トレセン学園警備員さんは、ウマ娘に勝ちたい。 作:秋津モトノブ
「あづいッス……あづいっスぅう~~~……」
「言うなライ、もっと暑くなるんだから」
「冷たいもの食べたいッス……かき氷ぃ、アイスクリームぅ、素麺、ざるそば、冷やし中華、油そばぁ……」
「最後に行くほどガッツリ系になってんじゃねえかよ……」
8月某日。
俺とライは、制服を着込んで並んで立っていた。
夏服とはいえ、炎天下の陽射しが容赦なく降り注いでくる。
汗が止まらねえ。
「目の前に海があるのに恨めしいッスぅう……」
「仕方ねえだろ、仕事だ、仕事」
俺達の目の前にあるのは、忌々しいほど白い砂浜と……青い海。
そう、ここはトレセン学園じゃない。
「みんな凄いッスねえ……ウチ、現役時代もあんなことしなかったッスよ」
「北海道は涼しいもんなあ……」
セパレートタイプの青い水着を着たウマ娘たちが、砂浜を疾走している。
別の場所ではクソでかいタイヤを引き、また別の場所ではビーチフラッグ。
「合宿の警備なんざ初めてだが、この暑さだけはキツイな……ライ、マジでヤバくなる前に影で水分補給しろよな」
「死ぬときはパイセンと一緒ッス……」
「やだよそんな心中」
ここは、トレセン学園が提携している海辺の合宿所。
俺とライ、それに少なくない先輩方は……しばらくここの警備員として派遣されている。
何故、急に俺がここの警備へ派遣されることになったのか。
まず1つ目の理由は、『U-1』での勝利。
散々北海道の本社に突撃していたマスコミ連中も、最近やっと『……無名って北海道本社にいないんじゃね?』と気付き始めたらしい。
それで、東京や他府県の支社周りにもあまり素性のよろしくないジャンルの記者が徘徊するようになってきた。
トレセン学園の詰所も例に漏れず、だ。
『丁度いいから、一気に訴えて追加の臨時収入と洒落こもう。その間、お前は合宿所に配置転換する』と、社長はビデオ通話でニヤニヤ笑っていた……おっかねえ。
というわけで、勤務地を急遽変更するに至ったわけだ。
そして、もう1つの理由。
これはUSCや俺の都合ではなく、トレセン学園からの要望だ。
その内容は『合宿期間中の安全確保のため、警備員の増員』というもの。
なんでも、マスコミ……も少しはいるが、ネットの迷惑系配信者やマナーの悪いファン層による盗撮被害が年々増加しているらしい。
特に近年は、有名なウマ娘や将来有望なウマ娘が多い。
彼女たちに被害でも出たらたまらん……といった理由らしい。
加えて、警察のウマ娘機動隊……通称『騎バ隊』の協力まで取り付けている。
不審者を速攻で逮捕・送検できる布陣だ。
……トゥインクルシリーズは国民的行事だもんな、これくらいのサポートはするか。
「うわっ!パイセン見てくださいッス!あれ、騎バ隊ッスよ!」
ライが指差した先で、サラブレッドウマ娘よりも一回り大きいウマ娘たちが4人、砂浜をランニングしている。
騎バ隊の連中だ。
ああやって、空いた時間に自主練をしているんだろう。
消防隊員もそうだが、休み時間もああやって訓練するんだから頭が下がるぜ。
「そういえばお前の先輩もいるんだってな、あそこ」
「あっはい、トレセンで一緒だったんス。レース引退してそのまま警官になったんスよ~」
人間なら大卒警察官……いわゆるキャリア官僚だが、ばんえいウマ娘にはまた別の枠がある。
