トレセン学園警備員さんは、ウマ娘に勝ちたい。   作:秋津モトノブ

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※日常?回です。


7話 夏だ!海だ!不審者だ!!

「微妙に暑いッスゥ……」

 

「なんかデジャブだな、お前」

 

 日は陰り始めたが、まだ暑い。

さすが、8月。

 

「アレだ、建設会社の人がやってる……扇風機?付いた服が欲しくなるよな」

 

「あー、わかるッス。ウチも欲しいッス……」

 

 俺達がいるのは、合宿所の駐車場。

本日は『学園に許可された』マスコミ関係者がやってくるので、ゲート付きの駐車場に陣取っているわけだ。

門の警護と、やってくる来客の照会が主な業務内容だ。

 

 駐車場には、俺を含めUSCの警備員が6人と……

 

「こう暑いとトレセンの学生時代が懐かしいねえ」

 

「ッスッス、そりゃ夏は暑いッスけど……関東は段違いッスねえ……」

 

 ライの先輩である、警察の機動隊、通称『騎バ隊』のヒメザクラだ。

彼女を筆頭に、3名の警官がここにいる。

 

「あ、また来たッス。今日は多いッスね~」

 

 ライが言うように、ゲートの所に乗用車がやってきた。

 

「通行証を拝見します」

 

 先輩社員の声に、運転席の男が紙を差し出す。

それに、先輩がタブレットを向けた。

あれには二次元コードが印字されてるから、一瞬で真偽が判定できる。

 

「――確かに、ではお入りください」

 

 先輩が道を開けると、車が入場してくる。

うん?あの助手席の女、どっかで……!

 

「(おい、ライ!あの記者って……!)」

 

「(ぅあ!トゥインクルのええと……素晴らしいですっ!さんッス!)」

 

 試合後のインタビューにいた記者じゃねえか!

そりゃ、月刊トゥインクルだもんな!こっちが本業だ!そりゃあ来るよな!!

 

「(……近付かないようにしましょ、パイセン)」

 

「(了解)」

 

 ある意味、不審者よりヤベえ女だ。

ヘタな動きはしないでおこう。

 

「あの記者と知り合いなのかい、ライ?」

 

「あ、知り合いって言うか……よく叫んでるんで有名人なんッスよ、あの人」

 

「えぇ……大丈夫なのか、そんなの入れて……」

 

「腕は確か……だとは聞いてるッスけど」 

 

 まあ、大丈夫だから許可が出てるんだろうが……心配ではあるよな、確かに。

 

 

 そんなこんなで、今日の勤務も無事に――終わったらよかったんだけど、なァ。

 

「申し訳ありません、許可証がないとご入場いただくわけには……」

 

「いえ、ですからトレセン学園に連絡して許可を取っていただかないと……」

 

「この場で許可?できませんよ、我々にその権限はありません。ですから……」

 

 なんか、揉めてんな。

いいから入場させろ!なんて騒いでいる声が聞こえてくる。

 

「ありゃりゃ、厄介記者ッスよ。ここでゴネても駄目だって、わかんないんスかね……学園でもよく見かけますよ、毎年」

 

「ウチのトレセンにも来てたっけね。どれ、ちょいとオマワリサンが脅かしてこようか」

 

 ヒメザクラが警官に向かって合図をし、動き出す。

うへえ……記者もよくやるぜ、アレに手を出したら公務執行妨害だ。

っていうか、それ以前によくばんえいウマ娘まみれの状況でイキれるよな。

ここにいるの、全員俺より背が高いんだぞ。

俺ですら190ちょいはあんのに。

 

「……いや、さすがにおかしかねえか?」

 

「ふえ?どしたんスかパイセン」

 

「いくらなんでも、この状況でごねても何も……」

 

 周囲を見回す。

 

 この合宿所の入口は、ここしかない。

出るも入るも、ここのゲートを通るしかない。

そこ以外の進入路はない。

道からは砂浜までフェンスが敷かれていて、ビーチの端は高い岩場だ。

俺も岩場は確認したが、かなり険しくて高い。

……何故か磯釣りをしているウマ娘がいたが、見なかったことにした。

あの子、校内でもよく寝てる子だな。

ええと名前はたしか……ディープスカイ……いや違うな。

そうじゃなくて!

