「おやおや、懐かしい顔ぶれだね」
「お久しぶりです、駿川さん」
「フジさんッ!この人、奇抜過ぎます!!」
「こらポッケ、此奴はワシの弟子じゃぞ」
「ナベさんの弟子?!」
「弟子……弟子と呼んでくれるのですか?
私のような、燃え滓の事を」
出会ったことのない人にとって隼人の見た目は奇抜そのもの。
しかし、知っている者にとってそれは情熱の証。
「それを着ているのじゃ、当たり前だろう」
「―タナベ先生、フジキセキ、お久しぶりですな」
「あぁ……」
「いやぁ…私も写真では見たけど実物は……」
フジキセキはエンターテイナーである。
しかし、最高のエンターテイナーと飛ばれたトレーナーが
過去に居たのだ。腕を伸ばし、岩を砕き、油で濡れたピラーを
登る人間とは思えないパフォーマンス。
トリックと言われ、人前でパン1になって同じことをする男。
「此奴の名は、駿川隼人。
幻トキノミノルとスーパーカーマルゼンスキーの
トレーナーじゃよ」
「マジすか!そんな人がナベさんの弟子なんて」
「君は良い人の下についた。そして、タナベ先生。
いえ、タナベトレーナー。私がこの服を着た意味。
それを貴方に」
隼人はワイングラスを3つどこからとも無くとりだすと
空中に放った。
そして、空中でワインボトルから3つのグラスに注ぐ。
グラスをそれぞれジャングルポケット、フジキセキ、
タナベトレーナーに手渡す。
「あの……俺、未成年っすよ」
「私も未成年です」
「………あっ」
言われて思い出すという紳士の風上にも置けぬ対応の
自分自身に嫌気が差す。
「……御主、忘れとったか」
「でっ…では、此方を」
「……え…と……あの、悪い人じゃ無いっすよね?」
「当たり前だろう、私はただ…その師匠が復帰したと聞き、
改めて宣戦布告に来たのだが………まて、ワインボトルはあるが………う~む」
「えと、あの……俺、それ飲みますか?」
「やめたまえ!未成年にワインは毒だ!
おかしい、ジュース、ジュースは………」
焦り顔でポケットというポケットからワインがでてくる。
一種のパフォーマンスにも見えるが、本人がガチ焦りしている為、笑えない。
「お前、そのワインの量……」
「その……たづなとマルゼンスキーに奪われた
小型ワインセラーが帰ってくることになり、つい」
「……仕事中に飲酒はよせとあれ程」
「その、ワインやブランデーはその仕事の合間に飲むと
作業効率が上がるのです。っとあった」
「それ、確か2万円ぐらいする奴」
「本当なら此方を開けるつもりは無いのだが……」
「取り敢えず入れ」
タナベトレーナーの好意により、なんとか情緒を取り戻す。
取り出したワインをポケットに仕舞い、子供はジュースで
乾杯だ。
「それで、お前。
儂らに宣戦布告するとは帰ってきたと言うことで良いのか?」
「帰ってきた…帰ってきてしまいました。
幻を鍛え上げ、失敗した。
あの娘を最後まで走らせて上げれなかった。
その悔いから。
勝利などなく走りを楽しめる筈だった少女を私は担当した。
なのに彼女は……スーパーカーは才能があり過ぎた。
それ以降、私は燻り斡旋屋の仕事ばかりでした。
しかし、見つけたのです。原石2人を。
ヴァイキングになり得る存在を。
タナベトレーナー、私は…私に教えて欲しい。
もう一度、私が失った物を。私は………
もう、彼女達のレースにも、勝利にも、何も感じない。
私を倒してくれ、私が失った物を取り戻す為に」
「随分と上から目線じゃのぉ…お前のような若造が。
ワシの鍛え上げるポッケに勝てるかの?」
「……あぁ、それでこそ我が師。タナベトレーナー。
此方、粗品ですが」
「待て!此方にはワインセラーはないんじゃ!」
「……でしたら、此方のブランデーを」
「お前……一体どれだけ」
「………」
隼人は答えられず、何本かのブランデーとウィスキーを
タナベに手渡す。
一瞬、アルコール中毒にでもなったか?と聞かれたが、
