造詣が深いとはなあ。

 

「『キミは、ここの警備員かね? 随分と練り上げた体をしているが……』」

 

 ビリオンクロックがこちらへ向き直る。

そして、足の先から頭まで視線がゆっくり移動して……顔に焦点が合った。

赤毛のショートヘアから覗く、切れ長の綺麗な瞳と。

 

 

……やべ、なんか嫌な予感がする。

 

「『……ほう、まさかキミは――』」

 

 ――刹那、叩き付けるように放出される殺気。

 

「――ッ!!」

 

 SP隊長よりも濃厚で、唐突!

それを受け流せなかった俺は、半ば無意識で後方へ跳躍。

数度のステップで推定射程距離を抜けつつ、手の内に金属製のボールペンを握り込んだ。

 

「ふわ~! 今の見た、マックイーン! 山田さんがバシュ~って!」

 

「恐ろしい反射神経ですわ……見なさいライアン、山田さんの足元が陥没しています」

 

 ……ヤバい、当然だが見られた。

ライアンが無茶苦茶興奮してて、マックイーンは驚愕している。

目がいいなあ、2人とも……

 

 ここは監視カメラの範囲外だし……周囲に人影はない。

し、仕方ねえか……

 

「マックイーン、こちらの美人さんに『詰所まで案内する』って言ってくれ。それと……お前らも暇なら一緒に来てくれ、晩飯食わすから」

 

「行きますわ~!」「行く行く、行きます!」

 

 マックイーンは食欲、ライアンはビリオンクロック目当てってとこかね……

 

「『――素晴らしい反応速度だ。あの子が気にする理由もわかる』」

 

 そして、ビリオンクロックは……何やら納得したように微笑んでいた。

 

 

・・☆・・

 

 

「えぇええ~~~~~!?!? やま、山田さんが『無名』ォ~~~!?!?」

 

「……ああ、最近クラスでも話題になっている格闘家の方ですね。なるほど……言われてみれば、山田さんの運動能力に納得できます」

 

 メジロ通訳によって、詰所までビリオンクロックを案内。

真波さんにワケを話して社長到着まで部屋を貸してもらった。

普段は男女共用の休憩場所として利用されている場所に、メジロ2人の声が、特にライアンの絶叫が響く。

ここに来るなりネタバラシしたからな。

むしろ、放置して変な噂になる方がヤバい。

 

 そしてマックイーンのクラス……中等部でもU-1は話題になってるんだな……こうなってみるとむしろ知らないウララの方が少数派だったということか。

 

「どうぞ、手作りですけど」

 

 俺は、腕を組んで椅子に腰かけているビリオンクロックにクッキーと珈琲を出した。

 

「山田さんの手作りですの!?」

 

「おう、手前味噌だがな……ほらマックイーン、おからクッキーをどうぞ。ココアパウダー付きでビターな糖質オフだ」

 

 マックイーン専用のやつを出してやる。

 

「いただきますっ! ……んん~……!おいひぃでしゅわ~……」

 

 いい顔しやがってホントに……

 

「や、山田さん、山田さん……!」

 

 どうしたライアン、そんなにシャツを引っ張って……お前顔真っ赤だな。

 

「あ、あの……後で!後でサインくだしゃい!!」

 

「お、おう……お前になら何十枚でも書いてやるよ」

 

 グッズ用とかに無茶苦茶書いたからな。

もうすっかり手が慣れちまった。

 

「『よく慕われているな、反ウマとは真逆と聞いていたが……なるほど、その通りだ』サッキ、スマナイ、デシタ」

 

「ノープロブレム、アイアムストロング」

 

「『ハハハ! なぁるほど……スターが気に入るワケだ、ハハハハ!!』」

 

 コーヒーを飲み干し、豪快に笑うビリオンクロック。

今スターって言ったことしかわからん、スターラッシュの愛称かなにか?

 

「――済まないイチロー、渋滞に巻き込まれて遅れてしまった……おやおや、メジロまで引っ張り込んで……引き抜きは認めんぞ、小娘共」

 

 がちゃ、と扉が開いて……少し急いだ様子の社長が入ってきた。

 

「そんなことしなくっても、学園にいる間は面倒見ますよ」

 

「――だ、そうだ。見かけるたびに思う存分飯をねだるといい」

 

 社長のその声に、マックイーンが小さくガッツポーズをした。

お前……まあ、いいけどよ。

 

「社長、ビリオンクロックさんは一体何の用事で……?」

 

 今更ながらなんでこの人日本にいるんだ?

経営してるジムは海の向こうなんだが……

 

「ああ、ウチ経由でボクシングの臨時講師をやってもらうことになっている……場所はここだ」

 

「あー、いつもの」

 

 フドウギクとか先輩連中がやってる講師派遣事業ね。

 

「知っての通り、弟子のスターラッシュが試合中なので彼女はそれに合わせてこちらに来ているのだ。ダメもとで申し込んだら快諾されてね……お前が所属しているから、ウチの名前を覚えていたらしい」

 

 おや、そういうわけか。

 

「と、いうわけで彼女と仕事の話をする。勤務時間外ですまんが、イチローは別室で待機していろ。終わったら用がある」

 

「は、はあ……了解です」

 

 用事、ねえ。

一体何が始まるんだろうか。

 

「とにかく、了解です。スイマセンが晩飯の買い出しに行って来てもいいですか?」

 

「フフン、そこの2人に食わせるのだろう? 許可する……携帯だけはいつでもつながるようにしておけ」

 