 

「フェンス……? おいライ、一緒に来い!」

 

「え?ええ?なんスか急に!?まあ行きますけど!」

 

「無線機も持ってこいよな!」

 

 そう言い、走り出す。

目的地は、ここから海までの間の、どこか!

 

 

「あ!おじさま……結構足、速いんだ。どうしたんだろ?」

 

「うわ、何ちゅう怖い顔よ。ライスライス、見ちゃいけません!顔が怖くなるわよ!」

 

「ライス……お姉さまのそういうところ、ちょっと、ううん……かなり駄目だって思うな」

 

「――ォッ!?(心停止)」

 

 

「っち!ビンゴだ畜生!」

 

 駐車場と海の中間地点くらいで、見つけたくないものを見つけた。

フェンスを乗り越えようとしている、たぶん男の4人組。

顔を隠すように、バラクラバ……だっけ、黒いマスクを被っている。

 

「たぶん、さっきゲートでごねてた奴らの仲間だな!騒いで目を引き付けたんだろ!」

 

「んで、でもそんなんで入ってもすぐ見つかるっスよ!?」

 

「知らねえよ!写真何枚か撮ったら即送信して逃げる……とか、そういう感じなんじゃねえの!?」

 

 普段は勝負服を着ているウマ娘たち。

今は、大体水着だ。

そしてもちろん、その姿は基本的に非公開。

さぞ、いい値段が付くんだろうさ。

――反吐が出やがるな、オイ。

 

「ライ!無線連絡!侵入者アリ!」

 

「了解ッス!パイセンは!?」

 

「アホを直で止めに行くんだよ!」

 

「殺しちゃ駄目っスよ!」

 

「前向きに善処するっ!」

 

「冗談だったのにやめてくんないスか!?ガチ目の返事すんのッ!」

 

 腰に回していたマイクを外し、口元に持っていく。

スピーカーは、小型のモノを首から下げている。

息を吸いこみ、叫ぶ。

 

「『――ここは私有地です!許可のない侵入は刑法130条により、住居侵入罪が適用される恐れがあります!!直ちに!当施設内から退去してください!!』」

 

 四方に、俺の怒鳴り声が響き渡った。

このスピーカー、ちいせえのに性能いいよなァ。

 

「『――練習中の生徒は、各トレーナーの指示に従って屋内へ避難してください!不審者が侵入しようとしています!!』」

 

 ついでに、生徒たちに注意喚起。

被写体がいなけりゃ、あいつらも何もできまいよ!

 

「うぇえ!?パイセン、なんであいつら止まんないんスか!?」

 

 ライが言うように、100メートルほど先の男たちはフェンスから下りるどころかさらに登っている。

 

「中に入って逃げ回る気か!?舐められたもんだな、オイ!」

 

 それか、とっ捕まるまでに定点カメラとか盗聴器とかを仕掛ける気かもしれん!

 

「ライ、社長指示の『最後通牒』頼む!俺は突っ込むからな!」

 

 マイクを外し、後方に放る。

 

「うおっと!?了解ッス!」

 

 後ろでライが受け取る気配。

足に力を込め、加速する。

 

「『――あなた方は!USCが警護する施設に対し侵入しようとしています!この警告を無視した場合――当方は持てる全ての『戦力』を用いて排除、並びに拘束を実行します!!』」

 

 うへえ、いつ聞いても威勢が良すぎる警告だ。

この文言考えたの、絶対社長だろ。

 

「……上等ォ!」

 

 だが、これほど言っても奴らは侵入の動きを止めない。

何かの自信があるのか……それとも、功名心しか抱えてねえアホか。

 

 俺が走ってたどり着く前に、奴らは地面に下りようとしている。

あと、20メートルってところか!

