ts娘のやつ   作:霜降り 

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 今更なんですけど、伊咲ちゃんは自分が可愛いことも、自分がえっちなこともかなり自覚して動いてます。
 悪女


4

 

 太陽がうざったらしい時間。

 コンビニ(バイトとは違う場所)で買ったご飯を食べて、宏大はスマホを弄り、伊咲はそんな宏大を笑みを浮かべながら見つめていた。

 会話は特にない。

 二人の会話はその仲に反して案外少ない。

 そもそも二人共そこまで積極的に喋るような性格ではない。

 宏大は何を話せばいいか分からなくなるタイプで、伊咲は無言であろうと気にしないタイプの人間なのだ。

 それに、伊咲も宏大も二人共、世界がとても小さい人間である。

 特に喋るようなネタがないというのもあった。

 もっと言えば、二人は近くに相手がいるだけで十分だと思っていた。

 肩が触れ合うような距離で、二人だけ。

 それだけで全てが事足りていた。

 そんな空間で、少し宏大が動く。

 軽く煙草を吸いたくなったのだ。

 片手で器用に箱から煙草を取り出した宏大は、慣れた手つきで火を付ける。

 それを口にくわえたところで、伊咲からの視線に気がついた。

 別に、視線自体はだいぶ前から向けられていたのだけど。

 

「どうした?」

 

 煙を伊咲に向けないように吐いてから伊咲に問いかける。

 

「煙草って、美味しい?」

 

 伊咲が不思議そうな表情で問いかけてくる。

 その質問に、宏大はそういや伊咲は煙草を吸ったことがないことを思い出した。

 未成年なのだから当然、ではある。

 しかし、忘れもしないあの日から伊咲は結構お酒を飲むようになった。

 結構、というか宏大は伊咲のことを酒豪だと思っている。

 本人に自覚があるかは定かではないが。

 なにせ度の高い酒だろうが結構ガブガブ飲む。

 それが悪酔いで有名なお酒でもお構いなしだ。

 しかもそれだけ飲むというのに伊咲が潰れたところを宏大は見たことない。

 むしろ宏大のほうが潰されている始末。

 

 そんなわけで、それだけ酒を飲む上、肉体関係もある、正直に言ってしまえば宏大の中の認識で伊咲は未成年ではなくなりつつあった。

 だから、煙草を吸ったことないということを意外とすら思ってしまった。

 

「……まあ、そこそこだ」

 

 伊咲の質問に軽く答え、煙を口に入れる。

 正直、宏大は煙草がそんなに好きではない。

 美味しいとはあまり感じないし、においもそんな好きじゃない、そして何よりも金食い虫だ。

 だというのに今になっても吸い続けてるのはニコチンの魔力に囚われて、ただやめるということができなかっただけである。

 始めた理由は自暴自棄になってだった。

 酒のように何もかも忘れさせてくれるんじゃないかと、そう思って手を出した。

 それと、体に悪いから。

 生きる意志も、死ぬ意志もなくした人間にとって、それは緩やかな自殺であり、救いのようなものでもあった。

 結局、煙草は救いにはならず、肺炎なんかもこの若さじゃなりもしない。

 なんの意味もなかったわけだ。

 それでも、あのとき、救いを探していた時。

 言い方を変えれば、依存先を探していた時。

 期待外れなんて理由で簡単に捨てることもできず。

 吸い続ければ何かあるんじゃないかと、希望論が過ぎる願いを下に、冷静な頭でそんなわけないと理解しながらも吸い続け。

 惰性のような、中毒のような、もはや煙草に意味も持たせずに吸っている。

 そんなニコチンの味は、あまり美味しいと感じられないのだ。

 ふぅ、と煙を吐き出す。

 当然、灰色であった。

 

「……そっか」

 

 これだけ一緒に過ごせば、伊咲も宏大の仕草一つからその感情を読み取ることができる。

 今のように、伊咲に視線を向けずどこか遠くに視線を向けるのは嫌な思い出を思い出した時の仕草であると伊咲は気づいていた。

 灰皿に煙草をこすりつける宏大、伊咲は軽く答えて何も言わなかった。

 少し、無言の時間が流れる。

 

「煙草、気になるのか?」

「うん、ちょっとだけ」

 

