心が死んでるトレーナー   作:影後

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第三話甦るトレーナー

その日、学園のトレーナーは騒いでいた。

古くから居るトレーナーは何処か感慨深そうに、新人のトレーナーはその姿に何処か奇抜さを感じている。

その人物をみるためか、校門前にはウマ娘だけでなくトレーナーも混じった人だかりができている。

 

「うむ、退いてくれんかね」

 

「何を……すみません」

 

前を見ずにぶつかったのはアンタだと、新人トレーナーは言いたかった。しかし、相手は180cmを越える巨漢。更に鍛え抜かれた肉体が服を着ていてもわかる。

チェック柄のシルクハットを被り、白のロングスーツにスラックスに赤いシャツに革靴という似つかわしくない風貌。

 

「ふむ…新人かね?」

 

「はい、あの」

 

「まぁ、頑張り給えよ」

 

「一体何の騒ぎですか!」

 

そう言いながら、緑服の女性が走ってくる。

そして、その姿をみると口元を押さえてしまう。

 

「さて、私は行かせて貰うよ。生憎だが、君達に構っていられるほど暇ではないのだ」

 

男はそう言いながら、トレセン学園内部へと進んていった。

男はシルクハットとロングスーツをポールハンガーへと掛け、引き出しから書類を出す。

仕事はトレーナー室でのみ行うという矜持、自分の時間に仕事を持ち込むことはしない。

 

「兄さん!」

 

「ふむ、レディが声を張り上げる物では無いだろう。珈琲でも飲むかね?生憎だが、ワインクーラーは未だ無くてね。是非とも返して欲しいのだが」

 

「なんでその服で来たんですか!また、トレーナーに戻ってくれるんですか!」

 

「質問は一つづつだってばさ、たづな。まず、私はアグネスタキオンのトレーナーなのだ、マルゼンスキーから託された。ならば、私は戻ろう。たとえ心が燃えなくとも、灰となって居ようとも、私は……幻とスーパーカーを鍛え上げた男だよ?」

 

朝食なのかサンドイッチに胡椒を振り掛け食べている。

 

「はっ…はっく」

 

「なぁ?!」

 

椅子が後ろに倒れ、隼人も机に隠れる様に倒れていく。

たづなが驚き机の後ろを確認した頃には既に隼人は居らず、彼女の後ろに立っていた。

 

「まったく、それに私は数年前からトレーナーなんだがね」

 

「いえ、あまりにも驚くことが多く。兎に角、私からもこの言葉を。おかえりなさい、駿川トレーナー。貴男のご帰還を心より祝福致します」

 

たづなは目尻に涙を浮かべながら、苦しそうに言ってのけた。

 

「うむ、泣き虫は変わらんな。ミノル」

 

帽子の上から優しく撫でるとスカートに隠された尻尾が暴れる様に動いている。

 

「いえ、これはその!」

 

「ふむ、変わらず私が大好きなのか。まったく、恋人の一人でも作れば良いものを」

 

「…むっ独身の兄さんがそれを言いますか?」

 

「これは一本取られたか、さて仕事に戻りなさい。私も、これから大事な書類仕事があるのでね」

 

「うん、おかえりなさい。兄さん」

 

「ただいま、ミノル」

 

たづなは恥ずかしさを隠すようにトレーナー室から離れていった。隼人は静かな準備を始める。アグネスタキオン、マンハッタンカフェに贈る勝負服。

 

「予算に上限はかけん、二人への私からの初めての贈り物だろう。採寸と日程の調整もしないといかんか」

 

授業が終わり、隼人は掛けていた上着とシルクハットを被りタキオンとカフェの研究室に向かっていた。

 

「あらぁぁ…やっぱりトレーナーはその姿がグッ!ね!」

 

「なに、後はワインが有れば完璧だが」

 

奇抜な格好のトレーナーに生徒達は驚きを隠せない、だがマルゼンスキーと意気揚々と話す姿に彼女の後輩達は誰であるか理解した。

 

「ではな、マルゼンスキー」

 

「もう、子供じゃないわよ」

 

頭を優しく撫でられ、何処か名残惜しそうにマルゼンスキーは離れていく。そして、隼人は不穏な空気の漂う教室の前に立つ。

 

「なんだ……この気配は」

 

どす黒い何かが教室の中に居る。おぞましい何かが。

 

「呼吸を支配するのは恐怖、だが恐怖を支配したとき呼吸は規則正しく乱れない」

 

淡々とそう言いながら波紋の呼吸を行う。

そして、教室の戸を開けると部屋の隅で怯えているタキオンと血走った目をしているカフェがいる。

 

 

「はぁ……五月蠅いな…………墓の下に行きたいのか?」

 

「カフェ…許しておくれよ。今までの事は謝るから……カフェ……」

 

「てめぇのその喉仏に喰らいつきたいが……先に仕留めるやつが居る」

 

「なに?!」

 

カフェはあり得ない速度で床を蹴り、隼人の肉体を吹き飛ばす。

 

「ごはっ……」

 