 はいよ、話の分かる社長で助かるねえ。

 

 

・・☆・・

 

 

「待たせたな、好きに食え……本日の献立は山田式豆腐ハンバーグだ」

 

「はわぁ……いい匂いですわ!」

 

「おいしそ~!」

 

 いつもの商店街で手早く買い物を済ませ、そのまま詰所のキッチンで調理。

ウチは体がデカい社員が多いので、休憩室はノーマルウマ娘には広すぎるくらいの面積がある。

 

 メジロの2人は、目の前に出されたハンバーグに目が釘付けだ。

 

「立山サンの許可は取ったから心配すんな、マックイーン。だが白米の食いすぎには注意しろよ、おかわりは2回まで許可する」

 

「山田さんの後ろに後光が見えますわ……テンマさんがいつも仰っていたように、とてもとてもお優しい方ですのね……!」

 

 そんなに頻繁に連絡取り合ってんのかお前ら。

お嬢様言葉どうしで何か気が合ったのかもしれんな。

 

「ライアンもしっかり食えよ……豆腐は高たんぱくで筋肉にいい。しかも使用しているのは鶏ひき肉だから倍率ドンだ」

 

「ありがとうございますっ! いただきまーす!!」

 

 本日の夕食、豆腐ハンバーグにサラダ、それに味噌汁と雑穀米。

同じように見えるが、実はマックイーンの方は肉の比率を変えてある。

より低カロリーになるようにな。

 

「はぐ、んん~! おいしい! お豆腐なのにジューシー!」

 

「サラダも新鮮でとても美味しいですわ! ドレッシングも爽やかで、いくらでも食べられそうですわ~!」

 

 ちなみにドレッシングは梅味だ。

豆腐ハンバーグが和風の味付けなので、丁度いい。

 

「んぐ……山田さんは食べないんですか?」

 

「おお、なんか社長が食うなって言うからな。飲みにでも連れていかれるのかねえ……」

 

 まいったな、そんなに飲めねえんだが。

社長はアルハラとかはしねえから大丈夫だとは思うがね。

 

「ま、気にせんで食え食え2人とも。老後の為にメジロに恩を売っておくぜ……冗談だがな」

 

 本当の目的は爺になって『俺はあのメジロマックイーンとメジロライアンに飯を食わせたんだぜ!』って自慢するためだ。

その頃にはこいつらもレジェンドの仲間入りしてるだろうしな……今から楽しみだぜ。

 

「はぐ……むぐ……」

 

 マックイーンが無心で食ってる。

それだけ美味そうに食ってくれりゃあ、無限に食わせてやりてえが……立山サンに殺されるので我慢する。

太りやすいってのはかわいそうだなあ、ホントに。

 

 

「んく……そういえば山田さんは、お母さまがサラブレッドウマ娘なんですってね?」

 

 豆腐ハンバーグを堪能し、幸せそうに味噌汁を飲んでいたマックイーンがそう言った。

 

「え!? そうなんですか!?」

 

 ライアンが超驚いている、たぶんばんバの家系だと思ってたんだろう。

 

「ああ……そうだが、よく知ってるな? お前に話したことあったっけか?」

 

「いつもお世話になっているとおばあさまに言いましたら、そう仰っていたので」

 

 メジロの重鎮、メジロアサマが俺を知ってる?

……マックイーンたちからよく話を聞くから、人を使って調べさせたって所かね。

シンボリといい、メジロといい……デカい家は怖いねえ。

 

「おう、男の俺にゃあ関係ねえけど……母方3代が全員そうだぜ? みんなお前らの先輩だよ」

 

「まあ! それは予想しておりませんでしたわ! わたくしも知っている方々でしょうか!?」

 

「あたしも知りたい!知りたいです!」

 

 先輩と聞くと食いつきが違うねえ。

 

「知ってるかな……おふくろが『ロンググッドバイ』、婆さんが『シュプレヒコール』、そんでひい婆さんが『ライメイ』ってんだが」

 

「ブーッ!?!?」「むえっほ!?!?」

 

 おいおい、揃って噴き出しやがった。

 

「えほえほ……ご、ご冗談では、ありませんね!?」

 

「こんな嘘つくかよ。訴えられるわ」

 

「ら、ライメイさんって……ウマ歴史学の教科書に載ってるような人じゃないですか!?」

 

 へえ、そうなんだ。

ひい婆さんってやっぱりすげえんだなあ……まあ東京優駿勝ってるしな。

 

「シュプレヒコールさんも、ロンググッドバイさんも……両方G1ウマ娘じゃないですか!? ふわーっ! 山田さんって凄いな~!」

 

「おばあさまがご存じのはずですわ……ヒトは見かけによりませんのね?」

 

「はっは、俺も月毛だったらまだわかりやすいんだがなあ」

 

 いや待て、俺のガタイとツラで月毛はヤバいな……完全に不審者だ。

俺がウマ娘だったらよかったのかねえ……いや、それだと格闘の道には進まなかったろうな。

それなら、今のままでいいや。

 

「色々とレースのお話をお聞きしたい所ですわ!」

 

「うんうん、あたしも聞きたい! ねえ山田さん、山田さんの実家って近いの!?」

 

 あー……うん、どうしようこの流れ。

やべえな……こいつらが気に病まねえといいんだが。

 

「すまねえ。実家は関東なんだが……その……」

 

 こいつらのメンタルを気にしつつ、俺は口を開いた。

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