一頻り生徒会への報告を済ませたアグネスタキオン。
壁にできた人間の跡など疑問点は多かったが、実験による被害者が2名いた事でタキオンに対する普段と変わらない対応をした生徒会長シンボリルドルフの温情で、簡単な事情書の提出を求められるだけだった。
「くっ……アレ、私は」
「起きたのはカフェかい?それともお友達かい?」
「タキオンさん、何言ってるんです?
「その感じはカフェか……良かった」
タキオンはカフェが起きるまでにあった事を事細かく説明する。
普段の自分とは違う態度、それどころか荒らされていた自分達の部屋を掃除しているタキオン。
血の着いたスーツを着ている隼人、全てが本当だと身振り手振りで教えるお友達に顔が陰る。
「今朝、夢を見たんです。知らないトレーナーに打たれ続ける夢を。助けて、苦しい、なんで……そうずっと感じていました。
そして、その時の私は我慢が出来ずつい殴ってしまったんです。
その後、私の事をそのトレーナーは犯罪者と呼びました。
私の言葉は何処にも届かず、ただ犯罪者と罵られ……」
カフェは震え、両肩を押さえてしまう。
実体験の様な夢、まるで実際に起こった事のように感じてしまう。タキオンはそんなカフェを宥めながらメモを取る。
「う~む、この手の事は私は専門外すぎる。せめてトレーナー君が起きてくれたなら」
「……」
そう思い隼人の方に顔を向けるが未だ起きる気配がない。
幸いなのは呼吸は安定していることだろう。
「それで?お友達はその霊の事を知っているようだったが……」
「わかりません、お友達は私と彼女にとって大切な存在だと伝えてくれています」
「……カフェに取り憑いて話をしてくれたがね。今のお友達はどうだい?」
カフェの視線の先では首を振るお友達が見える。
どうやら話す気はないようだ。
「駄目なようです」
「残念だ」
気絶している隼人は夢の中で一人の紳士と出会っていた。
「ふむ……まだヴァイキングではないようだ」
「貴男は……ツェペリ男爵」
隼人と同じ風貌をした紳士、ウィル•A•ツェペリ男爵。
ジョナサン・ジョースターの波紋の師匠である。
「独学で良くやったと思うがね、それじゃあ1人前にはなれんよ。実力はあるが心ができていない」
「心とは」
「呼吸を乱すものは?」
「恐怖です、そして支配し、勇気と」
「違う。『勇気』とは『怖さ』を知ることッ!
『恐怖』を我が物とすることじゃあッ!」
ツェペリはズームパンチで隼人の顔面を殴り飛ばした。
「ゴバァ」
床に落ち、唇に着いた血を拭う。
「この波紋……ダメージを与えるためではない。傷が即座に修復している、それどころか体が……軽い」
「学ぶのだ、波紋が何であるか!
波紋法の呼吸は『勇気』の産物!人間讃歌は『勇気』の讃歌ッ!!
人間のすばらしさは勇気のすばらしさ!!その身で受けよ。山吹色の波紋疾走」
ツェペリは一撃を隼人の胸に打ち込む。
「これは……波紋、心地よい。まるで、まるで幼い頃、母さんに抱かれていた時の様な温もりを感じる。等しく忘れていた、何かを感じる」
「目覚めるのだ、君はまだヴァイキングを育てて居ないだろう」
ツェペリは自身の帽子を投げ渡し、闇の中へと消えていった。
「ん……おや、どうやらカフェが帰ってきたようだね」
「起きたのかい!トレーナー君!」
「つぅ…肋骨が折れているな…こぉぉぉぉ」
隼人が波紋呼吸法を行えば、その肉体が一瞬だが輝き痛みを消した。それどころか、骨折すら治っている。
「あの、すみませんでした。トレーナーさん、これは私の不手際で」
「はて、何かあったかね?私は少なくともカフェから何かされた記憶はない。タキオン、君はどうだい?」
「問題ないさ、片付けは今終わったからね。ソレよりもだ、カフェ。私に話したことをトレーナー君に話したまえ」
タキオンに促され、カフェは自身が夢に見た内容を話した。
タキオンに話した時と同じだ、底しれない恐怖。
まるで自分自身の体験かのように感じてしまう。
苦しく、涙が止まらなくなってしまう。
「落ち着くのだ、カフェ」
隼人は優しく波紋を流しながらカフェの頭を撫でている。
「……カフェ、君は言わばイタコだ。聞いたことはあるかね?東北地方の所謂シャーマンの一種だ。イタコは、本来なら口寄せにより、先祖の霊や死んでしまった友人、知人、肉親など死者の世界 (あの世)と現世(この世)に生きる人の仲立ちとなって今は亡き人の意志を伝達する存在だ。カフェ、君はその力が強すぎるのだ」
「……イタコ」
「ソレに……カフェ。君に取り憑いた存在はある意味君の血縁とも呼べる存在だよ?」
「……私のですか?」
「正確にはタキオンや他にも」
「あっ………トレーナーよ。それぐらいにしといてくれや」
カフェではない、隼人は直ぐにわかった。
「ふむ、やはり君は私と同じというわけだな」
「アッチ側の話はなしだ。あの人のこともだ」