 これもまた意外。

 伊咲は真面目な人間なので、こういうのには興味ないと宏大は思っていた。

 

「たまに、外で吸ってる人いるでしょ?その匂いが、結構好きなの」

「ふぅん、珍しいな」

 

 煙草の匂いなんて嫌われて当然だと思ってた宏大からすれば、煙草の匂いが好きだなんて珍しいと思った。

 なにせ、吸ってきた側である宏大は煙草がどれだけ世間から嫌われてるか身にしみて知っている。

 それに、煙草の匂いなんて宏大自身好きじゃない。

 

「臭いけど、なんか癖になるの……たまにしか嗅げないけど」

「副流煙は、健康に悪いぞ」

「知ってるけど、宏にぃに言われたくないかも」

 

 まあ、現在進行系で煙草を手に取ってる人間から煙草の危険性を伝えられたところで説得力が欠片もないのはその通りだ。

 

「今なら、宏にぃの近くにいるだけで嗅げるね」

「やめとけよ。ホントに健康に悪いからな」

 

 わざとらしく鼻を鳴らす伊咲が可愛くて頬を緩めつつ、それはそれとしてしっかりと宏大は注意する。

 

「じゃあ、宏にぃの匂い嗅がせて」

「……ん、まあいいけどな」

 

 副流煙よりはましではある。

 しかし宏大からすると自分の匂いの何がいいなんて分からない。

 毎日最低限シャワーは浴びているし、一応接客業のバイトをしているため人として最低ラインの清潔感は保っているが、それでもいい匂いではないだろう。

 なんて思いながらも許可すると、伊咲は宏大へ頭ごと飛び込んだ。

 

「……臭いだろ」

「癖になる」

「それは臭いってことか」

「僕は好きだよ?」

「……そうか」

 

 臭いということは否定しなかった伊咲になんとも言えない気持ちになる。

 もう少し体臭を気にしたほうがいいのかもしれない、なんて宏大は柄にもなく思うのだった。

 

「匂いフェチなのか?」

「そうかも、でも宏にぃの匂いは特にだよ」

「嬉しいけどちと複雑だ」

「特にここは……んふふ」

 

 股に潜り込む伊咲に呆れてため息が漏れる。

 またこの流れかと思った宏大だったが今日は気分が乗らなかったのか伊咲はそのまま仰向けに寝転がり膝枕のような形になった。

 

「いいのか?」

「うん、こうやって話す時間も大事だと思うから」

「……そうか」

 

 その言葉に宏大はほんの少し笑みを浮かべ、また少し顔を歪める。

 伊咲が、求めてこなくなるということは伊咲の精神が段々と回復してるということだ。

 それは宏大にとって喜ばしいことだった。

 しかし、同時に、それを残念がる自分もいて。

 自身の汚い部分を明確に自覚させられて、とても憂鬱な気分になるのだ。

 きっと伊咲は頼めばやってくれるけど、それを頼めば伊咲の依存心を利用してるような気がして嫌だった。

 

「宏にぃはさ、僕の匂い嫌い?」

「嫌いじゃねぇよ」

「吸ってもいいよ?」

 

 同じシャンプーを使っているというのに、伊咲からは甘い匂いがする。

 そんな匂いを自分から嗅ぐようになってしまえば、中毒になってしまいそうで。

 その中毒性はニコチンなんて軽く超えるだろう。

 サキュバス、なんて言葉が本当に似合うのだ。

 

「……やめとくよ」

 

 だから、宏大はそれを拒否した。既に手遅れなのは気づいていたけれど。

 伊咲が少し顔を俯かせる。心が潰れたかのような気分だった。

 それから、また少し静寂に包まれる。

 夜、運動したからか膝の上の伊咲は少し眠そうだった。

 

「……吸ってみるか?」

 

 静寂の中、切り出したのは宏大だった。

 煙草を取り出して、伊咲に吸ってみるか提案する。

 先程聞いてきたあたり気になったのだろうし、試しに吸ってみてもいいだろう、そう思った。

 それと、なんだか気まずくて話をそらしたかったのもあった。

 未成年に煙草を進めるなど、犯罪もいいとこであるが……まあ、今更である。

 

「……うん」

 

 伊咲は煙草を見つめ少し悩む様子を見せたあと、起き上がり宏大からその白いものとライターを受け取る。

 そして、固まった。

 

