トレセン学園警備員さんは、ウマ娘に勝ちたい。 作:秋津モトノブ
「はい、それでナイフを向けて走って来たので……」
「――ナイフを弾き飛ばし、打撃で失神させた……ということでしたね。はい、これで終了です」
合宿所の一室ににて、俺は警官に聞き取りを受けていた。
例の襲撃から、1日経っている。
相手は騎バ隊の一員である、ばんえいウマ娘だ。
ヒメザクラでは、ない。
彼女は俺から聞き取った話を、報告書にまとめている。
「申し訳ありません山田さん、コレも決まりですので……」
「いえいえ、こちらこそお手数をおかけしまして……それで、捕まった連中はどんな動機で?」
絶対に記者じゃねえし。
あの後探ったんだが、奴らの荷物の中身ときたら……
ナイフにロープ、催涙スプレーに結束バンド……謎の薬瓶にビデオカメラが多数。
何するつもりだったんだか知らねえが、ロクな目的じゃねえ。
「目下じんも……聞き取り中です。黙秘を続けていますが、まあ、そう長くはもたないかと」
今尋問って言いかけなかった?
まあ、いいけどよ。
「おそらく、反ウマ娘の団体だろうと当たりをつけていますが……」
「うわ、まだいるんですねそんな連中」
「U-1トーナメントで、人間選手が勝ったことも遠因でしょうね……」
「ぅえっ!?な、なんで!?」
嘘だろ!?
俺、反ウマ娘思想とか持ってねえぞ!?
むしろウマ娘、大好きなんだが!?
俺の驚きを見た警官は眉を潜め、溜め息をつく。
「……ああいう連中は、自分に都合のいい結果しか見ませんから」
「見下げ果てた連中だ、反吐が出やがる……!」
ぎち、と拳が軋んだ。
気に入らねえな、全くよ。
この後すぐに社長に連絡を取って、会社経由で声明を出してもらおう。
俺の頭じゃどう考えても煽りマシマシになっちまうから、文言は向こうに考えてもらうとするか。
「……ふふふ、山田さんはいい人ですねえ」
何故か、警官はウマ耳をピクピクさせて微笑んだ。
「なにが……大人として、こんなもん当たり前ですよ」
「ふふ、そうですか」
「そうですよ」
その生暖かい目線が、やけにくすぐったかった。
・・☆・・
「パイセーン、調書作成お疲れッス」
「おーう、目は大丈夫か?」
「あんなもん、寝たら全快ッスよ」
部屋から出ると、ライが待っていた。
コイツも別室で聞き取りされてたらしい。
昨日、ヒメザクラに医務室でも聞き取りはされたが、今日のが本番ってヤツだな。
周囲の気配を探り、小声で話す。
「……なんか、あの連中『反ウマ』っぽいらしいぜ。俺が勝ったから盛り上がってんだってよ……しょうもねえゴミどもだ」
「うえ、エンガチョッス。まだいたんすねえ、そんなキショい連中」
『反ウマ娘団体』もっと言えば『人類至上主義』……他の人種差別団体なんかと同じように、潰されても潰されてもゴキブリみてえに湧いてきやがる。
現代でもネットとかで活動してるらしいからな、いつの時代もアホはいるってもんだ。
「ちょっくら社長に言ってキツめの声明出してもらうわ。『無名』があんなアホ共と同じだと思われたら憤死しちまうからな」
「パイセンってウマ娘好きっすもんね」
「人間が嫌いってわけじゃねえが……ウマ娘は愛してるからな、俺」
愛した種族を殴り倒したい……やべえ、文言だけ見ると完全に変態だ。
もうちょっと言い回しは考えねえと……
「ふつつかものッスけど、その、末永くお願いしますッス……」
「種族全体への愛をお前個人に凝縮すんのやめてくんない?濃すぎるカルピスかよ」
ともあれ、今は聞き取りの件もあって仕事中ではない。
早速社長に連絡しよう。
・・☆・・
1時間後。
俺は休憩室の床に死人よろしく寝転がっていた。
体中に倦怠感が満ちている。
「もう表歩けねえ」
「何でっスか~、いいじゃないッスかあ~アレ。さっすが社長っすよ、フヒヒ」
「お前……今俺を笑ったな?」
「そんなフヒヒ滅相もないッスわひゃひゃ!」
「オブラートで包むどころか剥ぎやがったコイツ」
俺の目の前には、タブレットが1つ転がっている。
そこには、我がUSCのホームページが表示されていた。
『弊社所属 無名選手から、各報道機関へ向けて』
『私の活躍を、多くの方に応援していただいていること、まず深くお礼を申し上げます』
『ですが、私の主義主張について明らかに曲解されている記事やSNSの書き込みを目にする機会が増えました』
『そこで、この場を借りて訂正させていただきます』
……ここまではいい、ここまでは。
問題はこの後だ。
『私は、全てのウマ娘を愛しています』
『サラブレッドウマ娘も、ばんえいウマ娘も、格闘ウマ娘も、この世に存在するありとあらゆるウマ娘を愛しています』
『そもそも、格闘イベントに出場していることが何故ウマ娘を嫌っているという捉え方になるのでしょうか』
『この件に関し、私がさも反ウマ娘思想の持主であるかのように捉え、事実無根の風説を流布された場合は、法にのっとって全面的に争う考えです』
『最後になりますが、応援して下さる方々には改めて感謝を申し上げます』
『――そして、こうまで主張したのにも関わらず、いまだ私の真意を曲解なさる方々へ』
『――いつでも相手になりますので、USCへのご連絡をお待ちしております。その際には、正面から拳の返礼をさせていただくので、お覚悟のほど、よろしくお願いします 無名』
最後の文章は、クソデカ字体で記されていた。
社ぁ長ぉ……!