そもそもなっていたとしても、身体の毒素は波紋で簡単に
排出可能である為、関係がない。
「兎に角……ジャングルポケット。君には悪いが、
私の担当バは強いぞ」
「?!」
威圧、自身、そのような感情はない。
顔は笑っているはずなのに、言葉から感じるのは1本の線。
まるで、担当などどうでも良いかのよう機械的な言葉。
「では失礼。
愛バに無理言ってトレーニングを離れたものでして。
しかしワインは良い、無論ウィスキーも好きですが」
「…マルゼンスキーに言いつけるぞ。
アルコールで死にかけたお前が……」
「本当に……本当に……止めていただきたい。
マルゼンスキーにまで問い詰められたら、私のワインセラーは
二度と帰ってこなくなるどころか、彼女が私を管理しかねない」
「お前は早く嫁でも見つけるべきと思うがの」
「むが………」
機械的な言葉はなく、ポッケの前にいるのは親に結婚を
進められる息子のような印象だ。
ナベさんと似ても似つかないが、まるで親子だ。
「マルゼンスキーなんてどうじゃ。
態々お前の衣装まで保管し、お前の送迎までしていたろ。
というより、お前さん合コンにも参加せず、マルゼンスキー、
マルゼンスキーばかり言っとりおって」
「タナベ先生、おやめください。この年になると両親からも
その……言われるのです。どうか…どうか恩師からは」
「……結婚せんからじゃ」
ジャングルポケットだけじゃない、フジキセキも思う。
《親子だ》と。
タナベ、ポケット、フジキセキの3人が見送る。
するとちょうど良く真っ赤なスポーツカーが停車する。
「は~い、そこのジェントルマン。乗ってかない?」
「まったく、レディが声を上げる物じゃないぞ?
マルゼンスキー」
そこには普段の制服ではなく、
深紅のドレスを身にまとうマルゼンスキー。
スポーツカー〘カウンタック〙を道に寄せ、サングラスを
つけた美しい自然な笑みで一人の奇抜な紳士を誘う。
「もう、後輩ちゃん達が待ってるのよ!」
「ならば、警察も振り切ろうか」
「…えぇ、任せなさい!」
マルゼンスキーの隣で機械とは似ても似つかない笑顔。
妹に向ける顔ではない、純粋な紳士であり何処か子供っぽい、
見るものを引き込む笑顔。
「さぁ、行こうか!」
スタートダッシュから法定速度を超えていく、
マルゼンスキーの運転技術は最高レベルだ。
きっと、赤信号に捕まることも、
警察に捕まることも無いだろう。
「……すげぇ……」
「ポッケ、あの人達を真似しちゃダメだよ。
あれ、犯罪だからね?」
「いや…わかってますけど」
担当の話をした時とは違い、
マルゼンスキーの隣にいた姿は輝いていた。
それこそ、恋人と居るかのような姿。
見た目だけなら20半ばと言っても過言ではない程に若作り。
しかも、化粧も一切していない美魔女ならぬ、魔法使い。
「……帰ってきておらん。
彼奴め、から元気か」
「から元気ですか?ナベさん」
「彼奴の心の中は、マルゼンスキーで止まっておる。
幻のウマ娘を育て上げられず、スーパーカーも道半ばで」
「私が、ナベさんの担当になる前だよね」
「……彼奴も、若かった。だからこそ、
お前を何とか助けようとしてくれた。
儂に自分と同じ苦しみを味わってほしくないと。
弟子として、最後の仕事だと。だが……
ポッケ、勝て。勝利し、彼奴に知らしめる必要がある。
あの阿呆は、未だに囚われておる。
…弟子の一人も救えんで何が恩師か」
「……ナベさん、俺勝ちます。
あの人の担当が強くても、ナベさんの為にも、
あの人の為にも。俺、気持ち悪かったんです。
自分の担当が強いって言ったとき、事務的に言っただけで、
信じてる様子もなかった。でも、ナベさんとのやり取りや、
さっきのマルゼンスキー先輩とのやり取りで、
あと人もナベさんと同じトレーナーなんだって」
ジャングルポケットと隼人の担当バ。
アグネスタキオンとマンハッタンカフェとの邂逅は近い。