心が死んでるトレーナー   作:影後

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第五話 勝負服

現在、隼人、アグネスタキオン、マンハッタンカフェの3人は勝負服を手掛ける勝負服デザイナーを訪ねていた。

 

「トレーナー君、君の人脈は一体」

 

「アポは取っているんですよね」

 

安心沢衣咲美と記載された名刺に二人は驚くが、隼人自身は何事も無いように二人を見ていた。

 

「お久しぶりですね、駿川トレーナー」

 

「そうですなぁ、マルゼンスキーの時以来だ」

 

「……トレーナーさん」

 

「カフェ、忘れたかい?私達のトレーナーは伝説を生んだ男だ」

 

「この二人の採寸を。デザインの目安等は此方に」

 

「念の為ききますけど、駿川トレーナー。予算の方は」

 

「かわらず1000まで」

 

「……トレーナー君、一応聞くがソレって円だよね」

 

「お嬢さん、×万だと思いなさい」

 

「流石にそれは」

 

カフェも驚くが隼人はソレを制し、会話を続ける。

 

「頼んだぞ」

 

帰りの車の中で2人は恐縮しきっていた。

 

「トレーナーさん」

 

「予算は気にするな、君達が勝てば私の収入は増える。学園に申請する予算は10万程度だ。後はポケットマネーであるが、」

 

「レース賞金か、でも勝てないかもしれないよ?」

 

「私が育て上げるのだよ?勝てないわけがない」

 

生涯無敗を、幻とスーパーカーを育て上げたという実績を持つトレーナーだからこその自信。

自分が育てるに値するウマ娘ならば、最強となるのも当たり前だと思っている。

 

「それで、メイクデビューは?」

 

「冬になる。ソレまでに、カフェ。タキオン。2人を、今期最強の座につく迄に育て上げる」

 

「恐ろしいね……ゾクゾクしてきたよ」

 

「……絶対の自信ですか?」

 

「俺は君達が三冠を取れなくてもいい」

 

隼人の言葉は侮辱に近い、だが短い期間ながらそんな言葉を言う人間ではないのは理解できる。

 

「だが、それはタキオン、カフェ、君達2人が三冠を奪い合ってこそだ。私は他の誰にも渡さんよ?君達2人が持つべきものだ」

 

「君、ソレをなんの感情の変化もなく言ってのけるね」

 

「えぇ、まるで他の存在は眼中にないかの如く」

 

「…警戒すべき覇王世代は一世代上、まだぶつかりはしない」

 

「潜在的な敵は居ないのかい?」

 

アグネスタキオンの言葉に隼人は少し悩みつつ、答えた。

 

「私よりも素晴らしい人がいたがね。種火で燻り、燃え滓となるか。私と同じく篝火まで燃え上がるか」

 

「ほぉ、つまりその人には薪、君の言い方だとウマ娘が居ない」

 

「……しかし、優秀なトレーナーさんならスカウトや」

 

「私と同じだよ、さて…どうでます?」

ータナベ先生

 

そう言いながらも、隼人は笑うなどはしていない。

アグネスタキオンは研究者である、ソレは工学、薬学に精通しており、更に精神学も齧っている。あと純粋に人が思っているのが何となく判るのだ。

隼人の心は一切動いていない、タキオンが襲われたあの日は焦っていたが、今はまるで氷のように冷たく硬い印象を受ける。

 

「そういえば、私とカフェが居なければトレーナー君はどうしていたんだね?」

 

「言わなかったか、……引退だよ。食指の動くウマ娘は誰一人居なかった。トキノミノル、マルゼンスキーの後継になりたいと言う言葉だけのは多かった。だが、それでも良いのさ」

 

「では、なぜ凱旋の様な事だけを」

 

カフェが不思議そうに聞いた。

 

「このまま行けば、何処かしたらで関係が悪化するのが目に見えていたからだ。…私はウマ娘限界が見えてしまうんだ。私の教えでは、今のところ2人には見えていないが、他のウマ娘達に私は限界を見てしまった。事実、凱旋後私が予想した結果以上を出せた者は居ない」

 

「つまり、私とタキオンさんは」

 

「二人とも弱点がある、だが見えない。君達は無論、『今のところ』というのがついてしまうが」

 

「ふ~ん、だがソレはトレーナーとしてどうなんだい?」

 