そりゃあ、ここまで言えば俺が反ウマ娘思想じゃないってわかってもらえるけどさあ……
もうちょっとこう……あるだろ!言い方が!!
最後の方なんて、もう完全にぶん殴るからかかって来いって言ってるじゃねえかよ。
「愛ッスよ、愛!」
「うるせえ……」
キャッキャしているライを放置して、半ば這いずるように休憩室を出た。
どこかへ行きたい……遠くへ行きたい……
今日は夜勤だし、夜までふらつくか……
・・☆・・
当たり前だが、外は暑い。
だが、悪いことに合宿所内は……USCが発表した例の声明の話で持ち切りだった。
「愛だって~!愛!」「サラブレッドウマ娘もだって!」「デュフフ、同志のアトモスフィアを感じます……ウマ娘ちゃんを愛でる、同志のッ!ンヒィーッ!!」「トレーナー、デジタルちゃんがまた昏倒してる~」「涼しい所に転がしときなさい」
……こんな感じで。
とてもあんな空間にはいられない。
なので、背に腹は代えられぬ……と、暑いのを我慢して外へ出た。
しばし周囲を散策し……クーラーボックス片手にヤシっぽい木陰に避難したのだ。
「……加減してくれよ、まったく」
麦茶を取り出し、幹に体を預ける。
ああ、こんな時でも麦茶は美味い。
海と空を見つめつつ、ボケっとしている。
そういえば、1人でゆっくりすんのって久しぶりだな……
いや、賑やかなのも嫌いじゃねえんだが。
こういう時間も、悪くない。
「ノォ~~~……」
どうやら、悪くない時間も終わりそうだ。
とぼとぼとした足音と、いつもと違って元気のない声が聞こえた。
たぶんあの子だと思うが、一体どうしたんだろう。
顔を動かして探すと、合宿所の方からこちらへ項垂れて歩く人影。
あの子だ、やっぱり。
「ウゥウ……」
「よう、タイキ。元気ねえなあ」
「ワッツ!?……あ、ヤマダサンデース……ハウディ~?」
「むしろそりゃあ俺のセリフなんだが……」
タイキシャトル。
アメリカからやってきた、元気いっぱいのウマ娘……なんだがな、いつもは。
今日はどうしたことか、耳も尻尾もへにょりと垂れているし……表情にも元気がない。
「熱中症か?とりあえずこっち来い」
「チュウしよう!?ノ、ノウ!それはダメデース!」
真っ赤になるなよ、真っ赤に。
そんなワケあるか!
どんなハイレベルな変態だよ俺は。
「Heatstroke!Heatstrokeだッ!! カモン!」
「お、オ~ウ……そ、ソーリー……」
間違いに気付き、さらに顔を赤くしたタイキが木陰へ来る。
傍らに置いたクーラーボックスから、常備している冷凍ニンジンを取り出す。
『ライ専用ッス!』と書いてあるが、即座にシールを剥がす。
じゃあなんで俺のクーラーに入れてんだよ。
タイキは、無言で俺の横に腰かけた。
……やっぱ、元気ねえな。
いつもはライとハグしながらコーヒーカップくらいに回転してんのに。
「ホレ、冷凍ニンジンと……麦茶な。練習のし過ぎか?無理すっと逆効果だぞ」
「オゥ、ありがとうございマース!デモ、練習で疲れてる、違いマース……」
「ほーん、まあ食え、そして飲め。まずはそれからだ」
タイキは俺から受け取ったニンジンをモソモソ齧っている。
……やはり、元気がなさすぎる。
いつもはゴールデンレトリバーの化身くらい元気だからな。
ん?