レースで一定以上の成績を修めたウマ娘は、警察・消防・海上保安庁・自衛隊などからスカウトされることがあるんだ。
ウチの社長も引退した時に引く手数多だったらしいが『社長になりたいから』とその全てを断った、らしい。
「あっ!アレっす!先頭のイケメンが先輩ッスよ!お~い!!センパアアアアアイ!!!」
さっきまで暑い暑い死ぬ死ぬ言ってた癖に、一気に元気になりやがった。
俺の横でジャンプしながら騒ぐライに気が付いたのか、先頭にいたショートカットのウマ娘が大きく手を振った。
へえ、2メートル近いな。
……お?なんかこっちに走って来てるな、しかも全員。
うわ、さすが騎バ隊……総勢4人でも迫力がすげえ。
「ライ!アンタもここに来てたんだ!」
「あったり前ッスよ~こちとら天下のUSCなんスから!」
先頭のウマ娘は、息も乱さずにライとハイタッチしている。
さすがのスタミナだな、ばんえい出身でさらに警察だからな。
『先輩』は、ライがイケメンだと言ったように切れ長の目をしたボーイッシュ系の美女だった。
「あ、先輩!こちら、USCの先輩で山田さんッス!」
おっと、紹介されたな。
「お仕事、ご苦労様です。山田です」
「いいえ、そちらこそ暑いのに大変ですね。ヒメザクラと言います」
ヒメザクラ……ばんえいにさほど詳しくない俺でも知っている有名バだ。
騎バ隊にスカウトされるくらいなんだから、まあ当然か。
「ライデンオーがお世話になっているようで……」
「いえいえ、マジメでいい後輩ですので助かっていますよ」
「パイセン、今の録音するんでもう一回おっきな声で言ってくださいッス」
ライの妄言を無視し、差し出してきた手と握手する。
……む。
――握手した瞬間に、手首の関節を極めにかかってきた。
それに驚き、ふらついたような足取りをしながら……ロックされないように手首を引きながら捻った。
「――へぇ」
ヒメザクラの目が、面白そうに輝いた。
「いや、すいません……暑いものでふらついてしまって」
とんでもねえ、コイツ。
何で初対面の人間の関節を極めにくるんだよ。
一応警察官だろ、おい。
「暑いですからね、今日は」「ええ、とても」
握手の体勢のまま、しばし視線が交錯した。
どこか好戦的な視線は外れ、俺の手も解放された。
「……素敵な先輩がいるんだなー!ライ!」
「そッスそッス!山田パイセンはステキなんス!うへへ!」
……『ばんえいウマ娘は、体が大きいが穏やかで優しい』っての、たぶん嘘じゃねえかな。
ライとじゃれ合うヒメザクラを見ながら、俺はそう思った。
「けーびいんさん!ライさん!こんにちはー!」「お疲れ様です、お2人とも」
ライの先輩が去り、再び巡視が始まってしばらく。
砂浜の近くをひいこら歩いていると、ウララとキングゲイナー……じゃない、キングヘイローが走ってきた。
2人とも水着姿だ、涼しそうで羨ましい。
「よう、2人とも。練習は休憩中かい?」
「そうだよー!さっきまでビーチフラッシュ?してたんだ!」
「ビーチフラッグよ、ウララさん」
キングちゃん、今日もいいツッコミだ。
ウララが、手に持っていたスポーツドリンクを差し出してくる。
見た感じ半分凍ってるな。
「はい!どーぞ!暑いのにお疲れ様、です!」
「うわー!いいんスかウララちゃん!?助かるッス!!」
ありがたいが、コレって備品じゃねえのか?