 

 ん?こっちを見て――笑ったな!てめえ!!

 

「そこをォ!!動くなぁああああああああああああああああああああっ!!!!」

 

 叫びながら、尻ポッケに入れていた缶コーヒーを取り出す。

それを、ゆるく前方に放る。

 

「っしぃい――」

 

 走りながら、空中で右手を掌の形に。

 

「――っふ!!」

 

 突き出した掌打で、その缶を撃ち抜いた。

尻を正確に打たれた缶コーヒーは、真っ直ぐに虚空を切り裂いて飛ぶ。

 

 

 討マ流、射ノ型『(つばくらめ)

本来は、脇差やナイフ、分銅なんかを飛ばす技だ。

U-1じゃあ絶対に使えない、正真正銘の戦闘技――有難く喰らえよっ!!

 

 

 陽光を反射して飛んだ缶は、今まさにカメラを取り出そうとしていた男の――顔のすぐ脇を掠めるようにして通過。

フェンスの支柱に激突し、内容物を盛大にばら撒いた。

 

「っひぃえ!?!?」

 

 続いて、もう一缶。

反対側の尻ポケットの炭酸飲料の缶を取り出す。

ソイツも放り投げ……今度は走りながら蹴る!

 

 地表スレスレをカッ飛んだ缶は、コーヒーまみれの荷物を抱えて慌てる男の足元に着弾。

さっきのコーヒーよりも、盛大に内容物を噴き出す。

 

「あああっ!?め、目が!?目があっ!?!?」

 

 男たちの1人が、もろにかぶっちまったらしい。

『弾ける青春!カプサイシン飼い葉味』の味はどうだ!?

……ライのおススメらしいが、絶対不味いぞアレ。

 

「ライ!向こうに回れ!」

 

「ウッス!かかってきたら――!?」

 

「警告したんだ!ジャイアントスイングでもかましてやれよ!!」

 

「パイルドライバーにしとくッス!!」

 

 それは死ぬからやめとけ!

 

 俺の横を、風と共にライが駆け抜けていく。

ばんえいとはいえ、競バは競バ。

加速力は人間の比じゃねえな、ウマ娘!羨ましいぜ!

 

 ライは、ゆるくカーブしながら男たちの退路を断つ方向へ走る。

砂浜に入ってるってのに、体のブレがないいいフォームだ。

普段はアレだが、今でもレースに出れんじゃねえのか、アレ。

 

 そして――缶の攻撃でもたついたのもあって、奴らが逃走をする前に挟み込むことができた。

なんとか、間に合ったな。

 

「そのまま動くな!警察が来るまでじっとしてろ……不法侵入の現行犯だ。おいっ警棒!!」

 

「ッス!」

 

 ライが俺の指示に従い、後ろ腰からスタン警棒を引き抜き、振って伸ばす。

最近配備された新型だ、殴られたら痛いどころか失神するぜ!

 

「……っ糞!」

 

 男の1人が、地面に下ろしたリュックに手を突っ込む。

 

「おい!動くなって言ってるのが――あぁ!?」

 

 男がリュックから取り出したモノ。

それは、カメラではなく……スプレー缶だった。

先端が銃みたいになってる、毒々しい赤色の。

まさ、か――

 

「ライッ!風上へ動け!!」

 

 言いつつ、踏み込む。

男はそれを俺に向けて、引き金を引いた。

 

 が、そこに俺はいない。

噴射される音を頭上に聞きつつ、低い姿勢でさらに地面を――蹴る!!

 

「の野郎ォッ!!」「っが!?!?!?」

 

 低い体勢から、男に向かって背中を向けてタックル。

変形のなんちゃって鉄山靠だが、効いたろう!?