いつもは……ってことは。
「ひょっとしてアレか、ホームシックかタイキ」
「!?ムグーッ!!」
「あああ、すまんすまん、麦茶飲め麦茶」
どうやら図星だったようで、ニンジンを詰まらせて目を白黒させている。
ホームシックねえ、納得。
タイキは、アメリカから1人でトレセン学園にやってきた子だ。
初めてそれを聞いた時にはさぞ自立心の強い子だと思ったが……それは違った。
なんでかって?ちょくちょく『寂しいデース!』って言いながら色んな奴にハグしてたからな。
故郷の家族が恋しいんだろうなあ……そりゃそうだ、学生の年齢でたった一人で頑張ってるんだからな。
むせるタイキの背中をポンポン叩いてやると、落ち着いてきたようだ。
「なんか、家族のこととか思い出しちまったのか?だったら電話なりビデオ通話なりして元気出せって」
「ウゥ……無理なんデース……」
「無理?」
「ハァイ……」
それから、タイキはポツポツ話し出した。
なんでも、親戚が入院して大変らしい。
入院自体は大したことがないんだが、今はお見舞いやらなんやらで忙しく……なかなか連絡が取れないとか。
タイキの方も、そんな状態の家族に寂しいとは言えず……今に至る。
なるほどねえ。
「まだ子供なのに偉いねえ、タイキは」
項垂れた頭を、ガシガシ撫でる。
傍から見たらアレだが、俺の中でこの子はウララとかライスと同じようなジャンルにいるので問題ない。
ウララよりもこう……犬っぽいし。
「ウゥ……ノゥ!子供、違いマース!」
「ははは、そう言ううちはまだ子供なんだよ」
しかし、どうしようかね。
タイキみたいな子が元気がないと、どうにも可哀そうでなあ。
……俺はどうやら、ウララとかタイキみたいな『親元から遠く離れて1人で頑張る』娘に弱いらしいや。
「よーしっ!」「Wow!?」
立ち上がって大声を出す。
俺の悩みなんか、この流れで吹っ飛んじまった。
未来あるウマ娘のためだ、ここは……俺が一肌脱ぐとするかね!
「や、ヤマダサーン?ワッツハプン?」
目を丸くしてこちらを見るタイキに、親指を立てる。
「将来のマイルプリンセスの為に、警備員サンがちょっと早目のクリスマスプレゼントだ!」
……流石にちょいと早すぎるか?
ま、いいか。
「ホレ、ニンジン追加な。楽しみにしとけよ~!」
「お、オゥ、センキュー……」
新しいニンジンを渡し、俺は合宿所にとんぼ返りすることにした。
「『……お兄さんがいたら、あんな感じなのかな』」
背後で何事か聞こえたが、たぶん寂しい的なサムシングだろ!
待ってろよ、タイキシャトル!!