「伊咲?」

「吸い方分かんない……」

「……そりゃそうか」

 

 飲むだけの酒や、誰も守らない十八禁などと比べれば煙草の吸い方なんぞを知る機会などそうそうないだろう。

 宏大も自身が初めて吸ったときはこんな感じだったなと思い出す。

 言われてみれば当然のことであった。

 

「えっと、吸うん、だっけ?」

「いやまず……あー、一から教える。一応、火使うしな」

 

 迷ってるのか手元のおぼつかない伊咲に宏大は手を化す。

 昔ならともかく、今この時間を、二人で緩くて軽い、どうでもいいような時間を、火事なんてしょうもない理由で失いたくなかった。

 

「まず、こっち側に火を付ける」

 

 指指しをしながら、宏大はわかりやすく伊咲に伝える。

 火が怖いのか、伊咲は少し体を縮こませながら煙草に火をつけた。

 

「そしたら口に咥えて吸う」

 

 ゆっくりと口に持っていく伊咲。

 咥える直前、少し躊躇したように見えたが、覚悟を決めたのか煙草を口に咥える。

 

「ゆっくりな」

 

 宏大の言葉に伊咲は従いゆっくりと吸う。

 ふと、宏大は昔を思い出す。

 昔、確か宏大が高校を真面目に通っていた頃。

 本当に短い合間だったが、伊咲の家庭教師のようなことをしたことがあった。

 その時もマンツーマンで今のように教えたのだ。

 伊咲は宏大の説明も丁寧にノートに取っていた。

 やはり、真面目で、まともな人間なのだ。

 それは墜ちてしまった今でも変わらないようだ。

 

(やっぱ伊咲は、伊咲なのか)

 

 なんて、宏大は少し思った。

 

「そしたら煙を吐く」

「ふー……けほっけほっ!?」

 

 ここまでは順調だったが煙を吐くと同時に伊咲が大きく咳き込む。

 けほっけほっと咳き込む伊咲に、宏大はこんな可愛い咳き込み方ってあるんだな、と思いつつ大丈夫か?と声をかけた。

 

「うあっ……喉が痛い」

 

 涙目になり、喉を抑える伊咲は可愛らしく庇護欲を抱かせる。

 そんな伊咲を宏大は思わず撫でる。伊咲は特に抵抗もせずそれを受け入れた。

 

「あう……失敗しちゃった」

「ま、初めてだとそんなもんだよ。俺もそんなもんだったし」

 

 案外煙草を吸うにも慣れがでるもので、宏大も初めの頃は伊咲のようになっていた。

 それでも吸い続け、今に至る。

 

(数少ない俺が極められたものか……)

 

 煙草の吸い方なんて、何に活かせるというのか。

 そう宏大は自嘲した。

 

「宏にぃも、失敗したの?」

「ああ、俺も……吐くときにな」

 

 宏大は喉に手を触れる。あの時の痛みが走ったような気がした。

 そんな痛みを跳ね除けたくて、コップに入れていた水を一気に喉へと流し込む。

 

「そっか……うん、宏にぃも同じ、なんだね」

 

 にへら、と伊咲が笑う。

 その笑みは純粋無垢な恋する乙女のようで、それが自分に向けられているということが、宏大は少し嫌だった。

 

 

 

「そういえば……」

 

 また、無言の時間が流れて少し。

 伊咲はまだ痛みがあるのか喉の調子を確かめながら言葉を切り出した。

 

「さっきから、スマホでなにを見てるの?」

「ん……ああ」

 

 宏大はあまりスマホを触らない。

 ゲームはしないし、連絡先もバイトとあとは本当に仲の良かった高校の友達が一人、そして最後に連絡を取ったのがいつかわからない親くらいのもの。

 スマホで何かすること自体少ないのだ。

 そんな彼がスマホを熱心に見てのだから伊咲はなにをしてるのか気になった。

 

「服見てた」

「宏にぃの?」

「いや、伊咲の」

 