 

「ああぅっ!?」

 

 ライの、悲鳴。

男を吹き飛ばしつつ見ると、別の男がスプレーを噴射していた。

ライは、顔を覆ってよろめいている。

 

 ――頭の芯が、燃えるように熱くなる。

 

「るぅう――アアアアアアアッ!!!!」「げぅっ!?」

 

 吹き飛ばし、地面でのたうつ男の股間を踏みつけて跳ぶ。

嫌な感触と嫌な音がしたが、アホの股間なんぞ知ったことかよ!!

 

 着地した俺に気付き、男がスプレー缶を持ったままこちらへ振り向く。

噴射したままだが、この距離なら問題ねえ!!

 

「っふ!!」

 

 息を止め、目を閉じて突っ込む。

顔に何かが噴き付けられる感触を感じながら――男の鳩尾に前蹴りを叩き込む。

 

「ぁがっぎぃい!?!?」

 

 反吐をぶちまける音を聞きつつ、目を閉じたまま振り向く。

残った2人の男の方へ。

 

「――動くな!!動いたらぶちのめすッ!!」

 

 警備員の範疇を飛び越えた暴言だが、こいつらにはちょうどいいだろう。

足音は、止まった。

 

「邪魔しやがって……もうちょっと、だったのに!!」

 

 が、何かを探るような音と……鞘走りらしき、音。

この感じ……ナイフを抜いた、か。

今更だが、こいつら絶対記者じゃねえな。

 

「おい、その物騒なので……何する気だ?」

 

 手に唾を吐き、目元を拭う。

胸ポケットから取り出したハンカチで、さらに拭う。

薄く目を開けると、少し目が痺れた。

喋ったことで、少し、喉がイガイガする。

暴徒用のスプレーを、暴徒が使うとはな。

 

 残った2人のうち、1人は地べたに腰を下ろして呆然としている。

だが1人は、どう見ても銃刀法違反レベルのサバイバルナイフを抜いて俺を睨んでいる。

 

「武器を捨てて、腹ばいになれ。これ以上罪を重ねるな」

 

「うるせえっ!!邪魔しやがってェ!!!」

 

 男は、目を血走らせて俺に向かってきた。

へえ、気が合うな。

 

 ――ありがとうよ、『理由』作ってくれて。

 

「っしぃい……ッ!!」

 

 息を吐きながら、前に出る。

 

「あああ!!うわあああああああっ!!!」

 

 男が、体ごとぶつかるように走って来る。

冷静に、それを見る。

 

 ナイフの先端が、腹に触れる瞬間に――ナイフの腹を、右肘で外へ向かって弾く。

強く握り過ぎていた手から、ナイフが吹き飛んだ。

 

「――鋭ッ!!」

 

 右肘で弾いた反動で回る上半身。

その勢いをさらに後押しし、遠心力で加速した左の掌底を――男の頬に叩き込んだ。

 

 ぱぁん、といい音が鳴る。

同時に、手に伝わる感触。

 

「ぁわ、あ、ががあ、あ、あっ!?」

 

 男が、言葉にならない声で喚く。

そりゃ、顎が外れてりゃあそうだよな。

 

「喚くんじゃ――ねぇッ!!」「ぉおご!?」

 

 膝をついた男の、外れた顎を思い切り蹴り上げて失神させた。

 

 そして、残った1人に向き直る。

 

「――おい」「は、はひ」

  

 完全に腰が抜けた男に、重ねて言う。

 

「逃げたら、こ……大変なことになるぞ、いいな?」

 

「はい!逃げませんっ!!」

 

「……よし」

 

 ……やっべ、殺すって言いかけた。

大分頭に血が上ってたな。

そんなことよりも――

 

「ライ!大丈夫か!?」

 

「んめめ、目が痛くて開かないッスゥ……あ、あとゲほ!?の、喉ォ!?」

 