懐から携帯を取り出し、コール。
『なんだ、イチロー』
うお早、2コールで出るかよ。
「社長、ちょっと提案があるんですけどね――」
・・☆・・
「パイセン!カボチャOKッス!!」
「よっしゃ野菜終わり!荷台に積んどけ!」
「ウッスウッス!」
カボチャが満載した段ボールを、両肩に2つずつ担いだライが店の外に駆け出していく。
「すみませんね、店長サン。急なお願いで」
この八百屋の店長に頭を下げた。
「いいんだよォ、トレセンさんにはウチの商店街もお世話になってるし……なんか、昨日変なのが出たんだろ?それなら、ウチの野菜を腹いっぱい食って、ウマ娘ちゃんたちには元気出してもらわないとさ!」
「いやあ、ありがとうございます……それじゃ、これで!領収書は『USC』でおねがいします!」
店主にもう一度頭を下げ、タマネギがギチギチに詰まった段ボールを持ち上げた。
「にいちゃんもすげえ力だなあ。ガタイもいいしよ、今話題の格闘家みてえだ」
「……ハハハ!よく言われますよ!!」
一瞬冷や汗をかき、タマネギを運び出した。
俺が思ってるよりも、U-1の注目度は高いらしい。
「パイセンがこの車で来てくれてて助かったッス!便利ッスよね!」
「日頃ボロいだのなんだの言っといて、調子のいいこった」
「それはそれー!これは、これっす!」
清々しい言い訳に、ハンドルを持ちながら苦笑い。
バックミラーから見える荷台には、所狭しと段ボールが並んでいる。
「さあ!次は肉っすよ!肉ゥ!!」
「おう!」
アクセルを踏み込むと、10年来の俺の愛車……ややくたびれたピックアップトラックが、頼もしく吠えた。
あの後、社長に電話した俺は……社長にある提案をした。
「昨日の事件で生徒たちもちょいと不安がってるし、ここらでパーッと宴会でもどうですか?」ってな。
それを受けた社長はしばし考え込み……
「ふむ、いいだろう。イチローのお陰で色々懐も温かいし、提携先へのサービスとして還元するのもアリだな」
と、ゴーサインを出してくれた。
アレだったら俺のファイトマネーを出してもよかったんだが、その必要はなさそうだった。
「ただし、野菜類は近隣の商店街で購入しろ。周辺地域との関係は良好に保っておきたいしな」
というわけで、先程の八百屋を始め近所を回っているってワケだ。
肉類に関しては、ちょいと離れた場所にある牧場へ直接買い付けに行くことになってる。
そこはUSCと提携している場所なので、急な注文でも融通をきかせてくれるとか。
「しっかし、パイセンほんっとにウマ娘好きっスよね~?タイキちゃんのためにここまでするなんて~?」
助手席でライがニヤニヤしている。
脇腹を突くなよ!事故るだろうか!!
「アメリカから来て頑張ってる子なんだ、これくらいなんでもねえだろ」
「ウチも実家を遠く離れた東京で頑張ってるんスよ~?」
「はいはい、社会人でえらいねえ、生きててえらいねえ」
「雑ゥ!!雑ッス!!パイセンの朴念仁!!釣った魚にも餌くれッス!!」
「釣った覚えがないんだよなあ」
喚くライを聞き流し、カーステレオのスイッチを入れる。
『注目の第二戦を制した無名選手ですが……』はい次!
「あの夏の日、戦火に引き裂かれた恋人たちがいた――『必ず、必ず生きて帰る……ウラヌスの所へ!』――実話を基にした、感動のラブストーリー……世代を超えて愛される物語を、新進気鋭のキャストで映画化!」
「『愛の飛越~ウラヌスの物語~』今夏公開!」
お、これもう上映すんのか。
昔の白黒映画、死んだ婆さんが好きだったなァ。
「ウラヌスと大佐、ウチの国じゃベストカップルの代名詞ッスよねえ……障害バの天才、ウラヌスさんとトレーナーである大佐の恋……ウチも子供のころに学校で見てキュンキュンしたッス!」
「キュンキュン、ねえ」
「なんスかその目は!この国のウマ娘は絶対一回はウラヌスさんに憧れるんスよ!!」
まあ、なあ。
プロポーズする前の日に召集されて、ゴリゴリの激戦区で連絡も途絶……でも、それを乗り越えて帰ってきたんだからなあ。
それが実話だってんだから驚きだよ。
「出征する大佐に、ウラヌスさんが尻尾の毛を入れたお守りを渡すシーンは鉄板ッス!」
「俺はアレだな、敵軍に降伏勧告されて『申し訳ないがフィアンセを待たせていてね。捕虜になっていては遅れてしまう』って返すところかな」
超カッコいいけど、本当に実話なんだろうか。
「海外でも人気らしいッスからね。ハンガリーではキンチェムとフランキーの伝記映画に続いて興行収入がトップらしいっスよ」
「1位はさすがに不動だろうけどなー……世界名作劇場『キンチェム』、子供のころに見てたっけな」
レース描写がほぼおまけで、大体列車旅行してる話ばっかだったけど。
後で戦績調べてビックリした思い出があるわ。
なんだよ、54戦54勝って。
未来永劫更新されねえ大記録だわ。
それでいて普段はぽやぽやしたウマ娘だったってんだからなあ。
「ほんと、運命的なモノを感じるっすね!ウチのウマソウルがテンションマックスッス!」
ウマ娘、よくその言い回し使うよな。
……コイツ、そういうスピリチュアル方面は好きなのになんでお化けが駄目なんだよ。
謎である。
そんな話をしていたら、牧場が見えてきた。
よーし、ここで終わりだ。
焼き網や炭は先輩たちが調達してくれてるから、帰ったら早速準備しよう。
・・☆・・
「おーい、タイキ、タイキやーい」
諸々の準備を済ませて、タイキを探す。
合宿所にはいなかったからな、こっちだと思うんだが……あ、いた。
砂浜と岩場の境目あたりで、夕日を見ている。
みんなの前じゃ元気に振舞ってるけど、やっぱり寂しいんだろうなあ。
「タイキ―!タイキシャトルさーん!」
「ワッツ!?ヤマダサン、どうしマシタ?」
「どうしたもこうしたもあるかよ!ホラこい、カモンカモンカモン!」
「ワーオ!?」
タイキの手を引き、合宿所へ戻る。
?顔のタイキを、そのまま中庭へ誘導。
「主役がいなくっちゃ始まらんだろ!さあ、パーティの始まりだぞ!!」
「……oh!!」
そこには、用意されたBBQ用の焼き台がずらりと並んでいた。
ウマ娘のみんなも、既に準備万端って感じだ。
……オグリキャップ!ステイ!まだだ!まだなにも焼けていないぞ!!
