片方靴の依頼人(ホームズシリーズ・プロローグ)赤い靴⑧10,000字   作:源公子

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第20話 五代目の背丈が伸びたわけ

「モリアーティ君、僕がこの世界に帰ってすぐ、僕のクラスに転校してきたんです。それで昼休みに僕のとこに来て『君さ、俺を呪った事ある?』って言うんですよ。

 

びっくりして『人を呪った覚えなんてない』って言ったら、『そうかなあ? “モリアーティくんやめて。僕、君のこと嫌いになりたくない”って言ったのは確かこの顔だったと思うんだけど……』って言ったんです。

 

『お陰で俺は、気に食わない奴に出会って“お前なんか大嫌いだ、死んじまえ”って悪態つきそうになるたび、君の顔とその声が聞こえて来て、言うのをやめたんだ。まぁそのせいで何度も助かったから、呪いというより祝福なのかもしれないけど』

 

 彼、生まれ変わる前の他のことは何も覚えてないのに、なぜかこの言葉と僕の顔だけ覚えてたらしいんです。

 

『なんでかって言うとね、僕は“言霊”が使えるからなんだ。僕の言った言葉は呪いとなって、実現しちゃうの。

 

 初めてハッキリこの力を自覚したのは、知り合いのすごいデブの金持ちの息子が、ドーナッツ店の前でおチビちゃんからドーナッツを取り上げて、泣かせてたのを見た時だった。

 

〈何してるんだ。お前金あるじゃないか、自分で買えよ〉

 って言ったらそいつ〈うるせえな、金払えば良いんだろ〉って、おチビちゃんにポケットの中のコインを一掴み投げつけたんだ。

 コインが当たっておチビちゃんはもっと泣き出した。そいつは笑いながら、ドーナッツを食べようと口を開けた。

 

 カッとなって〈お前なんか死んじまえ〉と、叫ぼうとした時、君の顔と言葉が浮かんでギリギリ堪えたんだ。代わりに、口から出たのが〈お前なんか、一生ドーナッツ食べれなくなればいいんだ〉だった。

 

 言うと同時に、カラスが一羽、彼が口に入れようとしていたドーナッツを掻っ攫った。びっくりして落としたドーナッツの袋を、今度はもっとたくさんのカラスが飛んできて、全て持ち去り、彼のドーナッツの砂糖のついた指を突きだした。

 悲鳴をあげてそいつは逃げてった。

 

 俺とおチビちゃんがビックリして立ち尽くしていると、ドーナッツ店から店員さんが出てきて〈あの子病気で、ドーナッツが食べられないんだよ〉って教えてくれたのさ。

 まだ子供なのに糖尿病になって、医者に言われて食事制限をされてるんだって。

 それで親が町中の食べ物屋に、〈うちの子に食べ物を売らないでくれ〉って通達だした。

 親が街の有力者だったし、病気が悪化すると言われては、どの店も売ってくれない。それで、お店の前で張り込んでおチビちゃんからドーナッツを取り上げようとしたんだ。

 

 店員さんは拾ったお金で、おチビちゃんにはじめの三倍くらいのドーナッツを袋に入れてくれた。おチビちゃんは大喜び。俺も、病気が理由じゃさすがに気の毒で〈死んじまえって言わなくて良かった〉と思った。

 

 俺は小さい頃から〈良い子になるのよ〉っておばあちゃんに言われて育ってきたから、悪い子にだけはなりたくないんだよ。

 

 その後も、彼が隠れてドーナッツを食べようとするたび、カラスに襲われたり、水をかけられたり、ボールが飛んできて落としたり、どうやっても食べられなくてとうとう諦めたんだって。お陰で糖尿病は良くなった。でも、いまだにドーナッツが怖いらしいよ。

 

 あ、信じてないな。じゃあ試してみようか。叶いそうもない願いがいいな。例えば……君、背が高くなりたいと思ってない?』

ギョッとしましたよ、図星だったから。

 

『そんなの、無理だよ』

 

『だから証明になるのさ。いいかい、言うよ。〈君はクリスマスまでに、僕とおんなじ身長になる〉言ったからね。牛乳たくさん飲んで運動してね』

 

 それが、夏休み開けの時――その晩からです。夜寝ると、ミリミリ、ミシミシ、身体中の骨が伸びて軋むのを感じるようになって。

 思春期に、男の子が急に背が伸びる時、そうなると聞いたことはあったけど、まさにそれ。

 一月で僕の身長は10cm伸びて、クリスマスには、今の身長になっていたんです。

〈良いクリスマスプレゼントでしょ〉って言って彼、笑ってました」

 

 

 どんでもない話だった。神に祈りは届き、モリアーティは生まれ変わった。ただし、やり直すための条件として、チートな能力と、“親友”という名のストッパーを付けてよこしたわけだ。

 

 

「背が低いのがずっとコンプレックスだったから、初めは嬉しかったんです。

急に女の子たちが寄って来るようになって、モテ出しました。

 

でもそれは僕と言う人格を見てるんじゃなくて、一緒に歩いてたら他の子に自慢できるデートの相手、見せびらかすトロフィーとしてなんです。

 

 僕は背が低い時から成績はトップの方で、それは凡人の僕の努力の結果でした。でも女の子たちは、僕の努力より背の高い方が価値があるって思ってる。

 なんか……モテたってちっとも嬉しくなかった。

 背の高さなんて、人間の価値を決める基準にならないってわかったんです。

 そんな時です、ビオラちゃんが、僕に会いにきたのは」

 

 おやおや、そんなに早くに来ていたのか。

 

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