片方靴の依頼人(ホームズシリーズ・プロローグ)赤い靴⑧10,000字   作:源公子

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第27話 鑑識、首から下を発見する。

「だって、マザーお願い」

 

 モリアーティの言葉にマザーが杖を一振り。女の子が小さくなり、穴の中に落ちて来たのを、モリアーティが抱き留めた。お陰で黒兎はつぶされずに済んだ。

 

「助かったー、モリアーティさんありがとう。ところでこの方達……誰?」

 

「「「「どうも、初めまして」」」」

 私とマザーとワトソン君と兎娘が一緒に挨拶した。黒兎は伸びていた。 

 

 

 ◇

 

 

「シンデレラのフェアリー・ゴッド・マザー……つまり本物の魔法使い。で、こっちが本物のシャーロック・ホームズとワトソンさん? 嘘みたい。でも、私が小さくなったのはほんとだわ。ライオンのシンバの檻があんなに大きく見えるもの」 

 

「ライオンの檻……そうか、ピエロがいないから君が代わりに餌をやりに来たんだね」

 モリアーティの言葉に、サーカス団の団長の娘アリスはうなずく。

 

 

「そうなの。昨日の夜遅く、警察が来てピエロを連れて行ったの。

 事故の事情聴取の続きだと思ったら、今度は死体損壊・殺人の疑いだって。

 ピエロの死んだお姉さんも解剖するからって、警察が持って行っちゃったから、お葬式も中止。公演も中止で、どこにも行っちゃダメだって言われた。

 

 着替えの服を差し入れしようと思ってきたけど、よく考えたら、トレーラーハウスの鍵持ってなくて、餌のお肉の入った冷蔵庫の鍵もないの。

 シンバが昨日から何も食べないってピエロ心配してたし、様子だけでも見ようと思ってここにきて――」

 

 

「で、穴にはまったと。手に持ってるのは何かね?」

 

 

「胡椒の瓶。シンバの檻のそばに落ちてて、拾おうとしたら、穴にハマったのよ」

 私の言葉にアリス嬢が答えた。どうもアリスという名の女の子は穴に落ちやすい様だ。

 

 

 その時、ガヤガヤと人の声がした。警察の鑑識が来た様だ。

 

「兎娘、声だけ聞こえるくらいに、穴を塞げるか?」

 

「ヤッテミル」

 兎娘は素早く穴を塞いだ。多分気づかれないですむだろう。

 

 

『――頭と首から下が別人だったんだって?たまげたなあ』

 

『腹の子供の鑑定は二ヶ月だった。本人、妊娠してるの気づいてなかったかもしれないが、生まれちゃまずい父親にやられた可能性も出て来たから、今DNA鑑定に回してる』

 

 

「ええ!アイリーンが、妊娠! う、ご……」

 アリス嬢が悲鳴をあげたのを、全員の手が押さえた。

 

 

『なんだ?なんか変な声聞こえたぞ?』

 

『気のせいだろ。だけどなんで首から下だけ入れ替えたりしたんだろうな。下の方の体に外傷はない。足の傷は古いから今回の件とは関係ないそうだ。それにしても、入れ替えたもう一つの体と頭はどこに行ったんだよ』

 

『だからそれを探してるんだろ。状況からして、ピエロがやったのはまず間違いないが、あいつ完全黙秘してるらしい。

 動機がさっぱりわからなくて、お偉いさん方も責めようがなくて困ってるって…… あ、これ見ろ! 妊娠検査薬・陽性だ、ゴミ箱に捨ててあった。

 少なくとも本人は妊娠に気づいてたってわけか』

 

 

 

「気づかれなかった様だ……良かった」

 

「ご、ごめんなさい」

 アリス嬢が小さな声で謝り、さらに小声で語り出した。

 

「あ……あのね。私、警察に言ってないことがあるの。

 事故のあったハロウィンの前の晩に、シチュー作ってて胡椒が切れちゃったの。

 だからアイリーンに胡椒借りようと思って、トレーラーの方に行ったら、ちょうどアイリーンが外から帰って来て、トレーラーハウスに入るとこだったの。

 

 夜だったけど、ドアから漏れる光でくっきり見えたから間違いないわ。でも、でもその時の格好が、いつもと少し違ってて……」

 言い淀むアリス嬢に私が先を促した。

 

 

「どう違っていたのかね。言ってごらん」

 

 

「あの……靴が、普通のハイヒール履いてたの。でも、アイリーンは昔事故で足を怪我して、左足首のところにすごく目立つ傷があるの。休みの日に一緒にスパに行ったりもしたから知ってるのよ。

 だからステージに上がるときもお出かけの時も、いつもブーツ履いてたの。

 でもそのとき足に傷はなくて、でも顔は確かにアイリーンだったから、なんか変だと思って、声掛けそびれて。

 

 そうしたらハウスに入って直ぐ、物凄い言い争いが始まって……もう、胡椒どころの雰囲気じゃなくて、慌てて帰ったのよ。

 でもこの落ちてた胡椒の瓶、空っぽだから、どのみち借りれなかったのね。

 お陰で昨日のシチュー、胡椒抜きだったわ」

 

 アリス嬢の告白に、私はうなずく。

 

「シンバの檻のせいで、ここは墓地に近い一番端っこだ。かなり大声出しても誰も気がつかないだろう」

 

「それで次の日、ピエロが真っ赤な目をして、シンバが吐いたって檻の中をホースの水で掃除してた。漂白剤まで使って。

 今日のショーには出せないって言って、不機嫌そうにアイリーンはハロウィンショーのギロチンマジックの準備をしてた。

 そして、あの事故。昨日喧嘩して準備不足で起きた事故だと思ってたけど、でも……」

 

 

 

 そのとき、上で騒ぎが起きた。

 

『ワーッ!こんな所に首から下が』

 

『餌用の肉の冷蔵庫の中か。後で少しずつミンチにして、ライオンに食わせれば完全犯罪成立だ。死体がなければ殺人は立証できないからな』

 

『だが、首だけ無い。首はどこに行った? それになんで一緒に離婚届の書類があるんだ?』

 

 

 謎は深まるばかりの様だ。

 

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