「お!これで全員揃ったッスねー!はい、パイセン!タイキちゃんも!」
作業服に着替えたライが、飲み物を渡してきた。
お前これビール……じゃねえな、ジンジャーエールか。
「……ヤマダサン、これッテ……」
タイキが、周囲の状況を察して問いかけてきた。
「BBQだよBBQ、最近暑いからなあ……会社にかけあって準備したんだよ。俺たちも仕事続きでクサクサしてたんでな~!」
「おかえり!けーびいんさん、どーぞっ!」
野菜を満載したトレーを持って、ウララがやってきた。
その後ろにはキングヘイローの姿も。
「タイキちゃんも、はーい!」
俺達2人に箸と取り皿を渡し、ウララはニコニコしている。
うーん、なんだこの天使。
「ウゥ、ヤマダサーンっ!!」「うおおお!?」
タイキが、後ろから体当たりするように抱き着いてきた。
そのまま、背中に顔を押し付けてグリグリしている。
「タイキちゃんどうしたの!?お腹痛いのー?」
「ふふ……ウララさん、アレは嬉しいのよ」
キングヘイローが優しく微笑んでいる。
お?なんか向こうにいるライスが小刻みに振動してんな……腹が減り過ぎたのか?
「タイキ、楽しい楽しいBBQパーティの始まりだぞ?」
「ウゥウ……サンクス、サンクスデース!!」
タイキは、鼻声で感謝を伝えてくれている。
「なーにが……俺ァ焼き肉が食いたかっただけだよ、それだけだ。いつも元気なタイキがそんなんじゃ、肉が美味しく食えないからな~……」
「うーわ!パイセンが照れてるッス!似合わないッス~!!」
「うるせえ!炭食わすぞ炭!」
「直球で酷いッス!?」
タイキはもう一度俺の背中に顔を押し付けると……少し赤い目をして前に出た。
お、元気になったなァ。
やっぱ、ウマ娘は元気じゃねえとな!
「――OK! Let's party!!」
いつものように楽しそうに歓声を上げ、タイキシャトルは皆の輪に入って行った。
「ホント優しいッスねェ、パイセン」
「なんのこったよ」
・・☆・・
みんな、思い思いの場所でBBQを楽しんでいる。
昨日のアレやコレで少しだけ暗くなった雰囲気も、すっかり晴れたようだ。
「おにーいちゃんっ!カレンの特製ソースをどうぞっ♪」
「うわぁ……梅の匂いが凄ォい……ここ最近のカレンの梅推しはナニ?」
「へ?夏バテには梅干しだ~ってお兄ちゃんが言ってたから……もしかして、嫌いだった? うるうる」
「……オレが全部悪い!オレは天下一の大バ鹿野郎だ!!カレンの梅ソース、いやー……最高っしょ!!もっとだ!もっと持ってこーい!!」 「はーいっ♪ うふっ」
川添トレーナー……ブーメランが突き刺さってたのか、なるほどな。
自分の撒いた種だ、甘んじて受けとけ。
「このトウモロコシは美味しいな……いくらでも食べられる……」
「コラオグリ!いっくら山田はんらがぎょーさん買うてきてくれたっちゅうても……限度っちゅうもんがあるやろ!加減して食いや!」
おっと、今日は無礼講だぞ。
そんなことは気にしなくてよろしい!