「催涙スプレーだ、もう喋らなくてもいい……すまんな、注意が遅れて」

 

 掠った俺でもコレだ。

恐らく、熊用とかだろう。

感覚が鋭いウマ娘にはかなり辛いだろうな。

 

 お、アホの持ち物にミネラルウォーターがあった。

封も切ってないな、新品だ。

これを使おう。

 

「ライ、無線機借りるぞ。あと、地面に寝ろ……膝貸してやるから」

 

「ぼ、ボーナスステージぃごはげへ!?」

 

「お前はほんとうにバ鹿だなあ」

 

 タオルに水を沁み込ませ、ライの顔をゆっくり拭う。

 

「はへぇ、きもち~……ゲホゴホ!?」

 

 ……もう何も言わねえわ。

 

 無線機を起動し、話す。

 

「『こちら山田、侵入者の攻撃により、ライデンオーが負傷。軽傷ですが医師の手配をお願いします』」

 

「『こちらヒメザクラ!すぐに手配する!!応援は送った!!山田サンは大丈夫か!?』」

 

「『問題ありません。ただ、侵入者の方に結構な負傷者が出ました、警告を無視して暴れたので、やむなく』」

 

「『わかった!待っていてくれ!!』」

 

 通信を終了し、ライの手当てに戻る。

……よかった、拭けば落ちるな。

 

「……危険手当が出るぞ、やったなライ」

 

 にへら、と笑うライの顔を見ながら……俺は緊張を解いた。

それにしても、一体なんだったんだこいつら。

 

 

・・☆・・

 

 

「けーびいんさんっ!ライさんが怪我したってほんとっ!?」

 

 合宿所に併設されている医務室。

その部屋の前で椅子に座っていると、廊下の向こうからウララが走ってきた。

もう既に、半分泣いている。

……誰から聞いたんだか。

 

「怪我っつってもなァ、顔面から転んで目に砂が入っただけだぜ?」

 

 これは、社長からの指示だ。

『不法侵入してきた不審者に怪我させられました』なんて、生徒たちに怖がらせちまうからな。

それに……あの後騎バ隊に拘束されたあいつらが、どんな連中なのかもわかってねえ。

 ちなみに、不審者については『問題なく拘束し、警察に引き渡した』ということになっている。

まあ、嘘じゃねえけど。

 それと、トレーナー連中には『決して生徒に漏らさない』ことを厳命させて事実を通達したんだが……

 

「えっ……そーなの!?」

 

「そーなの、ウララも気を付けるんだぞ。つーか、誰から聞いたんだ?」

 

 ウララのトレーナーはそんな情報漏洩しそうな奴じゃないんだが……

 

「友達のセイちゃんが担架で運ばれるの、見てたんだって!それで……」

 

「あー、なるほど」

 

 例の釣りしてた子か。

……俺の大暴れ、見られてなきゃいいんだが。

 

「うーい!ライデンオーは元気ッスよ~♪」

 

 そこに、医務室での処置を終えたライが出てきた。

目が真っ赤になっているが、サングラスで隠している。

……が、もうちょっといいサングラスなかったんかよ。

なんだ、そのファンキーなのは。

 

「ライさん!」

 

「お!お見舞い先着一名のウララちゃんには賞品をあげちゃうッス~!」

 

 ライはそう言うと、ウララをシュパッと抱え上げて肩車に。

 

「わはーっ!高ーい!」

 

「このままアイス食いに行くッスよアイス!病み上がりにはアイスが一番ッス~!」

 

 そして、そのまま長い廊下を走って消えて行く。

……あんだけ動けりゃ、まあ大丈夫か。

 

「さいっ……パイセンも後で追いかけてきてくださいッス~!」

 

「お前今財布って言いかけたろ! ああもうわかったよ!バケツみてえなアイス食って待ってろ!!」

 

「ヒューッ!!ウララちゃん今の聞いたッスか!?風呂桶みたいなアイス食うッスよ~!」「わーいっ!」

 

「規模が倍以上じゃねえかよ!!」

 

 ライとウララは、姉妹みてえにキャッキャしながら去った。

……流石に風呂桶みてえなサイズはねえだろ。

……ねえよな?