俺の様子で察したのか、キングヘイローが説明してくれた。
「余っているのよ、トレーナーの許可は取ってあるわ」
「ああ、それじゃ遠慮なく貰うわ」
ウララとキングヘイローのトレーナーは……あ、いたいた。
砂浜に刺さっているパラソルの下で、こちらを見ている。
大学出たて、って感じの若いにいちゃんだ。
見た感じはイケメンだが、それよりもぽや~っとした雰囲気の方が勝っている。
手を上げると、深々と頭を下げられた。
「それじゃ、2人にお返しだ」
会社から、夏季の巡回の際に携行が義務付けられているクーラーボックス。
足元に置いたそれを開け、2人分の凍ったニンジンを取り出す。
夏場の塩分補給のため、塩レモンの溶液で周りをコーティングしたもの。
……俺は普通の塩レモンか塩飴がいいんだが、ウマ的にはこれが最高らしい。
「わーっ!ありがとー!」「あら、気が利く警備員さんね……ありがとう」
「あーん!パイセン、あーんごごごごごおっご!?!?!?」
ウララ達にニンジンを渡し、ライの口には『ライ専用・特大』と書かれたヤツをねじ込んだ。
食い終わるまでおとなしくしといてくれ。
「俺もいただくよ……うっま」
スポーツドリンクを煽る。
この暑い中での冷たいドリンク……たまんねえ。
生き返るぜ。
「おいしーね!キングちゃん!」
「アラ、本当……ウチもコレにしてもらおうかしら」
ウララは元気に、キングヘイローは上品に齧っている。
和むなあ、この光景。
横の方で頭を押さえて震えているライは無視する。
「けーびいんさん、暑くないの?わたしたちみたいに水着になったらいいのに」
「コレが制服だからなァ、まあ、暑いのはもう慣れた。そいうえば2人とも、なんか気になることとかないか?見慣れないヤツがうろついてるとか、バズーカみたいなカメラ持ったヤツがいるとか」
巡回中の聞き取りも、重要な仕事だ。
人間以上の五感を持つウマ娘だ、こういう所から何かわかったりするからな。
「すっごくおっきいカメラ持ってる人ならいたよ!」「マジか!?どこで見た!?」
ビンゴじゃねえか!すぐに本部と騎バ隊に連絡して――
「ホラあそこ!すっごいよねー!」
ウララが指差した先には――
「――頭を下げないッ!腿の振り上げを意識して!砂を蹴り出す時は思い切りッ!ああああカワイイ!!ウチのライスが頑張るの、世界一かわいいッ!!顎を引く!目線は前ッ!!!」
対戦車ライフルみてえなカメラを構えた、ライスのトレーナーさんがいた。
……ああ、うん、アレは……(一応)無害だな。
「……キングヘイロー、『トレーナー以外の』不審者がいたら俺とか他の警備員に言ってくれ」
「ええ、わかっているわ」
いたでしょ~?みたいな顔のウララは、頭を撫でて褒めておく。
「えへ~」
うん、かわいい。
爺さん連中が夢中になる気持ちもわかるぜ。
今回コッチに来れねえの、残念がってたからなァ。
……来たら熱中症で死ぬかもしれねえから、無理だがよ。
・・☆・・
「ぶへぇえ~……涼しいッス~……休憩最高ッス……」
合宿所の警備員休憩スペース、そこのベンチでライが溶けている。
溶けているどころか、制服をとんでもねえレベルで着崩している。
一応男がいるんだぞ、ちっとは気にしろ。
俺達は今から1時間半の休憩だ。
もちろん、他の社員が今も巡回している。
たしか、10組来てるんだよな。
俺は現地集合したから、全員と顔を合わせていない。
電車で来たライなら知ってるだろうが。
「だな、飯食って休憩しよう……昼からも、やることは同じだしな」
「思い出させるのはNGッスよォ……」
ぼやくライをその場に残し、食堂へ向かう。
「うぁ~、パイセンん~……」
「キッチリ服着たら、追いかけて来い」
そんな恰好で来たら、生徒に超悪影響だろうが。
食堂は共用なんだぞ。
あの子たちも、しっかり水着から着替えてくるんだから。
「あ!山田さーん!ここ空いてますよ、ここ!」
今日の昼飯……『B定食(冷やし中華定食・ウマ盛り)』を手に食堂を彷徨っていると、声をかけられた。
それなりに混んでいる食堂内で、俺に向かって手を振る男がいる。
少し疲れているが、人のいい顔をした青年だ。
「お疲れ様です、川添トレーナー」
「どうもどうも!仕事中見てましたよ~、巡回って大変ですねえ」
横に腰かける。
……え?コイツの昼飯こんだけ?