 宏大はスマホから目を離して、伊咲の方をちらりと見る。

 今の彼女はブカブカのパーカーを身に着けている。

 そのパーカーは伊咲のものではなく、宏大のものだった。

 宏大ですら少し大きいほどのパーカーは宏大と身長差が激しい伊咲が着ればさらにブカブカになる。

 袖は萌え袖どころではないし、彼女の胸の大きさがあってしても股下まで届いていた。

 そんな股下は生脚で彼女は何も履いていないように見える。

 普通なら見えてないけど、下にホットパンツを履いてるタイプのファッションと思うことだろう。

 実際は、本当に履いていない。

 ズボンとかスカートどころか、下着すら履いていない

 完全にパーカー一枚、とんでもない服装だが、しかし伊咲は普段からこれであった。

 これは別に伊咲が裸族だとかそういうわけではない。

 単に服がないのである。

 男一人暮らし、女っ気もない宏大の家に女性用の服なんてあるわけもなく(あったところでかなり男好みな体つきの伊咲にサイズが合っていたかというと怪しい)

 上に関してはまだどうにかなった。

 サイズが合ってないにしても着ることはできるのだから。

 問題は下である。

 宏大はかなり細身だ、それに対して伊咲は肉付きがいい。

 それなので伊咲は宏大の持っているズボンを履こうとすると太ももあたりで引っかかる。

 ゆえに伊咲は今までずっと下は何も履かずに過ごしていた。

 

 が、しかしずっとそういうわけにも行かない。

 服がなければ外に出ることができない。衛生的にも、今更だが倫理観的にもあまりよくはない。

 なので、せめて一着、それと下着くらいは買おうと宏大は思っていた。

 

「あ、そっか。服着ないと、ね」

「お前な……」

「なんか、慣れちゃってた」

 

 どうやら伊咲はもう慣れきって何も感じてないらしい。

 昔からマイペースを発揮する時の伊咲はかなり酷い言動をすることがあったがそれは女になっても変わらないらしい。

 

「でも、宏にぃは、着てないほうが好きでしょ?」

「そういう問題じゃないだろ……」

 

 まあ、否定はしにくいのだが。

 それはそれとしても、宏大としては伊咲にはもっとオシャレをしてほしい気持ちもある。

 だからこそ、今服選びに難儀してたりするのだが。

 

「なあ、伊咲。お前女の服ってわかるか?」

「……全く」

 

 ほんの少しの期待は残念ながら無意味であった。

 男と元男、二人とも女性経験など全くなく。

 女性の服装など知識ゼロもいいところであった。

 宏大が先ほどからスマホを手放せないのはそれだ。

 どれもこれもよくわからなくて、延々と迷い続けることしかできないのである。

 下着はまだいい。サイズに合わせるだけだ。のちのち伊咲のサイズは測るつもりだ。

 しかし、服は厄介だ。なにせ、宏大という人間にファッションセンスはない。

 あと、値段もだ。女性の服は高く宏大の指を鈍らせるには十分すぎた。

 

「別に、適当でいいよ?」

 

 伊咲はそう言うが、そういう問題ではない。

 適当が分からないのである。

 というか、宏大としては伊咲という最上級の素材に適当な服を着せるのには抵抗があった。

 

「伊咲もちょっと手伝ってくれ。俺一人だと一生決まらなさそうだ」

「ん、わかった」

 

 体を密着させ、伊咲が宏大のスマホを覗き込む。

 相変わらずの距離の近さだが、今更宏大も反応はしなかった。

 

「……よくわかんない」

 

 二人で服を見始めて少し経っただろうか。

 先に根を上げたのは伊咲だった。

 

「もう少し耐えてくれ」

「だってよくわからないし……ねえ、宏にぃは僕にどんな服着てほしい?」

 

 む、と宏大は伊咲に言われて悩む。

 改めて様々な服を思い浮かべ脳内の伊咲に着せてみるが、なかなかこれといったものが見つからない。

 似合わないとかしっくりこないわけじゃない。

 むしろ逆、伊咲という素材が良すぎてどれも似合ってる。

 だからこそ選べない。

 選択肢が多いゆえの苦悩だった。

 そんなところで、ふと宏大は思う。

 

「伊咲は、あー、女性の服に対して抵抗とかはないのか?」

 

 伊咲は元々男だったわけで、普通に考えれば女性の服装には抵抗感があるだろう。

 そのことを失念していた宏大は慌てて伊咲に確認した。

 