 

「相変わらず頑丈なヤツだ」

 

 医務室からヒメザクラが出てくる。

さっきまで、俺達と医者から事情聴取をしていたからだ。

 

「学生時代からそうですよ。子猫を軽トラから守って思い切り撥ねられて……その後豚丼を10杯平らげていました」

 

「バケモンかな?」

 

 ばんえいウマ娘ってみんなそんなに頑丈なんだろうか。

 

「相手がナイフならまだよかったんですがね。並の人間の力じゃ、私達の内臓まで届きませんから」

 

 催涙スプレーが猛獣用っての、理に適ってるんだなあ。

よくよく考えてみりゃ、俺が戦った2人のウマ娘だってそんな感じだった。

自慢じゃないが、打撃の衝撃を『貫通』させる技術ってのは誰にでもできるこっちゃねえ。

 

「……それにしても山田さん、あなた……随分と『使い』ますねぇ」

 

 ぎし、と。

ヒメザクラが俺の横に腰かけてきた。

 

「そりゃあ、腐ってもUSC所属の警備員ですからね。武器持ちの素人くらい楽に転がせますよ」

 

 ……なんか、疑われてんのか?

そんなに変な戦い方はしてねえハズなんだが。

 

「男の顎を外した打撃……アレは空手ですか?」

 

「あれは、たまたま――」

 

 

「――それとも、『討マ流』ですか?」

 

 

 静まり返った廊下に、声が反響した。

 

「……ああ、最近テレビで話題になってるって格闘技ですね。いやぁ、習えるモンなら習いたいですが……残念ながら空手ですよ、地方のマイナーな、空手です」

 

 ヒメザクラの目が、真っ直ぐ俺を見ている。

こっちとしちゃ、何ら恥じることはしていない。

この女が何を考えてるか知らねえが……とっ捕まるようなことはして……して……してねえぞ、たぶん。

社長も『殺さなきゃok』って言ってたし……

 

「そうですか……今度是非、お手合わせをしたいですね」

 

「天下の騎バ隊との組手とは、恐れ多くて震えますね」

 

「ふふ、ご謙遜を。……それでは、また」

 

 ふわりと微笑み、ヒメザクラは席を立った。

最後に俺を、意味ありげに見て。

 

 去って行くその後ろ姿を見ていると、すとんと納得がいった。

あの目は……そうか。

 

「スターラッシュやアトヴァーガとおんなじかァ……」

 

 参ったね、どうも。

騎バ隊の中にも、とんだバトルジャンキーがいるらしい。

 

 色々疲れたが、とりあえずアイスでも食うかな。

ライのヤツ、とんでもねえ量を注文してなきゃいいんだが。

 

 

・・☆・・

 

 

「パイセン、ごちになってるッス~!」

 

「おいしーね、キングちゃん!」

 

「中々の味ね……山田さん!キングに称賛される権利をあげるわ!」

 

「ウエハースと一緒だと、いくらでも食べられちゃうね……おじさま、ありがとう!」

 

「おいし~☆お兄ちゃんも食べればいいのに~♪」

 

「ちょっと……胃がね……胃が……」

 

「すまない、ここで風呂桶いっぱいのアイスが食べられると聞いて……オグリキャップだ、よろしく頼む」

 

 

「(……あんのかよ!!風呂桶ぐれえでけえアイス!!)」

 

 

 

 俺の財布は、死んだ。

なんだあのオグリキャップって娘、ライと同じくらい食いやがった…ウマ娘の、神秘!!




【カレンチャンのヒミツ】
・実は、川添トレーナーのウマッターだけを裏垢でフォローしている。
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