小鉢の素麺と……キュウリ和えだけじゃねえか。
倒れるぞ、オイ。
「ちょっと、コレで足りるんですか?いくらウマ娘みたいに運動しないって言っても……」
「いやあ、実はカレンが弁当を作ってくれたんですよ、朝に。それで……胃が……」
「ああ……」
彼は、『カレンチャン』という可愛らしいウマ娘の担当トレーナーだ。
ウマスタ?だかでインフルエンサーとしても人気だが、短距離のレースでもかなりの実力を誇っている。
性格もいいし、なにより担当トレーナーとの仲も良好だ。
……料理にとんでもないアレンジをするってのが、玉に疵だが。
「……幸せで胸やけしちまいますねェ、『お兄ちゃん』」
「ウゥ……朝飯に梅干しをめっさ使ったうな重を用意するカレンチャンカワイイ……」
腹壊して死ぬぞ、ソレ。
食べ合わせ最悪じゃねえかよ。
しかも、朝から。
このトレーナー、カレンチャンに『お兄ちゃん』と呼ばれている。
初めに聞いた時は特殊な変態かと思ったが……ライスのトレーナーさんを思い出して納得した。
結構独特な呼び方されてるトレーナー、多いからな。
ええっと、イナリなんとかって子なんか『アネゴ!アネゴ!』って呼んでたし。
俺は聞いたことがないが、例のファインモーションちゃんはトレーナーを『貴様』と呼んでいたらしいし。
王族、怖え。
近寄らんとこ。
そういえば俺、ライスのトレーナーさんの名前知らんな。
……聞いても答えてくれるとも限らんし、申し訳ないがさほど興味もない。
『お姉さま』さんでいいか、もう。
「山田さんはよく食べますねえ~……オレも体、鍛えようかな」
「ま、鍛えてないよりゃいいかもしれませんがね。俺は仕事が仕事ですから」
川添トレーナーは素麺を啜り……思い出したように話を振ってきた。
「あの、山田さんって何か格闘技やってらっしゃるんですよね?」
「あー……ええ、空手と柔道を少々」
本当は『討マ流』なんだが、素人にはこれでいいだろう。
ヤバい技を見せでもしない限り、まあバレない。
警備員という仕事上、武道は必須だしな。
……例のウララを可愛がっている爺さん連中も、全員合気道とか居合の段持ちだったはずだ。
今戦えるかどうかは、さておき。
「あの、オレに空手とか教えてくれませんか?」
「……?なんでまた、空手を?」
川添トレーナーは周囲を見回すと、小さな声で続けた。
「……カレンが、可愛すぎるんです」
「……は?」
まるで意味が分からんぞ。
カレンチャンが可愛いのと、なんで空手が結びつくんだ?
「……山田さんはご存じだと思いますが、カレンが……め、めっちゃグイグイくるんです!カレンがグイグイグイグイ押してくるんです!!」
「お、おう」
確かに、校内の至る所でカレンチャンと距離が近いのを見かける。
あれはどっちかって言うとカレンチャンの方がグイグイ行ってるんだろうが、川添トレーナーはその度に顔を赤くしたり青くしたりして大忙しだ。
「誰かが言っていました……武道は精神修養になるって!だから!お、オレの煩悩を消すためにどうか!武道を教えてくださいっ!」
「あー……」
色々とツッコミどころはあるが、まあ言いたいことは分かった。
精神修養、精神修養ね……俺、そこから最も遠い所にいるんだが。
『ウマ娘に勝ちたい』って煩悩まみれなんだが。
「そうですね……まあ、始めは簡単な筋トレと型稽古にしときますか。今日の勤務が終わったら泳いでるんで、暇な時に砂浜に来てくれたら教えますよ」
正拳打ちの方法くらい教えてやるか。
効果は知らんが、気分転換にはなるだろう。
俺も、生徒たちと同じようにこの合宿所に泊まり込むことになっている。
今日は朝から15時までの勤務で、明日は準夜勤だ。
せっかく海に来たんだから、泳いでおきたい。
水泳ってのはいい稽古になるしな。
もちろん、会社に許可は取ってある。
「そうですか!いやー助かりますっ!……なんか安心したら腹減ってきたな!おかわりして――」
「あ、お兄ちゃん♪」
トレーを手に立ち上がった川添トレーナー。
その後ろに、何か大きな包みを持った……ショートカットのカワイイウマ娘。
カレンチャンだ。
「今おかわりって言ったでしょ~?よかった!お弁当、ここの厨房で作らせてもらったんだぁ♪間に合ったね!」
「か、カレン……」
油の切れたロボットのように、川添トレーナーがゆっくり振り向いた。
「はいっ♪コレ食べて、お昼からも頑張ろうねっ☆お兄ちゃん!」
「うわぁ、ありがとう、嬉しいなあ……嬉しい……」
俺のウマ盛りと同じようなデカさの包みを受け取り、彼はすとんと椅子に腰かけた。
「あっ、山田さんもこんにちはー♪」
「おうカレンチャン、今日もいい嫁さんっぷりだねえ」
「やーん♪今日もお上手っ☆じゃあお兄ちゃん、また午後にね~♪」
そう言って、カレンチャンは友達らしきウマ娘の方へ去っていく。
あの子はたしか……
今度ライに聞いておこう。
「……うわあ……うわぁあ……」
川添トレーナーは、恐る恐る包みを開けた。
中からは、立派な二段重ねのお重が出てきた。
トレーニングしながら、これ作ってたのか……すげえな、カレンチャン。
「ウワーッ!?(小声)」
そして、その中身は……上の段には鰻の白焼き。
下の部分は……鰻の炊き込みご飯だった。
離れた俺にもわかるくらい、梅とシソの匂いがする。
……白焼きに塗ってあるのは山葵じゃなくって梅ペースト。
炊き込みご飯に混ざっているのは、細かくした干し梅、か?