廊下に打ち付けられ、大量の血が吐き出されスーツを赤く染め上げる。

並の人間ならこの一撃で葬られていただろう、しかし隼人は並の人間ではない。

 

「こぉぉぉぉ」

 

「生きてんのか……まぁ良い。あの世に行け!」

 

「ふっ!我が血のついたスーツ、コレに波紋を流せない道理はなし!」

 

「何?!てめぇ、何をした!」

 

「そのスーツには私が吐き出した血が混じっている。血は人間の生命の源!それに波紋をながし、染み付いた繊維を波紋で強化したのだ!今、お前が殴っているものは、ダイヤモンドよりも硬い!」

 

「ざけんなよ…ヒトミミガァ!!!」

 

「ぬぅ?!」

 

カフェの肉体を操っている何者かは再び拳を突き出す。

波紋を流した腕で受け止めた隼人は理解した。

溢れんばかりの怒りの中に、恐怖と苦しさ、寂しさが隠れている。

 

「まさか………この様な」

 

「てめぇ、呼吸が大事とか言ってたよな」

 

「なっ……」

 

「こうして、肺に一撃入れれば………終わりだ」

 

ウマ娘の本気の蹴りだった。流れ出た感情に気を奪われた一瞬の隙をつき、カフェの肉体を操っている何者かは素早い蹴りを隼人の肺に行った。

 

「トレーナー君!カフェ!もうやめろ!トレーナー君が死んでしまうぞ!!」

 

「五月蝿え……俺は、俺はヒトミミって奴が嫌いなんだよ!」

 

「よせ……タキオン。私はまだ…無事だ」

 

そう言うが、波紋も練れず、呼吸もできない。

身体に残っているのは一呼吸分のみ。、

 

「山吹色の波紋疾走!」

 

「ふん、拳など」

 

「馬鹿め」

 

「キャァァァァァ」

 

山吹色の波紋疾走の波紋疾走がカフェに流れる。

だが、隼人はカフェに触れていない。触っていない。

だが、タキオンは見た。隼人から流れ出ている大量の血を。

普通の人間なら出血多量で死んでいてもおかしくないほどの血の量。

そして、その血はカフェの靴と隼人の靴を繋ぐほどの水溜りとなっていた。

同じ手だった。スーツと同じだ。タキオンも波紋を腕から流す物だと思っていた。実際、それしか見ていなかった。隼人は波紋を足から流し、血溜まりを使ってカフェへと山吹色の波紋疾走を流したのだ。

 

「カフェ!大丈夫かい!」

 

倒れゆくカフェをタキオンが抱える。

だが、それ以上に重症なのが隼人であった。

 

 

「……不味いねぇ、血があり過ぎるよ」

 

「なら、俺等に任せな」

 

「先程の……ではない。お友達か」

 

弱々しい声でそう言う隼人にお友達は答える。

 

「タキオンの嬢ちゃんも悪かったな。あの人が出てくるとは思わなかったんだよ。まぁ、アンタの波紋を受けて今は消えた。俺もカフェが暴れるのは見たくないんでな。ちゃんとみとくぜ?んで、血だが俺等怪異に任せな。カフェを守りたい奴は沢山居るんだ。血を消せるやつもいる」

 

「…まさかこうして非科学的な存在と会話するとは。だが、廊下のアレはどうするんだい?」

 

「お前の悪評でどうにかしてくれや」

 

「はぁ、また生徒会長から文句が来る」

 

「…その時は私の財産で直すとしよう。そしてだ、タキオン。後は頼む」

 

そう言うと隼人の目から光が失われ、まるで死体のように冷たくなり倒れる。幸いにもお友達が受け止めた事でダメージはない。

 

「んじゃ、カフェのソファに寝かせておく。タキオンの嬢ちゃん、悪かったな」

 

隼人の血がべっとりとついたスーツをタキオンに投げ、お友達は簡単な手当をしていく。

 

「俺は神様って奴は信じないけどな。お医者様は信じてる、コイツはある意味医者だ。なら、俺様が信じない道理はねぇ」

 

「……聞きたい。君は誰なんだい?」

 

「こっちの世界に来れなかった哀れな魂だ。彼奴もそうだ、まぁ血縁ならシコタマ居るくせにな」

 

「……こっちの世界?つまり」

 

「おっと、それ以上は言うな。俺もお前も消えたくねぇだろ、安心しろ。お前も俺が守るべき存在だ。だが、ふざけ過ぎんなよ。また研究資料燃やすからな」

 

お友達はそう言うとカフェの身体をソファの空いた空間に座らせる。

 

「一つだけ言ってやる。紅茶なんてやめろ、大英帝国って奴らは紅茶の飲み過ぎで衰退したんだからな」

 

「ソレは余計な御世話だねぇ、コーヒーなんて泥水飲みたくないねぇ」

 

タキオンとお友達の間に何処か雷撃が走ったように見えるが、お友達は目を閉じる。

 

「んじゃな、俺は寝る。カフェが起きたら、説明してやれや」

 

「まったく……今日だけで私は疲れたねぇ。でも、科学じゃ理解できない世界。広めたくはないねぇ」

 

 

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