「わかった。詫びではないが、メジロマックイーンの写真集を後で贈ろう」
「まじか!お前最高だな!」
「…トレーナー君。これは……お友達なのかい?何故、マックイーン君の写真集が」
「……深く気にすることはない。タキオン、もしお友達の協力が欲しいならマックイーンの秘蔵写真やらを供えれば協力してくれるはずだ。」
「……カフェすら知らないお友達の正体や、取り憑いた悪霊の正体を知る君を私は段々と疑わしく思えてくるよ。わかるかい?信用はしているさ、でも信頼が歪む」
タキオンはじっと隼人を睨むが、隼人は何も言わず微笑む。
「んっ……すみません。眠っていたようです」
「一つ言えるなら私はTRAVELERという事さね。タキオン、君ならば何時か答えに辿り着けると信じているよ?」
「……良いだろう、その挑戦を受けて立つさ」
「?」
カフェはキョトンとしているが、タキオンは隼人の言葉を深く思案する事になる。
「兎に角だ、日頃の為にメジロマックイーン写真集は取っておこう。他にもニュースとかも良いかな?研究資料が燃やされないに越したことはない」
隼人の視線の先では赤羅様に発狂し喜んでいるサンデーサ…もといお友達の姿が見える。
もう一人、ヘイローと思える幽霊がサムズダウンしている。
「ヘイロー、せめて君の魂が救われることを祈る」
ヘイローは一瞬、驚いた様子を見せたが瞬時に憎悪の視線を向けて消えた。お友達もヤレヤレといった姿だ。
「そういえば、トレーナーさんの本来の要件はやはり」
「カフェを見たかった…のだが、時間が経ちすぎている。門限まであと30分では難しい。まったく……ヘイローめ」
「ヘイロー?」
「さて、私は戻る。明日はカフェ、君の走りを見せてもらうよ。無論、限界の走りだ。安心したまえよ、波紋で疲労も苦しさも治療する。そして、タキオン、これは君にも関わりがある」
「なんだい?正直、君のヘイローという言葉のほうが」
「君達の勝負服のデザインだ、そのデザイン案を出してもらう。わかるね?メイクデビューまでに仕上げるならば最低1ヶ月前には提出しなければならない。それだけではない、デザイナーとのやり取りが終われば学園に予算として申請しなければならない。つまり、時間がない」
「……そうか」
「君のデビューは12月だがね、勝負服の走り辛さも理解すると良い」
「トレーナーさん、勝負服の走り辛さとは?」
「カフェ、勝負服は基本的にG1を走るウマ娘が着る正真正銘、ここぞていう物だ。つまり、G1を走れる頃には数多のファンが勝つことを望んでいる事を意味する」
「……プレッシャーという物ですか」
「…そうだ。ファンの考えなど気にせず走り続けられるなら問題ない。しかし、負けた瞬間、引退した瞬間、まるで手のひら返しの様に……いや、これは話すべきではなかった。すまない。それに純粋な違いだ。G2以下は皆体操服と履き慣れたシューズ。しかし、勝負服はヒールなどを履く娘が多い。普段との違いの為に慣らす事が必要なのさ」
「そうだったんですね、でも、学園で勝負服を着て走る生徒は滅多に……いえ!確かに」
「滅多に…違うのがわかったかね。勝負服を着ているのは近々G1を走る娘だ。慣らしの為に!軽く走るくらいで良い」
「わかったよ、元々勝負服のイメージはついている。私は今晩中に仕上げておく。カフェは」
「私も同じです。勝負服は決まっていますから」
「……あと、個人的な質問なんだが何故服装を変えてきたんだい?」
「この服装は私のトレーナーとしての決意を固める為だ。正直、引退すら視野に入れていた私にとって、君達二人はまさに原石だったのだ。タキオン、君はマルゼンからの推薦だったのもあり、トレーナーを凱旋するつもりはない。だが、カフェは違った。カフェは私が見捨てる事ができたウマ娘なのだ。これまでの担当の様に」
「……トレーナーさん」
「だが、短いながら理解した。カフェ、君は他の人間には担当できんよ。私が担当し、君を鍛え上げる。波紋は生命のエネルギー。強ければ強いほど、乗取りは無くなるだろう。無論、タキオンにも覚えてもらう」
「それで、どうしたいんだい?」
「3冠バ、クラシック有馬記念、君達が競い合う瞬間を見せてほしい。波紋を覚え、私の担当が立てなかった、取れなかった物を取ってきて欲しい。それだけなのだよ」
「…私は構いません。タキオンさんとの勝負も」
「私も、カフェの走りには興味があるからねぇ。私の硝子の足と、君の病弱、波紋ならソレを治せる。どうだい、カフェ。共に、トレーナー君に私が3冠を取るのを見せて上げるというのは」
「…3冠を取るのは私です。そして……」
隼人にはタキオンとカフェがとある二人の波紋戦士に見えて仕方がなかった。反発し、高め合う。
「……頼んだぞ、二人共」
「ふん、任せておきたまえ」「ご安心を、私が勝利しますので」