手際も形もいいのに、何故変なアレンジをしやがる……
そして、どんだけトレーナーに精つけさせてえんだ。
「……山田さん、お願いします……9割くらい食ってくれません?」
「頭を動かさずに聞いてくださいよ……席に戻ったカレンチャン、ずっとこっち見てます。なんとか美味そうに食って、『一気に食うのは勿体ないから』ってさりげなくアピールしつつ……おにぎりにしてくれるように厨房に頼んでください」
カレンチャンの視線の圧が、強い。
一挙手一投足を見てる感じだな。
「山田さんがすげえ頼りになる……わ、わかりました!」
川添トレーナーは、意を決して箸を取り……白焼きを一口。
「いやー……キツイでしょ」
と、小さく呟いたのだった。
羨ましいが、羨ましくねえ。
・・☆・・
「パイセーン!!何やってるんスか!海が逃げちゃうッスよ!!」
「逃げたら津波の前兆なんだよなあ。それこそ俺が逃げるわ」
悲喜こもごもの昼食が終わり、それから15時までの勤務も終わった。
別の組が不審な車を何台か発見したが、敷地内に入ってこずに逃げたって報告以外は平和だった。
……それを受けて、夜勤の姐さんたちが騎バ隊と組んで巡回するらしい。
本当に不審者がいるとしたら、ご愁傷様だ。
普通車なんかスクラップにされるぞ。
で、今は……晴れて休みになったのでひと泳ぎしに海へ向かっている最中だ。
「お?ウチの水着姿にメロメロッスかァ~?襲われちゃうッス~♪」
『普通の』スポーツタイプの水着を着たライが、ニヤニヤしている。
コイツも一緒に泳ぐって言うんで、待ち合わせをしてたんだが……脱衣所の中から『ライちゃん!駄目!これ絶対駄目!子供たちの教育に悪すぎる!公共の電波に流せないからやめな!!』という、先輩社員の悲鳴が聞こえてきた。
それで……普通の水着で、なんか不満そうな顔で出てきた。
……一体どんな水着を着るつもりだったんだか。
俺も他人のフリするぞ。
「はいはい、そうだな」
「んなぁ~!塩対応!!パイセンの前世はたぶん屋久杉ッス!!」
屋久杉はまだ元気だろうがよ、勝手に枯らすな。
「んはぁ……それにしてもパイセン、いい体してるッスねえ」
「お前それ男女逆だったら大問題な発言だからな?」
「ウチにはどんどん言って欲しいんスけど?」
変態のことはわからん、無視しよう。
何か後ろでライが吠えている気がするが、無視しよう。
夕方ということもあり、昼ほど生徒はいない。
だが、それでも練習中の子たちはいる。
邪魔にならんように端っこの方へ行くか。
適当な場所にシートを敷いてクーラーボックスで重しにし、上着を脱ぐ。
川添トレーナーの合流はまだ先になるので、先に泳いだりしておこうか。
「うひょぉ……」
上着を脱ぐと、ライがまた変な鳴き声を上げた。
お前ホント……ギリギリだぞ、色々と。
「傷エッグいッス!セクシーっスよパイセン!」
「お前の性癖が本当に心配だよ、俺はな」
行く末も心配だが。
「おじさまっ!」
「お?」
さあ泳ぎに行こう……と思ったら、ライスが走ってきた。
練習中……じゃないな、着ているのは可愛い水着だ。
「ようライス、可愛いもん着てんなァ」
「えへへ、そ、そうかな?」
なんかこう……フリルの多い?ワンピースタイプの?可愛らしい水着だ。
ファッションセンスが皆無の俺には、それ以上の誉め言葉が見つからん。
「おじさまと、ライデンオーさんも泳ぎに来たの?」
「そうだよ、昼間に働いて疲れたんでなァ……ライスもか?」