「間違っているかもしれん、だがミノル、マルゼンスキー共に限界は無かった。しかし、私は、できなかった」

 

「トレーナーさん」

 

「私が何かすれば違ったのか?そんな事が判るのは神のみ。それに、私の中には二人がいる。そして…2人に届く存在は見つからなかった。今日までな」

 

「……」

 

「私の…私のトレーナー魂に、今一度火を灯してほしい。

まぁ、出来なくとも構わんさ。アグネスタキオン、マンハッタンカフェ。君達のトゥインクルシリーズ終了と共に引退するだけだ」

 

表情を変えず、淡々とそう言ってのける。ウマ娘も自分のトレーナーとしての生活も何の興味を持っていない凍てついた目。

光はあるが、ただ物事を淡々としている目だ。

 

「さて、紅茶でも飲もうか」

 

「紅茶ですか?」

 

「カフェ、稀には良いものだよ?」

 

「砂糖は沢山くれたまえ!」

 

隼人は3人分の紅茶と砂糖ポットを準備する。

だが、終わらない。棚からボトルを取り出すと紅茶に混ぜる。

 

「お酒ですか?」

 

「中々美味しいさ、成人したら楽しむと良い」

 

「あっ!トレーナーくん、またブランデー飲んでる!」

 

紅茶に口を付けた瞬間、2人の先輩たるマルゼンスキーが入ってくる。そのまま歩き続けると、ブランデーのボトルをひったくり、棚に戻す。

 

「もう!アルコールは身体に悪いわよ!私の時、死にかけたの忘れたのかしら?!」

 

「死にかけた?」

 

「そっ、アルコール依存症一歩手前な上、そのまま気絶して呼吸麻痺して」

 

「自暴自棄になっていただけだ、その後復活したろう?」

 

「真っ黒のスーツと凍った心でね。皆が驚いたわよ。奇抜な服装から一転して70年代のマフィア」

 

やはり、カフェやタキオンよりもマルゼンスキーの方が隼人について詳しいと感じてしまう。自分の知らないトレーナーの話というのは少なからず興味を唆るのだ。

 

「それで、マルゼンスキー。何故来たのかな?」

 

「カフェちゃんとタキオンちゃんが勝負服を決めたらしいじゃない!そのデザインを見に来たの!」

 

カフェのデザインは漆黒のスーツという印象を受けた。

元より漆黒の馬だったのだ。前は画面越しだったが、今は感慨深い。対してタキオンの勝負服はなんというか、研究者という側面が強く出ているだけでなく、袖まで隠す必要があるか?

という疑問が生まれてしまう。アチラでは特に感じなかったが、コッチに来てトレーナーとなり疑問が浮き出る。

 

「まぁ、問題あるまいさ」

 

「ん…来たわね、カフェちゃん、タキオンちゃん、トレーナーの言葉が来るわよ!」

 

「君達2人に話そう。ノルウェーにはこんな諺があるのを知っているかね」

 

いつの間にかワインを手に持ち、ボトルキャップを手刀で開け隼人はワイングラスに注ぐ。

 

「北風がヴァイキングを作った」

 

「どういう意味ですか」

 

「ノルウェーの北風という極限環境がヴァイキングという勇者を生み出した。私は北風となる、君達がトキノミノル、マルゼンスキーに続く新たなヴァイキングとなるか」

 

「ソレは」

 

「メイクデビューにかかっている。まずヴァイキングへの足掛かりだよ、諸君。」

 

「駿川トレーナー、あの……会議の」

 

「了解だよ、ではね」

 

隼人が立ち去ると暗い顔をするカフェとタキオン。

 

「その、トレーナーさんが死にかけたって」

 

「責任感が強すぎるのよ。そのせいでアルコール依存症になって……担当持ちは止めて教官役に。でも上からの指示ですぐさま担当持ちに。それも長く続かずメイクデビュー前に適当なトレーナーに斡旋するだけ」

 

その話は2人とも知っている。

トレーナーに斡旋さるたウマ娘は最低限の記録は出している。

 

「…だから、お願い。たぶん、トレーナー…ううん。駿ちゃんは次、何かあれば壊れちゃう。きっとまた、自分のせいだって。だから」

 

私たちのようにはならないで

 

 

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