つい最近知り合ったが、あの子は食ってる時の顔がマジで幸せそうだからな!
いくらでも食え!!
「オグリキャップ!細かいことは気にするな!カサマツ魂を見せてくれ!!在庫は店ごと買ってきたからなァ!!でも他の野菜も食えよな!!そしてタマモマキバオー!お前もいっぱい食ってでっかくなるんだぞ~!!」
「山田さん……ありがとう!!」
「タ マ モ ク ロ ス や ァ !!」
うんうん、子供は腹いっぱい食って幸せなのが一番だ!
そしてすまんな、タマモクロス!!
なんか間違えちまった!
「お、このニンジンが食べごろだな」
焼きニンジン……トレセンに来る前は丸々一本なんて食ったことがなかったが、いざ食ってみると美味いんだよなあ。
今じゃ好物になっちまった。
肉も美味いが、コイツもいいね!
「パイセンパイセン!あーんッス!あ~~~~……」
「ホレ」
「んなぁ~!?!?もごごごごっごご!?!?」
すまんライ、焼きトウモロコシと間違えた。
だがアーンはしたんだからいいだろう?
なんかのたうち回ってるけど。
「(――その時カレンに電流走る♪)お兄ちゃん、ホラお口開けて~?あ~ん?」
「(山田さんこの野郎!色々お世話になってるけどこの野郎!!)ウゥ……カレンチャンカワイイ……むごごごごご」
すげえな川添トレーナー、焼きナスを一気にねじ込まれてやがる。
きっちり梅ソースを塗る徹底ぶり……さすがカレンチャンだ。
「けーびいんさんっ!ウララが焼いたにんじん、どーぞっ!」
ウララが、竹串に刺したニンジンを差し出してきた。
箸じゃないからセーフだな、有難くいただこう。
「おっ、こりゃ悪いな……ン、美味い!ウララはニンジン焼きの才能があるなァ」
「えへへ~」
いい子だなあ、ホント。
爺さん連中よ……こりゃあ無限に甘やかしちまうわ。
「お、おじさま、あの、ら、ライスの、ライスの焼いた……あうぅう……」
お、どうしたライスよ。
ははーん……食い足りねえんだな。
「ほれほれライス、俺がじっくり焼いた飴色タマネギさんだ……ホレホレ、あ~ん」
「ふぁひゃう!?あ、ああ、あ~ん……もむ」
やっぱり腹減ってたんだな。
食いつきがすげえ。
「美味いか?」
「お、おいひぃ……れふ……」
うむ、ヨシ!
今日は全員チートディだ!トレーナー連中の許可も取ってあるしな!
夏が終わったらまたレース漬けの日々が待ってるんだ……楽しまなきゃ損だ!
「離しなさい!離しなさいライデンオーの先輩!公僕だからって容赦しないわよ!ウチのライスに魔の手が伸びてるのよ!!!」
「いや……アレどう見ても親戚のオジサンにご飯貰う子供の図式だから大丈夫ですよ(子供の方はどう思ってるかは知らないけどね……)」
うわ、なんかライスのトレーナーさんが遠くで暴れてる。
誰か酒でも出したのか? いや、あの人はいつもそうか。
「ヤマダサーン!ハウディ?」
「うおっと」
みんなの様子を眺めていると、すっかり元気になったタイキがやってきてハグしてきた。
タレが!タレが零れちまう!
「超ファインだ、タイキは?」
「……ベリーハッピー!とってもシアワセデース!!」
「はは、そりゃあよかった」
皿を近くの机に乗せ、開いた手でタイキの頭を撫でる。
すると、彼女は花が咲いたように笑った。
うん、やっぱり子供は笑顔が一番だな!
「お前さんはな、遠くから来て1人で頑張ってるんだ。寂しかったら遠慮なく回りに甘えたらいい……ここには立派な大人が大勢いるんだからな」
「ヤマダサンも、リッパな大人デス!ダディみたいデース!」
「へっへ、そりゃどうかな?」
とりあえず、答えにくい質問は笑ってごまかすことにした。
……さすがに子持ちの包容力と比べられたら、負けるぜ。
「じゃあ、お兄さんデース!!」
「ありゃりゃ、カワイイ妹ができたもんだなァ」
ま、こういうのもいいか。
たまにはな。
【ライスシャワーのヒミツ】
・実は、山田に食べさせるつもりで大量の材料を焼いていた。食べさせられなかったモノはトレーナーが美味しくいただきました。