「……んー、別に、大丈夫、それより、宏にぃが着てほしい服のほうが嬉しい、し」

「そうか……」

「正直、今更、かも」

 

 どうやらないらしい。

 安心と同時に縮まらない選択肢に宏大は頭を抱えたくなった。

 画面に映る服、可愛らしいものからかっこいいものまでどれもこれも伊咲なら似合いそうで選べない。

 

「本当に、なんでもいいんだよ?宏にぃが選んだやつなら、なんでも着るから」

 

 そんな宏大をみかねてか、伊咲が少し申し訳無さそうに言う。

 その言葉に宏大の脳内の伊咲がバニー服とかスクール水着を着用し始めたが、宏大は鋼の意志でその雑念を遠くへと蹴り飛ばした。

 すごく見てみたいけど、すごく。

 

「宏にぃ……?」

「いやなんでもない」

「?」

 

 脳内の出来事ながら常に宏大を見つめている伊咲にはほんの少し違和感を持たれたらしい。

 不思議そうな表情を浮かべる伊咲に宏大は謎の罪悪感で早口で誤魔化した。

 それがなお、伊咲に違和感を与えたのは言うまでもない。

 

「……そんなに悩むのなら、もう抽選で決めちゃったら?」

「んん……まあ、それもありか」

 

 伊咲の提案。

 既に服を探し始めて一時間ほど経っているわけで、まあそんな提案が出てくるのも当然だった。

 宏大とて、こんなことに無駄に時間をかけるものではないと思っている。

 故に同意することにした。

 どうせ、きぐるみとか引かない限り伊咲なら着こなせるのだから、ランダムでも問題はない。

 

「目を瞑りながらスクロールして、適当に押す、みたいな」

「それでいいか」

 

 伊咲の言う通りに宏大が動く。

 目を瞑ると、視界という情報が消えそれ以外の感覚がより研ぎ澄まされる。

 伊咲の甘い匂いがした。

 それと同時に指をスマホに押し付ける。

 指していたのは……

 

「あー……」

「んー?」

 

 黒を主体に、リボンなどの飾り付けが沢山なされた服。

 つまり、俗に言う地雷服というやつであった。

 これには宏大も苦笑いである。

 流石にこれは癖がつよいにも程がある。

 伊咲ならまあ、着こなせるだろう。宏大が試しにこれを着た伊咲を想像してみるとなかなか悪くない。

 とは言え、これは伊咲も嫌がるだろう。

 そう宏大は思っていた。

 

「これにする?」

「……お前、どうでもいいと思ってないか?」

 

 しかし、案外伊咲は嫌がっていなかった。

 別にこれを着たいというわけでもないみたいだが。

 それはつまり、興味がないということだろう。

 果たしてそれは服装なのか、自身なのか。

 

「だって、そんなことより」

 

 突如、首筋に伊咲が抱きつく。

 宏大の体に体重がかけられて、伊咲の柔らかい胸が宏大の体で潰れた。

 ここまで密着すれば、なれた宏大でも少したじろぐ。

 伊咲の頬は上気して、目は細く、上目遣いで宏大を見つめていた。

 

「……せめて、服選んでからにしないか?」

「宏にぃは、この服着た僕が嫌い?」

「そんなこと……」

「じゃあ、僕はそれでいいもん」

 

 伊咲の様子に心の底からそう思っていることを理解した宏大は軽くため息をついた。

 まあ、伊咲なら着こなせるのは間違いないし、値段も予算に収まっている。別にいいだろう。

 それに、誘われてしまえば宏大も遠慮の必要がなくなる。

 向こうから誘ってきた、そう言い訳できる。

 

 スマホを閉じて、伊咲に触れる。

 

 そのとき、スマホがなった。

 

 甲高い、不愉快な音と共に、震えるスマホがガタガタと音を鳴らす。

 伊咲が、顔をしかめる。宏大も顔には出さないものの同じ気持ちだった。

 宏大にわざわざ電話をかけてくる人間なんていない。

 故に間違い電話だろう。なんて運のない。

 そう宏大は思って、スマホを手に取り電話を切ろうとして

 その見覚えのある番号に息を呑んだ。

 

 それは、伊咲の家族の電話番号だった。

 

 






 実のことを言えば、この小説は男とイチャイチャしてる地雷服のts娘が書きたかっただけなんすよねぇ……
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