「うん、泳ぐの好きだから……お姉さまもいるんだよ?」
あ、まあそりゃあいるよな……どこに……う。
少し後ろで、カメラを構えているトレーナーさんがいた。
一応水着は着ているが……そう言う問題じゃあない。
「おじさま、その傷……痛くないの?」
「ん?ああ、全部古傷だしな。もう治ってるよ」
俺の上半身を見てビックリしたんだろう。
今までの稽古やら野試合やら野生動物との戦いやらで付いた傷だ。
さながら、世界地図レベルの賑やかさだ。
「こ、これ……事故で付いた傷なの?」
「あー……大体そうだ。原付と軽トラと乗用車……それにバスに撥ねられたんだよ」
「え、えぇ……」
まさか『北海道の山中でヒグマと戦いました』って言うわけにもいかねえからな。
言っても信じねえとは思うが、広義的には動物虐待だし。
「けーびいんさーん!あ!ライスちゃんもいるー!」
「ウララちゃんっ!」
さらに、ウララもやってきた。
そっちもかわいい水着着てんな、練習終わったのか。
「山田さァん……ウチのライスをいやらしい目で見たらァ……」
「見るわけないでしょ、子供ですよ、子供」
いつの間にか背後にいるトレーナーさん。
一番やらしい目で見てるヤツが何をほざくか。
「ちょっとォ!!ウチのライスに魅力がないって言うんですかァ!?」
「うわめんどくさ」
思わず口から出ちまった。
どうすんだよコレ。
中央のトレーナーって、学業以外でも評価されて合格すんじゃねえのかよ?
滅茶苦茶だぞこの人。
「けーびいんさん!お城作ろ、お城!」「ライスも一緒に作りたいな……」
「よっしゃ任しとけ、モンサンミッシェルが裸足で逃げ出すようなの作ってやらァ!!」
ウララからの可愛いお願いに、俺はこれ幸いと乗ることにした。
え?泳ぐのはいいのかって?
知るかよそんなもん!穴掘りも稽古の一つじゃあ!!
「すっご……砂浜に大穴が開き始めてるッス」
「ラァイ!お前も手伝えよオイ!ダートと長距離のプリンセスのお願いだぞコラ!!」
「パイセン、ウララちゃんたちにクソ程甘いッス……」
「何だこれ……砂浜に城がある。子供が作ったレベルじゃない城が……」
「すっごーい!ウマスタに上げちゃお~♪お兄ちゃん、撮って撮って~☆」
「ウゥ……何を着てもカレンチャンがカワイイ……」
お、砂浜にいるのは川添トレーナーと……カレンチャンだな。
腹に力を入れ、水を蹴る。
っぐ、負荷がいい稽古になるぜ!
砂で城を作った後、すぐに泳いだからちょいと疲れちまった。
ここらで合流して陸で休憩すっか!
「ちょっと!砂浜に!戻るぞー!しっかりつかまっとけよォ!!」
「わーっ!すっごい……揺れる!たのしーっ!」
「わわっ、おじさま、凄い力持ち……!」
首に引っ掛けたロープで引いたボートに乗っている2人が、歓声を上げている。
ウマ娘も楽しい、俺も稽古になって楽しい。
これぞウィンウィンってやつだな。
「ああっライスが行っちゃう!ライデンオー、ゴー!!」
「この女ァ……!なんか思ってたのと違うッス!違うッス!!」
後ろでライがなんか言ってんな。
訓練になって楽しいだろう?
その後は、川添トレーナーたちと合流。
簡単な型稽古の指南をしたり、ウララとライスを交互に肩車して水中スクワットをしたり、川添トレーナーを砂浜に埋めたりした。
……最後のは何故やったか覚えてないが、まあ概ね楽しい一日だった。
さて、試合はまだまだ先だし明日も頑張るぞ!
【キングヘイローのヒミツ】
・実は、最近ツッコミを入れるのが楽しくなってきている。